== F R A G M E N T S ==

日常の断片

家族

2016-04-20 08:36:10 | 日々雑感
以前、ひとりで横須賀の観音崎に行き、
岬の公園をずっと歩いてきた。

東京湾を一望し、釣りや潮溜まりに生きものを探したりしている家族連れを見て、
大きな船が海を滑るのを見て、潮に削られて露になった美しい地層を見て、
ボート部の掛け声を聞き、鶯の鳴声を聞き、
どこからか降る山ざくらの花びらを手に受け、
風が葉を渡る音を聞き、ただ歩いてきた。

本当は岬の先端に立つ像の横に行きたかったのだけど、
場所が場所だけに閉鎖されていて、そこまで行くことは出来なかった。

行きたい、と言うよりは、行かなきゃ。という感情だった。
そんなことは珍しく、大抵は途中で面倒になって止めてしまうのだが。

ああやって、時間を気にせず、景色の中に身を置いていると、
固い固い心の殻に、一瞬、ヒビが入る感覚を覚える。

それは大抵、もう長く昔の話になってしまった、一家団欒の記憶とともに現れる。

日常で着飾っている、アレやコレやの自我を一枚ずつ剥がしていけば、
最後の方に残るのが、こういった記憶なんだろう。

そんな時、僕はどんな顔をして立ってるんだろう。

鏡では、最近険しいばかりの顔しか見ていない。

Morton Feldman - For Bunita Marcus

2016-04-11 23:00:55 | 音楽
80分ほどのピアノ曲。

楽譜に書かれている音符は、そのリズム配分や、音色・音量の配分が
大変複雑で、演奏には極度の緊張を強いるらしい。

しかし聴いているぶんには、とても美しく、静か。

ほとんど音のしない昼下がりに、耳を澄ませて遠くの雨音を聞いているような、
そんな落ち着いた空気を纏った音楽だ。

沈黙を音で切り分ける、と言っても良いのかもしれない。

絶妙な配置で落とされる、雫のような音。
音が鳴り響いて重なり減衰していく、という現象が、
そのまま独特の時間の流れを作る。
そして時に、突然切り替わる和声と空気。

不思議と均整の取れた、美しい音楽だと思う。

ただ美しいためだけの音楽。
とても形而上的。
無音よりも静謐。
自然と息を呑む。