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文字のはなし・11

2007-08-21 | 火・DTPと編集
超久々に文字の話題へと戻ってまいります。

欧米語圏と違って、猛烈な字数を持つ漢字圏にある日本では、文字をどう扱うかが印刷物製作における重要な課題となります。教育上必要とされる漢字は、文部省(文部科学省)によって教育漢字、常用漢字が決められて1006字、1945字に限定されていますが、実際にわれわれが日常生活で遭遇する漢字は、これでは圧倒的に不足してしまうのが実情です。とくに人名や地名として用いられる漢字は、これではまったく足りません。法律や医学、建築など多くの専門用語の中にも、常用漢字からはみ出すものは数知れずです。教育上は必須でなくとも、固有の文化や歴史、姓名に配慮して正しい印刷物を製作するためには、もっともっと多くの漢字が必要ということになります。

印刷が活版によって行われていた当時は、印刷所ごとに揃える活字の種類が印刷物の実情に合わせて拡充されていたのですが、1970年代から始まった文字情報の電子化…身近に言えばワードプロセッサの誕生により、漢字が電子情報となって流通しうる状況が生まれました。文字に番号を振って管理する方法は、各社が独自に決めてしまっては将来の互換性に重大な問題を引き起こします。ですから、文字にどういう規則で番号を振るのか、そして何文字くらいをセレクトして番号を振るのかは、国のレベルで決めることが必要になってきます。そこで通産省(経済産業省)が、工業規格としてその基準を定めることになります。

ところで、世の中の文字を全部正しく印刷する…イマドキで言えば全部正しく電子情報化するためには、いったい何文字くらいの漢字を規格化しておく必要があるのでしょう。1000文字や2000文字のレベルでないことは明らかですね。実はこの問い、明確な答えはありません。なぜなら、どこまでが世間で通用する漢字であって、どこからが癖字、達筆と言って無視したり、造語だデタラメ漢字だと言って却下したりしてよい漢字か、その基準が作れないからです。また、おそらく日常生活において99%の人が一生目にしないだろう、という漢字も数知れずあるわけで、それらを大胆に切り捨てていけば、「必要な漢字は数千文字だ」とも言えますし、微細な差をキチンと別の字体だと認定して拾い、レアでマイナーな漢字をしっかりフォローしていけば、「必要な漢字は数万文字だ」とも言えるのです。

ふじポンは学生時代の専攻が東洋近代史でして、ゼミの授業では毎週ふりがなも返り点も一切ない漢字の羅列を「解読」し続けてました。今思い出しても苦痛だったのですが(笑)、中国語は同じ1つの漢字が固有名詞だったり、動詞だったり、副詞だったりして、すぐには文の構造が分かりません。しかもそれを見誤ると文意がまるで変わって意味不明になってしまいます。なので、ひたすら漢和辞典と格闘しながらさまざまな品詞とその意味を拾って原文を訳していくのです。漢文を訳す才能に著しく乏しかったふじポン。徹夜してやっと5行訳した文をゼミで発表すると、教授に「う~ん、全然違うね、キミ。ちゃんと諸橋引いたの?」とアッサリ怒られてました。

「諸橋」というのは、大学図書館の奥に並ぶ『諸橋大漢和辞典』のことです。日本での漢文研究のリファレンスとされるこの辞典には、なんと5万の漢字が収められていると言われます。もちろんその全てが日本で使える漢字というわけではないのですが、あらゆる漢字の表記に万全を期す、となれば最終的には5万字ほどの文字数が必要になるのかもしれませんね。年々拡充されていくDTP用のフォントも、この字数をめざして少しずつにじり寄っていくのでしょうか。

さて、通産省が最初に定めたのが、2965字のJIS第1水準漢字。続いて3388字の第2水準漢字です。当時は記憶装置が貧弱だったこともあってこれで十分だったのでしょうが、先ほども書いたとおり、印刷物で万全を期そうと思うと、これではまったく足りないということになります。かくして、通産省はこの後何度となくJIS規格を更新して収録字数を増やしていきます。一方、民間でもDTPの普及と発展に合わせ、文字の定義を進める動きが出てきます。こちらは1980年代末からですからJISよりはずっと後ですが、DTP界の巨人、Adobe社が中心となってDTP用フォントの採用グリフ(字形)を策定していて、これが事実上のスタンダードになっています。その後Adobeによるこの基準も、何度となく更新されていきます。

…再開するや、超長文ですね(汗)。次回以降はこのあたりを少しずつ掘っていこうと思います~。



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