困っている人たちを助けるために,きらびやかな銅像の王子が,
身体に付けられた装飾品を一つひとつ施していく。
動けない王子に代わって「使者(パシリ)」を務めるのが,イヤと言えない一羽
のツバメ。
王子の善行の手助けをするうち,ツバメは冬を迎え、凍え死にしてしまう。
昔,小学校の感想文で
「王子はどうして,ツバメを死なせてしまったのか。
ツバメを殺したのは王子だ。
だから、王子が嫌いになり,
銅像が壊されたときには,スッとしました」
と言った人がいた。
「感じたままに書けばいいから」の言葉を真に受けて,思ったままに書いて提出
したら,
放課後、教室に居残ることになり,女教師から哀れむような目で見られたそうな。
ツバメがお使いを務めるたび,王子はみすぼらしくなっていく。
あるときツバメは,王子に問いかける。
自分を犠牲にしてまで,多くの人を救おうとするのは,どうしてなのか?
ツバメは思ったままを口にする。「そうすることがあなたにとって気分がいいか
らでは……」。
穏やかだった王子はカッとして,ツバメの話を遮る。
自分のためなどという,つまらない動機ではない,と熱弁をはじめる。
ツバメは,口では太刀打ちできるはずもなく,無言となる。
どんどんどんどん,身なりは貧相になる王子。しかし,態度は稟として堂々とし
たもの。
いっぽう,過激な自己犠牲の善行に合点がいかないツバメ。王子の「善意の心情
」は疑うべくもない。
ツバメが王子の説明に納得しきれず「微妙に違う」と思ってしまうのは、行為の
善し悪しではない。
王子の行いに「陶酔」を見抜いてしまったからだ。
一直線な善意というものは、しばしば周りの人に迷惑をかけてしまうことがある。
ある日,ツバメは王子を裏切り,逃げ出すことを決意する。
激怒する王子,何故だか理解できない。悩み苦しみもがく。でも声は届かず,身
動きもできない。
それから,しばらく時が流れる・・・
本来なら,越冬のタイミングを逃したツバメは凍死するところだが,勇気ある決
断により免れた。
王子も大部分の装飾品は無くなったが取り壊されることなく,以前の台上に居る。