すこし睡ろう 岸原さや
雪解けの伏流水のわく池に夏の少女がひたすくるぶし
すずやかな風は水面をわたりきて羽黒蜻蛉がやすむ水茎 ※羽黒蜻蛉・・・はぐろとんぼ
ひるがおの蔓のさみどり空へ伸び しらべのような花の連なり
まひるまに日傘をたたむそのように眩しみながらさよならを言う
うっすらとあなたの影をしりぞける琉球硝子の水差しの青
わだかまる思いののこるゆびさきでひどく寡黙なラジオをつける
もういちど生まれたならば無防備にだれか愛せるひともあろうか
ひそやかに陽はしずみゆく窓の外だれもしらないわたしのこころ
まだ海をみたことのない猫が聴く 波のCD すこし睡ろう
桜貝のかけらの残る空き壜をすすいですてる明日の朝には
※ 初出・・・「りいふ」7号(2012年11月15日発行)
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