村井純インタビュー

2004-06-10 21:24:57 | Weblog
■日本のブログブームは日米の個人表現文化の結婚

――先生は「ブログは何である」とお考えでしょうか?


ブログは、個人表現を支えるためのメカニズムですね。
日本とアメリカでは、Web上での個人の表現というのはずいぶんと違うところからスタートしています。日本での個人表現は、はWebの日記とか、2ちゃんねるといったユニークなところから出発しています。その中で個人の考えや生活の一部を少しずつ広い範囲に公開していきながら、上手にインターネットを使いこなしていて、そこにはひとつの文化ができあがっていたといえます。対して、アメリカではもっと厳しい、個人のジャーナリズムのようなものがブログを基盤として急激に発展してきました。強い競争意識があり、批評や議論が激しく行われている中で、それまで無名だったサイトがある日突然ドカンとヒットする、というメカニズムがブログにはあります。そこで一攫千金を狙う、有名人への登竜門としてブログをしている人が多いです。日本でのブログの広がりというのは、このふたつが結婚したようなもの、といえるわけです。


――ブログの本格的な広がりはこれから?



もう既に広まっていると思います。ブログは、読者がいい記事を発見しやすいシステムが上手に作られています。これは書き手にしてみれば非常に表現のしがいがあるシステムということで、これを実感した人はどんどん使いこなして発展させていると思います。元来、少し遠慮がちな日本人たちのコミュニケーションが、ブログによってすでに新しい展開を見せてきていますし、その「発展」というのは、既に見えてきたのかなと思っています。



――SFC(※1)の学生を見ていて、「ブログ前」と「ブログ後」で変わったことはありますか?



SFCはブログの大きな牽引力になっているのではないかと思います。みんなブログという新しい仕組みに期待しているし、研究している学生も多いです。会の情報を共有したり、キャンパスの中の出来事を発信するときに、ブログという新しい仕組みをどう使うか、どうやって影響を与えていくか、といったことに、皆熱心に取り組んでいます。私より詳しい専門家もいるくらいで、非常に頼もしいことです。



■個人が主人公の「自律分散性」がこれからのキーワード

――ブログによって、今までの「検索エンジンが中心にあり、情報の流れを制御している」という形から「ブログのつながりが情報の流れを生む」という形に変わっていく、という考えがあります。これは先生の提唱されている「次世代インターネット」の形と重なると思うのですが


そうですね、やはり「自律分散性」というものがインターネットというメカニズムの大きな意義です。そして自律分散的な、ひとりひとりが責任を持った情報源となって情報の共有を行えることが、インターネットの社会基盤としての大きな力です。ブログというのは、この自律的なネットワークを支援していくためのメカニズムですね。個人のエンパワーメント(※2)というのはインターネットだからこそできた非常に大きな社会的機能で、これを強化し、新しい形で発展させていく枠組みだと思います。ただ、ブログはあくまで枠組み――メカニズムなので、これをどう使い、どう発展させていくかは、文化によって異ると思います。例えば新しいジャーナリズムを作っていこう、というアプローチもあれば、もっと個人の情報を共有していくことで、何かが生まれていくというアプローチもあります。アプローチや関わる人たちの心構え、文化的背景によってコンテンツそのものも違ってきます。そういう意味で、日本の中でのブログの文化というのは、私たちの文化や、私たちのコミュニケーション、そして新しいブログというものを見つけたときのリアクションによって作られてきます。将来を予測することは非常に難しいですが、何か新しいものが生まれてくることは確実です。日本の独自性の中に、情報が広がりやすい、見つけやすい、人気の有無が分かりやすいシステムが入ってくることで、インターネット上の自己表現がどう発展していくか、きっとアメリカとは違う形になっていくでしょう。私も楽しみにしています。そして、ブログでは個人が主人公になります。そこで自己表現がどれだけ影響力を持ってくるか。日本人には少々苦手な面もありますが、こういった中で新しい世界、新しい文化が開けてくるのだと思います。



■個人表現の新しい試みができる環境が大切


――最後にもう1点お伺いします。ブログをビジネスにするとき、どんな形が考えられ、また、どうするべきだとお考えですか?


ビジネスについては、私はいろいろな試みを楽しみにしている立場で、実際に考える立場ではありません。しかしながら、大事にしなければならない部分があると考えています。それは個人のエンパワーメント、自分の表現に対して、新しい試みができる環境を提供することです。ブログがここまで広がってきた理由はまさにこれで、発信する人、参加する人の自由がうまく活かされて、そこから生まれる新しい力が健全に成長するような形でビジネスが組み立てられたら、とてもいいなと思います。

――ありがとうございました




※1 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの略称
※2 empowerment:力をつけること。ここでは発言力を持つこと、といった意味 こちら