「君が代」斉唱不起立事件(最判平成23年5月30日民集65巻4号1780頁)
都立高校の教師が卒業式の国歌斉唱の際に、国旗に向かって起立をし国歌を斉唱することを命ずる校長の職務命令に従わず起立しなかったため、都教育委員会から戒告処分を受けた。
その後、定年退職を前に申し込んだ非常勤嘱託員の採用選考で不合格とされたため、上記職務命令が憲法19条に違反し、不合格とされたことが違法であるとして損害賠償を求めた事件。
最高裁は、まず、「国歌斉唱の際の起立斉唱行為は、一般的、客観的に見て、・・・慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであり」
本件職務命令が、教師の「(国旗や国歌が戦前の軍国主義との関係で一定の役割を果たしたとする)歴史観ないし世界観それ自体を否定するものということはできず」、「個人の思想及び良心の自由を直ちに制約するもの」ではないとする。その上で、起立斉唱行為は、「国旗及び国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為である」。
その限りで、敬意の表明を拒否する者の「思想及び良心の自由についての間接的な制約となる」が、「このような間接的な制約が許容されるか否かは、職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量して、当該職務命令に上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かという観点から判断するのが相当である」との判断基準を示した。
本件職務命令は、高校教育の目標や卒業式などの儀礼的行事の意義、あり方などを定めた関係法令等の趣旨に沿い、かつ地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性に基づき、「教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図るものであり、・・・上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められる」と判示した。
※この判決から、卒業式など儀礼的な式典で、高校であれば教員に限り国家の起立斉唱は強制命令ができるが、思想・良心・宗教上の信仰に準ずるような世界観や信念にもとずいて拒否する人たちには強制することが許されないといえる。