異端を攻むれば、ここに害巳まん──
論語の一節。本を引用すると、「自分と異なるものを研究してこそ、偏見や独断による弊害を免れることができる」という。
問題に直面したとき、異なる意見こそためになる。諸説あるが、筆者はそう解釈している。
そんな言葉を連想させる問題が静岡県吉田町で起きている。来年から小中学生の夏休みを大幅に短縮し、土日を含め16日間程度とする計画が発表されて揺れている。田村典彦町長は筆者の問いに「10年くらい前からあっためていたことを、教育委員会等で考えている」と話す。
新聞やテレビで報道され、人口約3万の小さな町は全国区になった。計画を初めて聞いたお母さん、お父さん、さらに「1年中ずっと夏休みなら楽しいのになあ」と思っている元気な子どもたちはもっとびっくり。
町教委などの言い分はこうだ。授業時間数が現行より増える新しい学習指導要領への対応という。先生は今でも忙しすぎる。従来の一日の時間割に追加するのは困難で、夏休みを減らして日々の負担を減らすというわけだ。働き方改革へのメリットも強調。すべての教室にエアコンを設置し暑さ対策も進めている。町は「計画は決定ではない」とし、8月いっぱい町民から意見を聴き、「必要ならば見直す」と柔軟な姿勢も示している。
影響は大きい。学校なんかに行かないで、好きなことをしたり、家族旅行をしたりして楽しみたい、という子どもたちの気持ちは昔も今も変わらない。町内の夏休みは小学校23∼24日、中学校29日。かつては40日間ほどあったのに、さらに削減計画だ。
案の定、保護者説明会では、計画に理解を示す人もいたが、「急すぎて困る。決定してから意見を聞くというのはおかしい」「決定してからじゃなくて、もっとはじめに保護者の意見聞いて」など、町の進め方に疑問を投げかける質問も出たという。スポーツなどの部活動は他の自治体とも連携していて、吉田町の方針がすんなり反映されるとは限らない。子どもに合わせてパートで働く保護者は、職場との調整もあり戸惑っている。
住民の一部がすぐに立ち上がった。8月9日夜は、夏休み問題をテーマにした町議会の出前会議が初めて開催され、町民22人が参加し傍聴者も詰め掛けた。町民と意見交換し、議会に反映させる。あいさつした議長によると、議員13人のうち9人が出席、4人は直前になって「出前会議にマスコミが入ることで町政の混乱を招く恐れがある」などの理由で欠席した。会議は混乱もなく、熱心に議論を展開した。欠席議員については、理由を直接聞いていないが、残念だった。
夏休み問題に取り組んでいる吉田町の教育を語る会の世話人を務める会社員男性(41)は会議後「賛成も反対もなく一度みんなで集まって、教育についての話を聞いてみたかった。思いのほかみなさん興味をもち、不安や懸念をもっていることがわかった」という。
11日夜は参加者の反省会があり、今後も動きを継続し、輪を広げていく方針を確認した。
賛成、反対双方の意見があるだろう。当然だ。無責任なのは、大事な時にきちんと意見を言わないで、陰で非難する人たちだ。
「子どもは大人の背を見て育つ」が語る会のキャッチフレーズ。その通りだ。子どもは、日頃偉そうなことを言っている大人の姿を見ている。先生や親、地域住民が、どう対応してくれるのか。純粋な目をごまかすことはできない。
他の自治体からも注目されている。解決には児童生徒、保護者、教職員、住民らの合意形成が最も重要である。子どもの教育を学校や教育委員会だけに任せるのではなく、みんなの問題として考える、いい機会でもある。
最後にまた論語。「道同じからざれば、相ために謀らず」
(写真は吉田町議会の出前会議)引用文献・「論語」一日一言、村山孚著、PHP文庫