にざかな酒店

我が龍神四話

というわけで、やっと二人そろった挿絵がでてきました。
なかなかこのシリーズは挿絵が悩みます。
きゃー、のところの挿絵でも良かったのですが。まあ続きどうぞ。
我が龍神四話

雨が降っている。といっても、雨の降り具合としては対した事は無い。
気の持ち用だが、サラは案外こたえているようだった。
雨の湿度で、むっとした空気がさらに濃縮され、夜の空気、木や虫のにおいが鼻につきはじめる。フクロウらしき鳥の鳴き声。足下もぬれ、まるで草が靴にまとわりつくようだ。
よくガマンしている、と思ったら、小声でふにゃ、だのへにゃ、だの泣き言が聞こえだしている。…聞かなかった事にするか。
どうせ通り雨っぽいしな。
湿度と温度で、雨が通った後の方が、地獄かもしれない。
と、木に傷が行っているのが見えた。
俺が夜目は聞く方だ。
雨もやんだし、休憩地点だ。
「ワープゲートはここの近くだ。がんばったな」
「わ、わーい…へろ…」
へろへろしてるまに、布と葉で寝床を作る。
と。
「お前、風の魔法は使えないか?」
「はえ?」
「湿気を飛ばすんだ。濡れたところで寝るのは嫌だろう」
「おおー☆」
疲れて曇っていた瞳がやたらときらきらと輝いている。その目、やめろよな…。
「ばっびゅーん」
葉自体もちょっと飛んでいるようだが、まあいいか。
「晩ご飯は、ちゃんと携帯用のご飯持ってきたんだよー。チャーハンの凝縮と、スープの凝縮☆んで、お湯さえあれば何とかなるよ」
その湯も魔法で何とかなるわけだから、魔法ってのは相当どうかしてる訳だ。
まったく…。
「いつ用意してたんだ、そんなもの」
「農家の人にかくまってもらうときに、こんな事もあろうかと思って作っといたの。初回だけはちゃんと見てるときに作った方がポイント高いかと思って作ったけど、実はその後はこれで結構行けるかなー…って」
えへ、と笑っているが、なかなか計算高い。
かくまってもらったというが、それも、何かトレード的なことをしたのだろう。
まあせっかく用意してくれたんだ。食うか。
オーソドックスな卵チャーハンのようだが、細かく刻んだセイローリが入ってるな。ふむ、香りのつよい葉を使って極端に薄い味付けをなんとかしてるわけだ。
スープも味のつよいものではなく、のどごしの良いものだ。
「何じろじろ見てる」
「結構、おいしそうに食べるよね」
む。なんだその言い方は。なら飯を与えるな。
「見てないで、お前も食うといいだろう」
「ありがとー」
その、苦手な視線はやめて、サラもあっさりと自分の分を食べだした。まったく、ままごとじゃないんだぞ。
俺は食ったらすぐふて寝だ。それでも、寝付きは良い方だ。目が覚めたら、もうすでに朝なことは十分解っている。

………。って、言ってると、朝だった。
もうそれも朝焼けは遥かに遠く、昨日の雨がにくらしいくらい、太陽がてらてらと輝いていた。ああ、まだいつものように昼にはなってないようだが。
と、気づくとサラがいない。
「まさか、まだ温泉に入っているのか?」
さすがにそれはないだろうが、一応みておくか。
「だからー、龍神様ってば、いい加減ロッド起きちゃうって」
「んーもうちょっともうちょっと。しばらくぶりのー、温泉ー」
「サラ?誰と話してるんだ。」
「え、ろっ…きゃー!」
と、思いっきり湯をかけられたが、おい、お前しっかり服着てたじゃないか。

「どういうことなんだ、これは。この、まるっこい蛇に羽がついたような生き物はなんだ」
その生き物は、今俺の目の前で緑色の体をくねらせているが、まさか、そのポーズは毛繕い的なものか?
「え、えーと…龍神様、だよ…」
「これのどこが神だ。神というのは麗しい女神であって、こんな変な生き物ではないはずだ。百歩譲って神として、なんでこんなにちみこいんだ」
「えと、えと…それは、レメティーナでも最近信仰が薄れてて…あのーう…怒ってる?」
怒ってない訳がなかろうが。
「レメティーナは、やおろずの神様って言ったでしょう。この龍神様は田舎の方の村のお酒と温泉の神様なんだよ」
「で、なんでそれが追われてるんだ」
サラは困った顔をして、「話せば単純なことなんだけど…」と声を詰まらせた。
「単純な事なら、さっさと話せ。」

実は、私、8月の誕生日で二十歳だったんだよね。レメティーナじゃ、二十歳からお酒呑めるんだよ。だから二十歳の誕生日を心待ちにしてたの。
そしたら、なんか急に神殿に呼ばれて、あなたは龍神の巫女ですって言われたの。
特に将来考えてたわけじゃないし、そんな立派なご役目があるなら喜んで引き受けますって、特に何も考えないで仕事につきました。
龍神様の言葉を神官の人たちに伝えたり、ご祈祷みたいなことしたり。
まあまあ楽しかった。半年たったある日までは…。

ある日、村長さんから、都会の領主様に龍神様に会わせてほしいって、招待されたんだ。私もごちそうをよばれて、楽しくしてたら、女領主様が、酔っちゃって…
「あら、龍神様ってたまたまはどこにございますのー?」とかいって触りだすものだから、龍神様が怒っちゃって、領主館にドラゴンブレスを…

………って、ろっどー、どうしたの?

「どうしたの、じゃないだろう………!!」
俺は激しく脱力していた。どうりで、奴らが全然追いついてこないと思ったら、奴らは全員事情を知ってる訳だ。
「で、その話でなんでお前が逃げる必要があるんだ。悪いのはあっちなんだからいなおれ」
「って言っても、怖いんだよー。だって、街だって結構つぶしちゃったんだよー、後でがんばってなおしたけど、龍神様が」
「………いくら、女で領主とはいえ、いくら神がみょうちきりんなちまこい蛇とはいえ、それは駄目だろうが」
「でも…」
「うん、でも、じゃない。神を馬鹿にしすぎる方が悪い。」
レメティーナ人はだいぶマシかと思ってたが、案外ひどい。
「今からでも遅くない、お前は戻った方がいいだろう」
「っていっても、今更…」
「やだ、戻りたくないあんな変態やだ」
ほら、龍神様も言ってるじゃない、とサラはいうが…。
「龍神様もせっかく村のためにがんばってたのに」
「ならなおさらだろう、とはいえ、俺は一応拠点がミルファーナだからな。ミルファーナには行くんだが…」
「じゃあ、なんでフーリンカに行こうとしてたの?」
「ミルファーナに未練がなくなりつつあったからな。ついのすみかを探そうとしてたわけだ」
ついのすみか、って、あなたそんな年?とサラが首を傾げる。
「いいだろう、別に。」
俺はまだ二十二だが。
「まあ、ついてくるなら、ついてこい。無理に帰そうとは言わん。」
「ついてくー!!」
と、後ろで龍神の声。…なんでこいつに好かれてるんだ、俺。
何もしてないのに。
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