*** june typhoon tokyo ***

Furui Riho @WWW



 熱情の発露とともに導く、愛と感謝を湛えた80分。
 
 開演時刻から10分に差し掛かろうかというタイミングで、流麗な鍵盤に導かれるように暗転のステージへ歩みを進めると、おもむろに歌い出したのは、“Please take me higher~”から紡ぎ出されるゴスペル・ソング。後方からの陽光にも似た明澄なライトも手伝って神々しいムードを醸し出すと、流れのままにゴスペル・テイストにアレンジされたイントロから「Purpose」へ。神妙な雰囲気から温もりあるオルガン音色の鍵盤とともにハッピーなヴァイブスが溢れるなか、一瞬にして目を惹く白金のショートボブが全身を弾けさせていく。

 北海道・札幌出身のシンガー・ソングライター、Furui Rihoのワンマンツアー〈Furui Riho Oneman Tour 2021 Winter〉の東京公演が、12月5日の地元・札幌公演に続いて、Furui Riho自身がやってみたかったという渋谷・WWWにて開催。個人的には、4月の代官山SPACE ODD公演(記事→「Furui Riho @代官山SPACE ODD」)以来の観賞となる。MCにて「北海道“あるある”で北海道はギリギリまでチケットが売れないけれど、東京は違いますね」との言葉どおり、早々にチケットはソールドアウト。コロナ禍対策もあり、観客動員も制限という事情はあるにせよ、「ライヴをする毎に会場が大きくなってきてる」という躍進の一片も感じられるなかで、多くのFurui Rihoフリークが集った充実のステージとなった。

 メンバーには、代官山SPACE ODD公演にも名を連ねた鍵盤のハナブサユウキとドラムのRyunosuke Miuraに、Furui Rihoの実妹のMayu Furuiがコーラスとして参加。コラボレーション楽曲を含めたメインヴォーカル・パート以外は全てコーラスが担当となればこの上なかったが、実際はコーラス音源を同期させながら適宜コーラスでサポートするという形に。そのあたりはもろもろの制約や事情があったのだろう。
 代官山SPACE ODD公演で「サポートだけど、サポートという感じじゃない」と語っていたハナブサユウキ(ややVaundy感あるルックスに見える瞬間も)とRyunosuke Miuraだが、この公演でも冒頭から破顔しながら演奏を繰り広げ、その音を背にクシャッとしたキュートな表情で歌うFurui Riho、それを見つめながらコーラスするMayu Furuiという光景からは、(実際はどうか分からないが)長く苦楽を共にしてきたファミリーのような信頼感が伝わってくる。たとえば冒頭の「Purpose」や「Do What Makes You Happy」のように、ハートウォームな空気が通底するパフォーマンスもあるにせよ、だからといってそれに終始することは皆無で、楽曲によってさまざまな彩色を放つ、奥行きの深さに満ちたステージを繰り広げていく。



 京藤や淡紅藤のような淡い紅紫色のジャケット、それと同系色のセパレートのトップスに、同系色の柄が入った水色のミニスカートと、淡い紫を基調としたスタイル。ちょっぴり袖が長く大きめに思えるジャケットや膝頭下まである白のロングブーツのせいもあって、MC時などはかなり小柄に見える。そんな背の低さや短い足、丸い顔(個人的には丸顔を好むので、これが歌われる度に心の中で「なんでー」と叫んでいたりする……笑)、弱虫なところなどのコンプレックスを「嫌い」という楽曲でぶつけるのだが、しょんぼりと嘆くように口を開く冒頭から、次第に心の声を大にしていき、“もう無理して笑うのはやめるよ”と自身に言い聞かせるように吐露する終盤まで、葛藤を巡らせながらさまざまな感情を声に伝えていく姿を見ると、MCのトーク時に感じたミニマムな印象はどこかへ吹き飛んでしまうから不思議だ。高い歌唱力はもちろんだが、内なる想いをメロディの抑揚や声に這わせる技術が長けているのだろう。吸い込まれるような訴求力で、小柄という現実を幻影にすら感じさせてしまう。

 後半には12月という季節柄も踏まえて、“暖炉で、みんなで、あったかく楽しく、おうちセッション”をコンセプトにしたクリスマス・ソング・セッションを。ビング・クロスビーの歌唱で知られる世界的に著名なクリスマス・ソング「ホワイト・クリスマス」を厳かな雰囲気を漂わせながら歌い上げてから、観客にもクラップを促して中央やや右奥のシーケンサーへ向かうと、彼女が大好きだというマライア・キャリー「恋人たちのクリスマス」をサンプリングしたリミックス・トラックをバンドとセッション演奏。1940年代の「ホワイト・クリスマス」と94年の「恋人たちのクリスマス」、ともに発表以来毎年のようにクリスマス・シーズンに耳にするホリデー・ソングを、シンプルなヴォーカルとパッチワーク風に打ち込みしたトラックという対照的なアプローチで繋ぎ合わせ、Furui Riho流のクリスマス・トラックを構築。シーケンサーを駆使したバンド・セッションは代官山SPACE ODD公演でも披露していたゆえ、彼女の公演ではお馴染みのコーナーなのかもしれないが、今回はこの公演に集ったオーディエンスへのちょっとしたクリスマスギフト的な意味合いもあったのかもしれない。



 「本来は、北海道出身ということもあるのか、実はアットホームな楽曲が好き」というクリスマス・セッションを終えると、次は「心の汚い部分を曝け出した」という「Sins」へ。イメージとは違って驚く人もいるかもしれないが、「こういう心の闇を吐露した自分も、本当の私自身の一部」と語り、「(ラストへと向かう)パワーをください」とフロアからのクラップを浴びてから幕を切ったのは、ソリッドなテイストなエレクトロ・ダンサー。EDMというよりはグライム的な要素やブレイクビーツなどのビート・ミュージックを透過させたヒップホップ・ダンサーといった風で、曲間のエスニック調やスクリュード的なアレンジも耳を惹く、たしかにFurui Rihoの新機軸といえる楽曲。言葉の刃の群れが飛び交うようなヒリヒリとした心情がぶつかり合う刺激的でダーティなトラックのなかを、性急なヴォーカルすり抜けていくようなスリリングな展開が魅力だ。

 シリアスという意味では「Till The End」もそうだが、「Till The End」は閉塞感に打ちひしがれそうになりながらも明日への希望を見出す鬱屈のなかに光を感じる楽曲なのに対し、「Sins」はタイトルよろしく“罪”への意識を感じながらも欲望や誘惑に逆らえない背徳感を歌っていて、それゆえパフォーマンスも直截的。青と赤のヴィヴィッドなライトがストロボに点滅するなかで、胸をえぐられるような苦悩を醸し出し、やるせなさを漂わせる声色での歌唱にハッとさせられた。

 本編ラストは、Furui Rihoの代表曲といえる「Rebirth」。前回のレビューでも書いたが、声のみなら一聴して“黒”とそれほど感じないのに、ビートやトラックに乗るとたちまちブラックネスが肌身に伝わってくる最適例の一つがこの楽曲だろう。自らのコントロールでトラック上を浮き沈みし、懐深いヴォーカルワークの出し引きで、彼女ならではのグルーヴを生み出し、放っていく。それに感化されるように、ハナブサユウキが鍵盤を叩く指を激しく往来させ、Ryunosuke Miuraが思いの丈を込めてドラムを打ち叩く。



 アンコールは、近年あまりライヴで歌ってないという「有難うSONG」を椅子に座って、ドラムレスで披露。以前、“パパ”(フルイ家では祖父のことを“パパ”と呼んでいたとのこと)の入院中に渡された、処方箋の裏に書かれた歌詞に曲をつけたもので、その詞が“遺書”のように切なかったため、当初は曲をつけられずに放っておいたが、その後祖父の危篤の報を聞き、すぐに曲を作って病床の“パパ”に聴かせたという、想い出が詰まった楽曲だ。非常にパーソナルな詞世界と清廉としたメロディゆえ、個人的な嗜好で言えば、正直それほど好みのタイプの作風ではない。だが、実妹とともに涙ぐむ一歩手前で瞳を潤ませながら、パパの詞に後から付け加えられたと思われる“パパへ”というコーラス・フレーズには、紛れもない愛情が注ぎ込まれていて、その強さはしっかりと伝わってきた。

 身内では“爆弾ソング”と呼ぶ泣かせるこの歌に「この歌を歌ったら、孫たちはヤバいですね」と姉妹が頷きながら言葉を交わす姿も(札幌公演の時は演奏後に涙が止まらず、次へなかなか行けなかったとのこと)。生前に詩を書き溜めていた“パパ”の遺伝子が自身にも宿っているし、そういった愛をテーマにしながら音楽をやっているとしみじみ語る姿も印象的だった。

 愛を語り、ファンからの愛を受けているとの感謝の言葉を述べて迎えたラスト・ソングは「I'm free」。ほんのり涙の余韻を含みながらも、どこかすっきりとした晴れやかな表情も垣間見せて歌う“I sing because I'm free”は、歌うことで愛を満たそうとする彼女の決意か。リフレインする“You go lady, you go now lady”の“you”は“あなた”だけじゃなく、自身への励ましなのかもしれない。



 ライヴではまだ2回しか観賞してはいない新参ゆえ、彼女のこれまでの経緯などはまったく明るくないが、自身のコンプレックスや愚痴などを衒いなく歌にするものの、欲深い部分を削ぎ落そうとするばかりの苦悩と表裏一体を感じる歌唱には、オーディエンスに問いかけるというよりも、自問自答を繰り返すように演じてきた気もする。そして、それに共感してほしいと思いながらも、どこかおこがましいという気持ちもあって、葛藤を重ねてきたのかもしれない。

 これはあくまで身勝手な妄想でしかないが、仮に少しでもそんな想いがあったとしたら、もうそれは忘れていいのではないか。大袈裟に言えば、自身の気持ちを歌の中で素直に吐露していくだけで、その意図や心境をオーディエンスやリスナーに伝播させる訴求力を十二分に備えているからだ。「Sins」のような新しいスタイルも確立しながら、アグレッシヴにチャレンジしていく姿も、今後より音楽的振幅の拡がりに繋がっていくはずだ。

 個人的なことになるが、以前に比べて明らかに音楽を聴く時間が減っているのを実感している近年。とはいえ、従来の楽曲があればそれで良いとは思わないし、寧ろ懐古ばかりに終始するスタイルは毛嫌いするような、常に新しい音楽に触れていたい気持ちが強いタイプだと思っている。そうではあるけれど、自ら音楽に飽和しているとは思いたくないのだが、新たな音楽を知ることへの腰が重くなっているのが現状だったりもする。
 そういった想いが脳裡を掠めながら、時を重ねているコロナ禍の今でもよかったと感じていることの一つは、Furui Rihoの音楽に出会い、触れられたこと。「ライヴをする度に会場が大きくなる」勢いが加速し、ステージから遥か遠くでしか眺められなくなる前に、彼女のさらなる進化を見ておきたい……。そんな想いが胸に去来しながら、クラップが鳴りやまずに響くなかで、ステージを見つめていたのだった。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION~Freestyle Gospel
01 Purpose
02 Floating
03 Till The End (Original by Furui Riho & Jazadocument feat. Michael Kaneko)
04 Do What Makes You Happy (including Member Introduce)
05 でこぼこ
06 嫌い
07 The Wave (Original by aimi feat. Furui Riho)
08 Christmas songs Session
White Christmas (well known as Bing Crosby's song)~ Instrumental band session (sampling of “All I Want for Christmas Is You” by Mariah Carey)
09 Sins
10 Rebirth
≪ENCORE≫
11 有難うSONG (dedicated to Riho's grandpa)(excluding drums)
12 I'm free


<MEMBER>
Furui Riho(vo, sequencer)

ハナブサユウキ/英佑紀(key, manipulator)
Ryunosuke Miura/三浦隆之介(ds)
Mayu Furui(cho, syn)



◇◇◇

【Furui Rihoのライヴに関する記事】
2021/04/17 Furui Riho @代官山SPACE ODD
2021/12/11 Furui Riho @WWW(本記事)

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