佐助は才蔵との死闘で消費した忍具の回収に来ていた。
才蔵は肉体を川に浸して、失った水分と体力を回復している。
半日程はかかるらしい。
その時間を利用して、死闘の跡を辿り、忍具の回収をする。
それも自分の分だけでなく、才蔵の分もしなければならない。
というのも、佐助と才蔵は今後、行動を共にする事になった。
─────
「何故?」
手応えを打ち消された、佐助が才蔵に尋ねた。
才蔵ははぐらかす。
「そこまでお前に言う必要は無い。俺の個人的問題だ」
「確かに、それはそうだが、今、お前の命をどうするかは俺次第なんだけどな」
佐助が才蔵を脅すかの様に言った。
才蔵は何も言えなくなってしまう。
そして佐助が言葉を続ける。
「このまま、お前を生かしておいたら、この先また、俺や信繁様にとっての大きな障害になるとも限らない」
「だったら、とっとと殺すがいい」
才蔵が突き放す様に言った。
微笑を浮かべながら話を続ける、佐助。
「しかし俺はお前を気に入った。お前程の男を殺すのは勿体なく思ってな」
才蔵は何も言わない。
佐助が更に話を続ける。
「だから話次第に拠っては、見逃してやらん事もないが」
「甘いな。見逃して貰ったからと言って、お前の味方になるとは限らないのだぞ!?」
才蔵は呆れる様に言った。
誇らし気に話す、佐助。
「確かに甘いのかもしれん。しかし、これも我が主君、昌幸様の教えでもある」
才蔵は黙ったまま、佐助の言葉を待つ。
佐助が話を続ける。
「力ある者には情を以って接すべき」
「おかしな教えだな。力無き者にこそ情を与えるべきではないのか!?」
才蔵は佐助の言った真田昌幸の教えに疑問を示した。
再び佐助が微笑みながら話す。
「日常の生活において、それはわざわざ言うまでもない事。昌幸様の教えは戦場での事だ」
「それにしても、力ある者こそ殺せる時に殺しておくべきではないのか!?」
才蔵はまだ疑問が拭えなかった。
微笑みを残したまま話し続ける、佐助。
「そう思うのが当たり前ではあるだろう。しかし昌幸様は九度山に配流の身ながらも徳川方に警戒をされる程の人物故、当たり前な考えには収まらないのだ」
「どういう事だ!?」
才蔵が佐助に尋ねた。
佐助は誇らし気に答える。
「敵になるにしろ、味方になるにしろ、力ある者の存在が自らを高める事になる。そして敵味方は巡り会わせにしか過ぎない」
才蔵は何も言えなくなってしまう。
話を続ける、佐助。
「俺はお前を生かすだけの価値があると判断した。例え再び敵になろうとも、だ」
「だったらば、何故、俺を脅す!?」
才蔵は再び佐助に疑問をぶつけた。
苦笑しながら佐助が応える。
「それは言葉の綾というものだ。それに脅した方が答え易かろうとも思ってな」
才蔵は再び黙り込んでしまう。
話を続ける、佐助。
「だから最初から見逃すつもりだった。答えたくなければ、答えなくともよい。しかし、お前に答える気がないのであれば、俺は此処に居ても仕方がない」
「分かった。話せる事だけ打ち明けよう」
才蔵は意を決した様に言った。
佐助が応える。
「聞かせて貰おう」
「俺はある命を受けて今、一人の男を探している」
才蔵が話し始めた。
相槌を打つ、佐助。
「うむ」
「その仕事で俺は命を落とす事になるやもしれん」
才蔵は淡々と悲観的な事を言った。
佐助が才蔵に疑問をぶつける。
「命を懸けてまで、やらなければならない仕事なのか!?」
「どの様な仕事であれ、引き受けた以上は命懸けでやるのが我々の価値じゃないのか!?」
才蔵が佐助に訊き返した。
更に疑問を重ねる、佐助。
「確かにそれはそうだが、お前は今の処遇に不満があるのだろう!?」
「不満があろうとも引き受けた以上は言い訳にはならない。仕事を途中で投げ出してしまっては、志まで失ってしまう」
才蔵は淡々と語っている。
佐助は相槌を打つしかなくなってしまう。
「うむ」
「また仕事を失敗する様であれば、我々に待つのは死だけだろう」
才蔵は表情一つ変えずに語っている。
話を合わせる、佐助。
「確かに我々に与えられる仕事の殆どは失敗が許されない」
「だから、お前の誘いはありがたいが、今、その事を考える事は出来ない」
才蔵がきっぱりと言い切った。
佐助は残念さを漏らし、その上での疑問を口にする。
「そうか、それは残念だが、だったらば何故、俺に挑んできたのかが不思議だな」
「確かに仕事を最優先に考えるならば、余計な事ではあっただろう。しかし仕事で命を落とす事も私闘で命を落とす事も大して変わりは無い」
才蔵は相変わらずに淡々と話をしている。
それでも疑問が晴れない、佐助。
「それはそうなのかもしれないが、仕事で命を落とすとは限らないだろう」
「お前と闘っても命を落とすとは限らない。いや、俺はお前に勝てる気でいた。でもそれは俺の思い上がりにしか過ぎなかった」
才蔵は自らを省みる様な言葉を口にした。
佐助はやっと納得する。
「なるほど」
「俺は一対一の闘いであれば、誰にも負けない自信はあった」
才蔵はあくまでも淡々と話をする。
慰める様に言う、佐助。
「あれだけの技を使えるのであれば、無理もなかろう」
「それでもお前には通用しなかった。上には上がいるという事を思い知らされた」
才蔵は淡々と話を続ける。
佐助は言う。
「いや、通用はしたさ。この俺が手傷を負わされるとは」
「ふっ」
才蔵が少しだけ苦笑した。
そして話を続ける。
「俺の技は相手に留めを刺せなければ意味は無い」
「確かにその点はあの技の最大の欠点ではあるだろう。しかし、あの技を凌げる者もそうはいないはず。尤もそれも俺の自惚れなのかもしれないがな」
佐助が冷静な分析を含めての話をした。
才蔵は黙ったまま空を見上げている。
少しの間をおいて佐助が再び才蔵に訊く。
「先程、お前は一人の男を探していると言った。そして命を落とすかもしれない、と。そんなにも危険な仕事なのか!?」
「ああ」
才蔵が短く応えた。
更に疑問を続ける、佐助。
「その後にお前は一対一なら誰にも負けない自信があったと言った。矛盾しないか!?」
「探しているのは一人だが、相手をする事になれば、その仲間も相手せざるを得なくなるだろう」
才蔵が佐助の疑問に応えた。
佐助は納得して、助力を申し出る。
「なるほど。ならば俺が手伝ってやろうか!?二人掛かりであれば、生き残れる可能性も高くなるはずだ」
「余計なお世話だな。これは俺の仕事だ。何故、わざわざ首を突っ込もうとする!?」
才蔵が佐助の申し出を突き放した上で訊いた。
率直に応える、佐助。
「だから言っただろう。俺はお前を気に入った。出来る事ならば、是非とも信繁様にお前を引き合わせたい」
「お前まで命を落とす事になるのかもしれないのだぞ!?」
才蔵は呆れる様に訊いた。
佐助が微笑みを浮かべながら応える。
「どんな困難であろうとも、必ず解決策はある。やる前から悲観的になってどうする。そして可能性がある限り、成功を求めるべきだろう」
才蔵は再び黙ったまま空を見上げていた。
そして佐助が言葉を続ける。
「もう決めた。お節介と言われようとも、俺はお前の手助けをする」
─────
佐助は才蔵という男の話を聞けば聞く程、死なせるには惜しい様に思った。
そして、この才蔵という男を九度山に連れて帰れば、さぞ信繁様に喜んで貰えるんじゃないかと、その事が楽しみで仕方がない。
そんな期待を胸に忍具の回収を続ける佐助であった。
才蔵は肉体を川に浸して、失った水分と体力を回復している。
半日程はかかるらしい。
その時間を利用して、死闘の跡を辿り、忍具の回収をする。
それも自分の分だけでなく、才蔵の分もしなければならない。
というのも、佐助と才蔵は今後、行動を共にする事になった。
─────
「何故?」
手応えを打ち消された、佐助が才蔵に尋ねた。
才蔵ははぐらかす。
「そこまでお前に言う必要は無い。俺の個人的問題だ」
「確かに、それはそうだが、今、お前の命をどうするかは俺次第なんだけどな」
佐助が才蔵を脅すかの様に言った。
才蔵は何も言えなくなってしまう。
そして佐助が言葉を続ける。
「このまま、お前を生かしておいたら、この先また、俺や信繁様にとっての大きな障害になるとも限らない」
「だったら、とっとと殺すがいい」
才蔵が突き放す様に言った。
微笑を浮かべながら話を続ける、佐助。
「しかし俺はお前を気に入った。お前程の男を殺すのは勿体なく思ってな」
才蔵は何も言わない。
佐助が更に話を続ける。
「だから話次第に拠っては、見逃してやらん事もないが」
「甘いな。見逃して貰ったからと言って、お前の味方になるとは限らないのだぞ!?」
才蔵は呆れる様に言った。
誇らし気に話す、佐助。
「確かに甘いのかもしれん。しかし、これも我が主君、昌幸様の教えでもある」
才蔵は黙ったまま、佐助の言葉を待つ。
佐助が話を続ける。
「力ある者には情を以って接すべき」
「おかしな教えだな。力無き者にこそ情を与えるべきではないのか!?」
才蔵は佐助の言った真田昌幸の教えに疑問を示した。
再び佐助が微笑みながら話す。
「日常の生活において、それはわざわざ言うまでもない事。昌幸様の教えは戦場での事だ」
「それにしても、力ある者こそ殺せる時に殺しておくべきではないのか!?」
才蔵はまだ疑問が拭えなかった。
微笑みを残したまま話し続ける、佐助。
「そう思うのが当たり前ではあるだろう。しかし昌幸様は九度山に配流の身ながらも徳川方に警戒をされる程の人物故、当たり前な考えには収まらないのだ」
「どういう事だ!?」
才蔵が佐助に尋ねた。
佐助は誇らし気に答える。
「敵になるにしろ、味方になるにしろ、力ある者の存在が自らを高める事になる。そして敵味方は巡り会わせにしか過ぎない」
才蔵は何も言えなくなってしまう。
話を続ける、佐助。
「俺はお前を生かすだけの価値があると判断した。例え再び敵になろうとも、だ」
「だったらば、何故、俺を脅す!?」
才蔵は再び佐助に疑問をぶつけた。
苦笑しながら佐助が応える。
「それは言葉の綾というものだ。それに脅した方が答え易かろうとも思ってな」
才蔵は再び黙り込んでしまう。
話を続ける、佐助。
「だから最初から見逃すつもりだった。答えたくなければ、答えなくともよい。しかし、お前に答える気がないのであれば、俺は此処に居ても仕方がない」
「分かった。話せる事だけ打ち明けよう」
才蔵は意を決した様に言った。
佐助が応える。
「聞かせて貰おう」
「俺はある命を受けて今、一人の男を探している」
才蔵が話し始めた。
相槌を打つ、佐助。
「うむ」
「その仕事で俺は命を落とす事になるやもしれん」
才蔵は淡々と悲観的な事を言った。
佐助が才蔵に疑問をぶつける。
「命を懸けてまで、やらなければならない仕事なのか!?」
「どの様な仕事であれ、引き受けた以上は命懸けでやるのが我々の価値じゃないのか!?」
才蔵が佐助に訊き返した。
更に疑問を重ねる、佐助。
「確かにそれはそうだが、お前は今の処遇に不満があるのだろう!?」
「不満があろうとも引き受けた以上は言い訳にはならない。仕事を途中で投げ出してしまっては、志まで失ってしまう」
才蔵は淡々と語っている。
佐助は相槌を打つしかなくなってしまう。
「うむ」
「また仕事を失敗する様であれば、我々に待つのは死だけだろう」
才蔵は表情一つ変えずに語っている。
話を合わせる、佐助。
「確かに我々に与えられる仕事の殆どは失敗が許されない」
「だから、お前の誘いはありがたいが、今、その事を考える事は出来ない」
才蔵がきっぱりと言い切った。
佐助は残念さを漏らし、その上での疑問を口にする。
「そうか、それは残念だが、だったらば何故、俺に挑んできたのかが不思議だな」
「確かに仕事を最優先に考えるならば、余計な事ではあっただろう。しかし仕事で命を落とす事も私闘で命を落とす事も大して変わりは無い」
才蔵は相変わらずに淡々と話をしている。
それでも疑問が晴れない、佐助。
「それはそうなのかもしれないが、仕事で命を落とすとは限らないだろう」
「お前と闘っても命を落とすとは限らない。いや、俺はお前に勝てる気でいた。でもそれは俺の思い上がりにしか過ぎなかった」
才蔵は自らを省みる様な言葉を口にした。
佐助はやっと納得する。
「なるほど」
「俺は一対一の闘いであれば、誰にも負けない自信はあった」
才蔵はあくまでも淡々と話をする。
慰める様に言う、佐助。
「あれだけの技を使えるのであれば、無理もなかろう」
「それでもお前には通用しなかった。上には上がいるという事を思い知らされた」
才蔵は淡々と話を続ける。
佐助は言う。
「いや、通用はしたさ。この俺が手傷を負わされるとは」
「ふっ」
才蔵が少しだけ苦笑した。
そして話を続ける。
「俺の技は相手に留めを刺せなければ意味は無い」
「確かにその点はあの技の最大の欠点ではあるだろう。しかし、あの技を凌げる者もそうはいないはず。尤もそれも俺の自惚れなのかもしれないがな」
佐助が冷静な分析を含めての話をした。
才蔵は黙ったまま空を見上げている。
少しの間をおいて佐助が再び才蔵に訊く。
「先程、お前は一人の男を探していると言った。そして命を落とすかもしれない、と。そんなにも危険な仕事なのか!?」
「ああ」
才蔵が短く応えた。
更に疑問を続ける、佐助。
「その後にお前は一対一なら誰にも負けない自信があったと言った。矛盾しないか!?」
「探しているのは一人だが、相手をする事になれば、その仲間も相手せざるを得なくなるだろう」
才蔵が佐助の疑問に応えた。
佐助は納得して、助力を申し出る。
「なるほど。ならば俺が手伝ってやろうか!?二人掛かりであれば、生き残れる可能性も高くなるはずだ」
「余計なお世話だな。これは俺の仕事だ。何故、わざわざ首を突っ込もうとする!?」
才蔵が佐助の申し出を突き放した上で訊いた。
率直に応える、佐助。
「だから言っただろう。俺はお前を気に入った。出来る事ならば、是非とも信繁様にお前を引き合わせたい」
「お前まで命を落とす事になるのかもしれないのだぞ!?」
才蔵は呆れる様に訊いた。
佐助が微笑みを浮かべながら応える。
「どんな困難であろうとも、必ず解決策はある。やる前から悲観的になってどうする。そして可能性がある限り、成功を求めるべきだろう」
才蔵は再び黙ったまま空を見上げていた。
そして佐助が言葉を続ける。
「もう決めた。お節介と言われようとも、俺はお前の手助けをする」
─────
佐助は才蔵という男の話を聞けば聞く程、死なせるには惜しい様に思った。
そして、この才蔵という男を九度山に連れて帰れば、さぞ信繁様に喜んで貰えるんじゃないかと、その事が楽しみで仕方がない。
そんな期待を胸に忍具の回収を続ける佐助であった。