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夫余ではトチの悪巧みが始まっていた。オイのもとに、プヨンが奴隷商人に売られようとしている、という話がもたらされたのだ。
プヨンにほれているオイはマリとヒョッポをつれてトチのもとに押しかけるが、大金をふっかけられて交渉は進まない。思い余ったオイはヨンタバルに借金を申し込むが、一万両の大金を貸してくれるわけもない。
「命をかけるというが、お前の命にそれほど値打ちがあると思っているのか。私は商人だ。利益にならない取引はしない」
何の当てもなくなったオイはとうとうトチに泣き付く。トチはオイを連れてヨンポ、次に帯素に会わせた。
帯素は、朱蒙が何を図っているか、知っているか、とオイに訊ねた。
オイはためらったが、ヨンポらに「太子競合のために何をやっているのか、言ってみろ」と促されてやむなく答えた。
「朱蒙王子様は、太子競合で優位に立つためには、鉄製武器の開発がもっとも重要だと、鉄器工房の房長と手を組んで、炒鋼法の秘法の解明に力を入れています」
「炒鋼法?」
帯素は思案に沈んだ。
(19話より)
帯素はオイの言葉に考え込んだ。そんなはずがない。疑問の多い表情だった。
オイの言葉を丸呑みしたヨンポはトチ相手に得意満面だった。まず朱蒙をやっつけ、そのあと兄の帯素を土壇場で逆転するシナリオを話して聞かせ、高笑いした。
ヒョント城から引き揚げてきた朱蒙は、ヤンジョンを相手に一歩も引かない交渉をし、今後も脅迫と干渉を繰り返すなら、こちらから先制攻撃をかけると警告しておきました、と金蛙王に報告した。
金蛙王はそれをきいて満足そうに笑った。
フクチ将軍も朱蒙王子の堂々とした態度を見て胸のすく思いがした伝えて褒めたたえた。
ムソンは鉄器工房を監視しているナロを見つけ、文句を言って追い返した。監視だけではあきたらない帯素は、工房のNO2の男を引っ張り出し、聞き出そうとするがラチがあかない。
直接モパルモから聞き出しましょう、とヨンポは言い出すが、朱蒙の言ったことを忘れたのか、うっかり手を出そうものならこっちが痛い目にあう、それは肝に銘じろ、と叱り付ける。
ユファ夫人は、タムル弓が折れていたことを陛下とヨミウルに知られた、と朱蒙に告げた。
「私が折ったということをですか」
「お前は始祖山の近くにも行けなかったと言った。だから、誰だかは分かっていないはず。でも、わざわざ私を訪ねてきてその話をしたのはひょっとしたら・・・ヨミウルはタムル弓を折った者が夫余の将来に暗雲をもたらす者だと思っているわ。もし、お前だということが知られたら、太子競合に大きな障害になるでしょう」
朱蒙は母の言ったことを胸に収めた。
プドウクブルもヨミウルの言ったタムル弓のことを思い返していた。
帯素に会ってヒョント城に行ったかどうかを訊ねた。
「行った。今回の一件でヤンジョンとの関係が悪化しては困るから」
「そこで朱蒙王子に会いましたか」
「会った」
「驚かれたでしょう・・・朱蒙王子が塩山を見つけて夫余を圧迫する武器をひとつ失くし、ヤンジョンの打撃は大きいはず」
「大使者」
「はい」
「朱蒙が炒鋼法の秘法を解明しようとしている。もし、朱蒙が炒鋼法を解明し、鋼鉄剣の完成に一役買えば、それは塩山の発見よりももっと大きな功を立てることになる。太子競合は終わったも同じだ」
「殿下」プドウクブルは言った。「太子様の危機を一気に突破できる好材料があります」
「好材料?」
「はい。夫余の神器のタムル弓が折れました」
「タムル弓が・・・それは私も知っている」
「それを折ったのは朱蒙王子です」
「それは本当か」
「ヨミウル神女から聞きました」
しかし、陛下の心変わりもあるから、これをまだ使う時期ではないと付け加えた。
商団に顔を出した朱蒙に、プヨンが奴隷商人に売られそうです、という報告を持ってくる。朱蒙はマリらを連れて、トチのところに押しかけるが、奴隷を売り買いすることは夫余の法で認められた商人の権利です、と反論されて怒りをぶつけることもできず引き返すしかなかった。
約束を果たせず申しわけない、プヨンは必ず救いだすから、と朱蒙はオイに謝るが、オイは落胆してその場を離れていった。
オイの向かった先はトチのところだった。オイはトチに頼んでプヨンに会わせてもらう。
会わせてもらっても、自分の無力を知って引き下がるだけなのだった。オイはマリやヒョッポの前でヤケ酒をあおった。
「コサン国から戻ってきてすぐ行けばこんなことにはならなかったのだ。神宮を追い出された時も何もしてやらなかった」
ヨンポの手先となって戻ってきていたオイは、朱蒙らの情報をヨンポのところへせっせと届けた。炒鋼法の話なども経過を報告した。
王妃は四出道のマウリョン神女を夫余の神女にどうかと金蛙王に推挙した。ヨミウルに失望した金蛙王は神宮の存在自体軽く見てしまっているようで、王妃に任せる、のひと言で話を終わらせた。
金蛙王の承諾を得た王妃は四出道の神女たちを集め、ヨミウルを追い出す作戦に取りかかりだした。
「私はマウリョン神女が夫余に残ってくれればいいと思っています」
ヨミウルに心酔しているソリョンはこのことをヨミウルに報告した。
ヨミウルの窮地を聞き知ったヨンタバルはヨミウルを表敬訪問した。
その席でヨンタバルは、ヨミウルさまが一歩引き下がり、クムワ王と仲直りしてはどうか、と意見する。
「クムワ王との対立が続けば、ヨミウル様の傷が深くなるばかり。時が経てば、王もヨミウル様の心の内を理解してくださるでしょう」
ヨミウルは言った。
「・・・ヨンタバル首長。首長は国を売り買いする商人になりたいと言われた」
「それは」
ヨンタバルは豪快に笑った。
「私の存在を印象付けるための大法螺です。はっはは。私に国を売り買いする能力があるわけもない」。あっはははは」
「では・・・ゲルの首長がなぜ、夫余に居座っているのですか。商売のためだけですか」
「ああ、それは・・・」
「私がヨンタバル首長の野望が叶うよう助けましょう。・・・ヨンタバル首長も私が差し出す手をつかんでくれますか」
引き揚げる時、ヨンタバルは上機嫌だった。
「気分がいいな。ヨミウルの方から手を差し出してくるとはな・・・」
「命がけの賭けですよ。私は気が進みません」
召西奴は言った。
「私はクムワ王と神女の間の問題に干渉しない方がいいと思います」
ヨンタバルは反論した。
「葛藤のあるところに利益がある。優れた商人は葛藤の溝が深いところで絶妙の綱渡りをしてみせなきゃ」
「危険だわ」
「小さな取引は小さな危険が、大きな取引には大きな危険が伴うものなのさ」
そこへ帯素が姿を現す。
二人を部屋に呼んで、帯素は召西奴を王妃に迎える用意があることを告げた。
お前の意志に割って入るつもりはないが、お前の決定は我がゲルの運命を左右する、よく考えて決めなさい、とヨンタバルに言われた召西奴は、朱蒙のことを思って深い悩みに沈んだ。
ウテがやってきて召西奴の話を聞いた。
ウテは言った。
「お嬢様の選択が我がゲルの運命を決める、お嬢様の悩みがどれだけ深いかお察しします、しかし、その前にお嬢様が幸せになってほしいです」
夜、召西奴は朱蒙の部屋を訪ねた。帯素王子に求婚されたことを告げた。
「私の心は決まっていますが、帯素王子の求婚を断われば我がゲルがどうなるか不安なのです。私の心が揺らがないよう捕まえていてください」
「私はすでに運命を召西奴様と共にすると誓いました」
朱蒙は召西奴を見つめた。
「亡くなった師匠もこうおっしゃいました。大業を成すといって、生涯一人の女性を守るという約束を守れなかったのが悔やまれると。私は必ず約束を守ります」
それを聞いて涙を浮かべる召西奴だった。
モパルモの鋼鉄剣づくりは苦戦を続けていた。その状況を朱蒙に逐一報告した。
その報告を耳に入れてオイはトチのもとへ走った。そんなオイをマリもヒョッポもさすがに怪しみだした。
朱蒙はハンダンをつかまえて脅かし、プヨンの居所をつきとめ、救い出した。オイの裏切り行為を許し、朱蒙は、自分の方こそ悪かった、とオイに頭を下げた。朱蒙のその姿に感動し、忠誠心を新たにする三人であった。
プヨンを奪い返されたと知らされて、トチは例によってハンダンをボコボコにするかと思いきや、刀を振り上げて殺そうとするが、それどころじゃないことに気付く。帯素とヨンポに知られたら自分の身が危ないとわかったからだ。
トチは、このことは絶対知られないようにしろ、とハンダンに指示を出した。
「自分を裏切ったオイを朱蒙が許すはずはない。オイはここから離れることもできないさ」
帯素たちのもとにオイが姿を現した。
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