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韓国ドラマ「病院船」から(連載170)

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      韓国ドラマ「病院船」から(連載170)




「病院船」第16話➡退院祝い⑤




★★★


 ヒョンは診察台に腰をおろした。
「病室に顔を出さなかったのは、患者のフォローをしてたから? メモの整理まで」
「…人数が多すぎてまだみんな連絡しきれてない」
 ヒョンはニコニコしている。
 余計なことをほんとに言わない人だ。感心もする。父親を世話したことはこちらが聞くまで話さないかもしれない。
 ウンジェは咳払いして引き出しの中から四角い包みを取り出した。
「これを」
 ウンジェは両手で受け取る。
「何?」
「開けてみて」
 ヒョンは笑いながら紙の箱を開ける。
 聴診器が入っていた。ヒョンが今まで使って来たのは事件の際に壊れてしまった。
「聴診器か」
 ヒョンは意外そうにする。
「あなたのは壊れて使い物にならないから」
「…いいやつだな」
「大金をはたいたわ。心臓内科医が使うからいい物にしたの」
 ヒョンはニコニコしてウンジェの話を聞いている。照れ臭そうな話ぶりだから、言葉のすべて心地よいのらしい。
「退院、おめでとう。ではあとは自分でやって」
 立ち上がって行こうとする。ヒョンはウンジェの手を掴んだ。引っ張り寄せた。顔が近づき、ウンジェは緊張する。
「僕に会いたくなかった?」
 一瞬、返事につまる。すぐ思い直す。
「いえ、それは…」
「なぜ目を見ない」
 ウンジェの目は揺れた。ヒョンを見つめ返す。
 額の裏に熱を感じる。浮かびかかる言葉は即座に燃え尽きる。
「どこか具合でも?」
「いえ、大丈夫よ」
 ヒョンは腕を引く。ウンジェに聴診器を当てる。そして目をつぶる。


★★★


 ウンジェの心音に耳を澄ませる。やがて目を開ける。
「具合はよくないな」
 ヒョンはウンジェを見た。
「心臓内科医の所見では、心拍数が正常範囲を超えてる」
 白い歯を覗かせる。
 ウンジェは聴診器を当てられたまま無心で立っている。
「激しい鼓動は誰のせいかな?」
 ウンジェはヒョンをじっと見つめる。
 自分の気持ちを隠すつもりはもうない。
 ヒョンは笑みでウンジェを見つめ返す。


「付き合おうか…僕たち」
「…」
「恋人同士になろう」
 ウンジェは笑顔を返し、ヒョンを見つめたまま頷く。
 ヒョンは立ち上がる。笑顔でウンジェを抱きしめる。




 船員や医療スタッフらが業務の準備に勤しむ中、操舵室で船長がマイクを握った。
「ついに本日、病院船の修理が終わり、再び出航できるようになりました。…離島の生命線である病院船がその役割を果たせるよう、医療と船舶チームが一丸となり、最善を尽くしてください」
 乗船チームらは準備を進めながら船長の訓示に耳を傾けている。
「ここで私が一曲、歌いたいところですが…」
 ゴウンがやっと外れたとばかり笑い出す。
「安全な航行のために省略いたします」
 ジュニョン、アリム、ヒョン、ウンジェも笑い出す。



「病院船の外科をなくせというのですか?」
 事務長は道庁の課長を追いかけて部屋に入って来る。
「そんなのとんでもない話です」
 課長は事務長を振り返る。居丈高に言った。
「さもないと病院船も廃止になるぞ」
「課長!」
「道知事が…替わったの知ってるだろ」
「…」
「以前とは違い無駄な支出は―出来るだけ減らそうとしてる」
 事務長は悲痛な顔になる。懸命に訴える。
「病院船に”無駄”はありません。医師たちが努力して節約しています」
「知事が”一番のお荷物だ”と言ってる」
「なぜですか?」
「無料じゃないか」
「…」
「診療、往診、薬はもちろん…手術まで無料とは、ありえない話だ」
「…」
「廃止しないと私がクビになる」
「すぐ手術しなければ―命に危険の及ぶ緊急時のみ行っています。病院船は無料診療が原則でしょう」
「だから、それを見直すんだ。今後は消防機関に患者を回せばいい。搬送費用は国が出す」
「…」
「だから手術費は自己負担にしろ」
「可能ならばそうしますが…」
 事務長は眉間にしわを寄せる。
「指示通りにしろ」
「課長」
 課長はため息をつく。
「君とは長い付き合いだからこうして事前に伝えてる。問題が大きくならないよう―船長と相談して廃止しろ。それに外科医のソン・ウンジェは、あちこちから引く手あまただろ。帰れ」
 課長は逃げるように部屋を出て行った。
「まいったな…」
 事務長はしょげ返った。
 収穫のない帰り道の足どりは重かった。




 船長は事務長の報告を電話で受けた。
「えっ! そんなに頑ななのか?」
「今回は切り抜けるのが難しいようです」
「分かった―濃霧で客船が動いてないから、寮で休んでろ。戻り次第、そっちに向かう」
 やり取りが終わると後ろで話を聞いていた甲板長が訊ねた。
「どうしたんです? 誰が頑なだと?」
「何でもない。気にするな」と船長。
「…?」
「ありゃ~、霧はどんどん濃くなって来てる。前方がぜんぜん見えないからもどかしい。どうしたものかな…」




 ヒョンが紅茶で休憩を取っていると、そこへウンジェがやってきた。肩や首を押さえている。
「疲れた?」
「少し」
「患者が多くて?」
 ウンジェは首に手を回したまま顔を上げる。
「濃霧で漁船同士が衝突して―負傷者が多く出て座る暇もなかった」
「ふむ~、たたいてあげたい」
 ウンジェはヒョンを見つめ返す。
「君の肩を」
「本気でいってる?」
「ダメか」
 ウンジェは首にやっていた手をおろす。
「私たちには明確なルールが必要ね」
「ルール?」
「同僚である時と…」
「恋人である時…」
 ウンジェは慌ててヒョンの口を両手で押える。
「人に聞かれるわ」
「ルールか」
 頷いて辺りを窺うウンジェ。
「分かった」とヒョン。「いつ決める? 土曜日はどう? その日は勤務もないだろ」
「いいわね」
 ウンジェは気分よく応じた。

 

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