通訳者の勉強机

自らの通訳力を高めるための励ましツールとして。

違っているということ

2009年05月30日 | 通訳日記
ある企業での会議の通訳に行ったのですが、参加者のお一人の日本語がとても分かりにくいのです。まず、発音が不明瞭で消え入るようなか細い声。そして語彙の選び方がなんだか不自然。通訳をしなくてはならないので一生懸命聴くのですが、あまりに分かりにくくて脳に負担がかかってるわ~と疲労感がたまってきました。そして、白状してしまいますが…その方自身に対しいらいらした気持ちになってきたのです(通訳者としてこんなことはいけないのはよく分かっています。滅多にないんですよ…)。

ふっと、最初にいただいた参加者の名刺をみるとその方は日本人ではなかったのです。

そのことが分かったとたん、いらいらした気持ちが消えてそんな風に感じた自分が恥ずかしくなりました。

これはどういう心理なのでしょうか。「これって、逆差別なのかしら?」と妙な罪悪感がでてきました。

そうではなくて、単に「この人にとって日本語は母国語ではないのだから不自然で分かりにくい話し方をして当然」と納得できただけなのでしょうか。

ず~と以前のことですが、テレビをつけると私の好みでは全くない、初めて見る男性歌手が歌っていました。なんだか暑苦しい外見だわ~と思ったのです。歌い終わって司会者と話をする場面になり、その人も日本人ではないということが分かりました。と、急に「暑苦しい外見だわ~」と思った自分がとってもいやな奴に思えてきたのです。

どちらの場合も、対象となる人そのものには何も変わりがないのに自分のその人に対する気持ちが一瞬で劇的に変わったそのことにとても戸惑いました。外国人であるというだけで、日本人に対する基準と別の基準を使っているのかなあ…と。

そういえば、日本人がしたら許せないことでも外国人だったら許せるっていうことが結構ある気がします。

長崎、福岡、坂出に行ってきました

2009年05月29日 | 通訳日記
少し前になりますが造船関係の仕事で長崎、福岡、坂出(香川県)に行って来ました。三日とも半日業務だったので、駆け足の観光ができました。

特に長崎は初めてだったので楽しみにしていましたが、想像以上に素敵なところでした。急な坂の多い街で、普通の道の途中でいきなり階段がはじまったりそれどころかエスカレーターが出現するんです。びっくり!旅行者には不思議な体験ですが、住んでいる人にとっては不便なのでしょうか。坂道を毎日上り下りして運動になるから長崎の人は全国平均よりも体力があるなんて統計があるかも。

その不便さをおぎなうくらい、坂の上からの景色はすてきでした。

仕事でも遊びでも、私は旅行が大好きです。旅行の魅力はやはり日常生活と異なる空間に行ける事ですね。

それでふと子どものころに読んだガリバー旅行記のことを思いだしたました。ガリバーが漂着した所は普通の常識とはかけ離れた国ばかりでしたよね。「銀河鉄道999」という昔のアニメもそうでした。もっと最近では「キノの旅」というライトノベル(?)も同じような設定で話が展開していくようです(私は読んでなくて、うちの子どもが好きなんです)。

旅にでると、普段当たり前と思っていたことが実はそうではなかったんだと、考え方を揺さぶられるような体験をさせてもらえることがあります。そこがいいんですよね。第一その土地の方言をきくと、言語といった自分の根本を支えているものからして、土地によって異なるんだと新鮮な気持ちになります。

日本の国内でもそうなのですから、外国にいくともっと違うことに遭遇して驚きの連続ですね。

(長崎の写真など貼り付けたかったのですが、容量が大きすぎてだめでした。唯一貼り付けられたのがこの写真です。これは博多駅から歩いていける距離にある承天寺(じょうてんじ)というところの庭です。電車の中にあった九州の各地を特集した冊子に載っていたのを偶然見つけ訪ねていくと、もう夕方5時を過ぎていたのに住職さんが中を見せてくれたんです。本当にきれいなお庭で、大々的に宣伝をしたらいいのにと思うくらい。でも拝観料もとらず、観光化したくないとその住職さんはおっしゃっていました。皆さんも、博多に行かれる機会があればぜひおすすめの場所ですよ!)

「EUがあなたの学校にやってくる 」からちょっと脱線

2009年05月12日 | 通訳日記
5月9日の続きです。

私が担当させていただいたEU講師の方はベルギー人でした。私が、ベルギー人の国民性はどんなものかと聞くと、
 「とても現実的で何か問題が起きるとすぐに『よし、どうやって解決したらいいだろう』と考える国民だ。」
と説明してくれました。そして、その背景にあるのはベルギーの歴史だとも言っていました。つまり、ドイツ、フランスという大国に挟まれた小国であり常に戦争に巻き込まれてきた経験から、現実的な生き残りの方法を考えざるを得なかったのだとのことでした。

そういえばずっと以前、あるプロジェクト付きの通訳をしたことがありその時のクライアントであるハンガリー人の方が
「解決方法の無い問題はない(=すべての問題には何らかの解決方法が必ずある)。」と言ったのを思い出しました。

プロジェクトを進める上で大きな問題が生じました。でもチームの日本人担当者は、なぜそんな問題が起きたのか、誰のせいなのか、「あの時ああしていたらこんなことにはならなかったのに…」といったことばかり繰り返すのです。建設的な意見を全く提案しない。その時上記のハンガリー人は、きれてしまい(その気持ち、通訳していてよ~く分かりました)「解決方法の無い問題はない」と叫んだのです。

これだけの例を見て、日本人の性質はどうだ、欧州人の性質はどうだと一般化する気は全くありません。ただ、何か困難なことがおこったらチャレンジ精神を発揮し「きっと解決策はあるはず」と思いたいものです。

「EUがあなたの学校にやってくる」

2009年05月09日 | 通訳日記
今日、5月9日はヨーロッパ・デーと言いEU(欧州連合)創設の基となる出来事を記念する日だそうです。今から59年前の5月9日に、当時のフランス外務大臣ロベール・シューマンが平和と繁栄のために欧州統合の理念を初めて提唱したのです。どうして私がこんなことを知っているかと言うと、昨日EUの方が兵庫県のある高校でEUについての出張授業を行い、その通訳に行ってきたからなんです。これは「EUがあなたの学校にやってくる」と題するイベントで、昨日60人以上のEU大使、外交官が日本各地の高校などで授業を行いました。

授業はパワーポイントを使ってのプレゼンで、大変興味深い内容でした。

例えば、EUのもとになる組織の一つに欧州石炭鉄鋼共同体がありましたが(学校の歴史で勉強しましたよね!)なぜ石炭と鉄鋼なのか?当時戦争で使う武器を作るため石炭と鉄鋼は欠かせないもので、これを共同管理することにより各国が武器を大量に作れないようにすることが狙いだったのです。そもそもEUを創立したのは戦争に明け暮れ荒廃した欧州にあって、平和の大切さを心から理解し二度と戦争をおこしてはいけないと人々が決意したからです。

そうだったんだ!学生のときは、ただ「欧州石炭鉄鋼共同体」の名前と設立の年を暗記しただけで、その背景については全然考えていませんでした(説明はあったかもしれませんが、関心がなかったのでしょう)。

また、EUのモットーは「多様性の中の統合(United in Diversity)」です。統合と調和を重んじるが同時に多様性をも尊重し、そのことを大変重要視しています。その表れの一つとして、公用語を23も定めているそうです。EU域内で23言語が話されているのではなく、公用語が、ですよ!ちなみに域内で話されている言語は150以上にも及ぶとのことでした。

これは、ものすごい労力、時間、費用を要することです。だって、会議が行われるたびに23の言語が飛び交い通訳が66人も必要なんでもの!

そこまでしてEUの体制を維持していこうとするには、よほど強い決意が必要だと思いました。逆にいえば、そんなに大変な、そしてある意味で不自然な体制をぜひとも維持しようとするその根底には、それだけの動機があるんだと感じました。

それだけに、今回のような試みを通じてEUの存在を対外的に伝えていく大切さを感じているのかもしれません。

日本は、国として均一性が高く地理的にも自然ななりたちなので、こういった努力を怠りがちなのかもしれません。でも、やはり自国のことを他国の人に積極的に伝え正しく理解してもらうことは同じように大切です。

「ともかくやってみる」

2009年05月01日 | 通訳日記
今日行った仕事先のアメリカ人CEOは、「Everything is possible. Swing the bat.(何でも可能だ。バットを振ってみろ=ともかくチャレンジしろ。)」というのがモットーのようでした。確かに、バットを振らないで打席に立っているだけでは空振りもしない代わりにホームランもヒットも打てません。せっかく打席に立つ機会を与えられたのだから、ともかくバットを振らなくては始まりませんね。

それで思い出したのですが以前、あるインターナショナル・スクール(小学校)で雑誌の取材があり校長先生のインタビューを通訳させていただいたことがあります。校内も見学したのですが、手書きのポスターが貼られておりその中の一枚に「If you think you can, you can do it. If you don't think you can, think again.(できると思うならきっとできるよ。できないと思ったら、本当にそうなのかもう一度考えてごらん。)」と書いてありました。う~ん、こんな風に小学生のうちから自分の可能性を信じるよう励まされるっていいなあと思いました。