果たして栗野はその夜も女同伴だった。レンズからのぞくと、かほりだった。
三度目だ。どうしていやだいやだと言いながら、こんな男の部屋にのこのことついてくるのか。
いつもの通り、コンクリート・マイクのスイッチを入れて盗み聞きした。
その夜は(やめて……やめて……)はなかった。どうやら素直に服を脱いだらしい。
でも、こんな声が聞こえた。
(えー、わたし、したことないんです)
男の甘えたような声も聞き取れた。(やってよ、頼むから)
口でやらせようとしているのだとすぐにわかった。
昼間二回射精したばかりだというのに博の性器が隆起する。
かほりは、あの口で栗野の要求に応じるのか。
胸が締めつけられた。やりきれなかった。
やがて(おー、おー)という男の低いうめき声がした。
せめてもの慰めとして、自分の右手をかほりの口だと思うことにした。
二十分ほど続いたのち、ベッドが軋みはじめた。
かほりのあえぎ声は以前よりずっと大きくなっていた。
その声が最高潮に達したところで博も射精した。
昼間のセックスより、今のマスターベーションの方がはるかに気持ちよかった。
翌朝、例によって駅に先回りしてかほりの顔をとくと見た。
ミスコンに出ても決勝に残れそうな美人だと思った。
この口で、したのか。
生きているのがいやになった。世の中は狂っている。どうして栗野みたいな馬鹿男が夜な夜ないい女をものにして、自分のようなすぐれた男がデブの小百合で我慢しなければならないのか。
改札を抜けていくかほりの尻を見た。引き締まったそれが小刻みに揺れている。
初めて自分が性犯罪に走りそうな危険を感じた。
いや、それだけは避けなくてはならない。実家には両親も兄もいる。三十二で人生を台なしにすることはできない。
博は小百合に電話した。「これから行ってもいいか」と聞くと、小百合はうれしそうに承諾の返事をした。
口でやらせようと思った。目を閉じて、かほりの口だと思うのだ。
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