「ギター・エイド」 フィールド報告書
子どもたちをマラリアから守る――蚊帳が救う子どもたちの命
ユニセフ・シエラレオネ事務所
根本 巳欧
* * * * * *
「絶対にこの子はマラリアで死なせたくない。だから、毎晩蚊帳の中で寝るようにしているんです」シエラレオネ北部、ボンバリ県のマカマ保健所近くに住むマリアトゥ・カマラは、力強くこう語ってくれました。彼女が腰掛けるベッドを覆うのは、保健所で配られた大きなブルーの蚊帳。腕には10ヶ月になったばかりの息子、アブゥを抱きながら。
「保健所で蚊帳を無料でもらえると聞いた時、夫と一緒に手をたたいて喜びました。」
シエラレオネの首都フリータウンから、3時間ほど車を走らせ到着したのは、北部の中心都市マケニ。10年に及んだ内戦のつめ痕がまだ残るこの街は、今でも電気も水道もありません。そのマケニからさらに車で30分。舗装もされていない山道を進んだ先に、マカマ保健所はあります。保健衛生省が管理するこの保健所では、ユニセフの支援により、マラリア予防のために加工された特殊な蚊帳を、すべての妊産婦と5歳未満児の子どもに無料で提供しています。マリアトゥは、妊娠時の検診の際にこの保健所を訪れ、蚊帳を手にすることができました。
マリアトゥは、最初の子どもをマラリアで失いました。「マラリアにかかっても、薬を買うお金が無かったし、そもそも薬なんて手に入らなかったんです」と彼女は涙ぐみます。内戦中、シエラレオネでは病院や保健所がほとんど機能していませんでした。医者や看護士の多くが殺され、わずかに残った医薬品も、政府軍や反政府ゲリラの略奪にあいました。そのため、抵抗力の弱い子どもは、一度マラリアにかかってしまうと、死を待つしかないという過酷な現実がありました。
* * * * * *
効果的なワクチンがまだ開発されていない中、マラリア病原虫を媒介する蚊との接触を断つべく、蚊帳の中で眠ることが一番確実なマラリア予防策です。ただし、通常の蚊帳を使う場合、定期的に薬品に漬けて、防虫効果を高める工夫が必要です。そこで、日本の住友化学が、定期的に薬品に付ける必要がない、特殊な蚊帳を開発しました。言ってみれば、手間がかからず非常に長持ちするこの蚊帳は、現在6ドル程度(約700円)で購入することができます。しかし、1人あたり平均年間所得がわずか140ドル(約16,000円)のシエラレオネの人々にとって、こうした特殊な蚊帳を買うことは決して容易ではありません。そのため、ユニセフは保健衛生省と協力し、妊産婦と5歳未満児の子どもには無料で蚊帳を提供できるようにしました。
そして、今回、この蚊帳の購入のための資金が、「ギター・エイド」という日本の一般の皆さまからの募金によって賄われたのです。
なぜユニセフが蚊帳を配るのか――それは、ここシエラレオネでは、毎年約30万人の子どもが命を落としており、その死亡原因の3分の1がマラリアだからです。単純に計算すると、毎年約10万人の子どもがマラリアのために死んでいることになります。子どもの3人に1人が5歳の誕生日を迎える前に亡くなっているこの国で、マラリアを予防するための特殊な蚊帳を配布することは、文字通り、子どもの生存を保障することを意味するのです。
* * * * * *
マリアトゥはシンプルなベッドに、保健所でもらった蚊帳を吊るすことができるよう、市場で拾ってきた鉄のパイプを括り付けていました。「実は、これは私のアイディアなんですよ。」マカマ保健所の保健員、ビンティ・マンサレイは笑って話します。ユニセフによるトレーニングを受けた彼女は、保健所にやってきた母親たちに、保健衛生の知識を教えながら蚊帳を配ります。時には、家々を回って保健指導もします。蚊帳が正しく使われているかどうかチェックするためです。
彼女自身、母親たちが本当に蚊帳を使ってくれるのか、初めは半信半疑だったと言います。「父親が使ってしまうのではないか」、「市場で売ってしまうのではないか」、「魚獲りの網にしてしまうのでは」と、いろいろな不安がありました。でも、彼女のような保健員の地道なフォローアップのおかげで、蚊帳の配布半年後も、およそ90%の母親が子どもと一緒に蚊帳の中で寝ていることが証明されています。
今回、「ギター・エイド」募金により、シエラレオネの子どもたちのために、特殊な蚊帳を購入することができました。ユニセフによって、この蚊帳1帳1帳が、マリアトゥとアブゥのような、母親と子ども一人ひとりに確実に届けられていきます。日本の技術と、日本の募金で、シエラレオネの子どもたちを救うことができる――「ギター・エイド」で集められたお金は、こうして実際に日本から遠く離れたアフリカの子どもたちのために役立っているのです。
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ユニセフ・シエラレオネ事務所
根本 巳欧
子どもたちをマラリアから守る――蚊帳が救う子どもたちの命
ユニセフ・シエラレオネ事務所
根本 巳欧
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「絶対にこの子はマラリアで死なせたくない。だから、毎晩蚊帳の中で寝るようにしているんです」シエラレオネ北部、ボンバリ県のマカマ保健所近くに住むマリアトゥ・カマラは、力強くこう語ってくれました。彼女が腰掛けるベッドを覆うのは、保健所で配られた大きなブルーの蚊帳。腕には10ヶ月になったばかりの息子、アブゥを抱きながら。
「保健所で蚊帳を無料でもらえると聞いた時、夫と一緒に手をたたいて喜びました。」
シエラレオネの首都フリータウンから、3時間ほど車を走らせ到着したのは、北部の中心都市マケニ。10年に及んだ内戦のつめ痕がまだ残るこの街は、今でも電気も水道もありません。そのマケニからさらに車で30分。舗装もされていない山道を進んだ先に、マカマ保健所はあります。保健衛生省が管理するこの保健所では、ユニセフの支援により、マラリア予防のために加工された特殊な蚊帳を、すべての妊産婦と5歳未満児の子どもに無料で提供しています。マリアトゥは、妊娠時の検診の際にこの保健所を訪れ、蚊帳を手にすることができました。
マリアトゥは、最初の子どもをマラリアで失いました。「マラリアにかかっても、薬を買うお金が無かったし、そもそも薬なんて手に入らなかったんです」と彼女は涙ぐみます。内戦中、シエラレオネでは病院や保健所がほとんど機能していませんでした。医者や看護士の多くが殺され、わずかに残った医薬品も、政府軍や反政府ゲリラの略奪にあいました。そのため、抵抗力の弱い子どもは、一度マラリアにかかってしまうと、死を待つしかないという過酷な現実がありました。
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効果的なワクチンがまだ開発されていない中、マラリア病原虫を媒介する蚊との接触を断つべく、蚊帳の中で眠ることが一番確実なマラリア予防策です。ただし、通常の蚊帳を使う場合、定期的に薬品に漬けて、防虫効果を高める工夫が必要です。そこで、日本の住友化学が、定期的に薬品に付ける必要がない、特殊な蚊帳を開発しました。言ってみれば、手間がかからず非常に長持ちするこの蚊帳は、現在6ドル程度(約700円)で購入することができます。しかし、1人あたり平均年間所得がわずか140ドル(約16,000円)のシエラレオネの人々にとって、こうした特殊な蚊帳を買うことは決して容易ではありません。そのため、ユニセフは保健衛生省と協力し、妊産婦と5歳未満児の子どもには無料で蚊帳を提供できるようにしました。
そして、今回、この蚊帳の購入のための資金が、「ギター・エイド」という日本の一般の皆さまからの募金によって賄われたのです。
なぜユニセフが蚊帳を配るのか――それは、ここシエラレオネでは、毎年約30万人の子どもが命を落としており、その死亡原因の3分の1がマラリアだからです。単純に計算すると、毎年約10万人の子どもがマラリアのために死んでいることになります。子どもの3人に1人が5歳の誕生日を迎える前に亡くなっているこの国で、マラリアを予防するための特殊な蚊帳を配布することは、文字通り、子どもの生存を保障することを意味するのです。
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マリアトゥはシンプルなベッドに、保健所でもらった蚊帳を吊るすことができるよう、市場で拾ってきた鉄のパイプを括り付けていました。「実は、これは私のアイディアなんですよ。」マカマ保健所の保健員、ビンティ・マンサレイは笑って話します。ユニセフによるトレーニングを受けた彼女は、保健所にやってきた母親たちに、保健衛生の知識を教えながら蚊帳を配ります。時には、家々を回って保健指導もします。蚊帳が正しく使われているかどうかチェックするためです。
彼女自身、母親たちが本当に蚊帳を使ってくれるのか、初めは半信半疑だったと言います。「父親が使ってしまうのではないか」、「市場で売ってしまうのではないか」、「魚獲りの網にしてしまうのでは」と、いろいろな不安がありました。でも、彼女のような保健員の地道なフォローアップのおかげで、蚊帳の配布半年後も、およそ90%の母親が子どもと一緒に蚊帳の中で寝ていることが証明されています。
今回、「ギター・エイド」募金により、シエラレオネの子どもたちのために、特殊な蚊帳を購入することができました。ユニセフによって、この蚊帳1帳1帳が、マリアトゥとアブゥのような、母親と子ども一人ひとりに確実に届けられていきます。日本の技術と、日本の募金で、シエラレオネの子どもたちを救うことができる――「ギター・エイド」で集められたお金は、こうして実際に日本から遠く離れたアフリカの子どもたちのために役立っているのです。
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ユニセフ・シエラレオネ事務所
根本 巳欧