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冷たく静かな海面を割って一隻の大型客船が、那珂湊に入港する。
乗客がぞろぞろと湿ったコンクリートの岸壁に降りてくる。
その数およそ1500、そのすべてがイギリス人で、しかも探偵だ。
いま、世界の探偵界で日本は勢力を強めていた。日本には幼児から老人までさまざまな名探偵がいる。本業ではない素人までか探偵をする。しかもみな、神様でも解けるかどうかわからないような難事件を次々と解決する。鮮やかに . . . 本文を読む
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高校生の男女が一言も話せず、ただうつむいて自転車を押して歩く土手の向こうに太陽が沈み夜が訪れると、県境にある事務所で男の死体が発見される。
発見時、男は床にうつ伏せに倒れ、すでに息はなく、しかし、ニタニタとうすら笑いを浮かべていた。
傷らしい傷はなく、事故か事件か、警察もすぐには断定ができない。
しかし、なんでこんなつまらない事務所で……と、従業員たちは恐怖する。
第一発見者の従業 . . . 本文を読む
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数十年に一度の流星群が薄曇りのためにあまりよく見えなかった夜が明けると、住宅街の真ん中にある公園で男の死体が発見される。
発見時、男は立入禁止の芝生の上に仰向けに倒れ、すでに息はなく、しかし、髪はキレイな茶色だった。
傷らしい傷はなく、事故が事件か、警察官もすぐにはわからないらしかった。
しかし、なんでこんなつまらない公園で……と、近所の住人は恐怖する。
鉄製の遊具はさびつき、木のベン . . . 本文を読む
そう…
あのころのぼくは、〝失うこと〟を異常に怖がっていた。
なにかを失うことなんて、たいしたことじゃないと云うのに。だって、人は生まれてくるとき、なにも持っていやしなかったのだから。
失うんじゃない、元に戻るだけなんだ。
それに、そのときぼくがいちばん大切にしていたものは、ぼくが勝手に存在すると思い込んでいただけの、たんなる幻だった。
元からなにも持ってなんか . . . 本文を読む
結構すっきりした気分だった。
身体が少し重く感じられるようにはなったが、心はとても軽い。こうなると、心は空っぽになるらしい。
心が空っぽ……なんて素敵なことだろう。
もうなにも煩わしい思いをする必要もないし、なんの心配事もない。
けれど、失ったものは多く、そして、そのどれもがぼくにとって、命よりも大切なものだったと思う。
大袈裟でなく、本当にそうだった……うん、そうだった。
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