佐藤浩市主演映画「感染(2004年度作品)」を見た。医療ミスを扱ったオドロオドロのホラー映画である。
経営の傾いた病院の院長が失踪したところから話は始まる。すでに給金の遅配が始まっており、病院の将来を見限った者たちは次々ここをリタイヤしていく事態となっている。それでも、何らかの事情でここを離れられない(良心、職責、恋、落ちこぼれ等)従事者は、過酷な条件の中で医療業務を遂行しようとする。
そこへ原因不明のウイルスが蔓延しだす。それは彼らの心の奥に侵入する病原菌である。この病原菌は良心の呵責や罪意識、あるいはプレッシャーのごとき人間の負の意識に侵食していく。この病原菌にとって、病院は格好の温床である。なぜなら、ここが人間の病気、病変、死と生、の極限を扱う場所だからだ。
こういった仕事に携わると、誰しもが心に傷(大小はあれ)を負っている。世に完璧な人間などいない。どんな医療を学ぼうと、人間がそこに携わる以上、ミスを犯す。およそ完璧な医療などありえない。フィクションの天才外科医・ブラックジャックは現実にはいないのである。
彼らの隠れた負の心の奥に、真実のみを映し出す鏡を通して病原菌は次々と入り込んでいき、彼らの身体を溶かしていってしまう。そして彼らのすべてが死に至る。
終わりにきて分かるのだが、この最初の犠牲者は院長である。
死に至っていく彼らの一部始終を目撃することになる認知症患者は、もっとも危険な場所に位置し続けながら、すでに自分の今を喪失しているゆえ、この病気に感染することはない。
何とも皮肉なことである。
医療業界に横たわる重い課題をホラー仕立てで見事に描出した映画と言えるだろう。