これは少々昔の話になります。私ことうっかりロッキーと先輩のドン・マカローニさんの二人で「青髭の兄弟の店(仮名)」で一杯飲んでいたときのことです。
ドン・マカローニさんは我らのグループのリーダー的な存在で、自分にとってはオタクの師匠であります。コミケの存在を自分に教えてくれたのも彼でありました。以来彼とは夏と冬を共に戦う戦友であります。
その日、ドン・マカローニさんはいつになく静かでした。いつもはアニメやゲームなどのオタ話で盛り上がる我々でありましたが、その日ばかりはどちらから話を切り出すわけでもなく、ただちびちびと酒を啜り、肴をかじっておりました。
「会社の方はどうよ。もう慣れた?」
突然、ドン・マカローニさんが少し疲れたような様子で話しかけてきました。当時私は社会人なりたての頃で、会社で電話を取ってはどう対応したらよいか分からず、頭が真っ白になってパニくり、先輩から怒鳴られてばかりという日々を送っておりました。とにかく人と話すこと自体が苦手でどうにもならない頃でした。
「いや~、やっぱオタクにとって社会は厳しいですね。新米だから給料も安いですし。」
自分も少々疲れた声で答えました。
「金がよくてもなぁ…。」
ドン・マカローニさんはそう言うと、懐から煙草を取り出し、顔をしかめながら某キャラクターの刻まれたジッポーで火を点けました。
有名大学を卒業後、大手有名証券会社に就職したドン・マカローニさんは我らの仲間の中で一番の高給取りでした。
「今日、お得意さんの葬式があってね。先輩と二人で行ってきたんだ。俺も新人の頃随分お世話になった人で、最後のお別れにと思って行ったんだが。これにはもう一つ別の目的があってね…。」
ドン・マカローニさんはそこで、煙草の青い煙をまるでため息をつくかのように吐き出しました。
その別の目的とは何か。自分が好奇の視線を向けると、ドン・マカローニさんは目を逸らし、
「奥さんにお悔やみを申し上げた後のことさ。実は今とても有望な商品がございます、ご主人のご遺産を是非運用してみませんかと。こういうわけさ!」
とはき捨てるように言いました。
自分は
「それは、…」
ひどい話ですねと続けようとして黙ってしまいました。彼を非難することになりそうな気がしたたからです。
「その人が残された家族のために残していった金にたかるなんてよ…。何か人として間違っていると思うんだよな。これも仕事の厳しさってヤツになるのか?でもよお、葬式の席で言うことじゃないよなぁ…。」
ドン・マカローニさんは再び疲れたように青い煙を吐き出しました。
「仕事のためには人の心を捨てなきゃいかんのかね…。」
そう言ってうな垂れるドンに自分はかける言葉がありませんでした。
それから数年後、ドン・マカローニさんが勤めていた大手有名証券会社はバブル経済の崩壊の影響で倒産してしまいました。
倒産のニュースで世間が大騒ぎになったとき、ドン・マカローニさんから電話がありました。倒産の事実は社員である彼も直前まで知らなかったそうです。
「我々はどこへ行くのか、我々は何者なのか 我々は一体何をしているのか」
そのとき、ドンが残した言葉です。
ドン・マカローニさんは我らのグループのリーダー的な存在で、自分にとってはオタクの師匠であります。コミケの存在を自分に教えてくれたのも彼でありました。以来彼とは夏と冬を共に戦う戦友であります。
その日、ドン・マカローニさんはいつになく静かでした。いつもはアニメやゲームなどのオタ話で盛り上がる我々でありましたが、その日ばかりはどちらから話を切り出すわけでもなく、ただちびちびと酒を啜り、肴をかじっておりました。
「会社の方はどうよ。もう慣れた?」
突然、ドン・マカローニさんが少し疲れたような様子で話しかけてきました。当時私は社会人なりたての頃で、会社で電話を取ってはどう対応したらよいか分からず、頭が真っ白になってパニくり、先輩から怒鳴られてばかりという日々を送っておりました。とにかく人と話すこと自体が苦手でどうにもならない頃でした。
「いや~、やっぱオタクにとって社会は厳しいですね。新米だから給料も安いですし。」
自分も少々疲れた声で答えました。
「金がよくてもなぁ…。」
ドン・マカローニさんはそう言うと、懐から煙草を取り出し、顔をしかめながら某キャラクターの刻まれたジッポーで火を点けました。
有名大学を卒業後、大手有名証券会社に就職したドン・マカローニさんは我らの仲間の中で一番の高給取りでした。
「今日、お得意さんの葬式があってね。先輩と二人で行ってきたんだ。俺も新人の頃随分お世話になった人で、最後のお別れにと思って行ったんだが。これにはもう一つ別の目的があってね…。」
ドン・マカローニさんはそこで、煙草の青い煙をまるでため息をつくかのように吐き出しました。
その別の目的とは何か。自分が好奇の視線を向けると、ドン・マカローニさんは目を逸らし、
「奥さんにお悔やみを申し上げた後のことさ。実は今とても有望な商品がございます、ご主人のご遺産を是非運用してみませんかと。こういうわけさ!」
とはき捨てるように言いました。
自分は
「それは、…」
ひどい話ですねと続けようとして黙ってしまいました。彼を非難することになりそうな気がしたたからです。
「その人が残された家族のために残していった金にたかるなんてよ…。何か人として間違っていると思うんだよな。これも仕事の厳しさってヤツになるのか?でもよお、葬式の席で言うことじゃないよなぁ…。」
ドン・マカローニさんは再び疲れたように青い煙を吐き出しました。
「仕事のためには人の心を捨てなきゃいかんのかね…。」
そう言ってうな垂れるドンに自分はかける言葉がありませんでした。
それから数年後、ドン・マカローニさんが勤めていた大手有名証券会社はバブル経済の崩壊の影響で倒産してしまいました。
倒産のニュースで世間が大騒ぎになったとき、ドン・マカローニさんから電話がありました。倒産の事実は社員である彼も直前まで知らなかったそうです。
「我々はどこへ行くのか、我々は何者なのか 我々は一体何をしているのか」
そのとき、ドンが残した言葉です。