一刀入魂 勇往邁進

2012年4月デビュー
2015年5月初勝利&再起不能
2019年、人生本番開始(笑)

ライバル

2016-03-18 23:10:49 | 日記
毎年この日は厄日と決めている日。
3月17日。

やっぱりロクな事がなかったけれど
今年の厄日はちょっと違った。

隣の県に住むライバルが、わざわざ電車を乗り継いで
僕の住む町までやってきた。
僕と練習したいとの事だった。


10歳以上も年下だけど、昨年の5月末以降ずっと懐いてくれる男。
この男もリーグは違えど、あの日同じ表彰台に立った。

あの日から、体重も100キロを超えるまで増やし続け、
身体も明らかにデカクなり、道行く人が二度見するくらいの風貌になるまで
この男は鍛え上げてきた。


彼のベクトルは、シンプルだった。
日本一。それしかない。

難病が発症するまでの自分を見るようだ。
飽く迄も日本一。そして世界一を目指して
限界などないと決め込んでトコトン鍛え込んできた。

目の前に現れたライバルは、そんな僕と同じだった。


「今日は全力で行きますよ」

そう言う彼の目に曇りはなく、
ついでに言えば手ぶらだ(笑)
どうやらクラブが全て壊れているらしい。

僕のクラブを貸してやる事にした。


ギラギラした目で、準備運動をしてる。
まるで肩口から湯気でも出す勢いだ。
さっさと勝負がしたくて堪らんらしい。


まだ、これだけの男が僕をライバルとして扱い、
闘争心剥き出しで飛びかかってくる。
喜ばしい事ではある。しかもとびっきりの相手だ。


トレーニングを休止して、丁度丸1年になる。
馬力も、若さも、スタミナだって、この意気軒高な若武者に僕は劣る。

鍛錬を怠ってきたワケではないが、
正直な処、脊椎の痛みが足枷になっていないと言うのはウソになる。

発病から今までは、蓄えて来た技量と筋力で何とか戦ってきた。
だけどこの1年を経て、明らかにトレーニングを止めた事が仇となっている。
スイングスピードも、瞬発力も、衝撃力も、この男と表彰台に立ったあの日に比べ、
自分でも素直に認めるくらい、僕は衰えた。

更に手元にあるのは、間に合わせのクラブ。
エースも、サブですらも失った。

だけど

このギラついた、獣のようなライバルと、どうしてもこの日は戦いたかった。
満足行くまで、足腰立たなくなるまで、腕が上がらなくなるまで。

それは互いに言葉にせずとも理解し合えていた。
なぜなら、初弾から互いにフルスイング。
そして、300球全てを撃ち尽くすまで互いが全力だったからだ。


「アンタ、それ病人のスイングじゃないっしょ、もっといけるでしょう」

ニヤリともせずに、真っ直ぐな眼差しで僕に言う。

こっちは背中がバリバリゴリゴリいってんだ、無茶言いやがる。
そう思いながらも、彼のその一言はストレートに僕の腹に響いた。
こんな状態なのに、そして250球を超えてクタクタになっていたのに
過去最高の初速、過去最高の飛距離を叩き出せた。

今はこれで精一杯だ。

だけど心底思う。
この男の先を走っていたい。
時に追い越されても良い、だけどこの熱いライバルと
倒し倒されデッドヒートしていたい。

年齢も生まれも育ちも関係ない。
闘志があるなら、それが尽き果てるまで
1ミリでも良いから、動きたい、戦いたい。


だって
今の僕を労わったりせず、
ただでさえパワフルなその体躯をフルに使い、
青筋立てて、雄叫びを挙げながら、負けませんよ!
と食って掛かってくるコイツの存在が、僕は嬉しくて仕方ないから。


あまりに全力過ぎて、とうとう鼻血を出しながらも
負けない、負けたくないと唸りながら襲いかかってくる、
この男は自分の姿そのものだから。


激闘を終えて彼を駅まで送った時、
彼は左足を引きずりながら歩いていた。

股関節を痛めたらしい。

「大丈夫か、無茶すんなよ」という僕に

「こうでもせんと、アンタには勝てんからね」と笑う。

俺らがやってるのは、ドラコンなんだから。
全てに全力で当たる競技なんだから、と。


厄日は、今年で終わりだ。

この男と300球、
僕は背骨にムチ打って、足が立たなくなるまで
コイツは股関節を痛め、鼻血が止まらなくなるまで
文句なしにぶつかり合った。気持ちいいくらいに暴れ倒した。

燻っている思いも
身体への不安も
悪い夢も
この男とクラブを振り回し、文字通り薙ぎ払った気がした。









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