鏡の月

こちらは、電子書籍ライター入深かごめのblog「Fly Me To The Blue Moon」の予備的blogです。

桃華繚乱

2018-12-19 11:59:44 | ご挨拶
長らくご無沙汰しております。

入深かごめです。

住民トラブル(今年の夏、私が住んでいた住居の階下に後から越してきた、男性の住人が、常軌を逸したクレーマーでした…)またぞろ典拠となりまして、部屋探しから転居まで半月の強行軍だったのですが、その疲れからか酷い風邪のうえ喘息をこじらせて、一カ月ほど養生しておりました。

間に、コミティア126などに参加もしましたが。

ようやく、ブログにて皆様に御目文字……するまでに回復もしましたが、さあ、改めて何を書こう?となりまして。
一昨年の11月のコミティアで無料配布致しましたフライヤーに載せた掌編を、こちらにも載せさせて頂こうと思います。

拙作「らせつの城」からのスピンオフです。
どうぞ、ご覧くださいませ。


※「らせつの城」自体は18禁ですが、この掌編には、露骨な性描写等はありません。が、苦手、お嫌いな方はご遠慮下さい。





















金瓶梅トリ



『桃華繚乱』


―――北狄の国・ガリアの都「パリス」

開演初日。
 この日のために設えた特別な衣装、それに靴。そして何より、芝居も、踊りも歌も、座員が止めに入る程に、必死に稽古を重ねてきた一人の女優―――桃華は、幕開きの前、彼女らしくなく、震える身体を己で抱きしめた。
 とても頼りなく、儚なく感じられる、柔らかく細い身体と腕、そして腕の中で緩く潰され、盛り上がる乳房―――。
 つい一年と少し前まで「彼」であった桃華を「彼女」へと変えた「あの人」の姿を、舞台袖から客席をへと視線をはしらせて、探す、探す、探す。
しかし、その勝気な瞳は、まだ、あの人の姿を捉えられてはいない。
「桃華さん! もう開演です!」
「わかったよ!」
 声をかけてきた座員に返事をし、桃華は、その腕をほどいて、白い小さな手の平に『人』の文字を書いて、ぺろりと舐めた。

 ……きっと、この舞台も、あの人が、見ていてくれるはず。頑張らなきゃ! 女がスタるよ!
 そして、異国での幕が開く―――。

『桃華繚乱(とうかりょうらん)』

―――万雷の拍手とともに幕は下りた。
 桃華たち座員は、パリスの酒場に繰り出して、皆で、異国での公演成功の美酒を痛飲した。
 それでも、桃華の心は、なぜか晴れない。

……あの人、今日は来ていなかったのかな。いつもなら、とっくに……。
 座員と酒を酌み交わしていても、その心はふわふわと、昔へ馳せてゆく。

 ……故国の宮廷に上げられ、いずれは姿形を変えられて、その頃、悪逆非道の限りを尽くしていた女帝の慰み者になる―――それを諦観と共に受け入れ、それでも忍び寄る不安に押しつぶされそうになりながら、暮らしていた、あの日々。
それを一変させたのが、他ならぬ「あの人」であったのだ。女帝の命で、桃児と呼ばれていた少年を、鮮やかな術式で、美しい宮廷女官・桃華へと変貌させた、あの人。
 しかもそれだけでなく、桃華の目を文字通り「世界」へと開かせ、導いてくれた、あの人―――。

 ―――桃華、新しいキミを、世界は祝福しているよ?

「……先生……」
 ……そうして桃華が、酒場の座員たちと別れ、ぼんやり思いを巡らせながら一足先に宿屋へと、慣れぬ道を千鳥足で戻っていたとき……。
『よお、ねえちゃん!』
『ちょっと俺たちに付き合えよ!』
 異国の言葉で、何を言っているのか? とにかく良からぬ事だというのだけは気配で察した。いつもの桃華なら、男の急所を蹴り上げて早々に逃げるところだが、今日は勝手が違った。
「何らろ? お前らみらいな薄らロンカチに用はないろ! さっさろ、ろっかに失せら!」
『うえっへっへっへ! このねえちゃん、酔っぱらってやがら!』
『俺たまんねえ、早く連れ込んでヤッちまおうぜ!』
「はなせ! はなせ! この、うろのらいぼくろも! むぐう…… !」
 しかし、桃華はロクな抵抗も出来ず口を塞がれ、身動きを封じられて、路地裏に引きずり込まれる。
吐き気がするのは酒のせいだ。涙が出るのは酒を飲みすぎたせいだ。こんなのは、野良犬に噛まれたとでも思えばいいんだ…… こんなのは……。
潤む目に、遠い異国の夜空の星が滲む。

 ……ああ、故国(くに)で、無理やり男から女にされて、意地で女優になったけど……偽物の女でも、それでも「初めて」は、あの人が良かったなあ……。

桃華が、唇を血がにじむほど噛みしめて、目をつむった……その一瞬。
風の唸るような音、肉をえぐる様に打つ音、ヒキ蛙のような男どものうめき声。
 目を開けると……。
その、たおやかで妖艶な姿かたちからは想像もつかない剛腕で、異人の男どもをなぎ倒した黒衣の貴婦人が、桃華の目の前で、まるで汚物にでも触れたかのように、手を払っていた。桃華の、想い焦がれたその人が…… !
「桃華、キミは威勢も気風も良いが、諦めも良すぎるな。全く」
「我聞(がもん)先生……」
「キミも私の素晴らしい作品なんだ。いつも、その美しさと心映えに負けず、気高くあって欲しいものだねぇ」
 と黒衣の貴婦人、我聞医師が、桃華に微笑みかける。
「先生! 何で今日の公演見てくれなかったのぉ! あたしっあたしはあ……」
 我聞は、黒絹のドレスに包まれた豊かな胸に、華奢な桃華を抱きとめて、その髪を撫でる。
「すまなかった。船が着くのが遅れてしまったんだ。すまなかったね、桃華」
 と、我聞は、桃華が泣きじゃくるのに任せていたが、ひとしきり泣いて彼女が落ち着くと、その髪に、花を飾った。
 ほのかに、甘い香りがする。
「キミの故国は、今頃この花の盛りだ。何よりもキミに似合うよ」
 一枝の、今にも咲き誇らんとする桃の花。
「……ありがと、先生」
 自分に向かい、健気に笑ってみせる偽の乙女に、我聞は、そっと、くちづけた。



(おわり)


*この作品は入深かごめ作「らせつの城」からのスピンオフ掌編です。


はじめに…お越し下さった感謝を込めて

2018-07-17 04:42:59 | ご挨拶
初めまして!または、ようこそおいで下さいました。

こちらは、デジタルノベルライター「入深かごめ」のBL作品告知用ブログでございます。

ライター修行をしながら、丸一年ほど前から、TSF…トランスジェンダーフィーメイル、つまり、男性が女性化するお話しを書いておりましたが、このたび、某所からの要請で、BL…ボーイズラブも併せて書いていくこととなりました。

主に、これからネット出版される作品の告知宣伝を…と考えておりますが、このブログ独自の作品も掲載してゆく所存です。

どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

2016年6月30日 入深かごめ 拝