日暮しトンボは日々MUSOUする

日常に欠かせない存在に変わる時




「小姑みたいな彼女」  (再掲載)


彼女は大学のサークルの後輩で、近所の洋食屋でバイトをしている。

時々、バイト終わりでボクのアパートの部屋に、ハンバーグや

スパゲティーなどを持って来てくれる。

彼女が時間外で練習したメニューの毒味係と言ったところだ。

それでもボクは食費が浮くので助かっている。

たとえ焦げたクリームコロッケが混じってたとしても。

そんな彼女はただの後輩で、ただの女友達である。

彼女はボクのアパートに来ると、すぐに独身男のだらしない部屋を片付け始める。

読み散らかした雑誌をテレビの横に重ねて置き、

脱ぎっぱなしの靴下やTシャツは洗濯機へ入れてスイッチを押す

方々に置いてあるTVのリモコンや携帯、タバコとライターなど、

テーブルの上にきちんと整列して並べる。

ボクが台所で湯を沸かして2人分のコーヒーを入れて、

部屋に戻った時には、足の踏み場もなかったボクの部屋は、

見違えるようにきれいに片付いてる。 彼女は整理整頓マニアで、

散らかってるとつい片付けてしまうのは彼女の性分らしい。

本来、あまり他人に部屋をいじられたくないのだが、

普段食い物で世話になってるので、勝手にいじるのを許している。

でも時々、彼女が帰ったあと、どこに何があるかわからない時がある。

そんな時は彼女に電話をして聞くと、

「今度から使ったら必ずあの位置へ戻すのよ。わかった!」

と、怒られる。

なんで自分の部屋のことで怒られなきゃいかんのだ! と、思ったりもするけど

不思議とそんなに嫌じゃない。 小姑みたいな妹がいると思えば良いのだ。

ある日のこと、例のごとく彼女が掃除をして帰った後に、読みかけのページを

開いたまま、伏せてテーブルの上に置いていた小説がなくなってる。

本棚に目をやると、きっちり本棚に収まってる。 

あ〜〜あ、これじゃあどこまで読んだか分からなくなっちゃったよ。

また余計なことを…    と、ブツクサ言いながら本を手にとって開くと、

ちゃんと読んだところにしおりが挟まってあった。

ああよかった… さすがだ、ちゃんとわかってたんだ。

よく見るとしおりに何か書いてあった。


「今度この小説が映画になるから、その時は一緒に観に行こ ♡ 」


 この時 彼女に対する気持ちが妹ではなく、僕の中の別の感情に気が付いた。











「 ねぐせ 」 (再掲載)


ちょっと待って、ここ寝グセがついてる。

と言って彼女は、玄関を出ようとする僕を引き止め、

スプレーとブラシで素早く寝グセを直してくれた。

僕はくせっ毛なので、いくらセットしてもどこかしらピンと跳ねている

生まれつきだからもう諦めているので、このくらい別にいいよ…と、僕が言うと

ダメよ。会社でだらしないと思われると、私も恥ずかしいんだからと、彼女が言う。

いや、僕らが一緒に住んでいる事は会社の同僚は誰も知らないんだから
君が恥を掻く事はないでしょ。

そうだけど、でも私がついていながら、あなたが笑われるのはなんか嫌なの
彼女としての意地ってやつよ

はぁ…  そんなもんかねぇ


僕たちは部署は違うけれど同じ会社に勤めている。 

同期で集まった飲み会で、なんとなく意気投合して、
2ヶ月前から同棲を始めた。

もちろん会社の連中には内緒で。

いつの間にか、出かける前に僕のくせっ毛のチェックして直すのは、
彼女の毎日の役目になっている。



それから2年が過ぎ、僕らは些細なことで喧嘩をして別れた。

法的な縛りが何もない僕らの愛は、いとも容易くほつれた。

修復するチャンスはいくらでもあったが、自分から行動を起こす

勇気を未熟なプライドが邪魔をした。


僕は以前より狭い部屋を借りて一人で住んでいる。

毎朝僕の頭は寝ぐせで立ったまんま。

今でも玄関を出る前に彼女が「ちょっと待って」と言って

ブラシで僕の寝グセを直してくれる姿が思い浮かぶ。

こんな他愛もないことが、僕の毎日に潤いを与えてくれていたなんて…

あって当たり前の日常が無くなると、どんなに寂しいか思い知らされた。

かけがえのないものを失ったことをひどく痛感した僕は、久々に彼女に電話した。

直接会って、あの時出せなかった勇気を振り絞って彼女に二度目の告白をした。


   「もう一度 やり直さないか」

   「 う ん 」

彼女は小さくうなづいた 


そして僕らはまた一緒に暮らし始めた。

じゃぁ 行ってくるね。

ちょっと待って ほら、ここ寝グセになってるから
みっともない格好で会社に行かせたら、笑われるのは妻の私なんだからね、
髪の毛から服装の乱れまで全てに目を通した彼女は、

はい、これでオッケー! 行ってらっしゃ〜〜い♡   と、元気よく見送ってくれる。


籍が入ると、彼女の意地は妻の意地に変わり、僕は毎日完璧な身なりで出勤する。






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