「集団的自衛権(しゅうだんてきじえいけん)」は、自分の国が攻撃(こうげき)されていなくても、自分と関係(かんけい)のある国が攻撃されたときに反撃(はんげき)する権利です。これまで日本はこの権利を使えませんでしたが、安倍晋三(あべしんぞう)首相(しゅしょう)は憲法(けんぽう)の読み方を変えて使えるようにしようとしています。国の仕組(しく)みも変わるのでしょうか。
■仲間の国を武力で守る権利
自衛権には二つある。
一つは、自分で自分の身を守る「個別的(こべつてき)自衛権」だ。例えば、Xという国が日本を攻撃したら、日本はXに反撃できる。
もう一つが「集団的自衛権」。例えば、米国がXに攻撃されたとき、日本が攻撃されていなくても、仲間の米国を助けるため日本はXを反撃できる。
国際連合(こくさいれんごう)(国連)の憲法といわれる「国連憲章(けんしょう)」は、ほかの国に軍隊(ぐんたい)の力(武力〈ぶりょく〉)を使うことを禁じている。ただ、自分の国や仲間の国を守るため、こうした二つの自衛権による武力は使っていいと認めている。
日本は戦後、憲法9条で戦争をしないことや戦力を持たないことをうたった。しかし、自衛隊ができると、文言と現実のつじつまが合わなくなってきた。
そこで歴代(れきだい)の内閣(ないかく)は9条をどう読むかという「解釈(かいしゃく)」にあたり、「9条は『必要最小限度(ひつようさいしょうげんど)』の実力(じつりょく)を使うことは禁じていない」とした。日本を守る個別的自衛権は「必要最小限度」の実力を使うことであり、自衛隊はそのための組織(そしき)なので、9条で認められていると解釈した。
一方で、歴代の内閣は、日本が攻撃されていないのに集団的自衛権を使うことは、「必要最小限度」の範囲(はんい)を超え、9条で禁じられていると解釈。そのうえで、「日本は、国連憲章が認めているように集団的自衛権を使う権利は持っているが、9条があるので使えない」という考え方を30年以上にわたり持ち続けてきた。
■憲法の読み方、変える?
安倍首相は、日本を集団的自衛権を使える国にしようとしている。まず、大学の教授(きょうじゅ)や外務省(がいむしょう)の出身者(しゅっしんしゃ)たちを集め、話し合ってもらうことにした。
会議は5月15日、「9条が認める『必要最小限度』の中に、集団的自衛権も含まれると解釈するべきだ。そうすれば、日本も集団的自衛権を使える」とする報告書(ほうこくしょ)をまとめた。
安倍首相は報告書と同じように、9条の解釈を変えることをめざす。理由として日本を取り巻く環境(かんきょう)の変化を挙(あ)げる。
北朝鮮(きたちょうせん)はミサイルの発射(はっしゃ)を繰(く)り返(かえ)し、沖縄県(おきなわけん)の尖閣諸島(せんかくしょとう)の海には中国の船が侵入(しんにゅう)している。そんな中、日本が攻撃されれば米国に助けてもらえるのに、集団的自衛権を使えないと日本は米国を守れない――。安倍首相は、米国との関係を強めるためにも集団的自衛権を使えるようにする必要があると説明(せつめい)する。
安倍首相が考える集団的自衛権の例(れい)は次のようなものだ。
(1)戦争が起きた国から逃(に)げる日本人が米国の船に乗っていて、この船が攻撃を受けたときに自衛隊が守る(2)米国に向かって放たれたミサイルを自衛隊が打ち落とす。
こうした考えに反対する人たちもいる。米国が外国に戦争をしかけ、日本に「集団的自衛権を使って一緒(いっしょ)に戦って」と求めれば、自衛隊が戦争に巻(ま)き込(こ)まれるかもしれないからだ。
「集団的自衛権を使いたければ、『憲法改正(かいせい)』をするべきだ」と言う人もいる。国会での議論や国民の投票(とうひょう)が必要な憲法改正をせず、時々の首相が思ったとおりに解釈を変えられるようになれば、権力の暴走を防ぐ憲法の意味がなくなるためだ。
安倍首相は、夏ごろまでに集団的自衛権を使えるよう、9条の解釈を変えたいとしている。
国会では安倍首相が総裁(そうさい)を務(つと)める自民党(じみんとう)と、公明党(こうめいとう)の2党が与党(よとう)として政権をとっている。安倍首相はまず、公明党の協力(きょうりょく)を得たい考えだ。自民党と公明党が話し合っているが、公明党は集団的自衛権を使うことに反対だ。安倍首相の思いどおりに進むかどうか、分からない。(広島敦史)
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