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飲んだ薬が下水→河川→上水道を経て人間の口に入り、環境汚染を引き起こしている

2020-01-11 15:06:01 | ▼食の安全~種子法廃止・遺伝子操作・農薬

[PDF]服薬した医薬品はどこに行くの?? - 日本生物工学会 生物工学 第93巻 P220
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9304/9304_biomedia_5.pdf


 現代生活を送る上で,病気の治療に留まらず,健康の維持や日常生活を送る上でも必要度が増してきている身近な医薬品.ところで,服薬した後医薬品は一体どこに行くのだろうか?

 服薬された医薬品は,通常,体内で吸収され薬効を発揮した後,代謝を受けて化学構造が変化し,薬効を持たなくなった形態で尿中や糞中へと体外排泄される.しかし,未代謝のまま残ったり,体内で吸収されなかった医薬品は,薬効を保った形態のままで体外へと排泄される.
 これらの医薬品成分を含む排水は,下水道へと流入する.下水道は下水処理場に集結しており,さまざまな排水が合わさった下水が下水処理場で排水処理されるが,医薬品のような化学物質については難分解性のものも含まれ十分な除去を行うことが困難である場合が多い.
 下水処理場で処理を行った放流水は河川に放流される.そのため,河川環境中に多種多様な医薬品成分が存在していることが,最近の研究により次第に明らかになってきている 1).

 この環境汚染問題について,近年社会的な関心が高まりつつある要因として,大きく二つがあげられる.

 一つは,近年の目覚ましい科学技術の進歩により,分析技術が飛躍的に向上したことである.すなわち,LC-MS/MS やGC-MS/MS といった,高感度かつ目的成分以外の成分が多く共存する試料中から目的成分のみを選択的に検出可能な優れた分析装置が普及したことで,これまで検出ができなかった微量濃度の環境汚染物質の存在が明らかになってきた.

 もう一つは,1990年~2000 年代に社会問題化した環境ホルモン問題により,微量な濃度であっても生理活性を持ち,生態系やヒトに悪影響を及ぼす物質が私達の身の回りに溢れている事が明らかになり,化学物質による環境汚染問題に対する社会的な意識が高まりつつあることである.

 これまでに検出事例が報告されている医薬品成分は,カフェインや虫除け剤のディート,痒み止めのクロタミトン,殺菌剤のトリクロサンといった生活関連医薬品にはじまり,下熱鎮痛剤のアセトアミノフェンやイブプロフェン,降圧剤のアテノロールやジソピラミド,向精神剤のカルバマゼピン,高脂血症治療剤のクロフィブリン酸,抗がん剤のシクロフォスファミドなど,抗ウイルス剤のオセルタミビル,抗菌剤のクラリスロマシインやレボフロキサシン,テトラサイクリンなど,100種を越えている.

 河川環境中におけるこれらの医薬品成分の検出濃度はng/L ~g/L と,ヒトの体内で薬理作用を発揮する濃度(mg/L)よりは低いものの,河川環境中に生息する生態系への毒性影響や,飲料水源となっている河川では飲料水を通じたヒトへの健康影響が懸念され,研究が進んできている 2).最近では,抗ウイルス剤のオセルタミビルについて,野生の水鳥を経由した薬剤耐性獲得ウイルスの出現からヒトへの伝播の可能性が報告されている他,抗菌剤についても薬剤耐性菌の発生の助長を懸念する報告もなされている.3)

 このように,河川環境中に医薬品成分が存在することに起因する,さまざまな悪影響への対策技術に関する研究も行われている.

 特に,下水処理場での除去率を向上させる水技術開発に関する研究は,医薬品成分による環境リスクを削減・回避する有力な手段の一つとして注目されている.その中で,酸化力の強いオゾンを用いた水処理は,医薬品成分に留まらず,環境ホルモン類や,その他の環境汚染物質についても概ね90%以上の除去率を得ることが可能である.また,病原性微生物の殺菌または不活化にも有効であることが報告されている 4).

 しかしながら,オゾンを用いた高度な水処理技術は,通常の水処理技術と比較して費用対効果が優れていないため,現存するすべての下水処理場への設備の導入は現実的には難しい.この課題を克服するべく,新たな水処理技術として電気分解反応による水処理が近年着目され,日進月歩で研究が進みつつある.

 日本の医薬品市場規模はアメリカに次いで世界2 位ともされており,先進国の中でも薬剤の使用率が高い.さらに,高齢化社会に伴い,医薬品の使用は今後増加することが予想される5).環境中に存在する場合,汚染物質となりうる医薬品成分の除去技術の開発に加えて,河川環境中で分解されやすい,環境面にやさしい医薬品の開発や,飲み残し薬回収などの取組みも,人類の繁栄を持続していくために望まれ,今後の進展に目が離せない.

1) Daughton, C. G. and Jones-Lepp, T. L.: Pharmaceuticals and Personal Care Products in the Environment, ACS Symposium Series (2001).
2) 中田典秀:水環境学会誌, 33, 147 (2010).
3) Kümmerer, K.: Chemosphere, 75, 435 (2009).
4) Antoniou, M. G. et al.: Sci. Total. Environ., 456–457, 42(2013).
5) 厚生労働省:医薬品産業ビジョン (2013).

著者紹介 大阪薬科大学薬学部(助手) E-mail: t.azuma@gly.oups.ac.jp

 


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