goo blog サービス終了のお知らせ 

gooブログはじめました!致死性の遺伝病「ポリグルタミン病」の研究に資金援助を

μ-helix この美しくも精密な構造は、神の御業か、それとも悪魔の哄笑か?実在するのか、あるいは妄想の産物か?

致死性の遺伝病「ポリグルタミン病」の研究に資金援助を(続編)

2013-02-02 20:10:41 | ポリグルタミン病



上の図は、ミューヘリックス(μ-helix)と名付けた空想上の螺旋構造。この美しくも精密な構造は、神の御業(みわざ)か、それとも悪魔の哄笑(こうしょう)か?これが実在するのか、あるいは妄想の産物か?興味をひかれた方は、下へお進みください。


***** 続編の本文 *****

ポリグルタミン病について(続篇)

凡例

正編、続編、続々編の三編にわたって、ポリグルタミン病および狂牛病をめぐる研究について、(1)世界の趨勢、(2)私の研究の沿革と今後の見通し、などを説明します。これは、その続編です。

正編(序の章)は、要約です。関心を持たれる方のために、続編、続々編、続々々編(第1部以下)では、より詳しく敷衍(ふえん)しました。
 詳しすぎた趣(おもむき)があります。目次をたよりに、興味をもたれた項目に移り、『青字』の部分を拾って、その前後に目を配れば、凡(おおよそ)をつかめるかと思います。

この仕事が見込みの通り進行する確率が高いこと、成功した時には、その結果は、医学、生理学、自然科学などにおいて大きな意義を持つこと、その際立った独創性、余人には困難かとも思われる実験の難しさ、などを感じて頂けたら有り難いことです。


全目次のうち、「続編」が担当する「第1章」と「第2章」を、誤植(色付け)を修正して再掲示します。

目次

   
第1章 ポリグルタミン病の発症機構の様々な仮説
第1節 致死性の遺伝病「ポリグルタミン病」とは;その基本的性質
第2節 ポリグルタミン病の不可思議な性質「発症の鋭い閾(しきい)値
第3節 様々な発病機構の仮説;その致命的欠陥

   第2章 ミューヘリックスを巡る我が半生記
第1節 ミューヘリックス実在の確信
第2節 神の御業(みわざ)から悪魔の哄笑(こうしょう)へ

目次終了


   第1章 ポリグルタミン病の発症機構の様々な仮説

第1節 致死性の遺伝病「ポリグルタミン病」とは;その基本的性質

不可思議な性質を持つ致死性のこの遺伝病は、「ポリグルタミン病」と呼ばれ、8種類の疾患が、これに属します。神経変性疾患の一です。後に述べるように、まことに不可思議な性質を持っています。

 「神経変性」とは難しそうな用語ですが、「神経細胞が働きを失い、やがて死んで行く」という意味の言葉です。

 欧米で悪名の高い「ハンチントン病(手足が異様な動きをするので、俗に『舞踏病』とも呼ばれる)」も、ポリグルタミン病です。

 ポリグルタミンは、アミノ酸のグルタミンが、多数つながった化合物で(ポリpoly = 多) 、長いポリグルタミンが神経細胞を殺す。これが、ポリグルタミン病の原因(病因)であることが確立されています

 なお、正常な家系でもポリグルタミンを持っています。しかし、鎖の長さが短く(例えば20残基)、その上、ある理由があって生殖細胞ができる時に長くならないのです。

(似た名前のポリグルタミンは、納豆のねばねばに含まれていて、非常に長いのですが、全く害はありません。)

 ポリグルタミン病の姿を描くために、この病の二三の基本的性質を挙げます。

(1) ポリグルタミン分子そのものが単独で細胞の中に存在するのではない。蛋白質に、その一部分として、含まれている。
 それらの蛋白質が、蛋白質分解酵素によって分解されて、ポリグルタミンを含むい断片になってはじめて、長いポリグルタミンの毒性が現れる。
 なお、ポリグルタミン鎖を含む蛋白質は、ポリグルタミン病の 8種類の疾患のそれぞれで違う

(2) 遺伝子の異常は、生れながらにあるが、発病するのは通例40歳前後から40歳台。その後、病状は進行して、通常10-20年の後に死に至る。
 このように、潜伏期間が長く、一旦発症すると、進行が速い。

(3) ポリグルタミン鎖が長くなると、それに応じて、発症年齢が若くなる。

第2節 ポリグルタミン病の不可思議な性質「発症の鋭い閾(しきい)値

ポリグルタミン病には、見逃してはならない不可思議な性質があります。それは、次のようです:

(1) ポリグルタミン鎖が短く、グルタミンの数として35個(研究者は、35残基という言葉を使います)以下では発病しない、
(2)ポリグルタミン鎖が長く、グルタミンの数が40残基を超えると発病する、
(3) 35から40残基が境目の値(=灰色の領域gray zone)、「閾値(いきち、しきいち)である。

つまり、ポリグルタミン病が発病するには、35から40残基という閾値があって、この閾(しきい)を踏み越えると発病するのです。
 この閾値は、ポリグルタミン病に含まれる8種類の疾患のすべてに共通しています。

 この5残基という閾値の幅の狭さ、鋭は、生物の世界の出来事であることを考えると、驚くべきことです。

 どのような発症機構の仮説であれ「鋭い閾値があること」と「35から40残基という値」を説明できなければなりません。これが、問題解決のための主眼点、『キーポイント』です。(『キーポイント』は和製英語ですが、便宜上使用します。)

第3節 様々な発症機構の仮説;その致命的欠陥

ポリグルタミン病の研究は、約20年の歴史があり、世界中の、それぞれが多数の研究者からなる、多数の研究グループが、「長いポリグルタミンが神経細胞をどのようにして殺すのか」という疑問を解こうと努めてきました。
 そして、ポリグルタミン病の発病のしくみ(機構)について、様々な仮説を主張してきました。

 しかし、これらの仮説は、「閾値が存在すること」を説明できない。これが、これらの多数の仮説の致命的欠陥です。

   第2章 ミューヘリックスを巡る我が半生記

第1節 ミューヘリックス実在の確信

上述のように、ポリグルタミン病の研究は、約20年の歴史があります。私も、当初から参画してきました。

 20年どころか、私の研究の歴史は、40年余りの昔大学3学年に在籍中の正月にまで遡(さかのぼ)ります。

 その時、「ポリグルタミン1分子が、螺旋(らせん)構造をとって、食品の『竹輪(ちくわ)』のような形をとることができる」ことに気付いたのです。内部には、竹輪とおなじく、円筒形の孔がある

 この構造を、「ミューヘリックス(μ-helix)と、秘かに名付けた。(公表したのは、1995年の論文において。)

   ここにμとは、micro tube(微小な筒)の m(m =μ)に由来する。

数ヶ月の熟慮の後、この「ミューヘリックス」構造が、エネルギー最低構造であること(つまり実在すること)を確信した。この確信を疑うことはなかった。

 ミューヘリックスという美しくも精巧な構造(冒頭のコンピューター画像を見よ)を使って、神は何を為そうとしているのか?研究の進行にともなって、それが次第に姿を現わしてくるだろう、思った。大きな楽しみであった

 しかし、その実在を証明しようとしても、当時は、ポリグルタミンの合成は、山のあなたの尚遠く、不可能であった。

 また、ミューヘリックスが「エネルギー最低構造」である(即ち、実在する)ことを計算によって示そうとしても、当時の国内で流布していた「タイガー計算器(商標)」という手廻し式計算機〈註〉では、数百年の長い年月が必要と思われた(実際には、数万年かかったことだろう)。

〈註〉
1号機は、昭和6年発売。価格495円! 当時の公務員初任給は75円であったという。

号機は、昭和35年発売。価格35,000円。当時の大工日当800円珈琲60円(あの頃のコーヒーは高価だった)。牛乳180 ml 10円、「こっぺパン」にマーガリン(あるいは、なんと真っ赤に色づけされたりんごジャム)を付けてもらって15円両者合わせて25円(これが、当時の平均的大学生の昼食代)

図は4号機である。

      

〈註〉終了


 第2次世界大戦中には、ENIAC1941年完成のような真空管式の計算機が、極秘裏に使用されていた。電子計算機の普及を待つことにした

 1985年台の半ばになると、本大学(東北大学)に設置されていた「大型電子計算機」も、徐々に能力が向上してきた。頃合いはよしと、分子の「立体構造エネルギー」を計算するためのソフトウェアを作り始めた

ミューヘリックスという美しくも精巧な構造は、神の御業(みわざ)とよぶのにふさわしい。この構造によって、神は何を為そうとしているのか?
 研究の進行と共に、神の意図が次第に姿を現わしてくるのを、楽しみに待っていた。

第2節 神の御業(みわざ)から悪魔の哄笑(こうしょう)へ

だが、気になることがあった。

 グラミシジンという抗生物質がある。螺旋(へリックス)状の構造をとって、細胞膜を貫く孔(「グラミシジンチャンネル」と言う)をつくる(X線結晶構造解析によって、チャンネルの原子配列は、1973年に確定した)。

 このイオンチャンネルは、その孔を通ってカリウムイオン、ナトリウムイオン、水素イオン等が細胞の内外に流入流出させて、細胞を殺す

 グラミシジンチャンネルとミューヘリックスとは、全く別の種類のヘリックスなのだが、形、大きさ、内外の表面構造などがよく似ている
 それ故、グラミシジンチャンネルとミューヘリックスとは、様々の点で共通の性質を持っているに相違ないミューヘリックスも、イオンチャンネルになり、カリウムイオン、ナトリウムイオン、水素イオン等を透過させるだろう、等)。〈註〉

〈註〉
そのような訳で、グラミシジンチャンネルについて検討を始めた。公表した論文は6編(Biophysical Journalに5編、Journal of Theoretical Biologyに1篇)。その第1論文と最後の論文のみを挙げる。

Monoi, H., and H. Uedaira. 1979. Na+ interacting with gramicidin D. A nuclear magnetic resonance study. Biophysical Journal vol 25, no 3(March), pp 535-540

ここに、Uedaira については、NMRスペクトロメーターを、所有者である彼から、Monoi が借用するための条件に従って連名にしたのである。

Monoi, H.1993. Energy-minimized conformation of gramicidin-like channels. II. Periodicity of the lowest energy conformation of an infinitely long poly-(L,D)-alanine beta 6.3-helix. Biophysical Journal vol 65, no 5(November), pp 1828-1836

〈註〉終了

 何を隠そう、上に記したように、ミューヘリックスという美しく精巧な構造を使って、神は何を為そうとしているのか?研究の進行にともなって、それが次第に姿を現わしてくるのを、楽しみに待っていたのである

 ところが、グラミシジンチャンネルからの類推によって、ミューヘリックスは、毒性をもつイオンチャンネルとして、細胞を殺すと確信した。

 この念入りの美しい構造は、神の御業ではなく、悪魔のたくらみであった。悪魔の高笑いが聞える









 

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿