
鍵盤を通じてアンナは懐かしい音色を聴いた。さまざまの音色が彼女の頭の中で響きだした。
治療費の清算をすませたチョルスは近くにアンナがいないのに気付いた。
「サンシルの奴、どこ行ったんだ・・・?」
アンナの名を呼びながら院内を捜し始める。
「サンシリッ、いないのか? サンシリッツ!」
辺りをうかがい、女子トイレの中まで探した。
しかし、いない。
「まったく・・・どこ行ったんだ・・・!」
携帯を取り出したが、持ってないのに気付く。
「連絡取れなくなるっていうのに、いったいどこ行ったんだ!」
この時、アンナはピアノを弾いていた。あまりに上手なため、彼女の周りには人だかりが出来ていた。
弾き手は誰なのか・・・人だかりの隙間から覗き見るようにして、それがアンナだとチョルスは気付いた。その上手さに目を丸くした。
アンナは真剣に気持ちよさそうにピアノを弾いていた。
彼女が弾き終わった時、周りから大きな拍手が起こった。
アンナは少しはにかみ嬉しそうに立ち上がった。
拍手している者の中にはチョルスもいた。アンナはチョルスのもとに走り寄った。
「チャン・チョルス。私、ピアノも弾けるわ。知ってた?」
チョルスは首を横に振る。アンナはがっかりする。
「何にも知らないのね・・・行きずりの仲だったのは明らかね」
「・・・」
「とにかく・・・私がすごい人なのは確かだわ。何でもできるもの」
「・・・」
「何の異常もないようだし、こうして記憶も戻りだしたから・・・もうすぐ元に戻れるわ。安心したでしょ?」
「そうだな・・・そうして、どんどん記憶を戻して以前のお前に戻れ」
「・・・」
「行こう。事務所に向かうから、お前はバスで帰れ」
あっさり言ってチョルスは先に引き上げだした。
アンナはチョルスの背中を目で追った。憎々しげに言った。
「―― 戻れ? 言われなくても戻るわ。チャン・チョルス・・・最低なヤツ!」
事務所に到着し、チョルスは車から降りた。
歩き出しながらアンナのことについて考えた。
「一つずつ確実に記憶は戻ってる。完全に思い出したら、俺のこと怒るだろうな・・・だけどまあ仕方がない。いいか」
ふと足を止めた。
「バスにはちゃんと乗れたかな? 連絡のしようがないからどうしようもない・・・」
思いついて買い物に出向く。
買い物袋を受け取って出てきながらつぶやく。
「携帯がないと俺が困るから、買ってやるよサンシリーッ! ところでいくらしたんだ・・・!」
金額を確かめて顔をしかめる。
「金を食う妖怪め!
買い物をすませて事務所に戻った。
「検査の結果はどうだった?」
ドックが訊ねてくる。
「異常はないって」
買い物袋をテーブルに置いて腰をおろす。
「セメントの注文はしたか?」
「うん。外にあっただろ?」
「そうか?」
チョルスは立ち上がって外に出た。
買い物袋があるのを見てドックは興味を覚えた。チョルスに黙って中身を開けた。
「あれ、携帯じゃないか。こんなに高いの、よく買ったな・・・またサンシルさんに? こんな高価な物を買うはずないんだが・・・?」
その時、ドックの電話が鳴った。
電話はヒョジョンからだった。
「何だよ」ドックは迷惑そうに携帯に出る。
「あんたもしつこいね」
と言いながらも、ドックはやむなく彼女の誘いに乗った。
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