ミチハタノオモヒ

道端の草花フォト&ショートストーリィ

ススキ~薄~

2004-10-13 00:43:09 | (癒
夕暮れにはまだ少し早い、10月の、高く蒼い空。
月命日の墓参に来た川上巌(いわお)は、手桶の水を杓子で墓石に流し、妻が生前手縫いしていた布巾で拭き清めた。
自宅の庭から切ってきた、妻の好きだった桔梗を供え、蝋燭を立てる。
束ごとの線香に火をつけ振り消し、しゃがんで目を閉じ手を合わせ、(よお元気でやってるかぃ、まぁ死んじまったもんに元気かはないなぁ)そんな言葉をいつも通り頭の中で呟いて・・・ふと人の気配を感じた巌は、前列右5つほど離れた墓の前に佇む和服姿も上品な婦人に気づく。
あぁまた来ていらっしゃる、お見かけするのはこれで何度目だろうか、長いこと手を合わせているところを見ると御主人にでも先立たれたのだろうか。
・・・いかんいかん。頼子の墓の前で。何をか一人思っては妻の墓前で謝っているのだろうと苦笑いしつつ、日本酒の小瓶と猪口を2つバッグから取り出す。
妻の頼子は程良く酒が好きで、季節の肴をこしらえては毎晩のように一緒に晩酌したものだった。春は蕨のお浸しやフキノトウ味噌・若竹煮、夏は小さな畑で育てた枝豆の塩茹でやシシトウ焼き・茗荷の味噌漬け、などというように。
持参した折り畳み椅子に腰掛け、2つの猪口に酒を注いで1つを口元に運び、視界の隅に和服の墓参者を感じている。腰を落とし頭を垂れ、ただただ静かに手を合わせ、やがてその人は衣擦れの音も密かに帰ってゆくのだった。

広い霊園の出入り口付近のススキが音もなく風に揺らいでいるのを見やり、“枯れすすき”という言葉を思い浮かべる。70歳になる自分のことをまさに“枯れすすき”であることだと失笑しつつ、痩せた肩を上げ下げなどして、暮れ始めた空に包まれ、いつも通り一人家路を辿るのだった。

翌月命日は墓参を午前中に済ませようと、一人きりの朝食の後、支度をして家を出た。
決して近くはない霊園への道を、雨風ない日は、ゆったりと景色など見ながら歩いてゆくのが常である。
墓に向かおうとして、ふと例の御婦人の家の墓石を見てみようという気になった。吉峰家と書かれたその墓の前で軽く手を合わせた巌は、墓誌に刻まれた一番新しい日付を見て驚いた。
3年前、武志という名の主(あるじ)が、頼子と同じ月日に同じ65歳で亡くなっていたのである。巌はあらためて墓前に居直り、今度は長く合掌した。

「あら・・・」その小さく柔らかな声に振り向くと、あの御婦人が花を携えて歩いて来るではないか。
巌は一瞬カーーーッと顔が熱くなるのを感じた。なんというところを見られてしまったのだろう。なんと言い訳したらよいものか。
「ありがとうございます、主人も喜びますわ、お優しい方」
その言葉に救われたように思いながらも、また尚更に居たたまれず頭を下げるばかり。そんな気持ちも知らぬ素振りで、婦人はにこやかに話を続ける。
「何度かお見受けしていましたのよ。なんとも羨ましくて。不躾ですが・・・奥様とお酒を?」
そこで初めて巌は口を開いた。
「お恥ずかしゅうございます。家内は昨年亡くなりまして・・・よく一緒に晩酌していたものですから」
「そうでしたの。私も主人が元気な頃は、えぇ・・・でも女が独り墓前でお酒では絵になりませんでしょ、ですから羨ましく拝見しておりましたのよ」
そう言って婦人は顔をほころばせた。頼子と同い年くらいだろうか、その笑顔が人懐こく少女のように思われて、巌は再び気恥ずかしく思ってしまう。
「・・・では・・・失礼致しました」一刻も早くこの場を立ち去りたい。
「あら、奥様のお参りはもう済みまして?」
なんたること!あんまり慌てていたものだから・・・巌はもう消え入りたい想いで、幾分禿げ上がった額を掌で押さえるばかりなのだった。
すると御婦人、「お待ちになって、今、主人に声をかけますから。そしたら奥様のお参り、私もさせていただいて宜しいでしょうか」と言うではないか。
「は、はぁ・・・」まるで木偶の坊のようにヌボォとした風情で婦人が合掌する姿を見ながら、巌は高まる鼓動を必死で押さえようとしていた。

霊園の出口までの道すがら並んで歩きながら、吉峰澄子と名乗ったその美しい人は、馴れ馴れしくない程度に楽しげに話しをした。とは言っても、巌があまり饒舌ではないので気を遣ってくれたとも考えられる。
出口まで来た時、「久しぶりに楽しい月命日になりました。なんだかお喋りしすぎたようで。静かな時間をお邪魔してしまいました」
澄子は、そう言って一礼した。
「いえいえ、とんでもございません、こちらこそ大変楽しゅうございました」
巌も頭を下げる。穏やかな1日になりそうな心地よい秋風。すっかりフワリと金色になったススキが揺れている。
その柔らかな様を見ながら澄子が言った。「秋も深まりましたこと。風に揺れるススキというのは本当に綺麗ですねぇ」
「きれい・・・ですか?」
「えぇとっても。」そうして澄子は、また来月お会いできたら宜しいですね、と微笑み去っていった。

家に帰ってきた巌は、すぐさま仏壇の前へ。
頼子の写真を見つめていると、遠い昔の一コマが思い出されてきた。
見合い結婚だった2人。そのささやかな式の、明くる日夕暮れの散歩道。頼子が道端のススキを指差し、巌に問うた。
「これ、なんというか知ってますよね」
「あぁ?なんだ。ススキだよ。」
「もう一度おっしゃって。」
「なんだい、ススキだよ。」
すると頼子は、いたずらっぽいような顔をして、こう言ったのだった。
「ススキ。ス・ス・キです、巌さん。」
当惑する巌に、今度は真顔で、「好きです。貴方が好きです。末永くよろしくお願いします」

遠い昔の秋の日・・・妻がいなくなった暮らし・・・
ほんの少しのことで今なお揺れる心・・・秋風にサワサワと揺れる枯れすすき・・・
巌は独り泣いた。いつもの悲しい涙ではなかった。
何故かしら今日は、暖かな気持ちが、後から後から溢れてくるのだった。

ツユクサ~露草~

2004-10-04 02:56:07 | (怖
私が新聞配達をしてるのは、生活の為じゃなく、生きてく為なんです。
だって私が新聞を配らなくちゃ大勢の人が困るじゃないですか。
みんなが私を待ってるの。毎朝毎朝待ってるの。だからそれって私の使命なの。
使命が無いなんて生きてく理由が無いのと同じじゃないですか。
だから私は雨の日も風の日も早起きして新聞を配るんです。
私は尊い行いをしてるの。これが私の生きる理由なの。理由だけど目的なの。
わからないですか?あなたもしかしてバカじゃないですか?死んだ方が良くないですか?

5丁目の角のレンガとクリーム色の壁の家、住んでる人は橘さんという男性です。
表札に、あ、ネームプレイトに、流れるようなローマ字の綺麗な書体で書いてあるの。
ああいうヨーロッパ風の家に住むのに相応しい名前じゃないですか。だから私いつもどんな人かなぁって興味があったの。そしたらある日その橘さんがちょうど門の所に立ってポストを覗くとこだったんです。
おはようございますって言って渡す時、私ビックリして声を上げるとこだったんです、だって橘さん素敵すぎだったから。
誰に似てると思います?Gacktですよ?身体が動かなくなるほど美しい顔立ちなんですよ?
もう心臓が爆発するかと思いました、だって私、Gacktが好きなんです死ぬほど。
でも少しヘンだなって思ったのは、橘さんも驚いたような顔してた、ってことなんです。
【おはよう・ごくろうさま・ありがとう】
・・・門の向こうに入った後に振り向いて。私にこう言ったんです。
【明日の朝も待ってようかな・早起きして良かったよ・また明日】

とうとう私を認めてくれる人に出逢ったんだと思いました。新聞配達をしてる時の私を。この尊い行いをしている時の私を。
神様はちゃんと見ていて下さったんだ!橘さんは独りでこの家に住んでいるのに違いないわ!そして私達一緒にココに住むことになるかもしれないのよ!

それから3週間、橘さんは毎朝、私を待ってくれていたんです。
毎日少しづついろんな話をしてきました。少ししか話せないのは勿論私を待ってる人々がいるから。あたりまえじゃないですか。
そしてとうとう今朝、橘さんは私にこう言いました。
【後で家を訪ねてきてくれないかな?コーヒーでも一緒にどう?よかったら朝食もごちそうしたいな。】
配達を終えて、急いでアパートに帰って、シャワーを浴びて、ちゃんとお化粧して、ブルーのワンピースを着て・・・もちろんいつもの世話も終えて・・・
やっぱりお化粧をとりました、だって新聞配達してる時の、私が見初められたんですから。
橘さん言ってくれたんです、キミはツユクサのような女の子だね、朝一番に美しいって。
だから私ツユクサって知らなかったけど本屋で立ち読みして調べてその花をアパートの横で見つけてよく見たら本当に綺麗で頷けました私のようだと。

何故か二階へ通された。ドアを開けるとそこはベッドルームで男が3人いた。カメラがあった。
橘さんが優しい笑顔で私に言った。「綾瀬りょう、だよね」そしていきなり私は顔を殴られた。
帰ることを許されたのは日が暮れ始めた頃。アパートの横のツユクサは萎れていた。

私がAV女優になったのは、生きる為じゃなく、生活の為なんです。
だって私が身体を売らなくちゃたった1人の家族が困るじゃないですか。
寝たきりの祖母が私を待ってるの。毎日毎日待ってるの。だからそれって私の使命なの。
使命が無くなれば生きてく理由は無いのと一緒じゃないですか。
だから私は帰ってすぐ祖母を殺したんです。そして5丁目の角の家に火をつけたんです。
私は醜い行いをしてたの。これが私の生きてきた方法なの。方法だけど結果なの。
わからないですか?あなたもしかしてバカじゃないですか?死んだ方が良くないですか?

ヒメジオン~姫女苑~

2004-08-03 04:00:33 | (癒
5:30AM
早朝の住宅街。ドーベルマンを連れた姫野。
肩まで伸びた黒髪を揺らし、柔らかな表情で散歩している。
やがてアーケードの商店街前。前方から朝帰りの若い男がフラつきながら歩いてくる。
鼻にピアス。ヒトリゴトかラップかわからぬ何かを呟いては声を上げて笑う。と。
「あっらぁ~!?ヒメノじゃね?!」
気づいて近寄ろうとする。ドーベルマンが低く唸る。無視して近づく男。
その瞬間ダブついたボトムに食らいつく犬。男、悲鳴を上げる。「HAL!STOP!」
ヨタつきながら逃げる男。唸る犬。涼しい顔の姫野。「もういいよ、HAL」
一転甘えた声。カットされたシッポを千切れんばかりに振って喜ぶ。
「さんきゅ、強いね、HAL」

8:00AM
事務所の社長宅。敷地内に小さなログハウス。姫野そのドアから出てくる。
社長宅の玄関横でクゥンクゥンと鳴くHAL。
「行ってくるね、一週間で戻ってくるから、待っててね」
玄関から白髪交じりの髪を後ろで束ねた社長が出てくる。
「おぅ行くか。事故だけは気をつけろよ。」 
「はい気をつけます。HALをヨロシク。」
「ヨロシクっておまえ、俺んちの犬だぞ。」
笑い合う2人。淋しげに鳴くHAL。ガレージに400ccのkawasaki。

10:30AM
パーキングエリアのレストラン。姫野が和定食をゆっくりと口に運んでいる。
定食のトレイの横に広げられた地図。
彼女の周りだけ席が空いている。遠巻きの人々。食事をしながらチラチラと彼女を盗み見る。

口を開け、額にうっすらと汗をかき、眠っている春野。
階下の母親の声が響く。
「いつまで寝てんだよっ!大学休みの時っくらい配達手伝いなっ!」
・・・んんん。・・・ゆっくり瞼が開く。・・・大きく伸び。
やがて身体を起こし、ボサボサの髪をワシャワシャと掻き分け、ふとベッド横の卓上鏡を見る。
トロンとした目。顔を顰めてみせる。嗄れた声で呟く。「・・・アホか。」

12:00PM
疾走する姫野。ダークブラウンの革の上下。長く続く左カーブの出口付近を見つめつつ。

軽トラを運転する春野。頭にタオルを巻きセブンスターをくわえて。ラジオから出身校の甲子園予選の実況。

1:30PM
高校の前。門から少し離れた位置にバイクを止める。メットを脱ぐ。
校舎内から生徒達の歓声が聞こえる。
教室の窓からはメガホンを持った女生徒達がピョンピョン飛び跳ねているのが見える。
姫野、跨ったまま、見つめている。

「まいどぉーッス!」空のビールケースを2つぶら下げて配達先の門から出てくる春野。
荷台にケース置く。
ラジオから自分の高校が決勝進出を決めた事を告げるアナウンサーの声。
「ッシャーーーーーーーーッ!!!」低くガッツポーズ。頭のタオルをむしり取り天を仰ぐ。

1:50PM
【春野酒店】が見えてくる。徐行するバイク。店の左端にログ風の犬小屋。
思わずバイクを止める姫野。
中から柴犬が出てくる。ブルブルブル・・・前足を突き出し、伸び、アクビ。
赤い首輪。犬小屋の入り口上にネームプレート。へたくそな字で【ヒメの家】
店番は誰もいない。バイクを降りる。メットをミラーにかけ歩み寄る姫野。
静かにしゃがみ犬に声をかける。「いい子だね・・・ヒメっていうの?」
クゥンクゥンと人懐こく甘えるヒメ。優しく差し出された掌。クンクンを匂いを嗅ぐ。
そっと頭を撫でる。喜んで更にシッポを振るヒメ。微笑む姫野。
・・・やがて静かに涙が溢れてゆく。

2:00PM
ゴキゲンで運転してきた春野。店の前で軽トラを止める。
アンッアンッと鳴きながら道路の先を見ているヒメ。
「ただいまぁ~。どうした。誰か来たか。」
ヒメの視線の方を見る。遠くにバイクが一台。ウインカー。
ブレーキランプ。左に曲がる。消える。
「どしたヒメ、泣いてんのか?」
抱き上げる・・・頬ずりする・・・バイクが消えた方を眺める春野とヒメ。

ニワゼキショウ~庭石菖~

2004-06-06 01:16:13 | (想
本当なんだ。信じてよ。
君が好きで好きで好きで
それはもうどれくらい好きなのかって
毎日毎日君がもしも死んでしまったら
そう思って日に一度は必ず泣きたくなる程で
何故泣きたくなるかと云うとそれは
君が死んでしまってもきっと僕は
昨日の続きのまま生き続けてゆくだろうことを確信できてしまうからで
それからはきっと日に何度も泣きながら
生きてゆくだろうことを想像できてしまうからで

こんな道端の小さな碧紫色の美しい花が
まるで星の群れのようにケナゲに咲いているのを見ただけで
ヒトは死んでしまったらオソラのオホシサマになるのでしょうかと
幼子のように舌足らずな無垢なようすで尋ねてみたとしても
グルリと周りを見渡して誰か答えてくれる存在を探してみたとしても

僕のワカラナイコトの全てに
正確に確実に的確に答えてくれるのは
どう考えても君しかいないんだとハタと思いあたり
君がいなくなってしまったら
僕は一体それからの路を
どういう順路でどういう速さでどういう歩き方で進んでいけば良いのかさえ
わからなくなってしまうのでしょう

今夜
月が
ほんの少しの時間だけ
紅く浮かんでいたことが
また
僕を
泣かせてしまいました
泣かせてしまいました

誰知る由もないことなのだけど
本当なんだ。信じてよ。信じてよ。

アカツメクサ~赤詰草~

2004-06-01 03:01:33 | (笑
先日、お隣のお嬢さん(さやかちゃん:仮名・息子と同じ年中さん)を預かった時の事。
2人仲良く庭先でおままごとをしている様子を、洗濯物を取り込みながら微笑ましく見ておりました。
シロツメグサをお茶碗に盛りつけて、「はい、ぱぱ、ごはん」
息子が受け取って、「あ、まま、ふりかけとって」
「もぉぱぱったら、いっつもふりかけごはんなんだから!」
「じゃ、のりちょうだい」
「もぉじかんがないわよっ、はやくたべてねっ、わたしももうすぐパートのじかんなのよ、ほいくえんによらなくちゃいけないし」
・・・押されがちな我が息子。笑いを堪えながらこっそり聞き耳を立てていると。
「じゃ、いってらっしゃい」
「はい、いってきまぁす」
「あ、いってきますのチュウは?」
「・・・・・・・・えーーーーーーーーーーーっ!?」
垣間見えるお隣の朝の風景に思わず吹き出すところでした。息子はとりあえず逃げるように出勤したらしいのですが。
場面が変わって、夜。
「じゃあ、おしごとおわって、かえってきたところね」
「う、うん・・・」
「おかえりなさ~い!」
「ただいま」
「ごめ~ん、いまいそいでごはんのじゅんびしてるから、さきにおふろはいっちゃって」
「えー、おふろぉ?」
「ついでにあかちゃんもおふろにいれてね!」
「えー、なんだよぉ・・・」
「じゅんくん。えー、とかいわないで」
「だっておなかすいてて、つかれてるのに」
「いいからっ!えーとかいわないのっ!」
もう可笑しくて可笑しくて。でも大人が見ていると、子供ってシラケてしまうものです。黙って隠れて見てました。
さやかちゃんは、シロツメグサとアカツメグサを、ボールの中で一生懸命マゼマゼしています。
「どぉ?おふろおわったぁ?」
「おわったよ・・・」
「あかちゃんも、ちゃんとあらってくれた?」
「ああ・・・ちゃんとあらったよ」
「ごくろうさま、はい、びーる」
「プハ~~~~~~~ッ!うまいっ!クウ~~~~~~~~ッ!」
ご苦労様と言われて少し気を取り直した様子の息子。全く男って・・・。プハーだって。クウーだって。
「ごはんもできたわよ、きょうはぱぱのだいすきなたきこみごはんよっ!」
・・・実は、ウチの息子、炊き込みご飯があまり得意じゃないんです。なんて言うのかしら、と見ていたら。
「やったー!うまそうだなぁー!」
なんですってぇ!?・・・なんだか少しガクッときました。合わせんなよ、と。
「うふふっ♪」
なんていうか。これはTVの影響なんでしょうか、それとも・・・
そうこうするうちに今日はパートの誰それさんがお休みで大変だったやら、パパのボーナス出るかしら、やら・・・。
やがて夕食が終わったらしいのですが。
「ごちそうさまー」
「はい、じゃあすぐあかちゃんをねかせてくるから、ぱぱ、あらいものおねがいね」
「えーーーーーーーーっ!?」
「じゅんくん、えーとかいわないのったらぁ!」
「だってぇ・・・」
「だって、じゃないでしょ?きょうはたきこみごはんの日なのよっ?」
「なにそれ」
「たきこみごはんの日は、なかよしオネンネの日なのよっ!!!」
「なにそれー・・・」
「いいから、いっしょにねるのよぉっ!!!」

・・・おわかりでしょうか。つ、つまり、お、お隣では。
炊き込みご飯の日が・・・パパ&ママのラブラブの日・・・ってことのようなんです。
その後息子は庭じゅうを逃げ回りさやかちゃんは息子を追いかけ回してキャーキャーキャーキャー・・・
春の午後、私は子供達の声を聞きながら洗濯物を畳みつつ、なんだか溜め息などついてしまいました。
そこに、さやかちゃんのママが帰ってきまして。雑談をしているうちに、夕食何にする?という話しに。
はい。オチがみえました?・・・そう、さやかちゃんのママ、キッラキラの眩しい笑顔で。
「ウチは今夜、炊き込みご飯よっ♪」


・・・ラジオネーム【もぉだめぽ】さんからのお葉書でした。
あ~なんだか私も・・・可笑しいような、羨ましいような、微笑ましいような、いえやっぱり、溜め息ですかねぇ。アハハ
・・・・・・そうだ。そういえば、アカツメグサで 今思い出しました。
昔。昔ね、ウチの母親が、時々、小指の爪だけマニキュアしてた。何故だか次の日父も母もとっても機嫌が良いんで、子供心にヘンなのって思ってて・・・これってもしかして。

・・・もぉだめぽさん、私も・・・深い溜め息つかせて下さい。嗚呼。もぉだめぽ。

キュウリグサ~胡瓜草~

2004-05-29 08:32:08 | (想
おぉ、よぉきたねぇ、さ、あがってあがって。
暑かったやろぉ?よぉきてくれて。気の毒な。
冷たい麦茶でも持ってくっから、ゆっくりしていかれぇ。。。

おめでとぉねぇ・・・ほんとにまぁよかったなぁ・・・
旦那はんになる人ちゃ、幾つんなられんが?はぁー、5つ上けぇ、そらいいわ。
大事にしてもらわれ。優しい人ながやろ?
うんうん、はぁー、ごちそうさん、幸せな人ちゃいいねぇ、こっちも幸せんなってくるわぁ。
あんな小さて、お母さんお母さん言うてくっついてまわっとったあんたがねぇ、こんなん綺麗な娘さんになってぇ。

あれぇ。この人け?アッラこの人また死んだじいはんの若い頃にそっくりやぁ!
ええ男やねぇー!えぇもぉウチのじいはんも男っぷりちゃよかったよぉ。ほんとやて。
あぁ、ミナちゃん、あんた、オシンコ食べていかれ。
昨日畑でとれたキュウリ、さっと漬けたのがあるよぉ、うんまい具合に漬かっとってぇ。

・・・なぁ?おいしぃやろぉ。そうかそうか帰りに持ってかれ。裏の畑のもとっていくといいわ。
・・・そう言えば、ウチのじいはん昔っからキュウリが大好きでぇ。
嫁いできてすぐに、キュウリの苗を植えんないけません、言われて。
毎年夏んなると味噌つけて食べるがと一夜漬けとぬか漬けとぉ・・・て毎日毎日よお食べたもんやって。
歯の丈夫な人やったからねぇ、そらもうカリカリカリカリ気んもちいい音たてて、食べとった。
そやそや・・・。そのなぁ、キュウリで思い出した。
味噌つけるやろ?その味噌が。はぁ、ミナちゃんも好きけ?アハハ、こら血すじかねぇ。


昔のこっちゃ、今みたい味噌でも買ってこんと、それぞれ自分とこで作っとったもんやちゃ。
じいはんちゃ自分で上手に味噌でもこさえる器用な人でねぇ、その造り味噌添えて出しとったんねぇ。おかずやら酒の肴の甘い味付けちゃ嫌ってたもんで。
ほしたらある日、祭りかなんかの時やったかねぇ、いい気分で酔うて、出されたキュウリのもろみ味噌ぉ美味しそうに食べとってねぇ。
わたしんこっちゃ、おっどろいて見たもんやちゃあ。アッレかぁアンタ、甘いもろ味噌嫌いやったんやないの、言うて。
ほしたらじいはん、アッチャーて顔して言うたもんやちゃ。
「おまえがいっつも気持ちよく、俺の造った味噌で出してくれるもんやから、言えんかった」てねぇ。
もう何十年も言えんまま、もろキュウ食べれんで。アハハハ・・・
まぁまぁつくづく、自分の思い込みでぇじいはんにそんなんしとって。
そう思うたら、申しわけなぁて申しわけなぁてねぇ・・・。

あれ。かぁまた、ミナちゃん、あんた泣いとんがけぇ?
あれあれミナちゃんあんたどしたがけぇ・・・アッラわたしもなんか涙出てきたわねぇ。

じいはんに習って造った味噌、あるよ、食べてみっけ?ん?ならちょっと待っとられぇ。

ん・・・美味しいやろ・・・じいはんの味噌ちゃ、ほんと美味しいがよ。
・・・・・・・・・ミナちゃん、アンタ幸せになられ。
旦那はんになられる人に、優しいしてあげんなんよ、精一杯。
わたしみたい、ホント馬鹿みたい思い込みせんように、気ぃ配ってあげんなんよ。
優しい人ちゃ、言い出せんこと、あるがやから。こんな些細なことでもねぇ。


なんなんなん、わたしのこっちゃそんなハワイなん遠いとこまでちゃ、行けんて。
ここでお祝いしとるから、気ぃ遣わんと楽しんでこられ。帰って来てから写真でも見せてぇ。
うんうん皆さんに宜しく伝えてねぇ。あんたほんとによぉ来てくれて。ばあちゃん嬉しかったぁ。
なんや、いらんことばっかり喋ってしまって。ホレ、今とってきたキュウリも持っていかれ。
え?味噌も持っていきたいがけ?あぁあぁ、いいよぉ、またいつでも来られ。ねぇ。

・・・・・・ありがとぉありがとぉ・・・・・・。きのどくな。

アザミ~薊~

2004-05-28 15:46:40 | (怖
久しぶりに立ち寄ったバーの止まり木には、男が独り、ロックグラスを傾けているだけ。
「いらっしゃいませ」マスターがグラスを磨いていた手を止める。
男から数えて右5つ目のスツールにジャケットを置き、6つ目に腰を落ち着ける。
「マスター、仕事絡みの会食で疲れてるの。1杯目は甘いもの、お願い。」
「かしこまりました。」
磨き込んだトールグラスを背後の棚に収め、ブランデー、クレーム・ド・カカオ、そして向き直り・・・冷蔵庫から生クリーム。
アレキサンダーか、いいナ。そう思った瞬間から緊張感がほぐれはじめる。
マスターの無駄のない動きを眺めながら、頭の中が、少しずつ無に近づく。

「お待たせ致しました。」
仄かなナツメグの香り。アイスフレークが程良くフロートしたグラス。この一杯を愉しむためにのみ、今日の辛い仕事があったのだ。
・・・嗚呼・・・美味しい・・・急速解凍されてゆく神経。
一杯を丁寧に愉しんで、その余韻に浸ろうとしている時、

    あ。・・・ジタン!

クセのある煙草の匂いが、至福のひとときに、水を差した。
“ジタン・カポラル”ル・ジタンとはジプシー。煙草のパッケージには紫煙とジプシー女が踊る。
アレキサンドラ王妃から一気にジプシー女へと私を転落させたのは6つ左の男。
ジタンの薫りは、嫌いではないのだ。ただその薫りが思い起こさせる記憶が、問題なのだ。

あの男は、刺々しい人、だった。
誰もが理由無く緊張してしまうような、軽口など到底叩けないような、ピリピリとした空気を纏っていた。
ただ、そういった種類の男に魅力を感じてしまう女というのも確かにいるのだ、あの頃の私のように。

何が楽しくてあの男と付き合っているのか。あの男が何故私を選んだのか。時折考え込んだものだ。
私はもしかして蔑まれたり罵られたりすることに喜びを感じる女なのかと自分に問うてもみた。
だが。或る夜。その謎が遂に解けたのだ。

直属の部下が、取引先との契約の最後の詰めでミスを犯し、その責任を取るべく、彼が担当を外された夜。
したたかに酔った彼を送って行き、初めて家の中に、足を踏み入れた。
整然とした部屋。塵1つないカーペット、サイドボード、キッチン。
思った通り生活感のない・・・と、一瞬、違和感。
左の壁一面を覆い尽くすように、ソレらは並べられていた。
「スゴイだろぉ~!ボクのぉ~、タカラモノなんだぁ~!」いつの間にか豹変したあの男は、ヘラヘラと言った。
夥しい数の、フィギュア・モデルガン・本・ビデオ・DVD。全て【ルパン3世】関連のグッズであるようだった。
・・・・・・・・・・・・寒気がした。
「あのねぇ~、教えてあげようかぁ~、ルパンはねぇ~、ヒックぅ~、ジタンをぉ~、吸ってるのよぉ~、わかるぅ~?ふうぅ~じこちゃ~ん???」
・・・・・・・・・・・・え?フジコ?不二子?
つまり。そういうこと???
私の名前は籐子、トウコなのよ。藤子じゃない、不二子じゃないのよ。
なんということ。付き合っている女の名さえ重要ではなかった。大事なのはフジコであることだったらしい。
・・・私は、私の中で、何かが炸裂する音を聞いた。

あの男を刺してやった。言葉で、メチャメチャに刺してやった。私が学習した男のヤリクチで。
罵り、蔑み、トドメを刺すまで充分に時間をかけて。
私は棘に刺されながら、棘の使い方を学んだのだ・・・ナンテキモチイイノカシラ。


マスターが2杯目は?と目で問いかけている。
「ブラックサンブーカ・・・オパール・ネラあるかしら?」
「ええ。もちろん。」
「では・・・シャンパンで割って下さる?」
「ブラックレインですね。」
6つ左の男の右半身が反応する。紫黒色の棘を刺す瞬間を思い描く。雨のように棘を浴びせる瞬間を。
そして私はゆっくりと男を眺め、弱みを突き刺すその場所の在処を探しつつ、出来る限り穏やかなる微笑みを投げた。

オオイヌノフグリ~大犬の陰嚢~

2004-05-26 00:10:56 | (癒
学校のかえりに、神社のところで犬をひろいました。
「クーンクーン」
と、聞こえたので見てみたら、やせた茶色の犬でした。その犬を見てすぐにぼくは、
「あ!じいちゃんだ!」
と思いました。先月死んだじいちゃんにそっくりでした。
おかあさんにおこられると思ったけど、おいていけなかったので、だいてかえりました。
かえってすぐ、牛にゅうをあげました。
そしたら、皿にかおをつっこんで、どんどんのみました。
からだがきたなかったので、シャワーであらってやりました。
少しピカピカになって、うれしそうにシッポをふっていました。
おかあさんがかえってきて、びっくりして犬を見ました。
「おかあさん、この犬じいちゃんにそっくりだね。」
と、言ってみました。
おかあさんは、だまって犬を見ていました。
すててきなさいと言われたらどうしようかと、ドキドキしました。そしたら、
「たかし、きれいにしてあげたの?いいにおいがするね。」
と、おかあさんが言いました。
「うん。」
と、ぼくは言って、またドキドキしました。
おかあさんは、おしいれからダンボールを出して、くみたてて、ガムテープでとめて、いちばん古いバスタオルをしきました。
「たかし、今日はここでねかせてあげようか。」
と、言ってくれました。
でも、明日すててきなさいと言われたら、どうしようかと思いました。
おかあさんは、犬をだいて頭をなでて、
「たかし、名前考えたの?」
と、言いました。
ぼくはびっくりして、うれしくて、かおがカーッとなりました。
「まだ考えとらんよ。」
と、言うと、おかあさんが、
「じいちゃんの名前もらっちゃおうか。」
と、言って、にっこりわらいました。
おとうさんがいなくなって、じいちゃんがねたきりになって死んでしまって、おかあさんはずっと、つかれていました。だからぼくは、おかあさんがにっこりわらったので、すごくうれしくなりました。
夕ごはんを食べながら、おかあさんが急に泣きそうになったので、ぼくは、
「タケゾウ、きんたまピカピカになってよかったな!」
と、言いました。おかあさんはびっくりしました。
「じいちゃんのオムツかえる時、きんたまシワシワでかわいそうだったね。」と、ぼくは言いました。
「たかし、そのなとこ見てたの?」
と、おかあさんがまたまたびっくりしました。
タケゾウをだいて、テーブルをグルグル回りながら、
「タケゾーきんたまピッカピカー!タケゾーきんたまピッカピカー!」
と、歌いました。おかあさんが、ゲラゲラわらいました。
ぼくは、はりきって大きな声でうたいました。
その時、タケゾウがジャージャーおしっこをもらしてしまいました。
ぼくも、おかあさんも、
「ウワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
と、わらってしまいました。
おかあさんが、ぞうきんをもってくると言ったので、ぼくは、
「今日から、ぼくがじいちゃんのおしっことうんちのせわをする。」
と、言いました。
タケゾウを高い高いしてやったら、またジャージャーおしっこをして、ぼくの服がぬれました。
ぼくもおかあさんも、また、
「ウワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
と、言って、わらってしまいました。

ユキノシタ~雪の下~

2004-05-24 10:50:00 | (笑
・・・・・・♪
・・・!・・・!!・・・!!!・・・♪

???
。 。 。 。 。 。
! ! ! ! ! !
♪♪♪

・・・?・・・!・・!!・・!!!・・・!!!!・・・!!!!
!?!?!?!!!!!!

・・・~~~・・・~~~ ・・・~~~~~~・・・
~~~・・・~~~・・・!・!!・!!!・!!!!・!!!!!

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪



・・・・・・1R。


「なぁ・・・」
「・・・・・・ん?なぁに?」
「こんどウエになって。」
「!!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪」


!!!ふぁいっっっ!!!

チチコグサ~父子草~

2004-05-23 12:07:01 | (想
さっきから俺のケツを触ってる奴がいる。


<ラッシュ:電車内>     
前のオッサンのテッカテカの頭頂部を見下ろしたまま、通常の-1.5倍のボリュームで、発声してみた。
「ふざけんな。」車両中の視線が突き刺さる。関係ねえ。もぉほぉ野郎が。
ガッ!と、そのケガレタオテテを掴んで思いっきり引っ張り上げる。
ギャャーーーッ!!!    ・・・・・・ぉ。おんな。でしたか。

「なにすんのよっ!イタイじゃないっ!」

加害者から被害者ですかそんなんでおじちゃんモタモタになるとお思いですかこのクソジョシコーセーが。はぃ非難ゴぉゴぉの視線ありがとミンナでもオイタをしたのはこのオテテですこのヒネたクソガキの。
「なにすんのよおしりがきもちいいじゃない。」と。抑揚無く、通常のボリュームで、発声してみた。

「・・・・・・あんたが気に入ったのよぉっ」

こりゃまたすげぇ言い逃れだこと!!!どうなってんだ!?近頃のオンナは!!!

<ストーカー:家までの道程>
トコトコペタペタ跡つけてきてますか。なんだお前は単なるヘンタイか。恐ぇ~なぁまったく。
家賃7万5千円の安アパートの真ん前でオレは一応労いの言葉をかけてあげました「気ぃつけて帰れや。」
早いとこ車探さないとロクなことない。一週間でこれで3回目。しかも今度はイカレた女子高生ねぇ・・・。

<冷蔵庫前の野牛:帰宅>
オヤジの形見分けです、と火野さんが持ってきたのは、MercedesS600だった。
何処に置けって言うんですかと項垂れた俺に【遺言】ですからとだけ言い残して火野さんは去っていった。
もう何年も会ってなかったオヤジの置き土産がこの怪物。笑えない冗談だ。笑うしかない。
それでも仕事上どうしても足が必要で、我慢して3日は乗った、偶然俺のポンコツが廃車になったばかりだったので仕方なく。
仲間にはハマりすぎ!と笑われせっかく仲良くなった掃除のオバチャンが急に無口になり大家は視線を逸らし。久々の電車じゃぁ俺の半径3mには透明なバリアが張り巡らされラッシュならもぉほぉの餌食。
こんな事なら・・・あんな車でも、返さなきゃ良かったって話、か・・・。
そうだ。俺の娘も・・・あれくらいのオンナノコになっているはずか。
どうしているだろうか。いい女のDNAをちゃんと受け継いでいるだろうか。俺に似てたら・・・考えたくもない。
冷凍庫のキンキンに冷えたズブロッカを流し込み、ズブラと化した胃袋の歓喜の叫びを聴きながら、ボンヤリと俺はそう思った。
・・・とにかく熱いシャワーでも浴びて、と。
                         ・・・・・・財布。

<モノローグ:オンナの部屋>
パトラッシュのおっちゃん、見つけたよ、私。
言ってたよね、もし見つけたら・・・ケツでもさわってみるんだナって、カラカラと笑いながら。
アレがおっちゃんの最後の言葉だったよヒドい話です逆に笑っちゃいます。
何日もおっちゃんに会えなくて心配しはじめてた、あの日。いっつもくっついてるガラの悪い凸凹コンビの凸が噛まれそうになりながらマジ泣きながらパトラッシュを散歩させてた、あの日。ダイの大人の男が涙と鼻水でグチャグチャになってるのを初めて見た、あの日。おっちゃんの相棒がもう二度と“パトラッシュ”って秘密の名で呼ばれないことを知った、あの日。「引っぱんなよぉ、啼くなよぉ、俺だって泣きたくなるじゃネェか、ゥワァ~~~ンッ!」

おっちゃん・・・最後まで名前教えてくれなかったね。
週に2回くらいしか逢えなかった。いつもほんの15分位だけだった。でも1年楽しかった本当に。
きっとめちゃヤバい人。だけどうんとカワイラシい人。そしてやっぱダイスキな人。
初めて飼った犬の散歩であの“サンポの穴場”の霊園に行ってウチのルシアンがおっちゃんの犬に擦り寄って離れなくなったんだっけ。
父親の顔も知らずに育ってきた私だからおっちゃんの中に重ねてたのかな、もしおっちゃんみたいな男の人でもっと若かったら、カレシにしたいなぁってアレ本気で思ってた。
・・・さがしてた探してた捜してたサガシテタ・・・
祈りが通じたのかな、神様っているのかな、おっちゃんが見つけさせてくれたのかな。
財布。明日返しにいくよ。返すために盗っちゃったんだゴメン。

<セピア:財布の中の古びた写真>
アレこの写真・・・この赤ちゃんアノヒトかなぁ・・・
抱っこしてる人、お父さん?・・・あ、アノヒトそっくりだ。
ゴッツイ顔してこんな写真持ってるなんて、アハハッ、おっちゃんみたいにカワイイとこあるのかも。

<最後の日:追想>
凸凹コンビには睨まれたけどさぁ。あの時一枚だけ写真撮らせてもらってよかったヨ・・・おっちゃん。
いい笑顔だね・・・おっちゃん。
アノヒトもこんな風に笑うのかなぁ・・・ねぇ、おっちゃん。



「・・・はい。財布返しにきました。昨日はごめんなさい」
「・・・ヘンタイ女か」
「遺言だったの」
「遺言?」
「大事な人の遺言。好きなオトコ見つけたらケツでもさわってみろって。」
「はぁ?」
ジョシコーセーは、一枚の写真を、差し出した。
・・・デカい犬・・・墓場・・・メルセデス・・・
       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・おやじの笑った顔を、初めて俺は、見た。

カラスノエンドウ~烏野豌豆~

2004-05-22 01:21:31 | (笑
「リョウコっ!トヨカワ来てるっ!!!」
久しぶりィ、の挨拶もナシに、ヒトミがそれこそ瞳をランランと輝かせてやってきた。
えっ?!来てるの?!どうしよう?!
・・・ヤダやっぱりあっちのワンピース着てくれば良かった。
なんて。話しかける勇気もなければ、話しかけられる可能性もゼロに等しいに決まってるのに。

軽やかなビバルディが流れる中、やはり彼の周りだけが、一段と華やかな空気に包まれている。
クリエイター・トヨカワクンを囲む会だナァまるで。・・・ヒロセだ。
「でもさぁすげーよなトヨカワって。中学ん時はイケスカネェ奴だって思ってたけど。さっきちょっと話したんだけど、今映画つくってるんだってよ!ちゃんとオレの名前覚えててさ。サッカー続けてるか?なんて言ってくれてさ。なんかオレ舞い上がって声ひっくり返っちゃってさぁ。ファンかよっ、て話!」
なんだかテンション低かった“その他大勢”がドッと笑いに包まれる。
あの頃と変わらないムードメーカーのヒロセの言葉をきっかけに、ようやくコチラ側も和やかな雰囲気になっていった。


美術室の掃除当番で教室に入ったとたん。
キャンバスいっぱいに描かれたその花の可憐な美しさに圧倒された私は、ただただ、立ち尽くしてしまった。
白から、紫がかったピンクへの、グラデーション。鮮やかな葉のグリーン。
何だろう・・・蘭?スイトピー?スミレ?
「あ。」声がして、弾かれたように振り返ると。そこにいたのはトヨカワだった。
カーーーッと身体中の血がいっぺんに顔に上ってきたドキドキどころじゃないドッカーーーン、だ。
そして次の瞬間。トヨカワが教室に素早く入ってきて。後ろ手でドアを閉じた。

・・・トヨカワの長いマツゲのヒトツヒトツを、私は、見てしまった。

あぁもうそれから後はドコをドウ走ったのか。
廊下でヒトミと衝突して倒れて起き上がってそのまま逃げて追いかけてきたヒトミに捕まって泣いて。
どうして?どうして?どうして?
聞きたいことはたくさんあった、けれどそれから卒業まで、二度とトヨカワの顔をまともに見れなかった。

取り巻きに囲まれたトヨカワは、チラッと盗み見るたびに、穏やかに笑ってる。
意識しながらもヒロセの爆裂トークとヒトミの間のいいツッコミに久しぶりに大笑いしてる私。

ざわめきの中・・・ひとり広間を出て・・・ホテルの中庭を見下ろす窓辺へ。
もう昔のこと。でも1つだけ。どうしても知りたいことがあった。
私のことが好きだったのかなんて、もう聞くつもりはない、今さら聞けるわけもない。
・・・花の名前。キャンバスいっぱいに描かれた、あの花の名前。
あの後、展覧会に出品されて、何かの賞をとったのだ。
そして朝礼の時に体育館のステージで表彰されたのは、トヨカワだった。

「リョウコ」
声で、わかった。わかったので、振り向けなかった。トヨカワが、隣に並んだ。
何か話そうとする、その呼吸を遮って、私は中庭を見下ろしながら言った。
「なんていうのかな。あの花」

・・・ついてきて。
そう言われて、黙ったまま階段を下り、ロビーを通り過ぎた。
回転ドアを抜け、ホテル横の駐車場へ向かう途中の道路脇の草むらでトヨカワは、ふいにしゃがみ込んだ。
「よく見てごらん。」道端でよく見かけるような雑草を手渡された。
え?だってこれ・・・言いかけて、ハッとした。
あの花!あの花だ!これだったの???
花屋に行くたびに探していたのに。こんなちっちゃな雑草だったなんて!

絵が出来たら言おうと思っててさ。でも書き上げたその日に絵の前にいただろ。自分でもワケわかんないうちにあんなことしちゃって。
ゴメンな・・・・・・・・ちょっと変わった名前だろ。
ガキだったからさぁ、こんな道端のちっちゃい花を、リョウコの花って決めて喜んでたんだ。
誰もマジマジと見たりしないだろ。こんなに綺麗なのに。だから。
なんか自分だけの秘密を大事にしてるみたいで、それだけで満足してたんだ。
涼子の涼っていうのもピッタリだぁなんてさ。ガキだよなぁ。今だから笑えるけど。

なんでカラスっ?!     あぁサヤの中の種が真っ黒になるからだったかなぁ。
ヤダもぉトヨカワってヘンだよっ?!     やっぱヘンだよなぁ。
アハハッ!     アハハハッ!
なんか。ミンナに囲まれてたセレブトヨカワじゃないみたい。     
えぇ~なんだそれ?あーもぉ疲れちゃったよリョウコんとこに行こうと思っても行けないし。

そのヘンチクリンな名前のおかげで私は、トヨカワに向かって初めて、心からの笑顔をみせることができたように思う。


「オレ、遠藤のこと好きだったんだよなぁ・・・あああ~~~」
様子を伺っていたヒトミがゲラゲラ笑いながらヒロセの頭をグリグリと撫でている。

かわいそーにねぇヒロセっ♪よっしゃアタシが付き合ったげる!

エーーーーッ!?オマエかよ~~~っ!!!
                       バシッ。。。イデッ。。。

タンポポ~蒲公英~

2004-05-19 15:54:28 | (癒
「おかわりは?」
「・・・ん。半分」
「今日も遅くなりそうかしら。」
「・・・・・・」
「遅いわよね。」
「・・・・・・」

「・・・このみそ汁」
「え?あ、夕べからニボシでダシとっておいたのよ、わかる?」
「しょっぱすぎる」
「え?」
「気をつけろよ」
「あ・・・はぃごめんなさい。」

「コーヒー」
「はい。」
「・・・」
「あなた、」
「・・・」
「ねぇ知ってる?」
「・・・なんだ」
「タンポポの根っこでコーヒーが作れるんですって。」
「・・・・・・」
「隣の奥さんがね、この間カルチャーセンターの自然食のクラスで作ったんですって。」
「・・・・・・」
「素朴な味がしてニガミもあって。美味しかったって言ってたわ。」
「・・・・・・」
「あ、ミルク入れます?」
「・・・ブラックだ」
「はい。」
「・・・・・・」
「タンポポコーヒーなんて、なんか可愛らしいわね。」
「・・・おまえ」
「え?」
「そんなゲテモノが好きなのか」
「え?」
「気色悪い。そんなモノを美味しいなんていう奴の気が知れん」

「行ってくる」
「はい・・・あ、あなた、」
「なんだ」
「あの・・・」
「なんだ。時間がない」
「今日・・・」
「なんだ。帰りの時間なんか朝わかるか。何度言ったらわかるんだ」
「・・・はい。」
「それだけか」
「・・・はい。」
「行ってくる」
「いってらっしゃい。」


夫の椅子に座り、コーヒーカップを手にとる。
最初の結婚記念日に行った旅行先で、夫が自ら土を捏ねて焼いた、ペアのカップ。
両手で包み込むようにして眺める。・・・小さく溜息。
それから、急に思いたったように、背筋をシャンと伸ばす。
イビツな形。でも暖かみのあるズッシリとしたカップ。高々と掲げる。
そして、くっきりとした声で、言ってみた。

「5周年おめでとう!ガンバロー!!!パチパチパチパチッ!!!!!」

コクッ・・・コクッ・・・コクッ・・・
夫が飲み残したタンポポコーヒー。
春の、野原の、味がした。

レンゲソウ~蓮華草~

2004-05-18 20:25:19 | (幻
・・・・・・・・・・・・・・・・いてぇ・・・いてぇいてぇいってぇよぉ
なんだ俺どうなってんだ・・・寒いな・・・
さみぃさみぃさみぃなんでこんなに寒いんだよぉ
                  起き上がれねぇ 何なんだよ どーなってんだよ

どこだここ・・・くせっ・・・土くせぇ
なんかのみてぇなぁノドからか・・・ぐっ、ぐほっ、ぐおっっっおっおっオゥエッゴヴォーーーーーグッグッグッグッゴキュゴキュッ
血ぃでた 血ぃはいた 血が、、、、歯が、、、ねえ、、、ぜんぶねえ、、ぉぉぉ、
くち・・・び、る・・・くちびる、が、ねえ、、、にく、がねえ、、ぉぉぉ、

おもいだした 
タカヤマだ・・・タカヤマにやられた
あのヤロォぶっ殺してやる そうだチャカ・・・どこいった?!腕動かねえぅぅぅぅぅいってぇ
・・・・・・ゆびは
おれのゆび ゆび ゆび ゆび ゆびぜんぶは            ねぇよぉ、ないよぉ、

ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、

あったかい あったかくなってきた

かあちゃん・・・しぬ、かもしれない・・・おれ・・・おかあちゃん

みえてきた どろだ どろだどろだ、
やっぱり 田んぼんとこだ かあちゃんと住んでた頃の においだ
かあちゃんに叱られるかと思ったけどかあちゃん泥ンコの俺抱きしめてくれたな
金なんかなかったからよぉレンゲいっぱいとってかあちゃんにあげたかったんだよぉ
たんじょうびだっただろ、な、かあちゃん、
かあちゃんゆうべもおやじに殴られてたなあ痛かっただろ、かあちゃんかあちゃん・・・

大人になったら俺が、俺が、俺が、俺がおやじを殺してやるからな、かあちゃん
ホラおたんじょうびおめでとうかあちゃん美人だから花が似合うよかあちゃん
泣かないできれいだよかあちゃん泣かないで俺が守ってやるからなかあちゃん

ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、

だいじょうぶだ  しっかりしろ  ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、
みえてきたあかるくなってきた、きっと誰かが、きてハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、

タカヤマ・・・タカヤマぁおめえよく考えたら・・・おやじに似てやがんな
おめぇおやじだろタカヤマ・・・タカヤマよくもおふくろ殴りやがったな・・・ブチ殺してやるゼおやじ
毎晩・・・はぁ、、、はぁ、、、毎晩まいばんまいばんまいばん・・・おれのダイジなおふくろなぐりやがって、、、
ぶちころしてやる きょうはおふくろのたんじょうびだからな・・・タカヤマぁ、
おふくろは、、、ハァ、、、はぁ、、、オレを叱らないぜタカヤマぁ抱っこしてくれるんだ抱っこしてだっこだっこ

ありがとう かっちゃん ありがとうねってぎゅーーーーーっと

ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、

あったけぇ・・・おふくろ・・・かあちゃん、おかあちゃん、

おかあちゃんあったかい、ずーーーっとずーーーっとだっこしててねおかあちゃん
    
ぼくイタイイタイしちゃったの
        おくちもおててもイタイイタイしちゃったの 
おかあちゃんほらレンゲだよキレイでしょ
でもレンゲよりおかあちゃんのほうがキレイだよお


     あったかい。おかあちゃん。こわくないの。ぼく。イタイイタイなくなるから。

________________________________________

シロツメクサ~白詰草~

2004-05-16 15:59:29 | (怖
5がつ10にち げつようび はれ 
きょう、がっこうからかえてきたら、ゆきちゃんがあそびにきました。
ゆきちゃんというのわ、このあいだおとなりのおとなりにひっこしてきたおんなのこです。
ゆきちゃんが「よつばのクローバーをさがしにいこうと」いったので、いっしよにいきました。
だんちのまえのこうえんのよこの、あきちにいきました。
いっしようけんめいさがしたけど、なかったのでがっくりでした。
ママが5じまでにかえてきなさいといったので、かえりました。

5がつ11にち かようび はれ
きょうもゆきちゃんがあそびにきました。
きょうはよつばがみつかるかもしれないよ、とゆきちゃんがいったので、またいきました。いっしようけんめいさがしました。
とちうで、けむしがでてきたので、きもちわるくて、かえろうと、ゆきちゃんにいったら、ゆきちゃんがおこりました。
みゆちゃんしやわせになれなくてもいいのと、おこった。
わたしわびっくりした。

5がつ12にち すいようび くもりのちあめ
きょうもゆきちゃんがきました。
ママがみゆ、おねえちゃんがおともだちになてくれてよかったわね、といってわらいました。
おうちであそぼうとゆきちゃんにいったら、ゆきちゃんがわたしの手をつねりました。
つよくつねった。
わたしわこわかったので、げんかんのどあお、しめました。
そしたらゆきちゃんの手お、はさんでしまった。
ゆきちゃんがないたので、ママにおこられました。
みゆちゃんいじわると、ゆきちゃんがおおきいこえでいった。

5がつ13にち もくようび あめ
あめふりでおそとにいけないから、まどからおそとみました。
あきちでゆきちゃんみたいなひとがみえました。
きっとよつばのクローバーをさがしているみたいでした。
あめがいっぱいふっているのに、ずっとずっと、おようふくのままさがしているみたいでした。
ゆきちゃんわしやわせになるように、あめふりでもがんばっているからすごいです。

5がつ14にち きんようび あめ
ママがおかいものにいってくるからすぐかえてくるから、みゆおるすばんしてねといいました。
げんかんのかぎあけないでねといいました。
ママのつくたホットケーキおたべて、おるすばんしました。
そしたらインタホンがなって、みたらゆきちゃんだった。
わたしわ、おるすばんだから、でませんでした。
ずっとずっとピンポンなってうるさかったです。
ママがかえてきて、「おるすばんだいじようぶだったのと、」いわれて「だいじようぶ。みゆえらい」?といったらママがみゆえらいね、といってくれました。
うれしかったです。

5がつ17にち げつようび はれ
きのうからかぜがひいてがっこうおやすみです。
ママがパートにいって、ひとりでねていたらインタホンがなりました。
ゆきちゃんだった。ねていたら、しばらくしたら、しずかになりました。
しんぶんいれにガタンとおとがしたので、みました。
かみがはいていた。
みゆのバカとかいてありました。

5がつ18にち かようび はれ                  
きょうはかぜがなおたばっかりだから、がっこうがつかれました。
かえるとき、おうちにかえるまえに、すこしあきちにいきました。
わたしわほんとわ、よつばさがしより、しろつめくさのお花のくびかざりをつくるのがだいすきです。
ママにつくってあげてかえろうかなとおもいました。
ながくあんで、わっかにするとき、ゆきちゃんがきました。
わたしのくびかざりをとりました。
おはなをぜんぶとった。とってから「はいみゆちゃん。」とかえした。
わたしがないたらゆきちゃんわ、わらっていました。

5がつ19にち すいようび はれ
かえるときあきちにゆきちゃんがいました。
わたしわみつからないようにきおつけて、おうちにかえりました。

5がつ20にち もくようび あめ
あめふりだから、まどからおそとみてました。
またあめなのにゆきちゃんがいました。
あかいくるまがきて、めがねかけてはげたおじさんがきて、ゆきちゃんがすぐくるまにのりました。

5がつ21にち きんようび はれ
きょうはだんちに人がいっぱいいました。
でもゆきちゃんわいなかった。わたしわあんしんしました。
わたしわひとりで、くびかざりお、いっぱいいっぱいつくりました。
すごくさいこうにたのしかったです。
ママとパパに、たくさんずつ、くびにかけてあげました。
とてもうれしそうでした。
きょうは、いままででいちばん、たのしい日だなあとおもいました。


5がつ24にち げつようび はれ
パパとママがおはなししています。みゆひとりでこうえんとあきちにいたらだめよ。
ゆうかいさつじん、と、テレビでいていました。
もくげきしゃがいません。じようほうおまちしております。
ゆきちゃんわ、よつばのクローバーがさがせなかったから、しやわせになれなかったのかな。
わたしみたいに、しろつめくさのくびかざりつくったら、パパもママもよろこんで、しやわせになれたのに。
ゆきちゃんのバカ。

ハルジオン~春紫苑~

2004-05-15 23:30:23 | (想
アイツが髪をバッサリ切ってきた。
もう、学校全体にさざ波がたってる、みたいな空気だった。
なんていうのかなぁえっと、ベリーショート、だったか?すんげぇ短いやつ。
誰もがアイツを凝視してた。きっと。こっそり。

アイツみたいなのを【美少女】っていうんだろうな。
でもフワフワしたオンナノコとは違う。硬質。カタイ感じなんだよなぁ悲しいくらい。

誰も「どうして?」とは聞かない。聞けない。噂によると女子の誰かがイヤミ言ったらしい。
アイツの髪の毛は本当にキレイだった。サラサラで真っ黒でストンとして。それなのに。

アイツの笑った顔を見たことがなかった。いやもちろん普通には笑うんだけど。アハハハッていう(爆笑)が。
女ってやつはさ、いっつもなんかわかんねえけど、無駄なくらい笑ってんだろ?
アイツは大声あげて笑うことなんか・・・あんのかなぁって思ってた。


あの日オレは部活の時ちょっとした事件があって相当マイってた。
マイってたっていうより、悔しすぎてキレそうでそれを我慢するのがやっとで、頭ん中がショートしてたって言った方が正しい。
帰りは7時近くぐらいでオレは夕暮れの土手の道を、ショートしたまま歩いてた、地に足がついてない感じだった。

ズンズンズンズン歩きながらもう暗くなりかかってる空に溶けていったらキモチいいだろうなぁなんて淋しくなってきた。うん。なんかわかんねぇけど。
いきなり呼ばれてオレはあんまりビックリしたんでひっくり返りそうになった。
ひっくり返りそうな情けない格好で声のする方を見てみると白いシャツの少年(オレだって少年だったけど)がスクッと立っていた。
白いシャツが夕焼けに染められてオレンジ色に見えた記憶があるからよっぽど夕日のキレイな日だったんだろう。

「ハルノ!」あれ、女か?「ハルノクン!」あれって。「春野君ってば!」アイツか?
てかなんでオレの名前知ってんだ。喋ったことないのに。・・・なんか言わねえと。
「はあ。」 「はあって。春野君でしょ。」 「はあ、あ、そうだけど。」 
「この花なんていうか知ってる?」 「え。」 「え、だって。」
・・・なんだいきなり。

春の夕暮れの川沿いの道端で坊主頭のゴツイ男とベリーショートの美少女が3メートル距離を置いて向かい合っている。
ごっつい少年は砂利道の道端にヌボーンと突っ立って、きりっとした少女は白やら薄ピンクやらの花に囲まれている、その花はアイツの周りにあるというだけで雑草になんかに見えないくらいキレイなのが不思議だった。
そして全てが夕焼けに染められていた。

「ハルジオンていうの。これ。覚えておいて。これとソックリの花でヒメジオンていうのもあるの。ハルジオンよりひと月ぐらい遅く咲くのよ。ヒメジオンの蕾は上向きなの。ハルジオンの蕾は下向き。私の方が遅れて咲くからドンクサイけど、蕾が上向いてポジティブだから、引き分け。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あ。ごめん。わかんないよね。」
そう言うとアイツはアハハと笑った、声を上げて楽しそうに、初めてホントに笑ってるとこ見た。
「あなた春野、でしょ。わたし姫野、なの。だから・・・あ、私のこと知らないか。」

・・・・・・春野、ハルジオン?姫野、ヒメジオン?
なんだかワケがわからない。なんでコイツはこんなこと喋るんだ。初めて話してるっていうのに。

アハハハ私って自意識過剰だねぇーアハハハ、そう言ってアイツはまた笑った、普通の子みたいに。

「おまえのこと知らない奴なんかいないよ。」
そう言ってしまってから、ヤバイって焦った、アイツは笑うのをやめた。
「あ、いや、ごめん、そういうイミじゃなくて・・・えっと、あー、おまえ、髪短いの、似合うな、耳、いい形だし、」
「・・・・・・・・・・・・・」
何言ってんだ。オレは。耳て。
「・・・・・・プッ。」
一瞬、間を、おいて。
!!!ブワッハッハッハッッハァ~~~~~~!!!・・・アイツが“爆笑”した。
「ごめん、だって耳の形なんて、初めて褒められた。」

その時話した事っていったら、それぐらいだ。
いや、それぐらいというかそれがキッチリ全部だ。全部覚えてるんだ。一字一句。
なんだか、夕暮れのオレンジの中でアイツと向き合っている現実が急に恥ずかしくなって、オレはどうしていいかわからなくなってブッキラボーにじゃあなって別れたんだ。
ただ、先輩をボコってやりてぇ、っていう事なんかスッカリサッパリ忘れてた。
家に着く頃には、もうスキップしたいくらいの勢いで、夕日より真っ赤になってたんじゃなかったかなぁ。


そして、つい、さっき。
オレはあの日以来初めてアイツと再会した。
バイト先でムカツクことがあって、真っ直ぐ帰るのやめて、CDショップで気分転換しようと店に入って。
何気なく見てたコーナーにアイツがいた、髪はベリーショートのままだったけど、色が違ってた。
燃えるようなオレンジ色だった。

【 ~ハルジオン~  姫野 】

これからアイツの声を聴く。
CDはセットした。
・・・・・・まだ、PLAYが、押せない。