可憐な日々。

いまやほとんどLIVEとご飯日記。
やっちうんうん。

自分の愛する人が

2008-03-05 | お仕事
「もういい」しか話せなくなったらどうしますか?


「エマージェンシー!」しか話せなくなったら?


「かんこんかんこん」しか話せなくなったら?





愛する人とコミュニケーションがとれなくなったら
どうしますか?

愛する人の言っていることを
理解したくても理解できなくなったら・・・?




今の部署に来てからもうすぐ10ヶ月。
救急とか急性期にしか興味がなかった私は
リハ病棟なんて全く興味がわかなかったし
おもしろみも感じてませんでした。

今の部署は回復期リハビリテーション病棟。
“リハ病棟”というと
骨折とか、整形系のリハビリをするところって
想像する友人が多いんだけど

今いる所は
脳血管疾患の後遺症のリハビリが主です。
あ、極少数だけど骨折とか廃用の患者さんもいますが。


脳外は苦手分野でした。
今までもICUとかで超急性期しかみたことなかったし
リハビリとかもあんまり関わったことがなかったし。

脳梗塞や脳出血の後遺症で
手や足に麻痺が残った人はもちろん
嚥下(のみこみ)障害や言語障害、高次脳機能障害、
いろんな障害を抱えた人が入院して1日中リハビリをしてます。

起きてから寝るまで、全てリハビリ。
要は起居・更衣・洗面・歯磨き・整容
食事動作・入浴動作・歩行・座・トイレ動作・階段昇降
寝返り・・・
様々な日常生活動作、全てが「リハビリ」なのです。

利き手が麻痺になったら大変ですよね。
私は右利きですが、もし脳梗塞になって右麻痺になったとして
リハビリをして少しくらい動くようになっても
現実的に考えて使えないようなら
もしくはリハをしても全く動かないのであれば
“利き手交換”をしなければならなくなります。
普段右手で行っていたことを左手でできるように練習します。

書字・箸・洗体・おしり拭き・包丁・料理・・・
これだけでも大変そうです。
でも右手が麻痺ってことは右足も麻痺のことが多いので
起き上がり・立ち上がりも全て右手の力が必要です。
麻痺になった体は重たいのです。
その体を右手の力だけで(もちろん右足のふんばりも必要ですが)
起き上がったり立ち上がったりしなければなりません。

右手が動かないとなると
包丁でものを切ろうとしても支える手がありません。
補助手レベルまで改善すれば話は別ですが
片手でものを切るなんて危険ですよね。


まあこれだけでも
気が遠くなるようなリハビリの毎日なんですが。





今日受け持ち患者さんのご家族との面談日でした。



うちの病棟では1人の患者さんに対して
医師・看護師・介護福祉士・理学療法士・作業療法士・言語療法士
心理療法士・社会福祉士の8人の担当スタッフがいて
(言語・心理は必要な場合ですが)
月1回その患者さんのリハの進捗状況を報告し合い
今後の方向性をディスカッションする日があります。

先日はそのディスカッションの日だったので
休日だけど職場に行ってました。

そして今日はその結果をご家族に話す日(面談日)でした。



うちの患者さんのほとんどが
在宅復帰・社会復帰を目指して入院してきます。

私の受け持ち患者さんも
社会復帰は難しいとしても
なんとか在宅復帰を目指していた方でした。
54歳。働き盛りの一家の大黒柱。

脳出血の後遺症で
右片麻痺・嚥下障害・重度の運動性失語・高次脳機能障害があります。
嚥下障害はリハビリをして普通食を食べれるまでになったのですが
麻痺も重度で現在やっと足に装具をつけ
サイドウォーカーという大きな4点杖を使って
介助者が汗だくになるほどの重介助は必要ですが
やっと歩行が始まった段階です。

そのくらいでも家に帰れる人はいます。
車椅子で生活できるように家を改装したり
居住空間まで階段しかない場合はEVのあるところに引越しをしたり
様々な医療福祉サービスを受けて
そんな状況でも在宅での生活を頑張っている人はたくさんいます。

でもマンパワーが必要です。
単なる歩行などの介助だけなら1人いればいいかもしれませんが
1人なら休まる暇もありません。
ある程度のことを理解できて、留守番ができるレベルなら
ちょっと出掛けて介護の息抜きをしたりできるし。

目が離せない場合は深刻です。
介助者はお風呂にも入れません。
買い物にも行けません。
友人と遊びにも行けません。
だからもう1人以上の手助けが必要です。

高次脳機能障害。難しい名前ですが
失行(物の名前はわかるのに使い方がわからない)
失認(家人と他人の区別がつかない)とか失書・失読
注意障害・記憶障害・学習障害・遂行機能障害・人格情動障害…など
様々な症状があります。

その患者さんは、まず注意障害があります。
危険なことが危険とわかりません。
麻痺側の足底が床にちゃんとついていなくても立ち上がろうとします。
ベッドからマヒのある足が降りていなくても立ち上がろうとします。
離院しようとします。
注意してもわかりません。

また、右無視があるので、右側に注意がいきません。
右側に人がいてもなかなか気づけません。
だから廊下では右側にぶつかってばかりです。
そして右側の車椅子のブレーキをかけ忘れます。
それで立ち上がったり乗り移ったりしたら危険なので
なんども声をかけたり反復練習をしたのですが
学習障害があるのでなかなか覚えられません。

そして失行もあります。
ひげそりを口に入れようとします。
みみかきを鼻に入れようとします。
蓋付きコップの蓋が閉められません。

そして失語。
最初は全く話せなくてYES NOだけ、それも曖昧な時もありました。
でも最近はリハビリの効果で
不明瞭ではあるけれど発語がみられるようになりました。
でも保続があって効果的には発語できません。
保続とは簡単に言うと
一度発した言葉が頭に残って
別の言葉を言おうとしてもその言葉が出てしまう症状です。

それでもまだまだリハビリの効果が期待できるし
なんとか在宅にもっていきたいというのがチームの考えでした。


でも
主たる介護者である奥様が精神を病んでいて・・・。
今までの入院期間で介護参加状況をみても
介護能力不足。
自分の旦那様である受け持ち患者さんとコミュニケーションもうまくとれず
一緒に泣いている状態。


まぁこれは仕方のないことなんですが・・・。


今日はそのご家族に
「在宅は不可能」
「ゆくゆくは身障施設、転帰先は老健」と
話さなくてはならない日になりました。



奥様はこちらの言っていることがなかなか理解できない状態。
呆然として動かなくなってしまいました。
娘さんの1人は泣き崩れてしまう状態。
もう1人の娘さんも在宅を諦めきれない様子で
医師に色々質問していました。


54歳で老健・・・。





言いたくはなかった。でも仕方ない。
早く動き出さないと
この時代、どこも待ちがいっぱいで
身障施設だって半年~1年以上かかるし
老健だって3ヶ月以上はかかる。
回復期にいれる期間も限られてる。
待ちの間に下手な療養型施設に行くことになったら
専門的なリハビリも受けられず
危険行動の多い患者だからってことで
ベッドにしばりつけ状態になるかも・・・

ってことも考えての決断。




でも「在宅は不可能」ってさ。
涼しい顔して・・・
冷たいなって・・・

思うよね。普通は。家族なら。





なんだかね。無力さを感じる。
私はただの看護師なんだけどね。
医者でもセラピストでもなんでもないんだけどね。
『治す人』ではないんだけどね。
なんだかね。。。





その患者さんはまだ
自分が家に一生帰れないかもしれないことを知りません。
家に帰れることを楽しみに、リハビリを頑張れば家に帰れるからって
一生懸命リハビリしてました。今日も。
今日は私の名前を今までで一番ハッキリと言ってくれました。
すっごいいい顔で笑うんだよね。


今それを言ったら、リハビリに対する意欲がなくなるかもしれない。
今せっかく伸び盛りの時期なのに
それを潰してしまうかもしれない。
そのいい笑顔も見れなくなってしまうかもしれない。

だから言うタイミングは今ではない。
それがチームの考え。



でもあと1.5ヶ月。
心のどこかで。
奥様の精神病がよくなって・・・
その患者さんがメキメキ伸びて・・・

奇跡的に在宅へ戻れることを願っていようと思います。






あ、出だしのやつとずいぶん話がずれましたが
この病棟に来て失語の患者さんといっぱい出会って
「もういい、もういい」しか言わない人
「エマージェンシー!」しか言わない人
「かんこんかんこん」しか言わない人
「えっとー、えっとー」しか言わない人
様々な失語を目のあたりにして・・・
(もちろん訓練でもう少しコミュニケーションがとれるようにはなってるのだけど・・・)


やっぱり自分の家族に置き換えてしまうのです。

マミが「かんこんかんこん」しか言えなくなったら・・・
パピが「エマージェンシー!」しか言えなくなったら・・・
妹たちが「もういい、もういい」しか言えなくなったら・・・。


そう考えると家族に対しては口うるさくなります。
「ちゃんと水分とってる!?」
「血圧ちゃんと測ってる!?」
「薬ちゃんと飲んでる!?」
「病院ちゃんと行ってる!?」
「夜更かししないでちゃんと寝てよ!!」
「人間ドック行きなさい!!!」
「なんかあった時のために札幌に・・・」


キリがないです。



マミが40代前半の時
「ママが・・・クモ膜下出血で・・・」と
パピが泣きながら看護学校の寮に電話してきて。
初の面会時
ICUにいるマミにつながれてる自動血圧計の数値が220だったり
口角が下がったりしてるのを見た時
看護学生の身ではあったけどほんとに震えました。
怖かった。
でも一緒に面会に行った、まだ高校生だった妹を
怖がらせてはいけないので
それがどういう意味かは自分の心にしまったのだけど。


今となっては笑い話ですが。


過労もほんとに怖いです。




みなさんも最低限、水分摂取と血圧管理は大事ですからね。
健診(検診)もきちんと受けましょうね。
お父さん、お母さんにも伝えてね。


私はマンモグラフィがしたいです。