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雨の記号(rain symbol)

マッスルガール第7話(3)


マッスルガール第7話(3)



 梓はジホに従うようについて行った。
 出てきた女性店員にジホは尋ねた。
「あの・・・すみません」
「はい?」 
「ここにスンジャという女性が働いていると聞いたのですが?」
「はい」
 店員は頷いた。 
 ジホは嬉しそうに梓と顔を見合わせた。
 喜びを表してジホは言った。
「今、どこにいますか? 僕はスンジャの」
 女性店員はその言葉を遮った。


「スンジャは私ですけど・・・!」
 それを聞いてジホはあっけに取られた。
 目の前に立っているのは母ではない。
 梓は念押しで訊ねた。
「イ・スンジャさんですか?」
「はい。イです」
 ジホは落胆した。

 ジホはとぼとぼと帰路についた。
 しょげ返っているジホを見て、梓は声もかけられない。
 二人は黙って歩くだけだった。
 その頃、白鳥のメンバーらはジホの話で盛り上がっていた。
「泣くかなあ・・・」
「泣くぜよ」
「でも、嬉しいんだよね」
 みなは頷き合った。
「ウレシイよーっ!」
「あっ、帰ってきた」
 メンバーは梓に駆け寄った。
「どうでした?」とつかさ。
「キム、お母さんに」と向日葵。
 梓は首を振った。
「・・・そんな」と薫。
 梓は落胆しているジホの気持ちを思って口も開けないでいる。

 ジホはすっかり打ちしおれている。
 誰も彼に声をかけられない。
 つかさが向日葵の肩を指でついた。ほら、声をかけてあげないと、のシグナルだ。
 向日葵は意を決してジホのそばに歩み寄った。


「なあ、キム。今回、あれやったけど・・・なあ、次またあるって・・・!」
「そう」薫はジホの肩に両手を置いた。「次は大丈夫やって」
「ねえ、キム」つかさも励ました。「元気出してよ」
 ジホはその腕を振り払った。
「お母さんじゃなかったんです! 元気にはなれません」
 梓は黙ってそんなジホを見つめている。
 向日葵がジホのそばでしゃがみこんだ。
「なあ、あかんて・・・キム・・・そんなネガティブになったら」
「・・・」
「今回違ったけど・・・お母さんは絶対どこかにおるんやから・・・!」
「そう。だからもっと探せば」
「近くにいなかったらどうするんですか」
 みなは黙った。
「お母さんは・・・このあたりにいないのかもしれない」
「でも・・・キムが見たって・・・」
「それも、見間違いかもしれない」
 ジホはいつか見た母親に似た女性の姿を思い起こした。
「二ヶ月間、毎日毎日探しても、何の手がかりもないのに」
「だから、そんなんわからん」
 ジホは即座に向日葵の言葉を遮った。
「いい加減な慰めは辛いです!」
「・・・」
「このあたりにいないなら、このままここで探しても時間の無駄です。僕はもう韓国に帰ります」
「キム・・・」
「そんな・・・!」
 さっきからひとことも声をかけられないでいる梓。
 こみ上げる苛立ちでジホはテーブルを叩いて立ち上がった。そのままみんなを振り切るように出て行った。



「キムーッ!」
 誰も出て行く彼を止められなかった。
「梓さん・・・!」とつかさ。
 何も口にできないでいる梓。

 外に飛び出したジホは髪をかきむしりながら当てもなく歩き出した。

 梓は階下の練習場におりてきた。全員で撮った写真を見つめた。
 自分の横でジホが笑顔を見せている。この笑顔にはいつかは母と再会できるとの希望もこもっていたのだ。それが絶望に変わったとジホは落胆している。
 そんな彼に自分は何をしてあげられるだろう。
 彼がここを出て行くことも寂しい。
 梓はジホと出会った時のことを思い浮かべた。すき家で彼の首を締め上げたこと。てっきり逃げたレフリーだと思っていた。
「何で逃げたんですか!」 
 その時の人違いの相手がジホだった。
 彼の言葉を思い出した。
「僕の家族です。家族を守るのは当たり前です」
「ここに居させてください」
・・・・・・
「ここにいても時間のムダです。僕はもう韓国に帰ります」
 梓は小さくため息をついた。

 元気なく座り込んでいる梓のところに舞がやってきた。
「ほんと、鈍いよね、キムって」
 そう言って梓を振り返った。
 梓は舞と目を合わせた。
「何で気付かないかなあ」
「・・・」


「まあ、男ってみんなそうか・・・ちゃんと言わなきゃわかんないんだよね」
「・・・」
「でも、梓さんも梓だよ。自分のことになるととたんにウジウジしてさ。鈍い相手にはウジウジしたってダメなんだから」
「・・・」
「言えばいいんだよ、はっきりキムに・・・私もつらいって」
「・・・」
「好きな人がつらい時、自分もおんなじようにつらいのは自然なことなんだから」
「・・・」
 梓は舞の言葉を受け止めつつ、じっと考え込んでいる。
 頭の中はいろんな思いがめぐっている。
 ジホは韓国に帰る・・・このことは今ふいに出てきた言葉ではない。
「お母さんが見つかったら一緒に韓国へ帰ります」
 彼はこの間もそう言っていた。
「ねえ、好きなんでしょう、キムのこと? まあ、言わなくても知ってるけど」
 梓は舞を見上げた。
「舞・・・!」
「何?」
「私ね」
 そう言ってから、彼女は言葉を詰まらせている。
「・・・私・・・ほっとしたんだ」
「・・・」
 梓は立ち上がった。前に歩いて舞に背を向けた。
「ちょっとだけほっとしたの。キムのお母さんが人違いだって分かって・・・ほんのちょっと、よかった、って・・・。これでキムが韓国に帰らないですむって思っちゃった」
「・・・」
「ほんと・・・サイテーッ! そんな風に思うなんて、キムの気持ちなんかぜんぜん考えてない」
「・・・」
「サイテーッ!」


 梓は自分を責めるように吐き捨てた。
「自然・・・!」
 舞は言った。
 梓は振り返った。
「えっ?」
「それも自然」笑みをたたえて舞は応じた。「好きなら自然だよ」
 二人は見つめあった。
「舞・・・!」


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