キャリア開発-人事制度-組織開発/軸は「内的キャリア」

以前メルマガ配信した「キャリア開発と人事制度」のアーカイブです。
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絶対評価と相対評価 ・・・ 評価は絶対か?

2010年04月28日 | キャリア開発
 うちの子は昨日が終業式でしたので通知票を持って帰ってきました。
 (これを書いたのが7月21日だったものですから・・・)
 通知票といえば絶対評価、相対評価ということをお聞きになったことは
ありますか?
 今回は、これをお題に。


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 ★ 相対評価と絶対評価
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 相対評価というのはあるグループの中で、対人比較によって序列付けを
行うやり方です。
 一方の絶対評価というのは人との比較ではなくて、ある特定の基準を超
えたかどうかで判断する方法です。

 一昔前の通知票は相対評価でした。
 そのクラスの中で良くできる方から5段階なり、3段階なりに区分しま
す。
 良くできる子ばかりがいると普通の子でも通知票は低めになります。
 反対の場合、通知票は高めになります。
 人との比較になるので同じような実力の子でも違った評価になってし
まうという点や、どうすればもっと良い評価になるのかが具体的に分かり
にくいというのが難点です。
 意地悪な言い方をすれば、どうすればもっと良い評価になるかといえば、
友達の足を引っ張れば引っ張るほど自分の成績は浮上していくのですが
‥‥‥これは勧められたものではありませんね。

 そこで最近採用されているのが絶対評価です。
 到達度評価といっても良いのでしょうか?
 学習の習熟がどこまで進んでいるのかで評価をします。
 良くできる子が多いと、みんながいい評価になります。
 達成基準が分かるので、学習の目当てが立てやすいですね。
 ただ、基準を明確に作らないと判断できないので、手間がかかると言え
ます。
 相対評価なら、なんの順であってもともかく並べて、上位から区分して
いけばよいのですけど、絶対評価の場合は、基準が曖昧だと判定できなく
なりますから、どうしても「評価の区分数-1」の数だけ基準を作らなけ
ればなりません。
 何らかの数字で表現できれば楽なのですが、たとえば「授業への取り組
み意欲」といったような曖昧なものだと基準作りは大変です。
 「なんでうちの子は『頑張ろう』なんですか」といわれたら、どのよう
な基準に照らしたかを説明しなければいけませんからね。


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 ★ 感覚的に合うのは相対評価?
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 二つの評価方法のうち、理詰めで考えれば絶対評価の方が良いのですが、
苦労して基準を作った割にはしっくりいかないのが現状です。
 上司が考課結果を見たときの納得感、腑に落ちた感じは、相対評価の方
が強いと言われています。
 なぜでしょう?

 それは「全体性」です。
 相対評価は順番に並べるときに、その人の全体を見て判断していること
が多いのです。
 評価内容を評価項目毎に区分し、着眼点といって何を評価するかまで明
らかにしているにもかかわらず、それに付随する行動、言動も含めてしま
っているのです。
 順番に並べるだけですからそうした曖昧な点があっても何とかやって
いけます。

 一方、絶対評価の場合は、基準を明確にしようとすればするほど、考課
の内容は絞られていきます。
 曖昧さをのぞこうとするからです。
 内容が狭くなる分、その面に突出していれば考課点が高くなり、逆の場
合は低くなります。
 考課するポイントが仕事をする上でカギ、勘所となるところになってい
ればよいのでしょうが、それ自体を見抜くのが意外に大変であることと、
それ以上に、その勘所も仕事の目的や達成しようとしている成果が同じで
はないので、その都度見直さなければならなくなります。
 さらに、そこまでしても、人間を構成する元素とその質量をそろえても
「ヒト」を再構成することができないのと同じように、いくら細かく分析
的に評価しても全体像を描くことはできないのです。


 これは絶対評価をすることが無駄だといっているわけではありません。
 先に述べたように上司が考課結果に対して持つ納得感や腑に落ちた感
じは、対象者の全体的なイメージに対してのものだからです。
 「全体像」で評価するなら相対評価の方が向いていると言うことです。
 とすれば、今後の昇進や配置転換を考えるなら相対評価で、業績賞与の
ように達成した成果に対して短期の報償で報いるなら絶対評価でという
使い分けをするということも必要になっていきます。
 注意すべきは、それぞれの特性を踏まえて使うと言うことでしょう。

 面接の際の「評価が良くない」-という話も、どんな評価か聞いてみな
ければ分からないとも言えます。
 絶対評価の場合であれば、どちらかというとどうやってそれをクリアす
るかということにフォーカスされるでしょうし。相対評価の場合であれば、
本人だけの問題ではない場合も考えられるからです。


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 ★ 評価、区分、配分
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 ところで、絶対/相対という話は、評価段階だけでなく、その後の区分、
配分にも登場します。

 区分とは、評価をしたあとに、SだとかA、Bといった評語を決定する
ことを指します。
 このとき、評価の得点順に並べて上位○○%はSと決めていくのが相対
区分。
 80点以上はS、70点以上80点未満はAと決めていくのが絶対区分
です。

 配分とは給与改定や賞与の原資を先のSやAといった評語に応じて決
定していく方法を指します。
 相対配分とは評語に応じて原資をうまく分配する方式です。
 ポイント配分式賞与といって、評語をポイント化し、社員全員の持ち点
(ポイント)総合計で賞与原資を割って、1ポイント当たりの単価を出し、
それに各個人の持ち点を乗じて賞与支給額を算出するという方法が代表
的な例です。
 絶対配分というのは、Sだったら50万円というように、評語と金額が
1対1対応になっているものを言います。

 それぞれにメリット、デメリットがあります。
 「相対」化すると、どうしても不明確さを伴います。
 不明確さというよりは、因果関係が見えづらくなる、あるいは同じ成果
であっても状況によってはリターンが変わってしまう不安定さともいえ
るでしょう。

 しかし、企業経営上、評価、区分、配分のどこかのステップで必ず一つ
は「相対」を入れなければなりません。
 絶対評価、絶対区分、絶対配分だと人件費をコントロールすることがで
きなくなってしまいます。

 
【発行者】有限会社キャリアスケープ・コンサルティング 小野田博之
【ホームページ】 http://www.careerscape.co.jp/

ハロー効果ってなに?

2010年04月27日 | キャリア開発
 さて、ほとんどの会社では「人事考課」なるものが、多くの場合は半年
に1回、あるいは1年に1回実施されています。
 人事考課という名称ではなく「評価」だったり、「査定」だったりする
こともあるようです。
 人事考課をする上で問題になるのが、考課者の主観が混じってしまうこ
とによる判断の差。
 これを「考課者の甘辛」とも言います。
 甘い評価=点数を高めにしてしまうこと、辛い評価=点数を厳しく付け
てしまうこと、ということですね。
 甘辛が起きる原因といわれるもののうちもっとも有名なのが「ハロー効
果」です。
 本日のお題はハロー効果。


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 ★ あばたもえくぼ
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 Aさん「今度きた課長さんって、すてきね」
 Bさん「ほーんと。実はね、大手企業の取締役のご子息なんですってよ」
 Aさん「なーるほど、それでいつもきりっとした背広を着てるのね」
 Bさん「そうそう、ハンカチからなにから、ほとんどバー○リーみたい
     よ」
 Aさん「すてきねぇ」

 実際にこういう会話があるかどうかは別にして、「大手企業の取締役の
ご子息」というので、課長さんの何から何までが素敵にみえてしまうのが
ハロー効果の典型です。
 あばたもえくぼといいますが、好いた人なら何から何までかわいく見え
てしまうというのもハロー効果です。

 本来の事実が、その人の周辺の事情で覆い隠されてしまって、よく見え
たり、逆に悪く見えたりするのがハロー効果です。

 ちなみにハロー効果のハローとは、もちろん「こんにちは」という意味
ではなくて、「halo effect」、正確に訳せば「光背効果」ある
いは「後光効果」です。

 後光とは後ろから差す光ですね。
 光背とは仏像の後ろに広がっているあの「オーラ」みたいなやつのこと
です(やつだなんていったらばちが当たりそう・・・)
 そうした後ろかさらす光の強さで、本来の姿が見えなくなってしまうと
いうのがハロー効果です。
 ある種の先入観といってもよいでしょうね。

 これがあると、例えば「あいつ東京大学首席だったらしいぜ」というと
何を言っても正しいことを言っている、論理的なことを言っているように
みえたり、体育会系の社員は誰もが根性があるように見えてしまったりと
いうことになります。
 事実はどうか分からないのに、です。

 人事部門としてはできるだけこのハロー効果をなくそうと努力してい
ます。
 しかし、残念ながらなかなかハロー効果というのはなくなりません。
 きっと永遠になくならないと思います。
 なぜかというと、それが人間の生き残るを左右する能力だったからだと
思うのです。


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 ★ 生き残りをかけたハロー効果
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 まだ人間が野生にいた頃、外敵に出会ったらいち早く逃げなければいけ
ません。
 外敵を見つけるのは早ければ早いほど逃げおおせる確率は高くなりま
す。
 逆に獲物を見つけたときは、早く見つければ見つけられるほど、それを
手にする確率は高くなります。
 つまりできるだけ早く、正しく動いた者が生き残れるんです。

 早く、正しくという相反することを実現しようとすると、できるだけ少
ない情報でも、判断したいものを峻別しうる最低限の特徴を見出さなけれ
ばなりません。
 いちいち「あ、動いているものがある。体長は2メートルくらいあるな。
色は黄色と黒のしましま模様だ。何となく猫に似ているな。こちらを見て
いるぞ。こういうものに出会ったことはあったかな」と情報検索をしてい
る暇はありません。
 黄色と黒のしましまを見たら、まず逃げる!です

 このように、次の行動を起こすための判断ができるための、特徴的な手
がかりをたくさん持っていると、その分速く逃げたり、早くえさにありつ
けたりします。
 そのような、
 1)特徴的な情報を見つける
 2)それを覚えておく
 3)情報が入ったら、いち早く結びつけて行動に移す
という能力がご先祖様の代から求められていたのです。
 結果的にそうした能力に長けた遺伝子が生き残ってきたのではないで
しょうか?

 現代だって、歌舞伎町辺りを歩くと、「やばい」と思うような方と出会
うことがありますよね。
 できるだけ早く見つけないと、肩でも触れたら大変‥‥なことになるか
もしれません。
 早く見つけて、早く行動に移す。
 ハロー効果はこうして我々の身を守ってくれているのです(^o^)。


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 ★ 自分の先入観に気づくこと
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 冗談はさておき、ハロー効果は人事考課上問題になるだけでなく、人間
関係の面でも問題を起こします。

 まず、あまりに見た目で判断しすぎると、相手のことをきちんと理解で
きなくなってしまいます。
 髪の毛の色が違っていたらみんな不良! と思う人は最近でこそ少な
いのですが、もともと茶色っぽい人はこれでかなり苦労したそうです。

 そうした誤解をしたまま、相手と接することで、行き違いが生じてしま
います。

 こうしたことを防ぐには、自分が他人を理解しようとするとき、どんな
癖を持っているのかを知っておくことが必要です。
 難しいことですが、無意識に判断してしまう前に自分で気づくしかあり
ません。
 無意識に判断する前だなんて、分かるわけないではないか!
 その通りかもしれません。
 だとしたら、他の人からフィードバックをもらうしかありません。
 自分はどんな癖を持っているのか教えてもらうのです。
 耳の痛いことを言われるかもしれませんが。
 でも、誤解をしたままよりはいいかもしれませんよ。

 
【発行者】有限会社キャリアスケープ・コンサルティング 小野田博之
【ホームページ】 http://www.careerscape.co.jp/

成果主義のせいか?

2010年04月26日 | キャリア開発
 今週は前回の続きです。

 ちょっとだけ前回のおさらいを‥‥
 
 話の発端は、給与が上がったといっても、それがそのまま働こうという
気につながるとは限らないかも‥‥ということでした。
 最近、「成果を上げた人には報いるべき的」な発言がよく聞かれますが、
人が「よし、もっと頑張ってみよう」と思う要因、つまり動機付け要因と
して、報酬というのはそれほど効果があるわけではないのではないかとい
うことです。
 それについてハーツバーグの衛生要因、動機付け要因を検討しました。
 ハーツバーグが言っているのは、賃金はもとより衛生要因=「不足する
と不満足を感じる要因」であって、動機付け要因=「多くなると満足度も
増す要因」ではないということでしたね。

 でも、一方ではインセンティブ制度というのもあって、業績が上がれば
あがるほど報酬が増えていく仕組みがあり、これでやる気になるというケ
ースもあります。
 これは、実は増えていく報酬額そのものに反応しているのではなくて、
「報酬額が高い=自分はよくやったではないかという満足感」を感じるか
らではないでしょうか?
 ハーツバーグの指摘する動機付け要因の一つ「達成」、つまり「成し遂
げた感じ」を得られるからということです。
 こうなると、報酬で報いるのはよいけれど、その金額が小さいと、かえ
って「自分の努力はこれくらいしか評価されていないのか」とマイナスの
影響を及ぼすことがあることを指摘しました。
 報酬で報いることもいいかもしれないけれど、それ以外にも次の仕事で
報いるという方法もあることを提案しました。
 同様の指摘は「虚妄の成果主義」(高橋伸夫著)でもなされていたので
した。


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 □ 高橋氏の成果主義に対する認識との違い
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 前掲の著書の中で高橋氏は成果主義を次のように定義づけ、さらに真っ
向から「成果主義」を否定なさっています。
 1)できるだけ客観的にこれまでの成果を測ろうと努め
 2)成果のようなものに連動した賃金体系で動機付けを図ろうとする全
  ての考え方
 この1または2、いずれか一方にでも該当するのが成果主義で、成果主
義はうまくはいかないとの結論でした。

 これに対して、2は確かにそうだと思うけれど、1については賛成しか
ねる-というのが私の立場です。

 高橋氏の指摘では、1に該当するものを否定する理由は、できるだけ客
観的に成果を測ろうとすると、測定しやすいもの、できそうなものに視点
が集中してしまう-そんなことだったように思います。

 もしかすると、私は高橋氏の主張を読み違えているのかもしれないので
すけれども、客観的に成果を測ろうと努めることは決して悪いことではな
く、むしろ奨励されるべきことではないかと思っています。
 そうした懸念が発生するのは、客観的かどうかにあるのではなく、上司
のマネジメント・スキルの低さによるものです。
 その意味で、1に該当する成果主義は○だと思うのです(2は×、ただ
しケースによっては△ですが)。


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 □ 客観的って、よくないですか?
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 実は「客観的な測定(評価)」というのは、人事考課項目の設定の際に
よく出てくる議論です。
 議論の方向性は「もっと客観的にならないのか?」です。
 先の指摘とは全く逆なのです。
 なぜ、人事考課では「客観的に」という話になるのでしょうか?

 客観的の反対は主観的です。
 人事考課で言う「主観的」とは、上司の自分の思いこみで部下の人事考
課をすることを指します。
 中にはきちんと部下のことを見る上司もいるでしょうが、そうではない
上司も少なくありません。
 評価が甘すぎる人もいれば辛すぎる人もいます。
 この上司によるばらつきを何とかしてもらえないか-というのが客観
的な測定(評価)を求める一つの理由です。

 さらに、たとえばらつきが少なかったとしても、判断するときの着眼点
や基準をはっきりしてほしいという意見もあります。
 こうしたものが顕在化していないと、部下としては、なにをどうすれば
よいのかが分からないからです。
 分からないからやらないという意味ではなくて、漫然と仕事を進めるの
ではなく、どこに注力すればよいのかが分からなくなってしまうのです
(それは客観的に測定するがどうかにかかわらずやればよいのではない
か-と反論されそうですけれど、結局は社員の力を集中させるためにやる
のだから「もしかすると他のことはやらなくなるかもしれない」というリ
スクは同じことです。むしろ、そのようなことをしておいて結果的にはな
んの評価もしないのならやらない方がましでしょう。たとえ次の仕事で報
いるとしても、その人に仕事をやらせるかどうかの判断基準となるわけで
すから)

 とくに「積極性」だとか「企画力」だとかという、曖昧な情意評価、能
力評価、勤務態度評価といった項目はこうしたことが起こりがちです。
 例えば「積極性」。よく挨拶をするだけで「あいつは積極性がある」と
いう人もいれば、「人がやらないような仕事を自主的にやるのが積極性
だ」という人もいます。
 どんなことを指すのかという定義を上司が誤解していたり、具体的にど
んなことがあったら積極性があるということになるのか、また評価には段
階(例えばS、A、B、C、Dといったような)が付きものですが、どう
だったらSになるのか-こうしたことが明らかでなければ、部下はどうす
ればよいか分かりません。
 こうしたことが明らかでないと、評価結果への納得性はずいぶん低くな
ってしまいます。

 人事担当者はそれでは困るというので一所懸命文章で定義や評価基準
を作ろうとしますが、どんな職種にも当てはまるような定義、基準は書け
ません。
 従って、「営業職向け」「企画職向け」といったように、多少大括りにし
たものを作成します。
 でも大括りにする分、実体とは離れてしまい、評価にばらつきが出てし
まうのです。
 しかも悲しいことにそうやって作って、細かく評価してもその人に対す
る全体的な印象と一致しないために、考課者が記入結果を手直ししてしま
うことが多いのです。
 「なに、○○君がB評価だって? そんなことはない。彼はよくやって
くれている。だからAだ。点数がおかしいならそうなるように変えよう」
だとか、「××君が○○君より上というのはおかしいな。××君もAにし
よう」といった感じです。

 結局、情意や能力、勤務態度といった本質とは関係のないところを曖昧
なままに評価をしようとすることろに無理があるのです。
 それよりも、少なくとも今期は何をやったんだろうかと言うことをきち
んと部下と上司で了解しあえた方が、よっぽど実があるといえます。


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 □ 成果って何?
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 成果というのは求めていた結果です。
 それぞれの人がどんな仕事を求められているのか、組織からすれば求め
ているのかを明らかにしておいて、それがどうだったかを評価しようと言
うのが成果主義だと思います。
 こうしたことをしようとすると、何をすべきかをすりあわせると言うこ
と、つまり、求める成果とは何かを上司と部下とが期の最初に確認しあっ
ておくと言うことがとても大切になります。
 情意評価や能力評価はここを曖昧なままにしてきたのです。

 この時点で曖昧なままにすませておくとどうなるでしょうか?
 こんな感じだろうなと思ってやっていたら、期末になって「君のやった
ことは我が部門にとってあまり効果のないことだったんだよ」と言われか
ねません。
 きちんと確認してからスタートするのは成果主義の基本です。

 成果主義になると先の見えないことに取り組まなくなると高橋氏は指
摘されていたように思いますが、先が見えなくても取り組んでいくという
ことそのものを期待するのであれば、それをきちんと上司と部下とで確認
し、「今期やることは結果がどう出るかは分からないけれども、このテー
マをきちんと進めて結論を導き出すことなんだよ。それが君に求めたい成
果なんだよ」といえばすむことのように思います。

 つまり、結果だけを客観的に評価しようとするのが成果主義なのではな
くて、そこに至るまでのプロセスで、きちんと求める成果を互いに明確に
する作業、面接をきちんとし、上司と部下が求める成果について共通認識
としつつ仕事を進めていくのが成果主義なのです。

 面倒でしょうか?
 そんなはずはありません。
 仕事イメージのすりあわせをしないで仕事をさせることなんて、マネジ
メントとは言えないのではないでそうか?
 PDCAとはマネジメントの基本サイクルです。
    P=Plan
    D=Do
    C=Check
    A=Action
 でした。
 このサイクルは回せば回す程良いのです。
 毎月でも、毎週でも、計画を確認し、その結果を検証するのがマネジメ
ントです。

 これをきちんとしようと思えば、どうしても具体的な話になります。
 その達成度合いを評価しないで、何を評価するのでしょうか?
 そのプロセスをよくやってくれたかどうかという感情で評価するので
しょうか?
 「よくやってくれた」で評価されるなら、仕事をいかに進めるかよりも、
上司と以下に人間関係をうまくやっていくかに注力した方が良さそうで
す。
 これでは本末転倒ですね。


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 □ 成果主義と目標による管理
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 というわけで、成果を客観的に評価すること自体は決して悪いことでは
ないと思います。
 さらに、もうお気づきの方もいらっしゃると思いますが、期のはじめ、
期の間、さらには期の終わりと、期間を通じて、上司と部下が、何をすべ
きか、何を期待しているのかをきちんと話し合い、その達成度を人事考課
にも取り上げていくと言うことは、まさに目標による管理(MBO)の考
え方に近いものです。
 そのものといってもよいかもしれません。

 大切なのは、部下がやるべきことについて自己所有感、あるいはコミッ
トメントをもっていることです。
 やる気があるという単純なもの、精神的なものではなくて、その仕事を
やることに、自分自身もやりがいを感じるという状態になっていることが
大切なのです。
 仕事こそが自分で自分をどう気づける元になるのです。
 だとすれば、どんなことをやるのか、どんな結果(方向性といった結論
としては曖昧なものかもしれないけれど、今の時点では分かっているも
の)を求められているのかが分からないと、仕事に対する愛着も湧きがた
いのです。
 その意味でも客観的に捉える努力は、部下も上司も双方がやってみても
よいものだと思います。
 こうしたことを避けようとする上司は、成果主義だろうと年功序列だろ
うといなくてもよい上司、いや、いてはならない上司です。


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 □ おまけ
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 ついでに言うと、成果主義の定義を示したうえで論議なさっている点で
は、さすが高橋氏だと思います。
 多くの方が、そのあたりは曖昧にしたままのような気がします(違って
いたらすみません)
 私自身は成果主義かどうかはどちらでもよいことのように思います。
 ただ、上司と部下の間で当面の成果と、中長期のキャリアプランが検討
され、相互に理解できていることの方が大切だと思います。
 報酬にどれほど反映するかは、その組織次第だと思います。
 そうした方がよい組織もあれば、よくない組織もあります。
 それは組織の文化や成熟度によるものだと思っています。

 また、人事が専門ではないキャリア・カウンセラーのみなさん。
 「成果主義」「実力主義」だといった言葉だけに反応したり、思いこん
だりすることのないよう、その言葉の中身はきちんと改めるようにする必
要があると思います。
 成果主義を打ち出した会社=ドライな会社では決してありませんし、脱
年功=社員を長期雇用するつもりのない会社でもありません。
 その言葉を使う人の、裏にある意味も捉えたいものですね。

 
【発行者】有限会社キャリアスケープ・コンサルティング 小野田博之
【ホームページ】 http://www.careerscape.co.jp/

燃えるもの!

2010年04月23日 | キャリア開発
 仕事に燃えていますか?
 どんなときに仕事のやりがいを感じますか?


Aさん「なんだか頑張ろうという気にならないんだよね」
Bさん「どうしたの?」
Aさん「仕事自体が嫌だということはないんだけど、なんかこう、頑張ろ
    う!という気にならないんだよね」
Bさん「ふ~ん。いいじゃない仕事がやっていられないというわけではな
    いんだから」
Aさん「そう、それはそうなんだけどさ。なんかこうやったぞ!という実
    感がほしいということかな」
Bさん「それって評価されていないということ?」
Aさん「人事考課には納得してるんだよね。上司はきちんと評価してくれ
    ているし。この間もA評価だったんだ」
Bさん「だったらいいじゃない。評価もされているし、人事考課がいいん
    だったら、今回の昇給もよかったんでしょ」
Aさん「でもね、いいっていったって、普通の人との3000円しか違わ
    ないんだよ。子供のお年玉じゃあるまいし」
Bさん「でもあがらないよりましじゃないか」
Aさん「そりゃそうなんだけどね‥‥‥いいたいのは、あれだけ頑張って
    も数千円、年間で数万円しか違わないのかということなんだよ」


 聞く人が聞けば頭に来てしまいそうな、でもある階層の人にしてみれば、
そう、そう! と同感できるお話です。
 今回のお題は「燃えるもの」


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 ★ ハーツバーグをもう一度
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 働く人たちが満足感を感じるとき、不満足感を覚えるとき、どういった
要因が影響しているのでしょうか?
 これを研究したのがハーツバーグですね。
 人事部門の方であればもはや常識!(嫌みではありません)
 キャリア・カウンセラーの方も基本的なたしなみとして知っていらっし
ゃいますよね(いや、本当に嫌みじゃなくって‥‥)

 簡単な解説はhttp://www.careerscape.co.jp/point-herzberg.htmへ
 これでは分からない?
 失礼いたしました。

 ハーツバーグは1923年生まれのアメリカの心理学者。
 ピッツバーグの代表的な9社の技師と会計士、あわせて203名に対し
て実施した調査を基に「仕事へのモティベーション」(The Motivation to
work)を発表しました(1959年、ハーツバーグが36歳の時です)。
 この調査は仕事上で例外的に気持ちの良かったことを思い出してもら
い、そのような気持ちになった理由や持続時間を答えてもらい、さらに、
その気持ちよさが、仕事や人間関係、健康状態に影響を及ぼしたかどうか
を話してもらったそうです。
 次に、逆に仕事上で消極的な気持ちになったことを思い出してもらい、
同じ手続きで理由やその気持ちが及ぼした作用について話してもらいま
した。
 これを「承認」「達成」など15の要因に整理してみると、仕事上の満
足と不満足についてそれぞれ5つの要因が際だっていることが分かりま
した。
 1964年にはフィンランドに留学し、そこでも同様の調査を続け、こ
れらをまとめて1966年(43歳)に「仕事と人間性」(Work and the
Nature of Man)を発表しました。
 この2冊により、いわゆるハーツバーグの理論が完成したといわれてい
ます(以上の解説およびこれ以降の解説は、有斐閣新書の「人事労務管理
の思想」を参考にしています。この本、いいですよ!)
 職務充実理論と呼ばれたり、動機付け・衛生理論と呼ばれたり、職務満
足の二要素理論と呼ばれたりするこの理論、では、その内容はどんなもの
なのでしょうか?

 ハーツバーグは人間には「苦しみを避けようとするアダム」的な性質と、
「生まれながらに潜在能力を持ち、神の祝福を受けるエイブラハム」的な
性質があると考えました。
 このいずれも仕事に満足を求めるのですが、アダムの本性は苦しみ、痛
み、不満からの回避であって、そのためには「有効な会社方針」「作業条
件」「給与」「雇用」などの安定保障を求めるといいます。
 これらが不十分であるとき不満を感じます。
 これらは仕事そのものにとっては外的なものなので「衛生要因」とハー
ツバーグは名付けました。
 一方、仕事の満足はエイブラハム的な性質を通じて得られ、その内容は
「仕事の内容」「達成(すること)」「承認(されていると感じること)」「責
任」「昇進」などが挙げられます。
 これらを動機付け要因、または成長要因と名付けました。

 さらにこれらの要因を見ていくと、アダム的な性質の対角線上にエイブ
ラハム的な性質があるのではなく、つまり不満の反対が満足なのではなく、
それぞれが独立した性質であることが分かりました。
 不満の反対は満足なのではなく、「不満ではない」に過ぎないのです。
 また満足の反対は不満なのではなく、「満足ではない」ということなの
です。
 従っていくら衛生要因を充実させても、仕事上の満足は得られないので
す。
 また動機付け要因が不足したからといっても、それがそのまま不満に結
びつくわけではないということです。
 ハーツバーグのこの考え方は、1960年代に従業員86万人を抱える
ATT(アメリカ電話電信会社)で導入され、実勢に成果が上がった(具
体的には離職率が下がった)との報告がなされているそうです。

 念のためもう一度まとめておきましょう。
 1)ハーツバーグの理論では、仕事には、満足感に関わる要因と、不満
   足感に関わる要因がある。
 2)不満足感に関わる要因が不足すると不満足感が強くなる。充足する
   と不満足感が少なくなる。
 3)満足感に関わる要因が充足すると満足感が強くなるが、これが不足
   すると満足感が少なくなる。
 4)また、実は、不満足に関わる要因がある程度満たされていないと、
   満足感を感じる要因があっても満足にはつながらない。

 不満足の要因は次の通りです。
    会社の政策と運営
    監督技術
    給与
    対人関係(特に上司)
    作業条件
 満足の要因は次の通りです。
    達成
    承認
    仕事そのもの
    責任
    昇進


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 ★ 賃金は不満足要因か
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 さて、ハーツバーグは賃金(給与)を不満足要因に位置づけています。
 不満足要因とは、満たされていないと不満を感じることが多くなる要因
でした。
 確かに賃金の低さは不満足の要因となりますよね。
 「こんな安月給じゃやってらんねぇよ」
 この線で行くと、給料が高いからといってやる気にはならないというこ
とになります。

 「でも、給与が高くなれば、やる気になるんじゃないですか?」
 「成果に応じて支払うインセンティブ(業績加給)制度は、社員のやる
気を高める制度として定着しているではないか?」
 そう、そう考えると賃金は満足に関する要因つまり動機付け要因(モテ
ィベーション要因)とも言えそうなんです。
 これはどういうことでしょう?

 いくつかの点が考えられますが、満足に関わる要因、つまり動機付け要
因の場合、その要因があれば自分で自分をどう気づけていくことができる
ということになります。
 賃金でいえば、高ければ高いほど、より働くようになるということです。
 いかがでしょう、皆さんは。

 報酬の高さが一定以上なければ衛生要因であるわけですから、不満感を
引き起こすことになります。
 これはとても同意できます。
 でもある程度以上になると、あってじゃまにはならないし、もらえばう
れしいでしょうけれど、「よしもっとやってやろう」という気になるでし
ょうか?
 つまり、極論をいえば、もっとお金を払うから、24時間働いてくれだ
とか、もっときつい仕事をやってくれといわれたときに、そこそこの(つ
まり不満を覚えない程度の)生活水準が得られていたら、それ以上にやっ
ていこうと思う人は少なくなるのではないでしょうか?
(私事で恐縮ですが、私ならやりません)。

 ではインセンティブ制度はどうでしょう?
 インセンティブ制度が機能するのは、その報酬額そのものが動機付けの
要因になっているのではないと思います。
 一つはゲーム的なおもしろさではないでしょうか?
 他の人と競ったり、あるいはハードであっても達成することの喜び。
 もう一つは、その喜びが、金額として具体的に示されることで、「よく
やったぞ」という感じが裏打ちされるのではないでしょうか?
 つまりゲームの「スコア」と一緒。
 金額が多ければ多いほどやろうという気になるのは、ハーズバーグのい
うアダム的性質が反応しているのではなく、つまり苦難から逃れられると
いう反応ではなく、お金の額そのものが「自分は承認されているぞ」とい
う実感につながるからといえるのではないでしょうか?

 昇給もそうで、昇給額の多さはそれがほめられている程度を表している
からではないでしょうか?

 では、先の例はどう解釈すればよいのでしょうか?
 Aさんの方がどうやらBさんより昇給が多そうです。
 人事考課の面でも承認されているという実感がありそうです。
 それでも釈然としない。
 それはなぜなんでしょうか?

 先の例では数千円の差でしかないことを問題にしていました。
 他の人よりは多いかも知れないけれど、その差を見たときに感じる実感
としての認められなさをいっているのです。
 実際、高校生の小遣いは1カ月1万数千円くらいだといいますから、A
さんが苦労してA評価をとった結果はもしかすると自分の子どもの小遣
い1カ月分の効果を家計のもたらすだけかもしれないのです。
 ちょっと泣けてきませんか?


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 ★ 成果主義の限界?
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 とても青臭いことを、きれい事をいうようですけれども、お金だけで人
間は動いているのではなさそうです。
 すべての人がそうだとはいいません。
 ただ、お金をもらえるからもっとやろうと思うかというとそうでもなさ
そうだということです。
 貢献度が高ければ給与、賞与が良いというウマ・ニンジン方式も、ほん
のわずかな違いしかないとすれば、それは却って逆効果にしかならないの
です。
 本当に必要なのは、ハーツバーグの理論を借りるなら、承認されること
やより面白い仕事が与えられることなのです。

 こうした指摘は「虚妄の成果主義」(高橋伸夫著)と軌を一にするもの
と思います。
 この中で著者の高橋伸夫氏は成果主義を次のように定義づけています。
 1)できるだけ客観的にこれまでの成果を測ろうと努め
 2)成果のようなものに連動した賃金体系で動機付けを図ろうとする全
   ての考え方
 この2の部分、先にお話ししたように、不満を取り除くことには役立つ
かもしれませんが、動機付けには役には立たないのですから、この定義に
よる成果主義というのは、早晩破綻してしまうのは確実です。
 お金で報いることがいいことだ-といった考え方は、却って本人のやる
気を阻害します。
 国民の所得レベルが低い時代ならまだしも、今の環境だとわずかな金額
の差で目の色を変えるような時代ではなくなっているのです。

 報いて、その後のやる気につなげるなら、やっぱり仕事なのではないで
しょうか?(この点では高橋氏に大いに賛同しています)


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 ★ おまけ
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 ところで、先の成果主義ですが、私は著者の高橋氏と一致していない部
分があります。
 それは成果主義の定義の1の部分。
 それについては次回!

【発行者】有限会社キャリアスケープ・コンサルティング 小野田博之
【ホームページ】 http://www.careerscape.co.jp/

あぁ、面接

2010年04月22日 | キャリア開発
 名前は一緒でも会社によって、あるいは同じ会社でも上司によって全
く運用が異なってしまっているもの・・・その一つが面接制度です。

上司「今日は君のキャリア・プランについて話をしてみよう。
   どう考えているかのを本音で言ってほしい」
部下「分かりました。
   これって、キャリア面接ということですね。
   実はまだあまり考えていないんですよ」
上司「なんだ、そうか、じゃぁしょうが無いな。
   では、私が考えていることを伝えよう。
   まず君の能力を棚卸ししてみよう・(略)・ということなんだ。
   だから君は今後・(略)・とやっていくのがいいと思う」
部下「ありがとうございます。とても参考になりました」
上司「そうか、じゃぁこれからも頑張ってくれたまえ」
部下「はい、頑張ります」

 この面接ってどうでしょう?

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 ★ 面接にもいろいろある
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 最近はほとんどの会社で面接制度が導入されているようですね。
 でもこの「面接」、どこの会社も同じとは限りません。
 目的も様々ですが、内容も様々です。


 もっともよく行われているのは評価面接というものではないでしょう
か?
 決まった呼び名があるわけではなく会社によって違うのですが、人事
考課制度に関連する面接です。
 さらにこれも3つに分けることができます。

 まず、考課期間の始めに目標や能力開発のテーマなどについて話し合
う面接があります。
 これは「期首面接」あるいは「目標設定面接」と呼ばれることが多い
ようです。

 考課期間の最中に、進捗状況を確認したり、場合によっては期首に立
てた目標の変更などを取り上げるのは「期中面接」と言ったりします。
 期中面接をやっているところは少ないです。
 目標による管理を導入している会社でも中間面接をやらないというと
ころが多いです。
 「面接ばっかりになってしまって大変。時間をとられる」
 というのがその理由の多くですが、期中に環境要件が変わったり、会
社の方針が変わったりした場合、どうやって目標の再設計をするんでし
ょうね?
 これではいくら期首にしっかり面接をしても、期末にもめることにな
りますよねぇ。

 もっとも多くの企業で行われているのは「期末面接」です。
 文字通り期の最後に実施される面接で、この面接もまた、企業によっ
て位置付けが異なります。
 人事考課を決定する前に実施して、上司と部下で達成状況などについ
て意見交換をし、認識をすりあわせておくことで人事考課の精度を高め
ようということを目的に実施しているケースもあれば、考課が確定した
あとでその考課結果になった理由をきちんとフィードバックをすること
で本人の納得感を高め、翌期の課題をはっきりさせていくことを目的と
しているケースもあります。
 先に触れたように期末面接を行っているところは多く、評価面接とい
うとこの期末面接を指していることも多いです。

 これらの面接は多い会社は年に4回実施されます。
 期首面接・中間面接(1回目)・中間面接(2回目)・期末面接-とい
う感じです(考課期間が一年の場合)。
 普通は考課期間を半年に設定することが多いので、半年をサイクルに
目標設定面接と評価面接を行っているところもあります。
 これも年4回のように見えますが、期末面接と翌期の期首面接は同時
にやることが多いので実質的には年2回ですね。

 人事考課制度に並行する形のこの評価面接群は、目標による管理を考
課制度として導入したときにあわせて導入した企業が多いのではないで
しょうか?
 それまではどちらかというと一方的に人事考課をしてすましていたの
が、急に面接をしなければならなくなって(そのようにコンサルタント
にいわれて、あるいは先進事例でそうなっていたから)、慌てて面接研修
も始めたところも多いと思います。
 このとき「傾聴」ということも取り上げているはずなんですが、何せ
取り上げるきっかけが「いかに人事考課を上手に進めて、社員が文句を
言わないで働くようにするか」と言うことであったりすることも多かっ
たので、「聴く」ということよりも、「いかに話させてガス抜きをして、
いかにこちらのいうことを納得させるか」という研修になりがちだった
のではないかと思います。
 「傾聴」というよりは「説得と納得」の研修といってもいいでしょう。


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 ★ キャリアについての面接
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 さて、冒頭の事例で出てきたキャリア面接というのは、上司(あるい
は上司の上司であることもあります)が、部下の今後のキャリア開発を
テーマに行います。
 先の一連の評価面接のような当面の目標設定や評価ということではな
く、中長期的にどうなりたいと考えているかを確認し合う場といえます。
 この面接は先の評価面接とは別に行われることがほとんどです。
 一緒に行っても構わないのですが、評価面接はそれぞれに実施時期が
決まっているものなので(中間面接はそれほどでもないのですが)、一定
の期間に全員の面接をしようとするとどうしても時間が気になってしま
います。
 キャリア面接は中長期の話ですし、何をやりたいかだけでなく、どう
ありたいのか-つまり仕事人生の展開をどのように考えているのか-と
いうことについて話が及ぶので、じっくりと話せるような環境を整える
ことが必要になります。
 従ってキャリア面接だけは別に時間をとって実施する方がよいようで
す。

 このキャリア面接の導入企業はまだまだ少ないのではないでしょう
か?
 一連の評価面接の中でやっているから別に改めてやる必要はないのだ
-というところもあるのですが、面接の結果をどのように活用するかに
よって意見の分かれるところだと思います。
 全社的な人材開発に結びつけようとするなら直接の上司だけでなく、
上司の上司あるいは関連部門の上司などが面接をして、それを人材委員
会などに持ち寄って共有化し、全社的な人材育成計画(あるいはサクセ
ッション・プラン)に反映させるということまでした方がよいですね。
 いや、直接の上司が部下育成進めていくためにやっているのだという
ことであれば、期首面接や期中面接とあわせてやった方が、実際に担当
させる仕事や課題にも反映させることができるのでよいと思います。
 ただ、この場合、上司の能力に左右されてしまう可能性があります。
 また実際の職務に結びつきやすい分、どうしても短期的な視野に陥り
がちで、長い目で見てどのように育てるのか、育っていくつもりなのか
という視点が欠落してしまうことが懸念されます。

 このキャリア面接が制度化されていない会社ではどうするのでしょう
か?
 一般的には漠然と将来に対する不安を抱えたまま仕事を進めていくこ
とになってしまいます。
 上司に恵まれれば個別に相談に乗ってもらえるかもしれません。
 また社員の方が実際に行動に移すことができる人であれば、これはと
思う上司に話をしてみたりするかもしれません。
 こうした漠然とした不満や不安からキャリア・カウンセラーを訪ねた
ことがあるという人も多いようですね。
 でも実際には一人で抱えていたり、飲み屋で酒の上での話にしたり、
あるいはまた気づかないで何となく日々を過ごしているという人も多そ
うです。


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 ★ 枠組みも大切、中身も大切
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 どんな面接があるのかということについて取り上げてみました。
 が、仕組みとして存在することも大切(ないよりは数段良い)ですが、
その中身も重要です。
 冒頭の面接を振り返ってみましょう。

上司「今日は君のキャリア・プランについて話をしてみよう。
   どう考えているかのを本音で言ってほしい」
部下「分かりました。
   これって、キャリア面接ということですね。
   実はまだあまり考えていないんですよ」
上司「なんだ、そうか、じゃぁしょうが無いな。
   では、私が考えていることを伝えよう。
   まず君の能力を棚卸ししてみよう・(略)・ということなんだ。
   だから君は今後・(略)・とやっていくのがいいと思う」
部下「ありがとうございます。とても参考になりました」
上司「そうか、じゃぁこれからも頑張ってくれたまえ」
部下「はい、頑張ります」

 なんとなく、うまく話が展開していて、上司は自分のいいたいことを
きちんと伝えているし、部下もそうだと思って納得しているのだから良
いではないか-と思いますか?

 そう、そうともとれますが、多くの場合、部下の内心は以下のような
ものだと思います。<>の中が本音。

上司「今日は君のキャリア・プランについて話をしてみよう。
   どう考えているかのを本音で言ってほしい」
部下「分かりました。
   これって、キャリア面接ということですね。
   実はまだあまり考えていないんですよ」
   <いきなり本音を言えっていったって、言えるわけないだろう。
    早く別の部門に移りたいんだよ。でもいったらあんた、きっと
    爆発するからねぇ。そんなリスクのあることできないよ>

上司「なんだ、そうか、じゃぁしょうが無いな。
   では、私が考えていることを伝えよう。
   まず君の能力を棚卸ししてみよう・(略)・ということなんだ。
   だから君は今後・(略)・とやっていくのがいいと思う」
部下「ありがとうございます。とても参考になりました」
   <それはあなたの意見でしょ。だいたいあなたの評価自体があて
    にならないんだ。それに今の評価の延長線上で自分のやりたい
    ことを決めないといけないわけじゃないんでしょ。これじゃぁ、
    偏差値から大学選んでいるのと同じじゃない。どうなりたいの
    かというところから聞いて欲しいよ、まったく。そうそう、今
    後のことだって別にこの部門の管理職になりたいわけじゃない
    んだよね。別の部署も経験してみたいし、もっと専門性を高め
    ていくような方向が好きなんだけどな。管理職は遠慮したいん
    だ。あんた見ているとつくづく思うよ>
上司「そうか、じゃぁこれからも頑張ってくれたまえ」
部下「はい、頑張ります」
   <はいはい。いいなぁ、上司の方がすっきりした顔して。話を聞
    いてあげたのはこっちの方だったのかもしれないな。あぁやっ
    てらんねぇ>

 いかがでしょう。
 全てがこうだというつもりはありません。
 でも、そうなっているケースも多いわけで、いくら面接が行われるよ
うになっていても、それを進めていく管理職の面接をするスキルが乏し
いと逆効果にさえなるんです。
 多くの会社では面接が上手だから管理職になっているわけではないと
いう当たり前のことを考慮すれば、管理職になる前あたりから、相応の
トレーニングは必要ですね。


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 ★ おまけ
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 と、管理職批判で終わることが多いのですが、あえて一言。
 この部下にも問題はないでしょうか?
 いわないでおく-というのも方法の一つでしょうけども、それでいい
のでしょうか?
 自分から何らかのアクションをとることはできないでしょうか?
 上司に不満を持ったまま、つまり会社と上司のせいにしたままでほっ
ておくということを選択したのは自分です。
 このままにしておこうというのは自分で決めたことです。
 部下の方にも、自分の仕事人生を主体的に生きていうということはど
ういうことなのかを理解してもらう必要があると思います。
 自分の仕事人生なんですから。


【発行者】有限会社キャリアスケープ・コンサルティング 小野田博之
【ホームページ】 http://www.careerscape.co.jp/