コロナ禍が始まった2020年5月より、ほぼ1~2か月に1回、オンライン講座「ツナガルプロジェクト」を実施している。このプログラムのねらいは、世界各国にいる知人、またはその知人の知人をたどりながら、そこに住む人たちの日常の暮らしを通して「その国」のこと、「その人」を知ろう、というもの。本やネットで得られる知識より、こうやっていろいろなご縁をたどって、人に話を聞いていくと、「人生いろいろ」であることを実感する。
当たり前のことだが、それぞれの人生を歩んでいるその「ひと」から聞くことで臨場感あふれる「人生いろいろ」になる。それぞれの人が直面する「小さな選択」の積み重ねが、その人をその場に導いている。なぜ、そういう決断をしたのか、なぜ、今、そこにいるのか、そのプロセスを直接聞くのはとても興味深い。
今回のゲストスピーカーは親友のご子息YUYAさん。カナダの永住権がそろそろ取得できそうだというニュースを耳にして依頼することにした。大学時代から世界各国、放浪の一人旅をしていたことはよく知っている。彼がガーナでマラリアにかかった時は、彼の母親は生きた心地がしなかったのではないか。そんなことを思い出していた。
最後に彼にあったのはいつだったろう。生後3か月からずっと毎日のように会っていたけれど、その後の記憶がない。果たしてどんな青年になっているのか。
彼の住むカナダ・ユーコン準州はアラスカ州の東隣りにあり、時差は16時間。平日はお互いが仕事をしているので、打ち合わせ時間の設定がなかなか難しい。今回は打ち合わせも本番も現地19時、日本は午前11時に設定した。
20年ぶりに見る彼は、自信にあふれていた。これまでの豊富な経験がにじみ出ているかのように。小さいときの面影が残っているのが少々うれしい。
「実は昨日雪が降ったんですよ。
とうとうこの季節が来たね・・・
ついにね・・・というのが、日常のあいさつになるんです。」
カナダの特徴として彼が挙げたのは、移民が多く、特にバンクーバー近郊ではアジア系が40%を占めること、また、移民の中にも多くの優秀な人材がいること、建国153年と、国の歴史が若いこと。日本の27倍、世界第2の国土に日本の35パーセントの人口。人口密度でいうと、日本は1キロ平方メートルあたり333.5人に対してカナダは4人。
まだまだ多くの可能性を秘めた土地と言えるだろう。
ユーコン準州の歴史は古代にさかのぼるが、ドーソンシティとホワイトホースというふたつの都市は1896年から3年間のゴールドラッシュから始まった。一攫千金を狙った男たちが四万人以上アメリカから押し寄せたという。
厳冬の冬はマイナス40度になるその地で、YUYAさんはその稀有な大自然の逞しさ、厳しさに魅せられて日本人をはじめヨーロッパから訪れる観光客のツアーガイドになった。
夏の6~8月にはユーコン川の川下りツアーがあるとのこと。2週間かけて800キロ。想像するだけで過酷だ。食事、着替え、シャワー、すべて川辺で営む。参加者の命を預かるガイドの重責はことばには表せないだろうが、YUYAさんはそんなことに物怖じしない。使ったカヌーはどうするのだろうか。「片道600キロ、あっちで1泊して往復1,100キロ。普通に車で走ってカヌーを取りに行きますよ。」国土の広いところに住むとこんなことは普通になるのか・・・。すごい。
ユーコンでの生活は「自然との共生・共存」が基本だという。瓶や缶はリターナブルで、1つステーションに持ち込むごとに5セントが戻ってくる。さまざまなリサイクルはもちろんのこと、クリスマスツリーの松の木(もみの木ではなく)などは保護しながらルールに従って切っても良いことになっている。そしてそれらも自治体がまとめて回収しリユースするとのこと。資源の入口と出口のコントロールを一貫して考える大切さを感じた。
シーズンには狩猟も行われていて、ルールを守りながら狩猟文化を継承していることがわかる。YUYAさんのルームメートが昨日2頭のバイソンを仕留めてきたので、現在、家のガレージではその解体作業が行われている最中とのこと。日常生活がいかにワイルドかを物語っている。
その他にも、夏至や冬至、白夜と昼夜、オーロラの話など、全く想像を超える彼の話を聞きながら、大自然と向き合って生きるYUYAさんを、力強く、頼もしく感じた。
厳しい自然と共存してきた人々の暮らしや連綿と受け継いできた知恵を、どうぞこの後もガイドとして訪れる人たちに伝えてほしい。私も必ず会いに行きます。