■後日談(キョーコの場合)
黒崎監督の…うそつき。
撮影中、敦賀さんの夜の帝王に三ヶ月先分くらいまでの生命力を根こそぎにされ、
カラカラに干からびた私に向かって、
「いやー、いい絵ぇ撮らせてもらった!!」 と満面の微笑みをたたえて、
例によって 「CM完成を楽しみにしてろよ」 なんて言ってたくせに。
未緒を見てイメージしたなんて言ったくせに。
おまえになら出来る、なんて人をノセたくせに。
出来上がったCMのオンエアの夜。
ちょっとドキドキしながら、だるまやさんのテレビの前で座り込んで待っていた私が見たものは………。
………。
確かに、とても美しい映像だった。
甘い女性のロックな謡声に合わせた、映像の切り替えは素敵だった。
『はじめての夜…』のナレーションも素晴らしかった。
妖しい雰囲気に満ちていた。
こんなえっちくさい絡みなんかあったっけ…と思うくらいの一瞬血の気がひくようなショットもあった。
でも… でも…。
全 編 影 絵 仕 立 て なんて聞いてないぃ~~!!!
敦賀さんの王様は一瞬光の中にうかびあがるみたいな効果もあって、
そもそもそのプロポーションから一目見ればバレバレだけれど、
わたしなんか………。
うっ…うっ。
夜のファンタジスタ(←帝王の別名、黒崎監督命名)に耐えてがんばったのに。
灰になるまでがんばったのに。
しばらく敦賀さんの王様に迫られ、夢で魘される毎日を過ごした …のにのに。
(そりゃしょうがないよ、最上さん未成年だろ?本来君をお酒のCMに起用できるわけないんだから…
むしろ黒崎監督がそんな冒険したことに驚きだよ)
翌日、椹さんに言われた言葉が蘇る。
それはそうかもしれない、でもそれならそれで最初にそう言ってくれてたって…っ。
こんなんじゃ、ショータローの馬鹿が見たってわかるまい。
いや、むしろ影絵なら分からなくて正解なのかもしれない。
あいつの事だから、おまえが色気のねー女だから影絵にされたのよ、
…くらいの嘲笑を浴びせかねないし…。
うっうっ。 口惜しい…。口惜しすぎる。
嗚呼…、
キョーコのハリケーンパンチ計画失敗…。
*****
■後日談(敦賀蓮の場合)
「うわぁ…」
事務所で二人、対談相手の編集者を待っている間、
カフェテリアのテレビに偶然かかった例のCMを見て、社さんが頬を赤らめた。
「やっぱりこう観るとエロいなぁ~、なんかこのCMすごい評判みたいだよ、蓮。
おまえに抱かれたい女性急増、人気さらに鰻登り、みたいな」
「なんなんですかそれ」
苦笑する。
正直、影絵仕立てにはほっとしていた。
あの子のあの姿を衆目に晒さずに済んだのが一番、
自分の欲望がダイレクトに世間に配信されなくて済んだのが二番。
あの日以来、黒崎監督には足を向けて寝られない心境だった。
「男れんちゅうの、相手の女の子は誰なんだって憶測もすごいみたいだけど」
ピクリとこめかみの血管が動くような気がした。
落ち着こうよ、敦賀蓮。
「…そういえば蓮、あのあと黒崎監督に会った時、なんかもらってたよね?DVDみたいなの??」
ふいうちに言われて、思わずギクリと肩を震わせてしまった。
視線を逸らして ええまぁ、と曖昧に返事をし、
ニコニコしながらやってきたあの日の監督を思い出す。
『 いやあんまり熱演だったから、趣味で!』
それを俺に渡し、指でDVDを指し示してからもう一度 『趣味だから!』 と繰り返し、
にやりと笑って爽やかに手をあげ去っていった一陣の風のような。
そして残された手の中のDVDには、あの日あの子と俺が演じた全てが収録されていた。
………いや、それはそれで、けして嬉しくなかったわけではなく、
むしろあの子のシェヘラザードをこういうかたちで手に出来て嬉しいというか、
むしろありがたいというか、
むしろよこしま的にも非常に助かっているというか、
むしろ今日も帰ったらちょっと観てしまおうかなんて思っていない事も無いと言うか… だけど。
はぁ~、とため息をついて両手のこぶしでくつくつ額をたたく。
( あの監督の顔は………絶対バレて………るんだろう……な--------------)
だから映像を扱う人間は嫌いだ。
緒方監督にも俺のあの子への思いはマイルドにバレているようだし、
この先あの子と共演した場合、のきなみ監督陣にはバレてしまうということなんだろうか。
でもよく考えてみれば、俺の気持ちなんか既に社長にも社さんにも、馬の骨にすらバレているんだったか。
…もしかして知らないのは最上さんくらいなんじゃないか? と思うと、すぅっと黒い気分になった。
俺って、実は…。
そんなに分かりやすい人間なんだろうか?
………なんとなくショックだ…。
隣を見ると、異様に瞳を輝かせた社さんがこちらを注視していた。
さらに暗澹たる気持ちになる。
「あの時のソースDVDなんだろ???」
キラキラと光りながらぐいぐいと迫ってくる。
ほんとにこの人は俺の恋愛がからむとトコトン乙女みたいになって…っ。
「いいなぁ~蓮、黒崎監督の撮った蓮とキョーコちゃんの千夜一夜、俺も観たいよー」
「いや…もうほんと…そんなんじゃありませんから…」
「えー、じゃなんなんだよぉー」
「ほんと…勘弁してください…」
あんな、発禁処分ものを…人目に触れさせるわけには…金輪際。
「社長にいいつけてやる!!!」
「やめてくださいそれだけは!!!!」
これ以上は…ほんと勘弁してください。
*****
■目撃談(祥子の場合)
………さっき控え室から聞こえてきた雄叫びは、確かに尚のものだった。
あれはいったいなんだったのかしら。
敦賀蓮への呪詛にまみれた暴言と、部屋に響く衝撃音。
って、あれ、こないだやっと稟議が通って購入したばかりの
50V型のプラズマディスプレイが破壊された音じゃないわよね…。
………事務所の備品、壊したんじゃないわよね。あの子に限って…。
………よ、様子を見に行った方がいいのかしら?? でも……。
なぜかしら…今だけはあの子に近寄らない方がいい、そんな気がして。
黒崎監督の…うそつき。
撮影中、敦賀さんの夜の帝王に三ヶ月先分くらいまでの生命力を根こそぎにされ、
カラカラに干からびた私に向かって、
「いやー、いい絵ぇ撮らせてもらった!!」 と満面の微笑みをたたえて、
例によって 「CM完成を楽しみにしてろよ」 なんて言ってたくせに。
未緒を見てイメージしたなんて言ったくせに。
おまえになら出来る、なんて人をノセたくせに。
出来上がったCMのオンエアの夜。
ちょっとドキドキしながら、だるまやさんのテレビの前で座り込んで待っていた私が見たものは………。
………。
確かに、とても美しい映像だった。
甘い女性のロックな謡声に合わせた、映像の切り替えは素敵だった。
『はじめての夜…』のナレーションも素晴らしかった。
妖しい雰囲気に満ちていた。
こんなえっちくさい絡みなんかあったっけ…と思うくらいの一瞬血の気がひくようなショットもあった。
でも… でも…。
全 編 影 絵 仕 立 て なんて聞いてないぃ~~!!!
敦賀さんの王様は一瞬光の中にうかびあがるみたいな効果もあって、
そもそもそのプロポーションから一目見ればバレバレだけれど、
わたしなんか………。
うっ…うっ。
夜のファンタジスタ(←帝王の別名、黒崎監督命名)に耐えてがんばったのに。
灰になるまでがんばったのに。
しばらく敦賀さんの王様に迫られ、夢で魘される毎日を過ごした …のにのに。
(そりゃしょうがないよ、最上さん未成年だろ?本来君をお酒のCMに起用できるわけないんだから…
むしろ黒崎監督がそんな冒険したことに驚きだよ)
翌日、椹さんに言われた言葉が蘇る。
それはそうかもしれない、でもそれならそれで最初にそう言ってくれてたって…っ。
こんなんじゃ、ショータローの馬鹿が見たってわかるまい。
いや、むしろ影絵なら分からなくて正解なのかもしれない。
あいつの事だから、おまえが色気のねー女だから影絵にされたのよ、
…くらいの嘲笑を浴びせかねないし…。
うっうっ。 口惜しい…。口惜しすぎる。
嗚呼…、
キョーコのハリケーンパンチ計画失敗…。
*****
■後日談(敦賀蓮の場合)
「うわぁ…」
事務所で二人、対談相手の編集者を待っている間、
カフェテリアのテレビに偶然かかった例のCMを見て、社さんが頬を赤らめた。
「やっぱりこう観るとエロいなぁ~、なんかこのCMすごい評判みたいだよ、蓮。
おまえに抱かれたい女性急増、人気さらに鰻登り、みたいな」
「なんなんですかそれ」
苦笑する。
正直、影絵仕立てにはほっとしていた。
あの子のあの姿を衆目に晒さずに済んだのが一番、
自分の欲望がダイレクトに世間に配信されなくて済んだのが二番。
あの日以来、黒崎監督には足を向けて寝られない心境だった。
「男れんちゅうの、相手の女の子は誰なんだって憶測もすごいみたいだけど」
ピクリとこめかみの血管が動くような気がした。
落ち着こうよ、敦賀蓮。
「…そういえば蓮、あのあと黒崎監督に会った時、なんかもらってたよね?DVDみたいなの??」
ふいうちに言われて、思わずギクリと肩を震わせてしまった。
視線を逸らして ええまぁ、と曖昧に返事をし、
ニコニコしながらやってきたあの日の監督を思い出す。
『 いやあんまり熱演だったから、趣味で!』
それを俺に渡し、指でDVDを指し示してからもう一度 『趣味だから!』 と繰り返し、
にやりと笑って爽やかに手をあげ去っていった一陣の風のような。
そして残された手の中のDVDには、あの日あの子と俺が演じた全てが収録されていた。
………いや、それはそれで、けして嬉しくなかったわけではなく、
むしろあの子のシェヘラザードをこういうかたちで手に出来て嬉しいというか、
むしろありがたいというか、
むしろよこしま的にも非常に助かっているというか、
むしろ今日も帰ったらちょっと観てしまおうかなんて思っていない事も無いと言うか… だけど。
はぁ~、とため息をついて両手のこぶしでくつくつ額をたたく。
( あの監督の顔は………絶対バレて………るんだろう……な--------------)
だから映像を扱う人間は嫌いだ。
緒方監督にも俺のあの子への思いはマイルドにバレているようだし、
この先あの子と共演した場合、のきなみ監督陣にはバレてしまうということなんだろうか。
でもよく考えてみれば、俺の気持ちなんか既に社長にも社さんにも、馬の骨にすらバレているんだったか。
…もしかして知らないのは最上さんくらいなんじゃないか? と思うと、すぅっと黒い気分になった。
俺って、実は…。
そんなに分かりやすい人間なんだろうか?
………なんとなくショックだ…。
隣を見ると、異様に瞳を輝かせた社さんがこちらを注視していた。
さらに暗澹たる気持ちになる。
「あの時のソースDVDなんだろ???」
キラキラと光りながらぐいぐいと迫ってくる。
ほんとにこの人は俺の恋愛がからむとトコトン乙女みたいになって…っ。
「いいなぁ~蓮、黒崎監督の撮った蓮とキョーコちゃんの千夜一夜、俺も観たいよー」
「いや…もうほんと…そんなんじゃありませんから…」
「えー、じゃなんなんだよぉー」
「ほんと…勘弁してください…」
あんな、発禁処分ものを…人目に触れさせるわけには…金輪際。
「社長にいいつけてやる!!!」
「やめてくださいそれだけは!!!!」
これ以上は…ほんと勘弁してください。
*****
■目撃談(祥子の場合)
………さっき控え室から聞こえてきた雄叫びは、確かに尚のものだった。
あれはいったいなんだったのかしら。
敦賀蓮への呪詛にまみれた暴言と、部屋に響く衝撃音。
って、あれ、こないだやっと稟議が通って購入したばかりの
50V型のプラズマディスプレイが破壊された音じゃないわよね…。
………事務所の備品、壊したんじゃないわよね。あの子に限って…。
………よ、様子を見に行った方がいいのかしら?? でも……。
なぜかしら…今だけはあの子に近寄らない方がいい、そんな気がして。