呼び出し音が何度か鳴ったあと
“ただいま電話に出ることができません”
のアナウンスがあり電話は切れた
仕方がないので、その日はそのまま眠ることにした
その夜私は、イチロ兄の家に車を置いたまま
佐藤さんと一緒にタクシーに乗り合わせて帰ってきた
佐藤さんはご機嫌で「またそのうちみんなでゆっくり飲もうね」
と言いながら、十分過ぎるタクシー代を私に握らせて降りていった
飲み過ぎたりはしていない、いろんな話を聞き過ぎただけ・・・
むしろ私は、ほとんど飲んでいなかった
それでも気分が悪いのは、昼間の出来事のせいだろうか
あれこれ考えても仕方がないので無理をしてベッドへ潜り込んだ
眠りたいのに目が冴えて眠ることが出来ない
アロマのキャンドルに灯をともし、薄めの水割りを作った
しばらくぼんやりとキャンドルを眺めているところへ
インターフォンが鳴った
こんな時間にやって来た人に大体の予想は出来た
「ごめんなさい、悪いけど 今夜は帰ってくださらないかしら?」
「真理子、さっき電話くれただろう?開けてくれよ!」
大きな声を出すその訪問者に仕方なくオートロックを解除した
「美咲のやつお前さんの素性まで知ってやがった
真理子、お前の従兄弟とアイツは同級生なんだってな?」
「そうみたいね、今日は私その従兄弟達と一緒だったのよ」
うん、それも聞いた
あいつ・・・そのコンペに自分の知ってる探偵を潜り込ませたようで
“なにもかも知ってるんだ”なんて言いだして
“金持ちが相手だってわかっているから”って・・・・
きっとアイツ・・・金が目当てなんだよ
今まで不自由はさせたつもりなかったのに
“もうあなたとは無理だから、その女のところへ行けばいい”なんて言いだす始末だよ
開き直っているやつにはかなわない 何をいっても無駄って感じで・・・
それで出てきたって言うの?
私は、そんなお下がりみたいな男と一緒になるつもりはないわ
悪いけど、やっぱり今夜は帰ってくださらないかしら
もしこの先美咲さんが何か言ってきたとして、
“はいそうですか”って、私がお金を出すとでも思う?
美咲さん自信も同じようなことをしていて
それを私が知っていることも彼女はわかっているのよ
あなたが情けない態度でいるから、そんな風に言われたんでしょう?
彼女きっと内心ではお金が捕れるなんて本気で思ってないはず
あなたとの関係を解消しようと思っているかは、定かではないけれど
とにかく帰って頂戴、もうあなたと会うこともないわ
私の気持ちは一気に冷めていた、ざわついていた気持ちも落ち着いていた
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「ったく、いい加減にしろよな」
そういい残してアイツは出ていった
これでいい・・・これでやっと終わりに出来る
「さよなら・・・」 閉まったドアに向かって静かにつぶやいた