にざかな酒店

マゼンダ

マゼンダ。例のエルムの兄妹の小話つきです。
明るくなるわけがなかろう!というわけで暗いお話。現在の事もちょっと語ってます。
買い物にでかけたサラに龍神がそっとささやいた。
「悪い酒のにおいがする。」
「え?悪いさけって…こっち、エルムたちの部屋だよ?りゅーじんさまー…って、まさか…」

濁流する記憶のなか。
確かにあの哀れな人たちはいたのだ―――。
私たちは化け物だから、誰もが敵で当然なのよ。
成長した私たち兄妹は死んだ親の関係から話を聞いたのだった。
「エルムだけ…?そんな馬鹿な」
ショーグリーンがもともと冴えない顔の濁った瞳に違う光をにじませる。
「エルムだけ、魔獣にならないって?」
「そうらしいわ。なんでも、それがゲームらしいけど?」
私、マゼンダは聞いた通りいった。
「ゲームって、誰が、何の目的で!」
ショーグリーンとは全然別の意味で怒りをにじませるグレイ。
「そんな風に、俺たちの運命を勝手にかえて、何をするつもりなんだ」
「魔獣になるなんて、そんな…」
どこか薄弱なスノウは口元にあてた手をふるわせている。
「予防策は、絶望しないことだけ、らしいわ。」
馬鹿にしている、とグレイが吐き捨てた。
「何か、の間違いかデマだろ?って言いたくなるが、あの親だから本当なんだろう…!」
あの親だから、というのが一番の信頼性らしい。
まあ、不死身を作った人ですからね。
「マゼンダ、お前は、逆に機嫌がいいみたいだが?」
ショーグリーンの双子の兄、ビリジャンが聞いた。この人は、敏感すぎて失敗するタイプ。つつかなくてもいいヤブをつついてしまうのね。
「私は、どうせすることかわらないもの。自分以外はみんな敵、それでいいんじゃなくて?私たちはそうでしょう」
「みんな敵、か…そうだな」
「ショーグリーン、真にうけるなよ」
やけに軽くグレイがいった。
「マゼンダ、言い過ぎだ。確かに、世の中を悪くしようって人間には俺たちはうってつけだろう。そして、俺たちを排除した後の世界を自分の好きにしようって人間にもな。だが、そうそう簡単に負けるわけにもいかない。だって普通にしてれば、発動しないんだろう?」
「そう…なるけど」
「だったら俺たちは大丈夫だ。な?」
グレイは兄妹全員の肩を叩きそうな勢いで、楽天家をきどっていた。
「でもこれは言える。エルムは敵だ。」
病んだ目つきで、ショーグリーンはいった。その言葉は、後に実際エルムを殺す話をロッドに持っていった行動に現れる。
ビリジャン、そしてスノウがかすかに首をふるわせた。うなずこうとして、私とグレイをみている。
「あなたたちはそうなのね。」
「全員敵なんだろう、なら、妹も敵だ。そうだろう。」
ショーグリーンの言葉に、あなたはかわいそうねえ。と思いながらうなずいた。
「まあそうなるわね」
「みんな、やめろよ…そういうのが、そも作戦にはまってるっていうんだろう。敵って誰だよ。ゲームってなんだ」

「わからないの?悪意を連鎖させることが、クラウフの願いよ。人類がさみしくなく、世の中を生きていけるように。憎悪ほど面白い感情ってないものね。そして、ゲームっていうのは、自分が一人だけ、好きになった人の子供まで魔獣にしたくなかったから、魔獣を倒すって言う目的をあたえて、生かすための戦略よ」

この真実は、この兄妹にとって、あまりにも致命的だった。
既に知っている、私以外は。
みなが少しずつ狂っていったのに、私だけが平気だった。
だって、もとから知っているんだもの。
うまれつき、自分はいらないものだってことを。
もとから壊れてるものは、それ以上壊れないの。
それだけよ。

「…あれ、私…」
薄い朝の光だ。いつの間にか、一升瓶を抱えて眠っていた。
「もう、お酒で死のうなんて無茶し過ぎでしょ!お姉さん」
「決めつけないでよ、ちょっと飲み過ぎただけじゃない」
「龍神様いるのに、そんな嘘つけるわけないもん」
ぶくーっとふくれているサラの後ろで、ぬいぐるみみたいな龍神が申し訳なさそうにしてる。
「…記憶、みたの?」
「我、涙」
「見たのね?」
念を押して聞くがほろほろしてるだけだった。
「まあいいけど…あんまりいい趣味とは言えないわ。龍神様」
「ん、記憶ってなに?龍神様」
「聞くんなら、あなたの旦那の使用権ちょうだいな」
あああああああげないよーーー!!と、サラはぶんぶんと首を振った。
「使用権ってなによー!とんだ伏兵だお姉さん!!」
「シュナイダー事件の後片付けに、こきつかってあげる☆」
「…あ、なんだそっちかってそれもよろしくないよ」
あら意外と冷静ね。
「昔何があったか知らないけど、人間、今しかないんだからー」
「今だからよ。終わったら、いらないものは退場しなくっちゃ…あら、そんなになかなくったって」
「泣きすぎたらひからびちゃうよ、龍神様」
ほろほろほろほろ。
龍神様、ただでさえみにこいのに泣いてる姿のこれまたかわいいこと…。
サラがハンカチあててるのにあっていうまにハンカチがぬれてしまった。
「何よ、あなただっていにしえの時代は生け贄食べまくってたでしょうに」
「イラナイナンテナイ」
「え?」
「オマエハソノキオクだってイルッテイッテル。それがさみしい」
「そうね。お姉さん、重要な証人だもの。いないと、エルムもどっちいっていいかわかんないよ。ね?」

いつものように。
いつもの笑顔で。
微笑んでいるのはーーー

「エルムのこと言われちゃ、しょうがないわね…。龍神様、ありがとう」

全て悪いのは誰か、なんて今更だれも問うてないのに。
誰が背負うても、かわらないのに。
「みんなには、内緒よ」
「そりゃそうですよ、酔っぱらってこけた情けない姉さんなんて言えないもん」
「あなたには言ってないわよ、小娘!龍神様に言ってるの、このやっさしい龍神様!見習いなさいよ」
「わるねーさんがみならいなさいよー」
この、しゃあしゃあと…!
どうせお嬢さん育ちと侮ったのが間違いね!
よっぽど龍神様の方がいい育ちしてるに違いないわ。
と、そこにーーー

「お、マゼンダ大丈夫か?おー朝っぱらから酒」
狼がきた。
「俺も飲んでいい?」
「馬鹿」
即答。
「い、今のは龍神様のせいだよ!な、龍神様」
「のんきねえ…」
「お前らみたいな姉妹とつきあうんなら、考え込む性格じゃ駄目だよ」
やけにきっぱり、と言った。
「そうそう」
「強いのは強いけど逆にかちかちしすぎなんだから。しんどくない程度に生きてりゃよし、だろ?」
「まーエルスさんは緩すぎだと思うわ」
それは同意。
「それより、この村面白くってさー、昔魔王と戦った人たちが作った村だっていってただろ?だから人種とか民族とか結構入り乱れてて他じゃみられない文化ができてたりするんだよ。
土産物屋の魔境っぷりが特にすごい!感動の再会もあったし!」
そういえば、エルムもこんなにうれしそうに話す人、今までみたことなかったんじゃないかしら。
きっと、ないわね。
ーーー。
しょうがない、たまたま助かってしまったんだし、当分はこの変わった人たちを研究してみるかーーー。
やることもないわけだしね。
それか、この辺境の村、とやらに文明の利器を投入すればどうなるか、それも面白そうだ。
龍神様なかすのもかわいそうだし、もうちょっとだけ、生きてみましょ。
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