秋光詩集

奈良県生駒郡富雄村
奈良県生駒郡富雄三碓町915
大阪市大淀区大仁本町1-43
大阪市東淀川区南方

復活へ

2014-02-24 18:39:14 | 日記
 残念ながら浅田真央は敗れた。

 本人は、フリーの演技が終わったあと、
 「昨日の演技はとても残念で、自分もすごく悔しくて取り返しのつかないことをしてしまったなという思いがあるが、今回のこのフリーは、しっかりこの4年間やってきたことができた。そしてたくさんの方に支えてもらったので、その恩返しもできたと思います」
 というコメントを残している。
 彼女は韓国でも中国でも大人気で、フィギュアスケート団体の女子ショートプログラムで、浅田真央選手がトリプルアクセルに臨もうとしたときに「やっぱり失敗しそう」と発言した韓国人アナウンサーについて「相手選手に対して過度に軽蔑的だ」と批判が殺到した。個人のフリーが終わって「私も泣いた」と、ネットに書き込んだ中国人は、何万件もあった。

 真央ちゃんは、顔を見ると分かるとおり、優しい性格の持ち主である。柔道の松本薫などは、見るからに戦闘的な顔をしているが、ああいう顔立ちのほうが競技に向いているとはいえるだろう。
 
 私は子供のころ、相撲の大会に出たことがあった。相手は小柄な子だったが、立ち合いからいきなり押し込んできた。私が、「なにを」と押し返したら、その反動で見事に投げ飛ばされた。私のどこに負ける要素があったのか、相手の子の勝因は何か。
 勝負というものは、じつは戦う前から始まっているのである。相手の子は大柄だった私を見てまともでは負けそうな気がしたに違いない。それで立ち合いから虚を衝いて勝負に出たのだ。私のように軍配が返ってから力を出そうと思ってもそれでは遅いのだ。真央ちゃんはそんなことは、私より身に沁みて分かっているはずなのだが。

 フリーのあと、本人いわく、「今日の朝の練習は良くなかったので、自分のことに集中して、自分がやりたい演技をしようと思いました。」
 真央ちゃんはショートプログラムのときはどうだったのだろう。フリーのときのような向かって行く気持ちに何故、なれなかったのだろう。フリーの高得点で納得したファンは多いが、私はフリーで高得点を出したからこそ、「?」という気持ちを捨てきれない。
 なぜ、努力したものが報われないのだろうか。二千年の昔、司馬遷が「天道、是か非か」とつぶやいたのは、まさにこのことを指している。

 次のオリンピックは27歳だという。平昌(ピョンチャン)で金メダルの笑顔を見たいと思っているファンが世界中にいるはずだ。

秋光詩集76年春

2014-01-22 14:24:56 | 漢詩
    新年 1976.1.1(昭和51年)
 東天迎旭日    東天、旭日を迎う
 万物瑞雲中    万物瑞雲の中(うち)
 草舎猶如昨    草舎猶昨(ゆうべ)の如し
 梅花綻恵風    梅花、恵風に綻ぶ
[訳文]
 東の空に新しい年の陽を迎え、地上のすべてがめでたい雲に包まれようとしている。その中にあって、私の家だけは以前と変わらず取り残されたようだ。私の家だけかと思っていたが、庭先の梅の花もやっぱり以前と変わらず春を思わせる風にほころび始めた。

    又
 改暦人間老    暦を改め人間老ゆ
 迎年旭日中    年を迎う旭日の中(なか)
 山河風物改    山河風物は改まり
 嶽雪聳清穹    嶽雪清穹に聳ゆ
[訳文]
 歳が変わって人は一つ老いる。新年の朝日が昇ると、地上の山や川やそのほかの風物も新しくなったようだ。そんな中で、雪を頂いた嶺がどっしりと青空に聳え立っている。

    又
 四海山河改    四海山河改り
 迎新万里風    新たに迎う万里の風
 回頭浮世事    頭(こうべ)を浮世の事に回(めぐら)して
 白髪旧夢空    白髪、旧夢は空し
[訳文]
 天下の山河は新年を迎え、新しい風ははるかの彼方からやって来る。浮世のことを思い煩っているうち、夢は白髪の中に消え去ろうとしている。

    又
 迎新閑日月    新たに迎う閑日月
 万戸瑞雲中    万戸瑞雲の中
 草舎無官楽    草舎に無官の楽しみ
 衡杯坐恵風    杯に衡(おしはか)り恵風に坐す
[訳文]
のどかな月日の中に新年を迎えた。どの家もめでたい雲の中にあるようだ。私は粗末な家に住んで宮仕えもしないが、そんなところに楽しみもある。酒を飲みながらその境遇を推しはかり春風の中にいる。

    又
 歳旦逢佳都    歳旦佳都に逢う
 千門笑語同    千門笑語を同じくす
 迎年吾又老    年を迎えて吾又老ゆ
 忘世酒盃中    世を酒盃中に忘る
[訳文]
 年の初め、町に出掛けてみた。どのうちからも笑いさざめく声が聞こえてくる。新年になって私も一つ年を取ったのだが、世間の様子も私の年のことも酒盃の中に忘れてしまおう。


    浅春 1976.1.23(昭和51年)
 麗日春如夢    麗日、春の夢の如し
 軽烟流水辺    軽烟水辺を流る
 人稀居亦静    人稀居亦静かなり
 駘蕩伴閑眠    駘蕩として閑眠を伴う
[訳文]
 このうららかな日差しの下にいると、まるで夢の世界にいるような気分だ。薄いもやが水辺を這うように流れ、人を見かけることは滅多にない。森閑とした中でのんびりしていると、眠気を催してくる。


    早春
 停笻林下路    笻を停む林下の路
 春日故遅々    春日故(ことさら)に遅々たり
 疎影青苔上    疎影青苔の上
 閑吟花綻時    閑吟花綻ぶ時
笻:きょう。四川省に産する竹。杖に適する。
[訳文]
 杖を頼りに林の中を散歩していたが、ふと足を止めてみる。暮れなずむ春の日が、青い苔の上にまばらな木の影を映し出す。ゆったりと詩歌を口ずさむ今は、ちょうど花の開く時期でもある。

    又
 村居無一事    村に居りて一事無し
 梅発暗香伝    梅発し暗(ひそか)に香り伝わる
 花信人知否    花信は人知るや否や
 春愁独自憐    春愁独り自ら憐れむ
[訳文]
 村ではごく平穏無事な毎日であるが、その中で一輪の梅が咲いたのか、そこはかとなく香りが漂ってくる。花の便りをみんなは知っているのだろうか。春の日はなんとなく物憂く感じるものであるが、私はなんだかうきうきした気分になってきた。

    又 1976.2.7(昭和51年)
 乾坤方寂々    乾坤方(まさ)に寂々
 雪裏汲寒泉    雪裏寒泉を汲む
 撲面風刀冷    面を撲つ風刀冷やか
 蕭蕭二月天    蕭蕭たり二月の天
[訳文]
 空と地が静まり返った中に雪に埋もれた井戸から水を汲む。顔に当たる風は刃のように冷たく、二月の空はまったく物寂しい。


    春霄
 故山斜日落    故山斜日落
 嶺雪散空林    嶺雪空林に散る
 独坐長松下    独り坐す長松の下
 清歓客子心    清らなる客子の心を歓ぶ
[訳文]
 山陰に夕陽が落ちて、峰の頂も落葉樹の林にも雪が舞っている。松の木の下に座って、今日の客人の清華な様子がこの上なく好ましいものに思えてくる。
 ※ 韓愈の「酔留東野」より、「自慙青蒿倚長松=自ら慙づ、青蒿の長松に倚れるを」。青蒿は小草。小草が喬木を頼りにしてつきしたがうのと同じように、孟郊(親交があった)の才華を頼りにしてきたことを慙じる。

    又
 処々花消息    処々花の消息あり
 山林訪野梅    山林の野梅を訪う
 清香晴雪裏    清香晴雪の裏(うち)
 天地早春回    天地早くも春の回(めぐ)る
[訳文]
 花の便りが聞かれるようになって来たころ、野に咲く梅の花を探しに出掛けた。消え残る雪の下からすがすがしい香りがしてくるところを見ると、もう季節は春になりつつあるのだなあ。

    又
 二月春猶浅    二月春猶お浅く
 炉頭煮凍泉    炉頭凍泉を煮る
 客稀居亦静    客居ること稀に亦静かなり
 微吟素灯前    微吟す素灯の前
[訳文]
 二月は春とはいえ、まだまだ寒さが抜けないものだ。私は、凍りついた井戸から汲んできた水を鍋に入れて、囲炉裏で煮物をしているところ。訪れる人も滅多にないものだから、粗末な灯火の下で詩など口ずさんでいるのです。


    春日 1976.2.8(昭和51年)
 静聴初鶯春信伝    静かに聴く初鶯の春信伝  
 村醪亦好素灯前    村醪も亦(また)好し素灯の前
 無塵草舎知清福    草舎塵無くして清福なるを知る
 一片吟情上玉箋    一片の吟情玉箋に上(たてまつ)る
村醪そんろう。田舎作りの酒。
[訳文]
 友人の家を尋ねてみると、春の便りの初鶯の音が聞こえる。酒は田舎の酒だが、飾り気のない明かりの下ではそれもなかなかいいものだ。この草葺のうちは掃除も行き届いて、ゆかしさもたしなみもある上品な家だ。酔うほどに即興の詩を口ずさみ、請われるままに上等の箋に書いて差し上げた。


    春江
 江村一望水辺楼    江村一望す水辺の楼
 雨霽鴎声破客愁    雨霽(は)れて鴎声客愁を破る
 入画岸花楊柳下    岸花画に入(おさ)む楊柳の下
 春潮渺渺送行舟    春潮渺渺行く舟を送る
[訳文]
 雨上がりの楼閣に登ってみると、川や村が一望できる、景色のよいところだった。鴎の鳴き声は旅人の愁いを拭い去ってくれるようだし、岸辺の柳の下には花が咲いて一服の画のようだ。春の川面に満ちてくる潮ははるかに果てしなく、出航する船を送り出そうとしている。

    春日
 春林小逕帯軽烟    春林の小逕軽烟を帯ぶ
 院静逢僧又有縁    院は静かに僧に逢うも又有縁
 一点梅開香入座    一点の梅開き香座に入る
 窓前詩思日如年    窓前の詩思日は年の如し
[訳文]
 春の一日、林の小道に足を踏み入れた。うっすら靄がかかっていて、その外れのお寺はしんと静まり返っている。ここで僧にあったのは何かの因縁だろうか。そのまま僧に招かれて寺を案内してもらった。梅が咲き始めたのか、座敷に香りがただよってくる。窓の景色を詩に換えようと苦吟していると、一日は一年ほどに長い。


    梅 1976.2.15(昭和51年)
 春寒野寺数枝梅    春寒く野寺数枝の梅
 素艶花魁冒雪開    素艶なり花魁雪を冒(おか)して開く
 占尽清香塵外賞    尽く占める清香塵外の賞なり
 微吟拽杖独徘徊    微吟杖を拽きて独り徘徊す
[訳文]
花魁:梅の別名。 塵外:俗世間を離れた場所。
 春まだ寒いころ、郊外の寺に梅がいくつか咲きはじめた。梅は飾ることもないのに艶やかで雪を押しのけて咲いてきたのだ。馥郁とした香りは一面にただよい、まるで俗世間を離れたところにある褒賞と言ってよいくらいだ。私は思いつくままに詩を吟じながら杖を片手にうろつきまわっている。


    春日
 清香五彩百花叢    清香五彩の百花叢(むらが)る
 暖靄依依繞故宮    暖靄依依として故宮を繞る
 好是春林黄鳥囀    好(よ)きかな是春林黄鳥の囀る
 芳尋孤杖玉階東    芳(かんば)しきを尋ね孤杖玉階の東
[訳文]
 すがすがしい香りと色とりどりの花。故宮のあたりには離れがたいとでもいうように、うっすらと霞がたなびく。春の林で鳴く鶯の声はまことに風情がある。よい風景を尋ねて一人杖をついて都の東を尋ねる私です。

    又
 拽杖探芳処    杖を拽きて芳処を探る
 春畦拾翠人    春畦拾翠の人
 花陰黄鳥語    花陰黄鳥は語り
 流水隔紅塵    流水紅塵を隔つ
紅塵:俗世間
[訳文]
 杖をつきつき、風雅を尋ねて歩いていると、春のあぜ道には野草を摘む人がおり、咲き乱れる花に隠れて鶯は鳴いている。小川を流れる水はこのやさしい景色を守るために俗世間を遮断しているのかもしれない。


    梅 1976.2.17(昭和51年)
 岩上寒梅発数枝    岩上の寒梅数枝発す
 林中春信故遅々    林中春信故(もとより)遅々
 追香樹底開幽鳥    樹底に香を追いて幽鳥を開く
 尽日閑行憶好詩    尽日閑行好詩を憶う
幽鳥:山奥の深いところに棲む鳥。
[訳文]
 岩のほとりの梅は少し花開いたけれども、林の中の春は依然として遅い。梅の香を求めて歩き回り、山の奥へ分け入ると、幽鳥に出会うことができた。このようにして、一日をのんびりと過ごしたので、いい詩を作ることができそうだ。

    又
 数樹梅花尽日芳    数樹の梅花尽日芳し
 春光可愛野人花    春光のうち野人花を愛す可(べ)し
 炉辺独対孤樽酒    炉辺独対孤と樽酒
 故老尋来共挙觴    故に老尋ね来て共に觴(さかずき)を挙ぐ
野人:純朴な人、田舎の人。
[訳文]
 幾本かの梅の木が咲いて、終日いい香りを放っている。春ののどかな光の中に包まれた光景は、私のような人でも花を愛するに値するものだ。いろりばたに一人ぼっち同士が、樽酒を横にして座っているのは、わざわざ古くからの友人が尋ねてくれて、これから一緒に飲もうというのだ。

    又
 鶯声出谷伴吟節    鶯声谷に吟節を伴いて出ず
 尽日山行尋旧蹤    尽日山行して旧蹤を尋ぬ
 雪後寒梅香世界    雪後の寒梅世界に香る
 乾坤清絶賞心濃    乾坤清絶賞心濃し
乾坤:天と地。
[訳文]
 鶯が上手に節をつけて鳴いている山の中を、一日歩いて以前訪れたことのある風流の土地に、また行ってみた。雪も残り少なくなって寒梅がいっぱいに香っているこの世界は、清々しくて絶景で心が洗われる気がした。


    浅春 1976.2.28(昭和51年)
 山風寂々入幽窓    山風寂々幽窓に入る
 江霧茫茫満野塘    江霧茫茫野塘に満ちる
 遠望孤村花信遅    遠望す孤村の花信遅く
 橋辺一片酒旗颺    橋辺一片の酒旗颺(あ)がる
酒旗:酒屋が目印に掲げる旗。
[訳文]
 山から吹き降ろす風が人気のない窓にひそかに吹き込んでくる。川霧は果てしなく広がって野原も堤も覆い隠そうとしている。はるかに見える小さな村にはまだ花の便りはなさそうだが、橋のたもとの一軒に、旗が風に吹きあおられているのが見える。

    又
 尋芳林落水淙淙     芳林を尋ね落水淙淙
 遠近層山香雪封     遠近の層山香り雪封す
 花底行行天地白     花底行き行きて天地白し
 小橋留杖聴昏鐘     小橋杖を留めて昏鐘を聴く
[訳文]
 景色が良いと評判の林を尋ねてみた。水はさらさらと流れくだり、遠く近くに見える山々は花の香りが雪を圧倒しているようだ。しかしまだまだ世界は雪の中。ふと橋の蔭で足を止めて夕暮れの鐘を聞いた。

    又
 林園斜照夕     林園に斜照する夕べ
 郁郁送梅香     郁郁として梅香を送る
 数点山花乱     数点の山花乱れ
 吟人訪草堂     吟人草堂を訪う
[訳文]
 庭や林に夕陽が差すころ、梅が馥郁とした香りを放っている。山野草が花開いて、詩人たちが私の家を尋ねてくれた。


    題画(藤花)
 花綻清香遍    花綻び清香遍(あまね)し
 林園詩興濃    林園の詩興濃し
 黄昏携竹杖    黄昏竹杖を携え
 架下聴疎鐘    架下疎鐘を聴く
[訳文]
 花が咲き始め、いい香りがただよう庭は詩情に溢れている。黄昏時に杖をついて藤棚の下でぽつりぽつりとなる鐘を聞いている。


    山行 1976.3.17(昭和51年)
 数点梅花雑古松    数点の梅花古松雑(まじ)る
 渓流雪後韻淙淙    渓流雪後韻淙淙
 尋来勝境徘徊久    勝境を尋ね来りて徘徊久し
 出谷鶯声下遠峰    谷を出でて鶯声遠峰を下る
[訳文]
 梅が開いて近くに立つ古松との取り合わせが一幅の画のようだ。そばを流れる渓流は雪解け水を含んで淙淙とした響きを立てている。いい景色のところを歩いてずいぶん時間をすごしてしまった。ふと、鶯の声が谷間から遠くの峰に響き渡るのが聞こえた。


    春日
 出谷初鶯声未円    谷を出でて初鶯声未だ円ならず
 早梅一枝竹籬辺    早梅一枝竹籬(ちくり)の辺
 小斉浅酌書窓夢    小斉浅酌書窓の夢
 雪後春光又可憐    雪後の春光又可憐
[訳文]
 鶯の初鳴きが聞こえたがまだ上手には鳴けないし、早咲きの梅が竹の垣根のあたりに咲き始めた時期。書斎を整えて軽く酒を飲んでいるうち、うたた寝をしてしまったが、雪の降りつもった早春の春の日差しはことのほか心にしみるものだ。


    春日
 村園春信早    村園の春信早し
 処処尋梅人    処処尋梅の人
 似画黄昏月    画に似たり黄昏の月
 吟情自有真    吟情自ら真有り
[訳文]
 庭や野山はもう春の便り。ところどころの梅を尋ねる人が見える。夕暮れになって、おぼろな様子はまるで絵に描いたようだ。即興の詩もしぜんと真情を写すものが出来上がった。

    又
 村家無一事    村家一事無し
 蝶舞雨後天    蝶は舞う雨後の天
 待月停盃坐    待月盃を停めて坐す
 窓前柳似煙    窓前の柳煙に似たり
[訳文]
 平穏な村の、ある雨上がりの、蝶が舞う一日。月見をしようと酒を飲みながら待っていたが、ふと、手を休めると、窓際の柳の木が煙のように音もなく揺れた。

    又
 野客尋花去    野客花を尋ねて去(ゆ)く
 隔江対夕陽    江を隔て夕陽に対う
 流鶯芳樹下    流鶯芳樹下
 乱囀酔春光    乱囀春光に酔うか
野客:仕官せず民間にいる人。
[訳文]
 春に先駆けて花を尋ねて歩く人がいた。ちょうど夕暮れで、川の向こうに日が沈もうとしている。鶯が鳴き交わし、木蓮が大きな花を咲かせている。鶯も春に酔いしれているかのように見える。

    賞花 1976.3.18(昭和51年)
 我愛田家十里花    我田家十里の花を愛す
 村梅遠近夕陽斜    村梅遠近に夕陽斜めなり
 鶯声繞屋春如夢    鶯声屋を繞りて春夢の如し
 閑人情福野水涯    閑人の情野水の涯を福す
田家:いなか。
[訳文]
 私はこの土地の花や景色がとても気に入っている。あちこちに梅が開いて、飽かず眺めているうち、夕暮れになってしまった。鶯の家々の屋根を越えて鳴き交わす光景は春の夢のようなだ。こののんびりした心情は、野原を流れる小川の水の行く末までも豊かに恵まれたものになってほしいと思う。


古い写真

2013-11-24 16:09:36 | 漢詩
古い写真

秋光詩集 1975年

2013-11-14 15:56:40 | 漢詩
    
    消夏雑詩 1975.8.10(昭和50年)
 深山塵不染    深山は塵に染まらず
 幽谷白雲生    幽谷に白雲生ず
 独聴飛泉響    独り聴く、飛泉の響
 渓陰夢亦清    渓陰の夢、また清し
[訳文]
 深い山の中は世間とは隔絶された世界のようだ。ひそやかなたたずまいの谷間には、白い雲が浮かんでは消える。一人で流れ落ちる滝の響きを聞きながらまどろんでいると、見る夢さえ清々しい。


    初秋 1975.8.10(昭和50年)
 籬辺人不見    籬[り]辺人の見ず
 空院晩風吹    空院晩風吹く
 独坐孤灯下    独り坐す孤灯の下
 虫声入小詩    虫声小詩に入る
[訳文]
夕暮れになって垣根のあたりには人影も見えないが、中庭には夕べの風がそよそよと吹いている。一人で明かりをともして詩作にふけっていると、いつのまにかその中に虫の音が詠みこまれていた。

    又
 簾外蕭蕭雨    簾外に蕭蕭として雨ふる
 今宵多所思    今宵思う所多し
 逢秋家信絶    秋に逢いて家信絶つ
 夜坐得詩遅    夜坐して詩を得るに遅し
[訳文]
 窓の外は物寂しい雨の音。今夜はあれこれと悩み事が浮かんでくる。秋になって家族からの便りも途絶えたまま。夜、一人で詩を作っていてもなかなかまとまらない。


    秋夜 1975.9.12(昭和50年)
 村居明月夕    明月を居く村の夕べ
 此夜倚欄看    此の夜、欄に倚りて看る
 一穂西窓燭    一穂は西窓の燭か
 逢秋思百端    秋に逢いて思い百端
[訳文]
 私の住む村はちょうど名月の夕べ。西の窓から手すりにもたれて見れば、稲の穂は灯し火のよう。秋になって思い巡らすことは数知れない。

    又
 滿地蕭蕭雨    蕭蕭と雨、地に滿つ
 幽窓香篆残    幽窓に香る篆残
 秋從霜鬢到    秋霜、鬢より到る
 枕上雁声寒    枕上の雁声寒し
[訳文]
 物悲しく降る雨が地を満たしてゆくなかで、ほのぐらい窓辺には手習いの墨の残り香。墨の黒さとは逆に、いつのまにか鬢にまばらな白髪が目立つような年になったこの頃、ベッドで休んでいると、遠くで聞こえる雁の鳴き声もみょうに寒々しく聞こえる。

   又
 前庭秋色好    前庭に秋色好し
 浴後月光寒    浴後月光寒し
 断続孤蛩語    断続して孤蛩は語る
 蕭蕭天地寛    蕭蕭たり、天地寛たり
[訳文]
 前庭の秋景色も見頃になって、風呂上りの身には月の光がよけい寒く感じられる。時おり鳴く蛩(キョウ。こおろぎ。)の声を聞くともなく聞いていると、天地の悠久さに触れた思いで、くつろいでゆったりした気分になる。


    秋夜 1975.10.19(昭和50年)
 客舎灯光淡    客舎灯光淡く
 籬辺白露圓    籬辺の白露、圓かなり
 人生常有夢    人生常に夢あるも
 又憶道途難    又道途の難を憶う
[訳文]
 旅籠にともる淡い光の中に照らされて、垣根に結ぶ露のしずくがおぼろに光っている。人の世は常に希望に満ちたものだが、それは同時に苦難に満ちたものでもあるなあ。

    又
 籬辺人不見    籬辺に人見えず
 小院月昇時    小院に月の昇る時
 独坐秋如水    独り坐す秋は、水の如し
 馮牀賦小詩    牀に馮[よ]りて小詩を賦す
[訳文]
辺りに人気もない小さな庭に月が昇りはじめ、秋は水のように澄み切って感じられる。そんな中、ベッドにもたれて詩作にふける私です。


    賞菊 1975.10.20(昭和50年)
 訪菊東籬下    菊を訪う東籬の下
 秋叢帯露香    秋叢、露を帯びて香る
 西風鴻雁影    西風、鴻雁の影
 滿野占秋光    滿野秋光に占めらる
[訳文]
 陶淵明に倣って菊を鑑賞していると、秋草に露が降りてしっとりした香りが漂ってくる。西から吹く風、雁の渡りをする姿、どこを見ても秋の光が満ち満ちている。
※ 飲酒(其五)
東晋 陶淵明
結廬在人境,而無車馬喧。
問君何能尔?心遠地自偏。
采菊東籬下,悠然見南山。
山气日夕佳,飛鳥相与環。
此中有真意,欲辨已忘言。

    又
 幽叢霜後色    幽叢、霜後の色
 滿地占秋光    滿地、秋光を占める
 寂漠孤村夕    寂漠たり孤村の夕べ
 斜暉冷石牀    斜暉、石牀を冷す
[訳文]
 草叢には霜が降りて見渡す限り秋景色になってしまった。村はひっそりと音もなく暮れなずみ、石の台は夕陽を浴びてそのぶん冷たくなっていくようだ。


    山水題画 1975.11.10(昭和50年)
 渓陰林下路    渓陰、林下の路
 独聴石泉響    独り聴く石泉の響き
 洗去人間熱    洗い去るか、人間(じんかん)の熱
 前山隔水明    前山水を隔てて明るし
[訳文]
 隠居した身で流れに沿った小径を歩いていると、岩の間からフツフツと泉が湧き上がっているのが見える。ああ、これは人の世の擾乱や狂騒を洗い流しているのだなあ。
 見上げると、正面の山肌は明るく照りかえっている。

    又
 林荘臨澗水    林荘、澗水に臨む
 緑樹午風軽    緑樹、午風は軽やかに
 洗耳清泉響    耳を洗うか清泉の響き
 深山雲自生    深山、雲、自ら生ず
[訳文]
 林の中にある粗末な我が家は谷川に臨んでいて、緑の木々には午後の風がさわやかに吹いてくる。その清らかな流れは、太古の昔、許由が(きょゆう。時の皇帝から位を譲られようとした時、汚らわしい話を聞いたと言って流れで)耳を洗ったという故事そのままに清らかな響きを立てている。
 あたりの緑とは対照的に遠くの山々には白雲が湧き上がって来た。


    題画 1975.12.3(昭和50年)
 仰見青山上    仰ぎ見る青山の上
 長松樹影濃    長松の樹影濃し
 亭亭遮白日    亭亭として白日を遮る
 一望少人蹤    一望、人蹤を少なくす
[訳文]
 青く翳る山を見上げると、丈の高い松の木がいっぱいに生い茂り、太陽の光さえ遮ってしまうほどだ。蘇軾が「青山」と詠み、韓愈が「長松」と謳った、その光景を目の当たりにする思いだ。
 見渡すと、人の足跡はどこにもない。
※蘇軾の詩の一節「この処青山骨を埋めるべし」から青山を(故郷にこだわらずに)死んで骨を埋める価値のある土地とする。「人間(じんかん)到る所青山有り」。
※韓愈の「自ら慙づ、青蒿の長松に倚れるを」。青蒿は小草。小草が喬木を頼りにしてつきしたがうのと同じように、孟郊(親交があった)の才華を頼りにしてきたことを慙じる。

    又
 庭陰新翠滴    庭陰、新たなり翠の滴
 小院麦秋時    小院、麦秋の時
 紅紫艶香裏    紅紫艶香裏(うち)
 欄前聴子規    欄前、子規を聴く

    又
 村落炊煙起    村落、炊煙起つ
 連山夕照微    連山、夕照微かなり
 寒林霜信早    寒林、早くも霜信
 一点凍鴉帰    一点は凍鴉の帰らんとするか
[訳文]
村里には夕餉の仕度か、あちこちに煙が立ち上っている。早くも日は陰って遠くの山々の頂だけが赤く照らされている。冬の林は寒々しく、霜の便りを届けてくるというのに、こんなに遅く、空のかなたを帰って行く黒いものは凍て付いた鴉だろうか。
※「カラスの早起き、すずめの寝ぼすけ」といわれて、カラスは朝が早い。早く起きる鳥は遅く帰る傾向がある。


    冬夜 1975.12.20(昭和50年)
 中庭寒月落    中庭、寒月は落ち
 夜静一灯幽    夜、静かにして一灯幽(くら)し
 片々千山雪    片々たり千山の雪
 飛来破客愁    飛び来りて客愁を破る
[訳文]
 中庭から見える冬の月も落ちて静寂につつまれた夜。建物の輪郭が影絵のように浮かび、窓には灯がぼんやり灯っている。それだけでも心が満たされるのだが、そのうえなお、はるか山のかなたからちらちらと舞い落ちてくる雪は、旅人の愁いさえもかき消してしまうに違いない。

    又
 寒林楓落尽    寒林の楓、落ちて尽きたり
 返照映柴扉    返照は映す、柴の扉
 啜茶南窓下    茶を啜る、南窓の下
 園荒客訪稀    園荒れて客の訪れ稀なり
[訳文]
 冬の夕暮れ。林の中のかえではすっかり葉が落ち、柴の扉に射す夕陽も、まもなくその色を失ってしまうだろう。隠居暮らしも長くなって庭はすっかり荒れ果ててしまい、南向きの窓辺でお茶を飲んでいても尋ねてくれる人もいない。


    冬日 1975.12.(昭和50年)
 村園霜信早    村園、早くも霜信
 返照遠山微    返照、遠山微かなり
 独坐閑天地    独り坐す閑天地
 過窓落葉飛    窓を過(よぎ)りて落葉飛ぶ
[訳文]
 村の畑はすでに霜の便りが聞かれるようになり、夕陽も落ちかかって遠くの山もぼんやり見えるだけ。のんびりと窓を眺めていると落ち葉がひらひらと舞い落ちていった。たそがれの天と地の間に動くものは、ただこの落ち葉だけなのだなあ。


    冬日偶成 1975.12.(昭和50年)
 茅屋疎林下    茅屋疎林の下
 幽庭落葉飛    幽庭の落葉飛ぶ
 蕭蕭山影廋    蕭蕭山影廋
 風物帯寒暉    風物寒暉を帯ぶ
[訳文]
私の家はまばらな林のはずれ。物寂しい庭に枯れ葉が落ちかかる。山は今にも姿を隠そうとして、野原も川の流れも冷たい日差しに染められてゆく。

    又
 黄昏茅屋裏    黄昏、茅屋の裏
 荒逕客来稀    荒逕、客の来たること稀なり
 片月疎林外    片月かかりて疎林の外
 禅堂僧未帰    禅堂の僧未だ帰らず
[訳文]
あばら家の中まで黄昏一色に染まり、家の前の道が荒れ果てているのは、尋ねる人も滅多にいないせいだ。林の上に弓張り月がかかるようになった。賈島の詩に出てくる月下の僧はこのころに帰ってくるのだが、ここの禅堂の僧侶はまだ帰ってこない。
※題李凝幽居
中唐 賈島
居少鄰並,草徑入荒園。
鳥宿池邊樹,僧敲月下門。
過橋分野色,移石動雲根。
暫去還來此,幽期不負言。

「僧は敲(たた)く月下の門」の句は、作者・賈島が「僧敲月下門」とするか「僧推月下門」とするか、悩んでいる内に、京兆伊の行列に行き当たったが、京兆伊であった韓愈は、これを咎めることなく、「『敲』がいい」と助言した、「推敲」という語の由来となった詩。