ツブれる会社にはワケがある

2007年秋。会社が倒産した。
実はトンデモない会社だったのだ。

(次回更新は11月上旬予定です)

(2) ブレる会社方針

2009-08-10 | 会社の計画がない!?

ここのところ旬の言葉、「ぶれる」(笑)
表現がぶれる、というか違う言い方になるのは仕方ないが、
ニュアンスとか意味が変わると「ぶれる」どころではない。
政治家のみなさん、いろいろな言い回しをして、
「同じ意味です」なんて詭弁はやめてほしいものだ。


さて、あなたの会社の今年度の方針。
頭に入っていますか?
それは具体的な内容ですか。
そして、その方針を実現するために会社は動いていますか?


倒産した件の会社。
私が入社する前に「株式公開」を
会社方針として決めたらしい。

株式公開すると、広く投資家から資金も調達でき、
単純に言えば、経営計画と事業展開を
より大きなものにすることができる。
もちろん、オーナー社長には創業者利益という旨味もある。
(そういう単純なことではないが、株式公開について
説明する項でもないので、ご勘弁を願いたい)

しかし、そのためには何より業務の整備が
必要であることは誰でも知っている。
財務的なことはもちろん、実務レベルでも
いい加減な会社が上場できるはずもない。


この「株式公開」を目指した会社方針、私が入社した当時は、
「平成○年の株式公開を目指そう」となっていた。

ちなみに、この“○年”は入社の翌年のことである。
計画としての「株式公開」。
私は素直に
「会社としてきちんと明確な目標があるんだな」と感心し、
私自身の関わる業務でも、“上場”に対して
何らかの貢献ができるだろうか、と
自分のモチベーションを上げるひとつの要因にもなった。

きっと、業務規程も細かく整備されつつあり、
様々な実務のルールが確立されつつあるのだと、
「すごいな」とまで思った。
だってそうだろう、来年「株式公開」するのだから。


しかし、だ。
実状は、まったく異なるものだった。

まず、一般社員が「株式公開」の方針について、
何をするのかがまったく理解できていない。
役員の決めた会社方針が末端の社員にまで
その意図から、きちんと伝わっていないのだ。

もちろん、一般社員のスキルが低いということではない。
一部の役員が会社方針を決めて、
それを配下の各部門長に対して、
「各部署、上場のためにこんな取り組みをすべき」
というような指示命令がなされていないのだ。

ということは、会社方針など絵に描いた餅だ。
各社員が、日々の業務の中で上場のための
業務改善などしていくはずもない。
通常の業務にプラスアルファで、
上場のための作業が発生するはずなのだから。
みな、目の前の日々の業務で手一杯なのに
上司が具体的に指示もしなければ、
「株式公開とは」などという説明もしていない。

後々、この会社の風土として理解したが、
他の社員が何をしようと、知らん顔である。
会社方針でさえも、きっとそうだったのだろう。

この時、入社したばかりの私はまだ理解していなかった。


社内で他部署が何をしているのか
意識していない事例をひとつ。

私が入社した当時、
全国の店にパソコンを配備し、
販売管理のシステムを導入する動きがあった。

担当者は、パソコンを少々かじっていた程度の
社員であったが、まあ、このようなことも中小企業では
致し方のないことかもしれない。

その担当者がいかに責任を持って、任された仕事に
取り組んでいくかが重要なのである。
(ただ、この担当社員は、いろいろと問題を引き起こした。
それは後述するとして…)

会社側も、さすがに、システム導入スキルの
ない社員だけでは無理だと考えたのだろう。
SE経験のある社員の中途採用も行った。

私も同じような時期の入社だったので、
その中途採用の彼とは話すことも多かったのだが、
彼曰く、
「費用も期間もかかるシステム導入なのに
みなさん、何でこんなに無関心なんですかね」
と言っていた。

おっしゃるとおりだ。
まともな感覚を持っているSEで助かった。

(彼とはその後も倒産するまでいろいろと議論を交わした。
彼はシステム部門を取り仕切るようにまでなり、
彼からは、私の知らなかった社内の理不尽な話も
たくさん聞いた。そのエピソードもあらためて書こうと思っている。)


閑話休題。
さて、システム導入のプロジェクト。

つまり、それなりの予算も、期間も、
ひいては営業部門などの協力などを含め、
システムを導入するということは、
本来は全社的なプロジェクトであるはずなのだ。

部署内のパソコンを1台だけ購入したり、
パッケージソフトを入れ替えるのとはワケが違う。
実際に導入費用がどの程度のものだったのかは
私自身は詳細に知らないが、かなりな額なはずだ。

各社員が、システムを導入すること自体に無関心なだけでなく、
それによって変わるはずの自分たちの実務までも
無関心なのかと疑わざるを得ない。
もしかして、ただ受け身で仕事をしており、
コンピュータが導入されても、
自分たちの作業の上流と下流が変わるだけだと
思ってはいないだろうか。

仮に、その上流と下流だけが変わり、
自分たちが受け取って出力するデータ類は
何も変わらないとしても、
上流と下流がコンピューターで効率化されているのに
自分たちの作業を何も変える必要はないのか。


と、ここまで書いてきて、ハタと気づいた。
実務担当者の無関心さを指摘してしまっていたが、
悪(!)の根源は、やはり管理者、いわゆる部門長の
無関心なのだった。
上司が無関心であるから、
部下に全体像を伝えることもしない(いや、できないのか)し、
具体的な業務改善の指示などもできないのだ。

前述の(システム導入未経験の)担当者だけでなく、
その上司も、“システム導入”に関する学習を
しなければいけない。

上司が担当者に任せきりにして、
上司自身が新たなことに対する学習を怠っている。
私もよくその上司が言うのを耳にした。
「コンピューターのことはA君(担当者)じゃないとわからないから…」
この上司(部長)は元々、営業部門の部長だったらしい。
それが何の因果か、販売管理部門、そしてそのシステム化までを
面倒みることになった。

会社として決定したことを、誰(個人)にやらせるかだけ決め、
組織として取り組まない。
これでは、計画、そして、その実現も心許ない。

もちろん、システム導入に限らない。
“全社的な”プロジェクトは、
文字通り“全社的に”取り組むべきなのだ。

私の知る限り、この“システム導入”プロジェクトは
延期に延期を重ね、計画から3年越しで、
ようやく全店舗に導入された。
計画から2年遅れであった。


システム導入プロジェクトを例に出したが、
全社的に意思統一できていなかったことはほんの一例である。

私が入社してから倒産までの数年間で、
どれほど、“一部の人間しか知らない”事案があっただろう。
よく会社がもっていたものだ。

こういったことの原因は、
まるで個人商店のような会社の体質によるもので、
役員だけでなく、部課長でさえ社長に直接“お伺い”を立て、
「OK」をもらえたら“何か”を始めてしまう風土にも通ずる。

よく「風通しのいい会社」などと「良い会社」の定義に上がるが、
それを履き違えると組織としては成り立たない。
数々の“直接案件”(?)の弊害はまた別項で述べよう。



会社方針とは、いったい何のために決めるのだろう。
もちろん、「方針」であったり、「目標」であったり、
各社によって言い回しは異なるかもしれない。

社員数が少ない会社でさえ、経営者の指針を
明確にしていない会社は少ないだろう。
すべて口頭で伝達していくような会社もあると思うが、
何らかの形で社員に明示していることと思う。

会社の方向性を明確にすること。
それは、社員の意識をひとつにまとめ、
内面的には、売上や利益を増やしたり、
外面的には、消費者からの信頼を得たり、
社会的信用を高めるために経営陣が考えていくものだ。
そこには、中長期の経営計画がなければいけない。
そして、それらを実現するための予算計画だ。

この会社の杜撰な計画や予算について、
次項では考えてみたい。



さて、件の「株式公開」は、
その後も倒産までの数年にわたって
毎年、“会社方針”に掲げられていた。

入社当時、「平成○年の株式公開を目指そう」
となっていたものが、
翌年、さらにまた次の年、といった具合に目標年を先延べし、
最後には、ただ
「株式公開を目指そう」
だけに変わっていた。

高い目標を掲げていたのに
それを実現できないから縮小…いや曖昧な目標に変えてしまう。
実現できない原因は何なのか、追求していたようには到底思えない。

何故、目標年次を明示しなくなったか、
そして、それを見ている社員はどう思うか、
など考えもしていないのだろう。

「ベテラン社員の誰か役員に問い正さないのか」
と私も思ったのだが、
社員もわかっていたかもしれない。
上場などできないことを。

ただ、そんなことを社員の誰もが気にせず、
上司に進言するなどという、大それたことをする
風土もなかったのだろう。
結局は、自分の会社であっても他人事だったのだ。

それよりも今となっては、
「上場などしなくても良いから、倒産させずに
堅実に会社を存続させる」と、
当たり前のことを唱ってほしかったと思う。