端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

待ち人あり

2016-01-05 00:02:57 | テキスト(よろず)
「ねえ、エプロンくん」
「エミヤ」
「名前ってそんなに重要?」
「豆粒どチビと言われて君は傷つか…」
「言っておくけど、僕、最終的に212cmになるからね」
(気にしていたのか)

Guardian in a kitchen

「話の腰を折ってすまなかった。
 それで?何を言おうと思っていたんだね?」
「ん?ああ、待ってる人っている?」
「……待ち人?」
「うん、みんなでくじを引いたじゃない。
 そこにね、待ち人:求めれば来ず、ひたすら待つべし、ってあって」
「探しに行ってはならぬ、ということか」
「時期を待てってことだろうね。
 僕、夢の為なら前進あるのみ!って人生だったからさぁ」

『アレキサンダー大王』の生涯というのは。
まさに太く短く鮮烈で豪快だ。
20歳で王に即位し、わずか10年足らずで世界征服。
その軍隊は決して強制して作られたわけではなく。
死してなお、時空を越えて彼の召喚に応じるほどの絆があるという。
少年の姿で現界したこの小さな王は、今なお彼らをまとめ上げる。
王の器なのか、個人の魅力なのか。
同じ部隊に配属される機会は多かったが、未だ掴み切ることが出来ずにいた。

「待ち人を待て、と言われても方法がわからないんだよね」
「会えるかどうかは時の運ということだろうさ」
「ふうん?ああ、そうだ、忘れてた。
 で、君、待っている人はいる?」
「……いや」
「いるな?」

いるような、いないような、だ。
正直、もう2度と逢うことはないだろうと諦めている相手だし。
そもそもこのおかしな聖杯戦争に呼ばれるはずもない。
『彼女』は人間なのだ。
英霊でもない、死んでもいない。
そんな彼女が聖杯に呼ばれる道理がない。

「私は『理想』の名もなき代表だ。
 待ち人などいないよ」
「大それた大嘘を何でもない顔で言うんだな。
 アステリオス、君には待っている人はいるかい?」
「えうりゅあれ!あいたい!」

これを聞いたアレキサンダーが満足げにエミヤを振り返る。
ドヤ顔系の表情を浮かべ、ふふんと笑う。

「これくらい素直な方が可愛げがあるってものだよ」
「3mを捕まえてカワイイも何もないだろう」
「喧嘩売ってるの!?」
「身長に関して繊細だな、君は!?」

若干泣きそうになっているアレキサンダーを宥める。
エミヤが差し出したハンカチでびーっと鼻をかむ。
これをポケットにそのまま仕舞うのには臆してしまう。
仕方なしに手に預かってはみたものの、分かってはいたがやっぱり湿っている。

「あー、そう言う君は待ち人がいるのか?」

これだけ問うのだ。
きっといるのだろう、が、これまでがこれまでだ。
ただ訊いただけということもある。
王というものは、総じて暇を潰すために臣下を振り回すものが多いと聞く。
征服王と呼ばれたこの少年も例外ではないかもしれない。

「いるよ、ひとりね」

静かにそう言った顔は寂しげだった。
よいしょと、座ったアステリオスの肩によじ登る。
頭を撫でつつ、言葉を続ける。

「僕の待ち人はね、マスターだった人」
「……その人は死んだのか?」
「生きることを命じた、だから死んではいないはず」
「ならば、こちらに来ることは叶わないのではないか?」
「そこは聖杯の導きがあれば会えると思うなぁ」
「神頼みか、君らしくもない」
「出来ないことは出来ない、誰かに頼れるなら頼る。
 そのためにいろんな人がいるし、文明ってものがあるんだよ」
「……耳が痛いな」
「それはいいや、もっと言ってあげようか」
「あれきー、これ、よんでー!」
「え、これ?」

くじは現在のマスターの計らいで陣営にいる全てのサーヴァントが引いた。
或る者は泣き崩れ、或る者は歓喜し、また或る者は大事に仕舞いこんでいたが。
それは一部の字が読める者に限られる。
狂化している者や字が読めない者は、誰かに読んでもらうほかない。

「待ってたの?アステリオス?」
「まちびと!」
「はいはい、待ってね、えーっと…」

待ち人:吉報を待つが吉

回りくどい書き方だが、要約すると時期を待てということか。
来ない、と書かれていないだけ救いがあるかもしれない。

「いい子にしていれば会えるかもしれないって」
「え、さんたといっしょ?」
「何事も誠実に取り組めば天運が味方をしてくれるってこと。
 ご褒美は何かをしないともらえないんだよ」
「うー…、わかった」

ちらり、とエミヤは自分のくじを見返す。
見るのは待ち人の欄。

待ち人:遅いが来る

やれやれ、とポケットに仕舞いこむ。
待ち人には、恋愛的な要素のほかに。
自分の運命を良い方向に導いてくれるアドバイザーという意味もあり。
必ずしも『理想』の人物を指し示しているとは限らない。
三者三様、待ち人あり。

今年もキッチンにて、陣営の動向を見守ることになりそうだ。

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