
はい、では次ですね、
翠:
新しい班にある2人の人がいました
1人はテーマッセと言い、私と同じバラモンの出身で、すらっと背が高く、同い年でした
話も合った
彼は音楽が好きで、私と趣味も一緒でした
私たちはすぐに仲良くなり、お釈迦様の話について語ったり、論争を戦わせたりしました
彼は、まじめでおとなしい人でした
もう一方の人は、むくつけきという言葉がぴったりの、大柄で無愛想な人でした
何を聞いても、「ああ、」とか「いや、」としか返事をせず、もしかして山小屋で、1人で木を切る仕事でもしていたのかと思うほど、無口でした
彼は自分のことは何も語らなかった
ある日のこと、午前から用事で私は働き回っていた
みなの寝具 (布など) を洗い、干し、それから食事の残り物を持ち、こっそりと林のはずれへ行った
先日から野良の子犬がこのあたりをうろついており、おなかをすかせていたので、みかねて私はエサをやるようになっていた
行くと、待ちかねたように子犬は走ってきて、私が容れ物から出した残飯を、おいしそうにぺろぺろ食べた
しゃがんで見ていると、後ろから声がした
「何をしている!」
こわい、大きな声だった
驚いて振り向くと、例の大柄な男が立って、こちらをにらんでいた
「何って…、ご覧の通り、犬にエサを…、」
私は言うと、男はぷいと向こうを向いて、
「そんなもの、やらなくていい、」
と言った
「あれ、でもお釈迦様は動物を大事にしなさいと…」
「事によりけりだ、なつかせると、その内お前について回るぞ、みんなの迷惑だ、」
と男は腕組みをして言った
それもそうだ、と私は思い、黙っていた
すると、男は振り向き、
「わかったか、」
と言った
私は、
「わかるけど、自分でエサを捕れるようになるまでは、育てるよ」
と言った
「突き放すのは、難しいんだぞ、」
「わかってるよ……なんとか、やる、」
と答えると、男はそれ以上は言わず、向こうへ去った
なんだ、しゃべれるじゃないか、と私は思い見送った
何だかいつもよりゆるんだ彼の背中が、ほほえましかった
彼だとて、誰かとしゃべりたかったんじゃないだろうか、ここの集団へ来て、ほとんど誰とも長い会話をしゃべっていないようだったから…
ところが数日たって思いがけないことが起きた
いつものエサをやる所へ行ってみると、あの子犬が死んでいたのだ…
どうも、他の野犬にかみ○されたらしい
そう言えば、昨日、エサをやるなり、私は用事を思い出してあわてて走り、仲間の所へ戻った
だから、最後まで子犬が食べきるところを見ていなかったのだ
推察するに、エサを食べていた子犬のところへ、大きな成犬が来て、エサを横取りしようとし、(神様によれば、いったん子犬は逃げたが、エサが惜しくて戻ったらしい、) 成犬にかみ○されたらしい
私は、悔しくて、涙が出た…
なぜあの時、ついていてやらなかったのか、食べ終わるまで、もう少しそばで見ていれば、こんなことには………涙があふれて、横たわり動かなくなった子犬のそばで、立ち尽くした……
しゃがんで冷たい背中をなでてやり、
(おおよしよし、痛かったね、苦しかったろうね、何もできなくてごめんね、) と心で謝った
ふと気がつくと、後ろにあの男が立っていた
左手に、食べ物の切れ端を持って下げている…
彼もまた、驚いてぼうぜんとしていた…
私は顔を上げ、
「君、持ってきてくれたの……」と涙を手でぬぐいながら、聞いた
男は、
「今日初めてやろうと思って、来た…」
とつぶやいた
彼もまた、子犬のそばにしゃがむと、見た…
「寿命だな、まつわりつく前に…」
彼はそう言うと立ち上がり、子犬からやや離れた自分の左後ろに、切れ端をぽろっと捨て、向こうを向いた
私はやっと気持ちが落ち着くと、そっと子犬に手を合わせた…
すると男が、
「埋めてやらなくちゃな、」と言った
そして、仲間の所へ戻ると穴を掘るくわを持ってきてくれた
2人で相談し、近くの大木のそばの、草むらの根元に穴を掘ると、小さななきがらを埋めた…
私が昨日の光景を話すと、
「あまり自分を責めない方がいい、」
と男は言ってから、急に押し黙り、向こうを向いた…
そのままじっとしているので私は待ったが、彼は動かない
ようやく彼は振り向くと、
「行こうか、」
と言った
「お前に拝んでもらッたかラ、犬も幸せだよ、」
「君にも手伝ってもらったし、」
と私は言った
そうして、2人並んで帰った
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