地球人の理想像
(前略)
もっと驚くのは、地球では小・中学生ばかりか、成人した女性の6割近くが「理想の男性は」と聞かれて、「優しい人」と答えるのです。
然もこの答えはまだ良い方で、「格好の良い人」とか、「背の高い人」とか、「面白い人」とか、中には「お金持ち」などと真顔で答える馬鹿げた女性も沢山いるのです。
この事から判断すると、地球にはオーソライズされた「人間の価値」の判断基準がなく、「人間はこうあらねばならぬ」という理想像が存在しないのではないかと思うのです。
地球人が理想像を持っていないという事は、驚きというより恐ろしい事です。
理想像を持たないという事は目標とする人物像がないという事でしょう。
どんな人になりたいかという目標がなければ、ただ金を儲けるなどという実利的な事が目標となり、自分の人間性を高めようとする人間がいなくなります。
人間性を高める為の何の努力もしなければ、その人の人間性は生まれた時のままで進歩せず、その子その孫と代を経るに従って段々人間性がなくなり、遂にはご先祖である猿に戻ってしまうのです。
「理想とする男性はお金持ち」と答えるような馬鹿な女性達が、この先妻となり母となって行くのですよ。
これでは人間らしい子供が育つ筈がないじゃーありませんか。そうして、この傾向をそのまま放っておくと、地球人の子孫は野生の動物と同じ習性を持つ人間になってしまうのです。
キチンとした理想像を持たなければ、他人を見る目も狂ってきます。
だから、お金持ちで何でもやりたい事がやれる人間が一番価値のある人間に見えたり、意志が弱く思っている事もはっきり言えないような優柔不断な人間を優しい人と勘違いしたり、自我が強く、わがままで傍若無人の人を個性的と評価したり、奇をてらって奇妙な言動をする人を天才、鬼才と持て囃したりしてしまうのです。」
「それは、あんまりですよ。」と私は宇宙人の声を遮りました。
「確かに、今の世の中には、他人を測るはっきりした基準」を持たない人が増えています。
でもそれは、今の社会の風潮が多様化を奨励し、画一的な固定観念に縛られる事を嫌っているからです。」
「それが駄目なんです。」と今度は宇宙人が私の声を遮りました。
「多様化というのは、各個人が好き勝手に自分の好みの選択をして良いという事ではないのです。
少なくとも、選択に当たっては社会的に普遍性のある条件を基準にしなければなりません。
自動車を例に取れば、自動車には自動車としての基本性能があります。
例えば、法定速度以上で走れる動力を持ち、前進及び後進ができる事。前方に対する視界が良く、かつ後方確認もできる事。
方向を変える時には周りにいる車等に方向を変える事を知らせる装置があり、スムーズに方向を変えられる事。
ブレーキを踏んだ時には、後方の車にブレーキをかけた事を知らせる事ができ、所定の制動距離で止まる事ができる事、等といった事です。
そうしてその基本性能を備えた上で、スタイルが良いとか、出足が良いとか、コーナーリングに優れているとか、燃費が良いとかというその車の特性があり、この特性のどれを好むかというのを個人の選択に任せるというのが多様化なのです。
それを、速度は出るがブレーキは利かないとか、ブレーキランプが点かないとか、左右には曲がれるが合図は出ないとか、合図もなく急にバックするような欠陥車を選ぶのも多様化の時代だから仕方がないと言っていたんでは危なっかしくて道にも出られません。
私が言っている理想像というのは、自動車でいうこの基本性能と特性の事なのです。
人間が人間である為には、どんな資質を備えていなければならないかという基本的要件も定めずに、理想像を個人の自由勝手な選択に任せ、今は多様化の時代だから、枠をはめるのは良くない。」などとしたり顔をしていると、地球人社会は欠陥車が走り回る道路のように、危険で収拾のつかない状態になってしまいます。」と宇宙人は断言するように言いました。
「昔地球人社会が、今のように金儲けに狂奔していなかった頃、人間はいかに生きるかという事が人類の最大の研究テーマでした。」
(中略)
そうして、親の後ろ姿を見て育つ子供達は、大人達と同じ様に金儲けが人生の最大の目的だと思い込むようになってしまったのです。
その上、戦前のように厳しい躾教育を受けていない子供達の中には、金を得る為ならば、盗んでも騙しても、脅しても、ひったくっても構わないんだと思う者も多くなってしまいました。
戦後30年以上経って、これらの子供達が大人になった今、地球のあちこちに、ゆすり、恐喝、かっぱらい、誘拐、暴行、強盗、殺人が横行し、人間が安心して住めない暗黒の街が沢山出現しました。
あの世界の警察国家を自認するアメリカでさえも、個人個人が銃を持っていなければ安全が保てないような国になり下がってしまったのです。
地球人は、子孫の為、人類の為、地球の将来の為に、子供達を金儲けの妄想から解放してやるべきです。
皆が金儲けの事だけを考えているとどんな世の中になってしまうのかを確りと教え、人間にはお金儲けよりずっとずっと大切なものがある。
お金など幾ら持ってたって幸せにはなれない。幸せになる為には、皆がどんな人間にならなければならないかを真剣に考えなさい。
そうして、その理想像に向かって、自分自身を磨いて行かなければ、今に皆が安心して暮らせる場所がなくなってしまうんだよ。という事を、口先だけでなく大人が実践をもって教えてやらなければ、本当に取り返しがつかない時代が来るのです。」と宇宙人は強い口調で言いました。