長らくご無沙汰しています。皆様お元気でしたでしょうか。
色々あってブログから遠ざかっていましたが、今回、10年余りの標本作りの活動についてのエッセイを書きましたので、久しぶりに更新しました。
この原稿は、真面目に本にしたいと思っております。当初は自費出版で出そうと考えていましたが、もし出来る事なら最後に一度くらい商業出版として本を出してみたいと言う想いもあり、さわりの部分だけでもこのブログに載せてみたら、もしかしたら何処かの出版社の編集者さんの目に留まるかなぁと言う淡い期待を抱いて投稿してみました。
今回は一番初めの第1項「よく似たタイ3種の見分け方」と第5項の「アジの仲間」を掲載します。
この様な項が全部で150位あります。
ご興味ある編集者様がいらっしゃいましたら、ご連絡いただけたら幸いです。
タイの仲間
いきなりの独断と偏見で言わせてもらえば、もし「日本人にとって一番馴染み深い魚は何か」と問われたら、私は迷わず「鯛(タイ)」の名前を挙げる事でしょう。
人によっては寿司ネタで定番のマグロだとか、朝食に欠かせないシャケの切り身だとか、はたまた庶民の御方(みかた)の代表格でもあるイワシやアジなんかを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、でもちょっと待って下さいな。「めでたい」祝いの席や祭り事なんかに登場するのはやはり尾頭付きの鯛であって、これらがマグロの刺身やメザシの焼いたのじゃあ、ちょっと分不相当ってもんじゃないですか(そもそも「めでたい」って言葉にもう「タイ」って文字が入っているし)。
また、「国魚に指定されているのは錦鯉だからコイでいいんじゃないの?」って言う意見もあるかもしれませんが、でも錦鯉って人の手が加わった愛玩動物で自然界の生き物ではないですし、そもそも錦鯉も真鯉も言われる程今の私たちに身近な存在なのかなぁ?って気がしていて、この国魚の選定には前から違和感を覚えているんですよね。
そして、魚の標本作りをしている中でふと気が付いたんですが、日本で使われている魚の和名の中には「タイ」の冠が付く魚がとても多いんです。そしてそれらは、分類学的にはタイの仲間とは全然離れたところの魚にまで幅広く及んでいたりもするんです。これらの事からも、もはや鯛と言う魚は我々日本人にとっての魚を表す際の一つの基準になっているのではないか、と考えられるのですが、どうでしょうかね。
もっと言わせてもらうと、ある種の魚を表現する際に「姿かたちが鯛に似ている」とか「鯛みたいな赤い色をしている」とか「味が鯛みたいだ」とか言ったふうに、鯛が比較対象として登場してくる事もよくあるじゃないですか。これなんかはもう「皆さん、鯛っていう魚くらいは当然ご存知ですよね」って事を大前提に話し進めているとしか思えませんし、そしてそれらがまた必ず「美味しい」だとか、「高級」だとか、「立派」だとかの「良いイメージ」の方向に使われているのですから、これはもう日本を代表する魚だと言い切っちゃっても過言ではないんじゃないでしょうかね。
前置きが長くなってしまいましたが、そんな訳で、今回この骨格標本作りの記録を紹介するに当たって、一番手に何の魚を取り上げようかと考えた際、先の様な理由からこの「鯛の仲間」を紹介する事にしました。
よく似たタイ3種の見分け方
一般的に「鯛」と言えばマダイの事を指す場合が多いのですが、近年ではコレと姿かたちが似たチダイやキダイも店頭でよく見かける様になってきました。この3種類、見比べてみるとそれぞれにちょっとした違いがあります。
まずは正真正銘、鯛と言えばコレ。鯛の王様「マダイ」です。
成長すると最大1m、10kgを超える大きさにまで成長します。
マダイ 2015年4月 愛媛県産
マダイの特徴としましては、目の上に青いアイシャドウがある事だとか、尾鰭の縁が黒い事だとか、全身に青いラメが点在する事等が挙げられます。
こうして改めてじっくりと眺めてみると、綺麗な魚ですよね。プロポーションもステキですし、人々がこの魚を好むのも分からなくもありません。余談ですが、一時期メキシコで生活していた際にも、地元の魚市場でよくこの鯛の仲間を見かけました。メキシコ人の間でもタイの仲間は「魚の王様」と呼ばれて人気がありましたので、きっと人種を問わず人々を魅了する風格があるのでしょうね。
次に、マダイよりも小型の鯛「チダイ」ですが・・・
チダイ 2016年5月 千葉県内房萩生漁港産
外見上はマダイにとてもよく似ていますが、コチラはそれよりも一回り小さく、通常30cmから40cm位までにしかなりません。
これも赤みが強くてとても綺麗な魚ですね。このチダイの一番の特徴は、エラブタの縁取りが血が滲んだように赤いという点です。
最後に3種類の中では、もっとも小型で安価な鯛、「キダイ(レンコダイ)」を紹介しますと・・・
キダイ(レンコダイ) 2016年6月 島根県産
こちらは通常20cmから30cmくらいまでにしかなりません。
特徴としましては、全体的に頭でっかちに見える事、鼻筋が黄色い事、マダイの様な全身の青いラメが無く全体的に黄色っぽい感じがする点などが挙げられます。
以上、これら3種類がそれぞれちょっとずつその特徴や雰囲気が違っている事が分かりましたでしょうか。
ただ、この「比べる」と言う判別の仕方は、実はちょっと厄介な事でもありまして、逆に言うと「じゃあ比べなきゃ分からないんじゃないの」って事にもなり兼ねないんですよね。見分け方の解説をしてきたところで言うのも何ですが、実際のところ、その魚だけを単体で持ってきた場合でもパッと見で区別出来るなんて言う人は、日常的に魚を扱っている魚屋さんか魚市場の人か、それともよほど魚に関心があるオタク的な人間か、はたまた魚の研究者さん的な人たちくらいであって、そもそもお店に並んでいる鯛に複数種ある事さえ分かっていない様なフツーの消費者さん達には、そんな芸当は無理筋ってもんじゃないですか。
更に言うと、これらの鯛は、丸ごとの鮮魚の状態で売られているケースばかりではなく、どちらかと言うと捌かれたり加工されたりして売られている場合も多いじゃないですか。だとしたら、そう言った場合はどう判断したらいいのでしょうかね。
でもね、安心して下さい、履いてますよ・・・ではなく、安心して下さい、それでも見分ける方法があるんですよ。
実はこの3種の鯛、頭骨にもそれぞれ明確な違いがあるのです。なので、例え煮たり焼いたり捌かれたりしていても、この頭骨の「ある部分」さえ残っていれば、そこからその種類を判別出来るんですよね。
では、その特徴的な「ある部分」とは一体どこなのか?
次にそれらを見て行きましょう。
まずはマダイの頭骨から見てみましょう。
マダイ 年月日・産地不明
タイ3種を見分ける方法としてまず挙げられるのは、その歯の形です。
マダイの歯は、前歯が先の尖った円錐歯をしており、奥歯が丸い臼歯になっています。
次に頭頂部の骨を見て下さい。
トサカの様に出っ張っている部分、これを上後頭骨と呼びますが、この上後頭骨が額部分の骨(前頭骨)と段差無くストレートに繋がっているのがお判りになりますでしょうか。
そして、その額部分の骨(前頭骨)が、今度はその下の鼻先部分の鼻骨と接する箇所で段差が生じています。その為オデコ部分の骨が盛り上がって随分デコッパチに感じられます。
これが、マダイの頭骨の特徴なんです。
次にチダイの頭骨を見て下さい。
2016年5月 千葉県内房萩生漁港産
チダイの歯もマダイと同様に前歯が鋭く、奥歯が臼歯状に丸くなっています。ただマダイほどしっかりとした臼歯ではありません。でも、ここだけだとマダイと見分けるのはちょっと難しいかもしれませんね。
そこで、先ほどと同じ様に頭頂部にある上後頭骨を見てみましょう。
すると、今度は先程と違ってトサカ部分の上後頭骨と額部分の前頭骨との繋目に段差が生じているのが分かります。
そしてその下、オデコ部分の前頭骨と鼻骨部分の接続部分を見ると、今度はここに大きな段差がありません。そのため、トサカ部分だけが独立しているように見え、オデコの出っ張りが無い様に見えます。ここがマダイとチダイの大きな違いなんです。
そして3つ目。
キダイ(レンコダイ)の頭骨を見てみましょう。
2016年6月 島根県産
こちらの歯は、上記の2種類と違って前歯も奥歯も全て尖っています。ここで、もうレンコダイは他の2種類とは見分けが付きますね。
更に上後頭骨を見てみますと、トサカ部分はマダイと同様に前頭骨との繋目に段差はありませんが、マダイほどストレートではなく、見方によっては途切れている様にも見られます。
また、額の正面部分はチダイ同様、前頭骨と鼻骨部分に大きな段差がありません。その為、マダイの様なデコッパチにはなっていません。
以上がマダイ、チダイ、キダイの3種類のそれぞれの頭骨の特徴になります。これらを覚えておけば、食後に残った骨からでも結構正確に検証出来るのではないでしょうか。
でも、究極的な話をしてしまえば、「美味しく楽しく食べられたのなら種類なんて何でもいいんじゃないの」って思ったりもします。マダイだと思って買ったのがチダイだったとしても、それはそれでいいんじゃないかなぁなんてね。別に文句言ったりがっかりしたりする程の話しでもないですし。
ですから今回ご紹介したうんちくは、お遊び程度の話しだと思っていて下さい。今年の正月に食べた鯛が何だったのか、それをおみくじみたいに当てて家族みんなで楽しむ、そんな遊びにでも使ってもらえればと思います。
ぜひ皆さんも今年のお正月は鯛の骨で楽しんでみて下さいね。
アジの仲間
アジ3種
スズキ目スズキ亜目アジ科
マアジと言えば、以前は夏が旬と言われていましたが、今では一年中お店に並ばない日は無いくらいよく見かける魚になりました。
産地も様々。私の住んでいる都内でも、お店のバイヤーさんの目にかなった価格と品質のモノが日本各地から仕入れられ、毎日の様にスーパーの魚売り場に並んでいます。
マアジとイナダ 2015年11月 神奈川県湘南の直売所
マアジ 2017年8月 神奈川県産
私にとって身近なフィールドである東京湾でも周年水揚げがあり、またレジャーとしてのアジ釣りも一年中盛んに行われています。
アジは群れで行動する魚なので、魚探の付いている遊漁船に乗れば初心者でも割と簡単に釣る事が出来ます。ある時なんて、体調が思わしくなくて途中からゲロを吐きながらの釣りとなってしまった事がありましたが、そんなフラフラな状態の中でも、釣り糸を垂れてさえいれば勝手に魚の方から掛かってくれました。なので、まあそんな魚だと私は思っています。
しかし、船長がポイントまで連れて行ってくれる乗合船とは別に、自分で漕いで行くボート釣りなんかの場合だと、各自の腕によって釣果に大きな差が出るのもまた事実です。
昔、友人とよく通っていた横須賀の先の伊勢町海岸なんかは正にその典型みたいな場所でした。そこではその日のポイント選びを間違えると一日やっても全く釣れないなんて事もざらにありました。でも、そうやって自分の経験と勘を頼りに勝負する釣りは、やはり釣れた時の感動が乗合船で「釣らせてもらった」時のものとは全然違ったので、例え釣れない日があろうとも私はこっちの方が断然好きでした。
海苔棚の張られた横須賀伊勢町海岸の海 2008年
と、一通りアジ釣りについてウンチクを書いてみたところで、でもこれは私のホームグランドである東京湾での話しです、と、もう一度念を押しておきます。
それと言うのも、もう今から20年以上前の話しになりますが、ミカン収穫の季節労働者として毎年年末に2か月間程働きに行っていた愛媛県のとある海沿いの村では、港の堤防でサビキ釣りをすると、毎日毎日アジが入れ食いで釣れたんですよね。それらはせいぜい10cmから15cmくらいの小さなサイズのモノでしたが、でも、仕事上がりの夕刻に散歩がてら港に行って、誰かが持って来た釣竿で変わりばんこにコマセを蒔いてサビキを垂らせば、いつでも誰でも入れ食い状態で釣れました。初めて竿を握った女の子たちでも、いとも簡単に釣っていました。それはもう、糸を垂らしてから魚がかかるまでの時間よりも、その魚を外している時間の方が長いんじゃないの、ってくらいな感じでした。本当にもう「小アジが湧いている」って表現がぴったりくる状況で、港のあちらこちらに大きな群れの塊がうごめいているのが澄んだ海面の下に見て取れました。
そんな光景を目にした事があるものですから、先ほどのアジ釣りの文章はあくまで東京湾での話ですって断っておかないといけないと思った次第です。同じ魚でも地域や環境によっては、これほどまでに状況が違って来るものなんですよね。
マアジ 2017年8月 神奈川県産
マアジの頭骨はこんな感じになります。鮮魚のマアジを見た事が無い人はまず居ないと思いますが、その頭骨となると逆に見た事ある人の方が少ないんじゃないでしょうか。
形は、いわゆる我々が魚の頭骨と聞いて想像する様な典型的な形状をしており、敢えて特徴になる部分も見受けられませんが、骨そのものには透明感があってそれなりに綺麗だと思います。
冒頭にも書きましたが、このマアジは、一年三六五日売り場に並ばない日は無いほどメジャーな存在なのですが、しかし、極まれに全国的に不漁だったり価格が高騰したりして店頭から姿を消す時があります。
そんな時は、このマアジに変わって別のアジが売り場に並ぶ事があります。
その一つがコレ。
マルアジ(青アジ)と言う魚です。
マルアジ 2015年4月 宮崎県産
マアジにとてもよく似ていますが、細かい事を言うとマアジがアジ科マアジ属に分類されるのに対し、このマルアジはアジ科ムロアジ属に分類されます。
「マアジ」と「マルアジ」の見分け方は・・・・なんとなくマルアジの方が紡錘形が強いかな?って感じですかね。意識して見ないと普通の人だと判らないレベルかもしれません。
しかし、漁業関係者の間ではこの2種類は明確に分けられています。マアジの方がマルアジよりも商品価値が高いので、混獲して水揚げされた場合でも、現場では徹底して選別されています。
マルアジ 2020年9月 神奈川県小田原魚市場産
頭骨は鮮魚の時の印象とは逆になる感じですかね。マアジの頭骨の方が丸っこく見えて、マルアジの方が細長く感じられるでしょうか。
そしてこれ以外にも、もう1種類マアジの代用品として販売されるアジがいます。
それがコチラです。
メアジの水揚げ 2016年11月 神奈川県湘南の直売所
これは「メアジ」と呼ばれる魚です。メアジはこれまたマアジやマルアジとは違って、メアジ属と言う別のグループに属しています。
メアジ 2015年11月 神奈川県湘南産
メアジ 2020年9月 神奈川県小田原魚市場産
その名の通りマアジよりもやや目が大きく、全体的に丸っこい感じがします。しかしそれでもラベルを付けずにほっておいたら、後で絶対に取り違えるレベルの差でしかありませんけどね。
いかがでしたでしょうか。
ありふれた魚であるアジの仲間ですが、条件によっては色々な裏事情が起きる事もあるんですよね。
ムロアジの仲間
スズキ目スズキ亜目アジ科ムロアジ属
ムロアジの仲間は太平洋岸の温かい水域に多く生息していますが、鮮魚として見る機会はあまり多くありません。主に「くさや」等の干物の原料に利用されています。
ムロアジと思われる個体 2017年1月 神奈川県湘南産
クサヤモロと思われる個体 2017年8月 神奈川県湘南産
オアカムロ 2019年10月 神奈川県真鶴産
イナダ
スズキ目スズキ亜目アジ科ブリ属
魚の方言名ってめんどくさくないですか。
例えば、とある地方に取材に行って、
「〇〇っていう魚はこの辺でも獲れますか?」
と聞いてみたところ、
「あ~? そんな魚は知らねえなぁ」
って、言われたとします。
でも、その「知らない」って返事が、本当にその魚を見たことが無い意味での「知らない」なのか、それとも単に「標準和名で尋ねられても分からない」って言う意味なのか、その辺りの判断がややっこしい場合って結構ある様に思うんですよね。
また、その反対で
「この辺では〇〇が獲れるんだぞ」
と言われたとしても、それがその地方独特の方言名だったりすると、今度はコッチの方が何の魚を指しているのか分からないケースって言うのも結構ある様に思うんです。
更に言うと、地方によっては、とある魚に別の魚の名前が当てはめられているケースなんかもあったりして、実はこれが一番ややっこしかったりします。例えば、ウチの田舎だとダツの事をサヨリと呼ぶんですよね。でも私がそれを知ったのは、大人になったずっと後の事。なので、子供の頃、田舎のじいちゃんが「サヨリがぁ、サヨリがぁ」と話すのを聞きながら、私はずっとあのサヨリの事を頭に思い浮かべて会話していたので、いつも(何で話が噛み合わないんだろう)って不思議に思っていました。また、じいちゃんはヒラメの事をカレイとも呼ぶんですよ。でも、これも大人になってから知った事実。なので、じいちゃんが両手を広げながら1m位のカレイの話をするのを聞いて、子供の頃の私は(新潟の海には随分でっかいカレイが居るんだなぁ)とずっと思っていました(笑)。
そういった紛らわしい地方名の中でも、特にめんどくさいと思っているがブリの呼び名です。
もともとブリは出世魚と呼ばれる魚で、標準和名だけでもその大きさによって呼び名が変わる法則?みたいなのがあります。一番小さい赤ちゃんサイズの頃は「モジャコ」と呼ばれ、それから20cm位の単位で「ワカシ」「イナダ」「ワラサ」「ブリ」と変化していきます。加えて「モジャコ」を養殖して人の手で大きくしたものが「ハマチ」と言う名で流通しています。
「ハマチ」は元々「イナダ」と「ワラサ」、または「ワラサ」と「ブリ」の間を指す名前でしたが、養殖が盛んになってからは、流通業界では養殖で育てたものは、「ハマチ」、天然のものは「ブリ」と呼ぶならわしが定着しました。
しかし、40年ほど前の事。
養殖されたハマチの中に、薬品や抗生物質入りのエサの影響で奇形魚がたくさん現れているというニュースが、新聞やテレビで大きく報道されると言う出来事が起こりました。その為、一時期「ハマチ」のイメージが大きく損なわれてしまい、それ以降、あえて養殖魚を「ハマチ」と呼ぶのを控え、一定の大きさ以上のモノは全て「ブリ(天然)」か「ブリ(養殖)」と表示するように切り替わってしまいました。
現在では、ハマチのイメージも少しずつ回復し、若い世代には当時の騒動を知らない人達も増えて来たので、回転寿司なんかでは再び「ハマチ」の名前が使われるようになってきましたが、年配者の中には未だにこの名に抵抗感を持つ人も居るようです。
そんな訳で、ブリは元々ややっこしい名前を持つ出世魚なのですが、更にこれらに加えて、大型の回遊魚故に日本各地で漁獲される事や、味が良くて商品価値が高い等の理由からその地方その地方で独自の呼び名が付いてしまっています。
専門的に調べた訳ではないので、私の知っている限りの話ししか出来ませんが、例えば私の田舎である新潟県の上越地方では「ワカシ」か「イナダ」位の大きさのものを「フクラギ」と呼びます。(後に、この「フクラギ」と言う呼び名は北海道の室蘭の市場でも聞きました。)
そして、「フクラギ」が大きくなったものを「ハマチ」と呼んでいます。この場合の「ハマチ」は、養殖とか天然とかの違いではなく、普通にサイズのみの基準でそう呼んでいます。そして、その上に「ブリ」と言う呼び名が来ます。ですので、ウチの田舎では「フクラギ」「ハマチ」「ブリ」と言う並び順になります。
また、以前訪れたことのある愛媛県の宇和海沿いの町では、「イナダ」位の大きさのものを
「ヤズ」と呼んでいました。この「ヤズ」と言う呼び名は、最初何の魚の事なのか、全く想像できませんでした。「ヤズ」と言う響きは、どちらかと言えば人の苗字っぽい響きに聞こえました。「あーっ矢津さんですか」って感じですかね。
この町では、大体「ヤズ」と「ハマチ」の2択で呼んでいました。
そう言えば、ブリの名前とはちょっとズレてしまいますが、この宇和海沿いの町には、聞き慣れない魚の地方名が沢山ありました。
今、ぽっと浮かぶだけでも・・・「ヤズ」「ホゴ」「アマギ」「ゼンゴ」って感じですかね。これだけ聞いても何が何やらでしょ(笑)。
ゼンゴはなんとなく「ゼイゴ」から来ているのかなぁ・・・とすれば「アジ」の事?って想像出来ますが、アマギなんかに至っては、ウルトラセブンの隊員の名前ぐらいしか思い浮かんで来ませんよね。
脱線しました。話を戻しましょう。
そんな訳で、ブリの名前は非常に複雑になっています。
しかし、ブリに限らず、こういった魚の地方名を郷土史みたいな感じで調べて、考察してみたら案外面白い事が見えてくるかもしれませんね。それぞれの土地の人達が魚のどういった面を見て名前を付けているのか、そこにはその地方に住む人々の目線や、感性と言うものが現れている様な気がしなくもないのですが。
学問に疎いので、もしかしたらそういったものはもう既にあるのかもしれませんが、もしあるのだとしたら、是非読んでみたいと思っています。
2019年11月 千葉県内房萩生漁港産
今回の個体は、千葉県の内房にある萩生漁港の漁師のIさんから送っていただきました。このIさん一家は、毎年暮れになると標本用とは別に正月用の魚を沢山送って下さいました。でも、もちろんこれらの魚も、食べた後は骨取りに使いましたけどね。
初期の頃は、表面のツルツルした皮が剥けなくて随分苦労しましたが、ある時剥き方のコツが判ってからは手間が半減しました。なので、コツさえ掴めば、作るのにそれほど難しく無い魚だと思っています。
でも、このイナダとかカンパチとかのいわゆる「青物」と呼ばれる魚達は、標本になるとあんまりカッコ良くないんですよね。と言うか、鮮魚の時の姿がカッコ良過ぎるので、骨になるとどうしてもその魅力に勝てなくなっちゃう気がするんです。だから毎回、わざわざ骨にする意味があるのかと自問自答しながら作業しています。
やっぱり、イナダは美味しく食べてオシマイにするのが一番なのかなぁなんて思ったりしています。
ヒラマサ
スズキ目スズキ亜目アジ科ブリ属
ブリとそっくりで、素人目には中々見分けがつきません。区別するポイントとしては、上顎の付け根部分の形が、ブリの方が角張っていて、ヒラマサの方が丸みを帯びているんだそうです。でも、写真を見る限り、正直言って微妙でよく分かりません(笑)。
2015年5月 長崎県産
カンパチ
スズキ目スズキ亜目アジ科ブリ属
大きくなると2m近くにもなるそうですが、通常私たちが目にするサイズはせいぜい70~80cm止まりでしょうか。
結構な高級魚でして、市販品は勿論、直売所などでも数ある魚の中で一、二を争う高値が付いている事が多いです。
今回の個体は、千葉県萩生漁港の漁師のIさんが送って下さいました。
2019年11月 千葉県内房萩生漁港産 上:イナダ 下;カンパチ
2019年11月 千葉県内房萩生漁港産
カイワリ
スズキ目スズキ亜目アジ科カイワリ属
2020年5月 神奈川県小田原魚市場産
イトヒキアジ
スズキ目スズキ亜目アジ科イトヒキアジ属
2015年11月 神奈川県湘南産
背鰭と尻鰭が長く糸を引く様に伸びているので「糸引きアジ」と呼ばれています。
特徴的な丸くてカワイイ体をしていますが、これは子供の時だけの姿で、成長すると体の後半が長く伸びて全然違う姿に変身してしまいます。
2013年 産地不明
因みにこちらがかなり成長したイトヒキアジの頭部です。残念ながらウチに来た時には既にこの様な姿になっていたので、全身の雰囲気は分かりませんが、それでも可愛かった頃のイメージとはかなり違ってしまっています。
成長した個体の頭骨は、トサカの部分がとても目立っています。
アイブリ
スズキ目スズキ亜目アジ科アイブリ属
2015年11月 神奈川県湘南産
成長すると50cm以上になるらしいのですが、今回入手した個体は子供サイズで20cm弱の大きさしかありませんでした。
今回の個体は、湘南の直売所で購入しました。まとまって獲れる魚ではないので、水揚げ情報をチェックしながら、入荷が数日続いたタイミングを見計らって買いに行きました。身質は青物っぽさが無くて白身のプリプリした感じでした。魚界隈で有名な「ぼうずコンニャク」さんのサイトでとても評価が高かったのでちょっと期待していたのですが、サイズが小さかった為か、まだそれほど旨みは乗っていませんでした。
その後、千葉県萩生漁港の漁師のIさんからも頭の部分をいただく機会がありましたので、こちらは骨取りに使ってみました。
2016年1月 千葉県内房萩生漁港産
骨の質感は思いの外スカスカでした。これまでにやった中ではバラムツの骨の質感とよく似ていて、厚紙細工みたいな軽い感じでした。ピンセットの先端が当っただけでも、簡単に穴が開いてしまう位脆くて傷つき易かったです。
オニアジ
スズキ目スズキ亜目アジ科オニアジ属
2020年8月 神奈川県湘南米神沖定置 約34cm 395g
長い胸鰭が綺麗。
ゼイゴが鋭く尖っていました。
私が勝手に持っているイメージなんですが、アジって優しい魚って印象があるじゃないですか。姿かたちは「これぞ魚」っていう正統派スタイルだし、体色も白銀色にキラキラ輝いているし、顔付きも目がクリクリしていてカワイイ感じだし、どこか女性っぽい雰囲気が漂っている気がするんですよね。
それなのにこのアジの名前には、恐ろしさや強さの象徴である「鬼」って冠が付いているのが、なんかとても似合わない感じがしてしまいます。
その名の由来は、他のアジに比べて極端に硬い皮と、大きくて鋭いゼイゴにあると思われます。普通のアジは三枚に卸した後、皮を引っ張るとピロ~ッと気持ちよく剥けるんですが、このオニアジの場合は、皮が硬すぎてバリバリって剥ぎ取れる感じで剥けてきます。
またこの魚のゼイゴは、下手に触ると手が切れてしまう位、硬くて鋭く尖っています。
皮を剥いだ後の身は、アジにしてはかなり赤い色をしていて、味はどちらかと言うとムロアジとかに近いような気がしました。
この個体は、2020年8月に神奈川県の小田原魚市場に水揚げされたモノです。本来は南の海に多い魚らしいのですが、時折、小田原の海でも揚がる事があるんだそうです。でも、多い時でも数匹がまとまって捕れる程度で、入手出来る機会も年2~3回あるかないかなんだそうです。
2020年8月 神奈川県湘南米神沖定置産
頭骨の第一印象は、アジと言うよりもソウダガツオに近い感じがしました。
アジsp
2017年8月 神奈川県湘南産
ヨロイアジ属の仲間ではないかと思っているのですが、正体は不明です。体が側偏し頭が小さいのが特徴です。
クロアジモドキ
スズキ目スズキ亜目アジ科クロアジモドキ属
2020年1月 神奈川県小田原魚市場産
滅多に揚がらないとても珍しい魚だそうです。小田原魚市場の方から、「珍しい魚が獲れたんですが要りますか?」と連絡をいただいたおかげで入手出来ました。
一応アジ科の魚ですが、見た目は全くアジっぽくありません。全身が黒くて厚い皮に覆われていて平たい菱形の体型をしています。どちらかと言うと、マナガツオと言う魚によく似ていると思いました。尻鰭の付近を見ると、アジの仲間の特徴である「ゼイゴ」が辛うじて確認出来るので、それがアジの仲間だと言う証明なのでしょうか。
ただ、身質はアジのソレぽかったです。
2020年1月 神奈川県小田原魚市場産
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