雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載190)

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  韓国ドラマ「病院船」から(連載190)




「病院船」第18話➡医療空白③


★★★ 


 2人は海岸の橋を歩いた。足を止めてウンジェは訊ねた。
「話って何?」
「それはこっちのセリフだよ」
 ウンジェはヒョンを見る。
「以前、君に聞かれた。”おかしくて笑ってる?””それとも空元気?”って」
「…」
「その言葉をここで返したい」
 2人は見つめ合う。
「あの時の僕の真似を?」
「バレちゃった?」
 ヒョンは頷く。
 ウンジェはしばらく黙った。
 やがて口を開く。
「私は人間関係に期待したことがなかった」
「…」
「人と3秒以上目を合わせたことも―、患者名を覚えたことも―、そして人に心を開いたこともない」
 ウンジェは海からヒョンに目を転じた。
「知ってる? 期待しなければ恐れることもないの」
「…何も失わないから?」
 ウンジェは頷く。
「今は違うと言うのかい?」
 ウンジェは遠くを見た。
「そうみたい…”病院船が廃止になったらどうしよう””そしたら病院船のスタッフや患者はどうなるか”―そんな心配や恐れを振り払うために、あなたの真似をして必死に笑おうとしてた」
「…」
「でも私には効き目が出てこない」
 ヒョンはウンジェを見た。黙って抱きしめた。
「僕にも効き目はなかったさ。むしろ笑顔の中に悲しみを読み取ってくれた―君の言葉が効いたんだ」
「…」
「ああ―っ」
 ヒョンは伸びやかに声を出した。
「よかった。僕もそれに気づけて」
 ヒョンに抱かれながらウンジェも明るい笑みをつくる。
「でもこれからは、怖い時は怖いと言ってほしい。辛い時は助けを求めて、悲しい時は気兼ねなく泣けばいい」
「…」
「今日は気づけたけど、次は気づけないかもしれないだろ」
 ヒョンはウンジェと向き合った。
「これからは僕に何でも話して。どんなことでも」 
「…」
「1人で耐えないで。それは君の悪い癖だ」
「…」
「約束して。いいね?」
 ヒョンをまっすぐ見てウンジェは頷いた。
「それでいい」
 ヒョンはウンジェを抱きしめた。


★★★




 船長の指示で病院船のスタッフに集合がかかった。
 船長はみんなの前で切り出した。
「みなさんい集まってもらったのは、大事な話があるからだ」
 みんなは黙って船長の話を聞く。
「数日以内に病院船は…暫定的に運航が中断されることになった。…全員、速やかに再配属されるはず」
「受け入れるのですか?」とヒョン。
「闘わずに?」とジェゴルが続く。
「公衆保険医のみんなは」と事務長。「出しゃばってはならない」
「でも」
「公保医は」事務長はヒョンの反論を冴えぎる。「軍勤務の代替だ。規定に背けば兵務庁に通報され、公保医を辞めて軍に復帰しなければならない―そうなれば大事に思う患者を二度と診られなくなる。分かるな?」
ヒョンやジェゴルらはうな垂れている。
「どうして返事しないんだ。喜んで”はい”と言え。公保医に選ばれた日を思い出せ。キム先生は…」
 ジェゴルは顔を上げる。
「幽霊船にでも乗るような表情だった」
「…」
「他にもある―チャ先生は病院船に乗りたくなくて、額にお札を貼って―お祓いまでしただろ。私は見てたぞ」
 ジュニョンは言葉にならない声をもらす。
「ああ、それから」と事務長。「ソン先生は道庁に呼び出されてる。医療ミスの件で調査委員会を開くそうだ。出席して陳述を」
「はい」
「…クァク先生も」
「はい」
「ソン先生の去就は」事務長が付け加える。「調査結果を見て決定するそうだ」
 ウンジェは頷いた。
「船舶チームと看護師さんたちも、数日以内に配属先の連絡が来るから」
「嫌です! 私はどこにも行きません」
 アリムは顔を上げた。みなを見回した。
「みんなで闘おうよ。そして病院船を復活させましょう」
 船長を見た。船長はアリムから目をそらす。苦渋の表情になる。
「それは最後の手段よ」
 ゴウンが答えた。
「ひとまず私と船長や事務長で、道庁の担当者を―説得してみる。だから…軽率に動かず、おとなしくしてて」
「先輩…」
 アリムは泣きそうな顔をゴウンに向ける。腕で身体を押す。
「大丈夫よ」
 ゴウンはアリムの肩を抱く。慰める。
「きっとうまく行くから。心配しないの」

 ウンジェもヒョンもこの流れは想定し合っていた。
 すべては道庁での自分たちの陳述にかかっている。
 今までとは違う。
 2人はこの闘いから逃げないつもりでいた。 




 船長を含め、病院船のスタッフはすべて船からおりた。彼らは桟橋に残ったまま岸を離れていく病院船を見送った。 
「船はどこへ行くんですか?」
 事務長の質問に船長は答えた。
「官用船のドックで点検を受けるんだろ」
「点検した後はどうなるんですか?」とジョンホ。「修理して他の用途に使うんですか?」 
 この質問に船長は答えられなかった。
「私たちはここへ戻って来られるのかしら」とアリム。「もう一度、病院船に乗って―島を回りながら、患者を診療することができますよね?」
 ウンジェを見た。
 ウンジェも答えられない。だが、それを諦めるつもりはない。
 ヒョンはじっと病院船の航路を目で追い続けた。
 ウンジェも病院船を和らいだ表情で追い続けた。




― 島の人たちのためだけでなく、自分らしく生きるために私はここへ戻って来たい。


  

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