雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載169)

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    韓国ドラマ「病院船」から(連載169)



「病院船」第16話➡退院祝い④



★★★


 病院船に顔を出したジェゴルはヒョンの部屋から話し声がするのに気づいた。様子を見にやってくる。


「病院船が出航できず、内科医が処方した薬を客船でお送りします」
 
 ウンジェの姿に感心し、ジェゴルは黙って彼女の仕事を観察する。
 ウンジェはそれに気づかず、黙々と患者さんに連絡を取り、メモ書きにあるヒョンの業務をこなしていく。


「コ・ラプトンさんですか? はい。…薬が切れましたよね?」
 ウンジェは大きな声で話しだす。
 ジェゴルは思わず吹き出しそうになる。
 相手は耳の遠い人のようだ。
「ええ、病院船を出せないので、明日、三日分だけ、客船でお送りします」
 


 ジェゴルは船室からデッキに上がって来る。1人で物思いに耽る。


―自分も彼女みたいな医者を目指したかったものだ…ちょいと遊び過ぎたかな…。


★★★


 退院して病院船寮に顔を出したヒョンを同僚たちは大きな拍手で迎えた。ゴウンがまっさきに抱きついた。
「ウェルカムクァク先生」
「おかえりなさい」
 アリム達が黄色い声を上げる。
「具合はどうだ?」と事務長。
「大丈夫だよな」と船長。
「大げさですよ」
 ヒョンは笑う。
「復帰の食事をどうぞ」と韓方科の看護師。
「事務長が用意しました」とゴウン。
「そうです。私のおごりです」
 事務長は見えを切る。
 スタッフの歓声と拍手が続く。
 支度は出来ている。スタッフらは所定に散る。


 ジェゴルがヒョンの前に立った。
「寂しげだな」
 ジェゴルの軽い皮肉にヒョンは笑みで応える。
「別に」
「ソン先生がいないからだろ?」
「…どこに?」
 ジェゴルは愉快そうに笑う。
「どこだと思う?」
「…」
 ジェゴルは含み笑いを続け、結局は教えた。




 ヒョンは車で病院船に駆け付けた。
 病院船を目の前にすると事件のことが蘇る。彼女に身を預けて以降、意識は飛んでしまった。目覚めた時は病院のベッドの上だった。

 ヒョンは自分の診療室の前に立った。
 詳しくは教えず、「ともかく行ってみろ」とジェゴルは言った。
 島の患者さんと携帯で話すウンジェを見て、ヒョンは笑いを噛み殺した。  


「はい、客船です。…いいえ、3時30分の船です」
 マイクを口に付けるようにし、大きな声で繰り返す。
「3時30分の船です――保健支所の所長に話をしておきますね。…ではまた~」
 携帯を切るとウンジェは回転椅子を壁側に回す。
「ふう~、まだ残ってる」
 壁に貼りついたメモ書きに繁々見入る。
「どの島も漏れなく記してあるわ」
 後ろにヒョンが立ってるとも知らず感心している。
 さすがに気配を感じて向き直る。
 ヒョンは歩み寄った。
「僕の診療室で何を?」 
「戻って来たのね」
 ウンジェはすまして訊ねる。
 ヒョンは診察台に腰をおろした。
「病室に顔を出さなかったのは、患者のフォローをしてたから? メモの整理まで」
「…人数が多すぎてまだみんな連絡しきれてない」
 ヒョンはニコニコしている。
 余計なことをほんとに言わない人だ。感心もする。父親を世話したことはこちらが聞くまで話さないかもしれない。
 ウンジェは咳払いして引き出しの中から四角い包みを取り出した。
「これを」
 ウンジェは両手で受け取る。
「何?」
「開けてみて」
 ヒョンは笑いながら紙の箱を開ける。
 聴診器が入っていた。ヒョンが今まで使って来たのは事件の際に壊れてしまった。
「聴診器か」
 ヒョンは意外そうにする。
「あなたのは壊れて使い物にならないから」
「…いいやつだな」
「大金をはたいたわ。心臓内科医が使うからいい物にしたの」
 ヒョンはニコニコしてウンジェの話を聞いている。照れ臭そうな話ぶりだから、言葉のすべて心地よいのらしい。
「退院、おめでとう。ではあとは自分でやって」
 立ち上がって行こうとする。ヒョンはウンジェの手を掴んだ。引っ張り寄せた。顔が近づき、ウンジェは緊張する。
「僕に会いたくなかった?」


 一瞬、返事につまる。すぐ思い直す。
「いえ、それは…」
「なぜ目を見ない」
 ウンジェの目は揺れた。ヒョンを見つめ返す。
 額の裏に熱を感じる。浮かびかかる言葉は即座に燃え尽きる。
「どこか具合でも?」
「いえ、大丈夫よ」
 ヒョンは腕を引く。ウンジェに聴診器を当てる。そして目をつぶる。

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