初恋映画No.1の不動の地位を占めるはずだった『初恋のきた道』をあっさり逆転した映画である。中国の巨匠監督の作品の格調の高さ、芸術性には遥かに及ばないし、ラストまで畳み掛けるような「感動」的なエピソードの連発があるわけでもない。けれど平凡さ直球勝負のこの映画を私はこよなく愛しく思う。
二枚目男優でありながら、善良・誠実・純朴な新人教師を嫌味なく演じられるイ・ビョンホンはやはり稀有な存在だ。彼はきどった役よりこういう素朴系の役にこそ本領が発揮できる。上辺だけのイメージ・チェンジなどしてほしくない。
26歳で「17歳の小学5年生」を演じたチョン・ドヨンのはじめるような笑顔は理屈ぬきで観る観る度心が温かくなる。実はどこかに彼女の若手演技派女優の面目躍如たる見せ場のシーンがあるのではないかと予想していたのであるが、それは外れた。ホンヨンがカン先生に自分の心情を吐露するシーンもカン先生を諭すシーンもないのだ。だからこそかえってホンヨンの恋心に気づかないカン先生の鈍感さにいらだちながら、ホンヨンの「初恋のゆく道」を気遣う思いを最後まで維持できたとも言える。
『初恋のきた道』のヒロインは料理上手で機織りの名手の村一番の美女である。故に周囲もやがては彼女の一途な想いを叶えるべく動き始めるのも自然な成り行きだ。
しかしホンヨンは粗野でがさつで軽率なところのある平凡な女にすぎない。カン先生のために文字通り火の中・水の中に突進していく彼女に手をさしのべる者もいない。『初恋のきた道』で、割れた茶碗は娘を思う母親の心情を知った職人によって修繕され、どこかメルヘンの趣きのある作風を象徴する存在となるが、本作で割れたレコードは、ホンヨン自身が調達した新品のレコードとしてカン先生に贈られることで、カン先生の終わった初恋から、ホンヨンの終わらない初恋の象徴へと再生される。
「誰かを待っていたのではないか」と問うカン先生に「先生ったらバカみたい」と応えるホンヨン、ベンチに二人並んで座っている時の彼女の幸せそうな表情、(バケツを一緒に運んでいる姿を)「人に見られますよ。」とカン先生を制する時の少し大人びた表情には何度も笑みを誘われる。
そしてラスト、先生を見送る彼女は涙に暮れてはおらず、別れの悲しみに耐える以上に彼女の静かではあるが力強い決意が浮かんだ表情が、観客がエンドクレジットと共に画面に現われる3枚の写真によって知る彼女の初恋の結末へとの道標となる。
この映画は、とかく「過剰」に走りがちな韓国映画としては終わり方に抑制が効いている。
カン先生はあの時引き返したのだろうか。
二人の再会はどんな風で、どのように二人は愛を育んでいったのだろうか。
ホンヨンは先生を逆に虜にするほどの聡明で美しい女性に成長したのだろう。
映画が終わっても想像は尽きない。
チョン・ドヨンは後に出演した『スキャンダル』での自分の役柄の設定に不満で、「あの映画は二度と観たくない」と漏らしたというのを聞いて、私はますます彼女のファンになった。
二枚目男優でありながら、善良・誠実・純朴な新人教師を嫌味なく演じられるイ・ビョンホンはやはり稀有な存在だ。彼はきどった役よりこういう素朴系の役にこそ本領が発揮できる。上辺だけのイメージ・チェンジなどしてほしくない。
26歳で「17歳の小学5年生」を演じたチョン・ドヨンのはじめるような笑顔は理屈ぬきで観る観る度心が温かくなる。実はどこかに彼女の若手演技派女優の面目躍如たる見せ場のシーンがあるのではないかと予想していたのであるが、それは外れた。ホンヨンがカン先生に自分の心情を吐露するシーンもカン先生を諭すシーンもないのだ。だからこそかえってホンヨンの恋心に気づかないカン先生の鈍感さにいらだちながら、ホンヨンの「初恋のゆく道」を気遣う思いを最後まで維持できたとも言える。
『初恋のきた道』のヒロインは料理上手で機織りの名手の村一番の美女である。故に周囲もやがては彼女の一途な想いを叶えるべく動き始めるのも自然な成り行きだ。
しかしホンヨンは粗野でがさつで軽率なところのある平凡な女にすぎない。カン先生のために文字通り火の中・水の中に突進していく彼女に手をさしのべる者もいない。『初恋のきた道』で、割れた茶碗は娘を思う母親の心情を知った職人によって修繕され、どこかメルヘンの趣きのある作風を象徴する存在となるが、本作で割れたレコードは、ホンヨン自身が調達した新品のレコードとしてカン先生に贈られることで、カン先生の終わった初恋から、ホンヨンの終わらない初恋の象徴へと再生される。
「誰かを待っていたのではないか」と問うカン先生に「先生ったらバカみたい」と応えるホンヨン、ベンチに二人並んで座っている時の彼女の幸せそうな表情、(バケツを一緒に運んでいる姿を)「人に見られますよ。」とカン先生を制する時の少し大人びた表情には何度も笑みを誘われる。
そしてラスト、先生を見送る彼女は涙に暮れてはおらず、別れの悲しみに耐える以上に彼女の静かではあるが力強い決意が浮かんだ表情が、観客がエンドクレジットと共に画面に現われる3枚の写真によって知る彼女の初恋の結末へとの道標となる。
この映画は、とかく「過剰」に走りがちな韓国映画としては終わり方に抑制が効いている。
カン先生はあの時引き返したのだろうか。
二人の再会はどんな風で、どのように二人は愛を育んでいったのだろうか。
ホンヨンは先生を逆に虜にするほどの聡明で美しい女性に成長したのだろう。
映画が終わっても想像は尽きない。
チョン・ドヨンは後に出演した『スキャンダル』での自分の役柄の設定に不満で、「あの映画は二度と観たくない」と漏らしたというのを聞いて、私はますます彼女のファンになった。