ある日（夜）ボミとナムジュ（Apink）に会った

ある日（夜）ボミとナムジュ（Apink）に会った

One day (night) I met Bomi and Namjoo (Apink)

　つり道具を抱えて街道を歩いていたら、横を走り抜けたBMWが前方で止まった。

　車は葉を散らしきった街路樹の下で西日をするどく反射させている。

　何だろうと思いながら歩いていくと歩道側のドアが開いて女性がおりてきた。

　見覚えのある顔だと思ったらボミだった。白のステージ衣装みたいな姿だった。

　彼女らがこんなところにいるわけない、と目をぱちくりさせていると、彼女は手を振ってこっちに走ってきた。

 　あっ、という間だった。

　目にも留まらぬ速さだった。

　まばたきひとつで彼女は僕の目の前に立っていた。息を切らし加減なのに好感を覚えた。

　ボミは僕を覚えているようだった。

　目を合わせたあの瞬間、この人は会場にいた僕のことを記憶に刻んでいてくれたのだろうか？

「釣りをなさるんですね」

　手にした魚篭に手をやった。

「ええ、子供の頃から…川釣りをやってたもんで」

「海岸線を走ってきましたけど偶然お見かけしました。お住まいはこの辺りなんですか？」

　少し、魔があった。

「職場がすぐ近くなんです」

　周囲に会社らしき建物は見当たらない。

　周囲の景色は確かに職場の近くだが、家の近くにいる感覚だった。

　冬なのに西日が背中で暖かだった。

　今度は僕が尋ねた。

「他のメンバーたちもあの車に？」

　ボミは車の方を振り返った。

　ドアの外に一人出てきてこちらを見ているが、その女性がナムジュと分かって僕は驚いた。

「驚いたでしょ？」

　ボミはちょっと首をすくめるようにした。

「チョロンオンニ（姉さん）とウンジシ（さん）は打ち合わせがあるので先に東京へ向かったんです」

「東京ですか…？」

「ええ、私たちは袖ヶ浦のレストランで食事をすませ、チョロンオンニ（姉さん）たちを追いかけて車を走らせてるところでした」

「そうですか…？」

　ナムジュはじっとこちらを見ている。

　目の前のボミとナムジュを比べ、僕の視界は縦長サイズから横長サイズへと切り替わった。

　景色は保谷あたりの海岸線が広がっていた。

「こちらへはいつ来られたのですか？」　

　ファンミで日本に来るのは2月のはずだ。まだひと月先の話だ。

　自分は夢でも見てるんだろうか？

　しかし、魚篭の中で泳ぎ回る魚の感触が手に伝わり続けている。

　ただ、こっちを見ているナムジュの姿は少し妙だった。もっと細身が普通なはずなのにぽっちゃりした体つきをしている。

　ナムジュを見ている僕に気付き、ボミは後ろを振り返った。すぐ僕を見て白い歯を覗かせた。

「ナムジュシは、北米ツアーから戻って少し太ったんです」

「…」

「別人28号みたいでしょ？」　

「…太ったってどのくらいです？」

「10キロほど」

　僕は首を傾げた。

「ほんとですか？」　

「ええ」

　ボミは頷く。

「彼女はいくら食べても太らないって聞いてますけど」

「でも、大丈夫です。心配ありません。彼女、その気になればすぐやせられますから。いくら食べても太らないってのは本当なんです。これから私たちはBEASTオッパー（兄さん）たちのステージに駆けつけるところなんですけど、会場に着く頃には、彼女、いつもの姿に戻ってるはずですよ」

「…？」

「あなたがいま見てるのは彼女の食欲が創り出した幻想なんですよ」

　ボミは笑顔になった。

　

　幻想？　ファンタジー？

「こんな場所で私たちのファンに会えてよかったです。この辺までドライブして来た甲斐がありました。ではこれで」

　ボミは手を差し出してきた。

　僕も手を伸ばそうとしたら、近くで何かが鋭く弾けた。

　次の瞬間、手に冷たいものがかかった。

　目を開けるとガラスコップが倒れ、こぼれた水がテーブルを流れていた。

　　

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