その声は。
何故か、俺を落ち着かせた。
その姿は。
俺を戦地へ導いた。
聖杯戦争参加者の残数は8まで減った。
「ベスト8かぁ」
なんだか懐かしい響きだ。
体育館に響く声、スキール音に、ボールの感触。
全てが皆懐かしく。
試合は死合に変わり。
持つのはボールではなく、ナイフになった。
いつになったら、この生活は終わるのだろう。
『戦え、それがお前のやることだ』
見えない明日に輝きを
「高尾、何をボーッとしている」
「え、あ、あれ?」
「目を開けながら寝ていたのか?」
「…あー、そっか、夢か」
緑間が怪訝な表情を浮かべているのを。
なんでもないのだよ!と言ってかわす。
そりゃ、そうだ。
起きたら意味の分からない殺し合いに巻き込まれて。
ナイフ片手に相手の喉笛を掻っ切って。
寒空の下、バスケから離れて。
緑間のいない生活を送るなんてあり得ない。
だけど、色を失くした世界というのは本当にあるのだ、と。
そう、思わせるには十分な夢だった。
『お前は持っていた』
また、聞こえてくる。
夢のはずの声。
「高尾?」
これは緑間の声だ。
現実のはずの声。
その場にうずくまって耳を塞ぐ。
『お前の世界を侵害するものを排除する。
それがお前の強い思い』
ああ、そうだよ。
『緑間』と一緒にいる世界が俺の全て。
羨望も、友情も、恋情も、愛情も何もかも彼に捧げた。
誰にも邪魔されたくなかった。
触れさせたくなかった。
彼の不器用な優しさに気付いてほしくなかった。
彼は、緑間は俺だけの宝物で、光なのだ。
「…―緑間」
死合が続いて、血の匂いは染み着き。
食事は何も味がしないし、虚しさが支配していた。
日付の感覚は既になくなり、時間も分からない。
今はいつだ?
ズボンのポケットに突っ込んだ電話に着信音。
えと、これは、誰だっけ?
とりあえず、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『…―ぉ』
「ん?」
『休みが終わるぞ、バカ尾!
どこまで行っているのだよ!』
「…あ」
一気に体が熱くなる。
血液が全身をかけ巡り、世界に色が戻る。
ああ、ああ…。
『高尾、聞いているのか!』
「……しんちゃん」
もう随分と会っていない。
高校を卒業する前に、お前から離れる日が来るなんて。
想像もしていなかった。
いや、高校を卒業した後も手放してやるつもりはなかった。
なのに、今は、こんなに『遠い』
君と過ごしていた日々が『暖かい』
言葉を探していると、緑間の方が問いかけてくる。
『今、どこにいるのだよ?』
「…どこだろうねえ」
『どこ』にいるのだろう。
どこに向かっているのだろう。
殺人者?学生?勝者?敗者?
勝ち残ってなにが手元にあるのだろう。
分からない。
自分に残っているのは。
緑間の元へ帰りたい、ただそれだけだ。
「ラッキーアイテム持った?」
『ぬかりはない。…高尾』
「んー?」
『身を崩す真似だけはするなよ』
「…真ちゃん、心配性だね」
いつだかも言われたっけ。
あの時とは、深刻さが違うけど。
心が少し満たされた気がした。
「俺さ、もうすぐ帰るから」
『当然だ、授業が始まるのだよ』
「うん、お前んとこ帰るから」
通話を切ってひと呼吸。
緑間が心配している。
帰らなければいけない、その思いが強くなる。
英霊がキュイー!と鳴く。
対戦場所が指定された。
歩いてそう遠くない。
「…じゃあ、覚悟決めて行きますかぁ。
一撃必殺ご用心。
真後ろにもご注意くださいってな」
血が目に入ってくることがあったから買ったゴーグルを装着。
愛用のサバイバルナイフを腰にあるのを確かめて。
英霊が飛んだ方向に歩き出す。
「…これは驚いた、若いな」
「あんたも俺をガキ扱いすんの?」
「ここまで生き残っている人間を侮る奴なんていない」
黒いロングコートに、無精ひげを生やした男。
目に覇気はなく、両手はコートのポケットに突っ込まれていて。
動きが全く読みとれない。
「少し話をしよう」
「は?」
「時間はあるだろう?」
コートから両手を出して、煙草を握っているのを確認させた。
吸っても?と言うので、ジェスチャーでどうぞと返す。
「僕はね『正義の味方』になりたかったんだよ。
弱きを助け、悪を挫く」
「…あんた、年いくつ?」
「なりたかった、と言ったろう?
とっくにヒーローになることはやめたさ」
ふう、と煙を吐いて、灰を下に落とす。
吸い慣れた風のそれは、罠を張っているようには見えない。
現に、喉の痛みや息苦しさなどは感じない。
煙草に仕込みはないようだ。
「なるために何かやったの?」
「…体は鍛えたな。あとは、飛ぶ練習」
「ふざけんな」
「本当だよ。
そして思い知った。
無力では目の前で悪が笑っていても助けられないってね」
覇気のない目がより一層沈む。
死んだ目、と言うのだろうか。
独り言のような、言い聞かせるような言葉が続く。
「今だってさほど強くない。
だから、僕は頭を使う」
「頭?」
「どうすれば、相手が総崩れになるか。
戦略、と言うやつだな」
「…それでこの戦いも勝ち抜いてきたのか?」
「汚いと言うかい?」
「少なくともヒーロー目指してたやつが考えることじゃないな」
自分を高めるんじゃなく。
相手を陥れてたたき潰す、そんなやり方は好きじゃない。
戦略?陰謀の間違いだろ。
「ひとを罠にはめんのが楽しいのかよ?」
「勝つための手段だ」
「俺はあんたみたいな『正義の味方』って嫌いだね」
「…昔からひとには好かれないんだ」
男は吸っていた煙草を足で踏み消した。
コートの内側から銃を一丁引っ張り出す。
神経を研ぎすまして、警戒する。
勝つためにはしかたないと。
手段を選ばない、と言った相手だ。
ゴーグルのおかげで砂掛けなどによる目潰しは無効。
足払いは相手よりごつい靴を履いているから負けない。
身長もそう変わらない。
差があるとしたら。
(戦闘経験か)
得物も銃とナイフではレンジが違いすぎる。
左右に振られたら一方的な展開にされてしまう。
先手必勝。
後ろをとって傷の一つでもつけて、射撃精度を下げよう。
「聖杯に選ばれるくらいの強い思い、か」
「いっくぜ!」
バスケで鍛え上げたスタートダッシュ。
いち早く動いて、相手の選択肢を少なくし。
少しでも相手の手を読みとる。
横払い一閃。
ある程度読んでいたのだろう、あっさりかわされる。
バックステップで距離を取って発砲。
牽制の意味合いが強い足下への着弾だ。
片足を少し浮かせしてこれをかわす。
お互いが出方を窺っている状態。
攻撃を繰り出し、かわし、攻撃する、を繰り返す。
「君も同じだ」
「ア?」
「経験不足を補うために、相手を自分のペースに持ち込む。
僕のやっていることと同じだ」
「同じじゃねぇよ」
「アプローチは違うかもしれない。
けれど、勝つために策を講じるのは一緒だ」
「俺は、誰かを陥れたりしない!!!」
かーっと血が上って切りかかる。
相手の腹に蹴りを一発。
腕を交差させて防御されたがかまわなかった。
少々無防備になった首めがけてナイフの柄を真上から振り下ろす。
息を詰まらせ前のめりになったところに、首元への蹴りで追い打ち。
手放した銃を蹴り飛ばして、遠くにやる。
そして倒れ込んだ相手に向かって刃先を向けた。
「これは、俺なりに人事を尽くした結果だ!」
「……君は聖杯をどうする気だ?何を願う?」
「ぶっ壊すよ。
希望だか奇跡だか知らねえけど、んなもんに願わなくても幸せだった!!」
なんでもない日常。
笑って、バスケして、勉強して、テレビ見て。
――隣に緑間がいて。
泣きそうだった。
「…この戦い、あとは僕に任せろ」
「何言ってんだよ、お前、攻撃出来ないだろ?」
「あぁ、出来ない」
バァン!
「僕はな」
銃撃音。
同時に足に激痛。
足を押さえる前に、もう一撃。
皿をやられた。
(ふたりいたのか!
くそっ、足やられた…!)
「両足やったろう?もう立てない」
むくりと相手が立ち上がる。
光の加減で一切の表情が見えなくなった。
さっき蹴り飛ばした銃を取りに俺から離れる。
おかしい、いつもなら『あいつ』が教えてくれるのに。
足の痛みをこらえながら姿を探す。
「君の英霊かい?僕の英霊は『猫』でね。
もしかすると何かしたかもしれないな」
「……っちくしょう、ちくしょう!!」
油断した、力こそが全てだと分かっていたのに。
情けを見せたらとられる。
そういう世界(ルール)に放り込まれたのに。
生きたければ、強くなくてはいない。
強さは、己自身の覚悟と冷徹さ。
こうなったのは自分自身の落ち度だ。
ナイフを握り直す。
勝負はまだついていない。
ドンッ!
右肩が熱い。
次いで痛みがこみ上げてくる。
至近距離からの銃撃。
「ぎ…っ!!」
うつ伏せの体をひっくり返されて。
さらに左肩に銃撃。
あげる悲鳴も吐き出す恨み言も何もない。
血は止まらない。
力が抜けていく。
「生きて帰るんだ…、約束したんだ…」
譫言のように呟いた言葉。
それが引き金になって、一気に溢れだしてきた。
緑間、みどりま…!!
「いてぇ、いてぇよぅ…」
涙が流れているのが分かった。
これから死ぬからだろうか。
痛いからだろうか。
理由はたくさんあると思う。
だが、まさに今わの際に思うことは。
(真ちゃん…。ごめん…)
************************
高尾の死亡は不可欠でした。
そのせいでだいぶ遅筆になってしまったんですけどね。
聖杯戦争中の高尾には『緑間』の記憶が欠落しています。
『みどりま』っていう大事な何かのことは常にあって。
楽しかった、だとか帰りたいっていう気持ちはあるんだけど。
なんというか、言葉だけなんですよね。
緑間真太郎と電話越しに話して、中身を取り戻したというか。
電話後の彼は、高尾和成に戻っています。
しかし、幸か不幸か。
『帰りたい』という強い思いが現世に残る結果になってしまいました。
BLACK LAGOONとるろうに剣心で『生きたい』気持ちと。
『勝つんだ』という気持ちは共存できないと言っていたので、こんな感じに。
衛宮切嗣。
彼はこんな戦いが起きないように願うため聖杯戦争に参加していましたが。
高尾の『ぶっ壊す』という手段を聞いて。
ああ、それがいいなと感銘を受けました。
しかし実行するなら僕が、と妙な自己犠牲を見せた結果。
無理やり高尾の遺志を継ぐことに。
緑間真太郎。
ラスボス化します。
何故か、俺を落ち着かせた。
その姿は。
俺を戦地へ導いた。
聖杯戦争参加者の残数は8まで減った。
「ベスト8かぁ」
なんだか懐かしい響きだ。
体育館に響く声、スキール音に、ボールの感触。
全てが皆懐かしく。
試合は死合に変わり。
持つのはボールではなく、ナイフになった。
いつになったら、この生活は終わるのだろう。
『戦え、それがお前のやることだ』
見えない明日に輝きを
「高尾、何をボーッとしている」
「え、あ、あれ?」
「目を開けながら寝ていたのか?」
「…あー、そっか、夢か」
緑間が怪訝な表情を浮かべているのを。
なんでもないのだよ!と言ってかわす。
そりゃ、そうだ。
起きたら意味の分からない殺し合いに巻き込まれて。
ナイフ片手に相手の喉笛を掻っ切って。
寒空の下、バスケから離れて。
緑間のいない生活を送るなんてあり得ない。
だけど、色を失くした世界というのは本当にあるのだ、と。
そう、思わせるには十分な夢だった。
『お前は持っていた』
また、聞こえてくる。
夢のはずの声。
「高尾?」
これは緑間の声だ。
現実のはずの声。
その場にうずくまって耳を塞ぐ。
『お前の世界を侵害するものを排除する。
それがお前の強い思い』
ああ、そうだよ。
『緑間』と一緒にいる世界が俺の全て。
羨望も、友情も、恋情も、愛情も何もかも彼に捧げた。
誰にも邪魔されたくなかった。
触れさせたくなかった。
彼の不器用な優しさに気付いてほしくなかった。
彼は、緑間は俺だけの宝物で、光なのだ。
「…―緑間」
死合が続いて、血の匂いは染み着き。
食事は何も味がしないし、虚しさが支配していた。
日付の感覚は既になくなり、時間も分からない。
今はいつだ?
ズボンのポケットに突っ込んだ電話に着信音。
えと、これは、誰だっけ?
とりあえず、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『…―ぉ』
「ん?」
『休みが終わるぞ、バカ尾!
どこまで行っているのだよ!』
「…あ」
一気に体が熱くなる。
血液が全身をかけ巡り、世界に色が戻る。
ああ、ああ…。
『高尾、聞いているのか!』
「……しんちゃん」
もう随分と会っていない。
高校を卒業する前に、お前から離れる日が来るなんて。
想像もしていなかった。
いや、高校を卒業した後も手放してやるつもりはなかった。
なのに、今は、こんなに『遠い』
君と過ごしていた日々が『暖かい』
言葉を探していると、緑間の方が問いかけてくる。
『今、どこにいるのだよ?』
「…どこだろうねえ」
『どこ』にいるのだろう。
どこに向かっているのだろう。
殺人者?学生?勝者?敗者?
勝ち残ってなにが手元にあるのだろう。
分からない。
自分に残っているのは。
緑間の元へ帰りたい、ただそれだけだ。
「ラッキーアイテム持った?」
『ぬかりはない。…高尾』
「んー?」
『身を崩す真似だけはするなよ』
「…真ちゃん、心配性だね」
いつだかも言われたっけ。
あの時とは、深刻さが違うけど。
心が少し満たされた気がした。
「俺さ、もうすぐ帰るから」
『当然だ、授業が始まるのだよ』
「うん、お前んとこ帰るから」
通話を切ってひと呼吸。
緑間が心配している。
帰らなければいけない、その思いが強くなる。
英霊がキュイー!と鳴く。
対戦場所が指定された。
歩いてそう遠くない。
「…じゃあ、覚悟決めて行きますかぁ。
一撃必殺ご用心。
真後ろにもご注意くださいってな」
血が目に入ってくることがあったから買ったゴーグルを装着。
愛用のサバイバルナイフを腰にあるのを確かめて。
英霊が飛んだ方向に歩き出す。
「…これは驚いた、若いな」
「あんたも俺をガキ扱いすんの?」
「ここまで生き残っている人間を侮る奴なんていない」
黒いロングコートに、無精ひげを生やした男。
目に覇気はなく、両手はコートのポケットに突っ込まれていて。
動きが全く読みとれない。
「少し話をしよう」
「は?」
「時間はあるだろう?」
コートから両手を出して、煙草を握っているのを確認させた。
吸っても?と言うので、ジェスチャーでどうぞと返す。
「僕はね『正義の味方』になりたかったんだよ。
弱きを助け、悪を挫く」
「…あんた、年いくつ?」
「なりたかった、と言ったろう?
とっくにヒーローになることはやめたさ」
ふう、と煙を吐いて、灰を下に落とす。
吸い慣れた風のそれは、罠を張っているようには見えない。
現に、喉の痛みや息苦しさなどは感じない。
煙草に仕込みはないようだ。
「なるために何かやったの?」
「…体は鍛えたな。あとは、飛ぶ練習」
「ふざけんな」
「本当だよ。
そして思い知った。
無力では目の前で悪が笑っていても助けられないってね」
覇気のない目がより一層沈む。
死んだ目、と言うのだろうか。
独り言のような、言い聞かせるような言葉が続く。
「今だってさほど強くない。
だから、僕は頭を使う」
「頭?」
「どうすれば、相手が総崩れになるか。
戦略、と言うやつだな」
「…それでこの戦いも勝ち抜いてきたのか?」
「汚いと言うかい?」
「少なくともヒーロー目指してたやつが考えることじゃないな」
自分を高めるんじゃなく。
相手を陥れてたたき潰す、そんなやり方は好きじゃない。
戦略?陰謀の間違いだろ。
「ひとを罠にはめんのが楽しいのかよ?」
「勝つための手段だ」
「俺はあんたみたいな『正義の味方』って嫌いだね」
「…昔からひとには好かれないんだ」
男は吸っていた煙草を足で踏み消した。
コートの内側から銃を一丁引っ張り出す。
神経を研ぎすまして、警戒する。
勝つためにはしかたないと。
手段を選ばない、と言った相手だ。
ゴーグルのおかげで砂掛けなどによる目潰しは無効。
足払いは相手よりごつい靴を履いているから負けない。
身長もそう変わらない。
差があるとしたら。
(戦闘経験か)
得物も銃とナイフではレンジが違いすぎる。
左右に振られたら一方的な展開にされてしまう。
先手必勝。
後ろをとって傷の一つでもつけて、射撃精度を下げよう。
「聖杯に選ばれるくらいの強い思い、か」
「いっくぜ!」
バスケで鍛え上げたスタートダッシュ。
いち早く動いて、相手の選択肢を少なくし。
少しでも相手の手を読みとる。
横払い一閃。
ある程度読んでいたのだろう、あっさりかわされる。
バックステップで距離を取って発砲。
牽制の意味合いが強い足下への着弾だ。
片足を少し浮かせしてこれをかわす。
お互いが出方を窺っている状態。
攻撃を繰り出し、かわし、攻撃する、を繰り返す。
「君も同じだ」
「ア?」
「経験不足を補うために、相手を自分のペースに持ち込む。
僕のやっていることと同じだ」
「同じじゃねぇよ」
「アプローチは違うかもしれない。
けれど、勝つために策を講じるのは一緒だ」
「俺は、誰かを陥れたりしない!!!」
かーっと血が上って切りかかる。
相手の腹に蹴りを一発。
腕を交差させて防御されたがかまわなかった。
少々無防備になった首めがけてナイフの柄を真上から振り下ろす。
息を詰まらせ前のめりになったところに、首元への蹴りで追い打ち。
手放した銃を蹴り飛ばして、遠くにやる。
そして倒れ込んだ相手に向かって刃先を向けた。
「これは、俺なりに人事を尽くした結果だ!」
「……君は聖杯をどうする気だ?何を願う?」
「ぶっ壊すよ。
希望だか奇跡だか知らねえけど、んなもんに願わなくても幸せだった!!」
なんでもない日常。
笑って、バスケして、勉強して、テレビ見て。
――隣に緑間がいて。
泣きそうだった。
「…この戦い、あとは僕に任せろ」
「何言ってんだよ、お前、攻撃出来ないだろ?」
「あぁ、出来ない」
バァン!
「僕はな」
銃撃音。
同時に足に激痛。
足を押さえる前に、もう一撃。
皿をやられた。
(ふたりいたのか!
くそっ、足やられた…!)
「両足やったろう?もう立てない」
むくりと相手が立ち上がる。
光の加減で一切の表情が見えなくなった。
さっき蹴り飛ばした銃を取りに俺から離れる。
おかしい、いつもなら『あいつ』が教えてくれるのに。
足の痛みをこらえながら姿を探す。
「君の英霊かい?僕の英霊は『猫』でね。
もしかすると何かしたかもしれないな」
「……っちくしょう、ちくしょう!!」
油断した、力こそが全てだと分かっていたのに。
情けを見せたらとられる。
そういう世界(ルール)に放り込まれたのに。
生きたければ、強くなくてはいない。
強さは、己自身の覚悟と冷徹さ。
こうなったのは自分自身の落ち度だ。
ナイフを握り直す。
勝負はまだついていない。
ドンッ!
右肩が熱い。
次いで痛みがこみ上げてくる。
至近距離からの銃撃。
「ぎ…っ!!」
うつ伏せの体をひっくり返されて。
さらに左肩に銃撃。
あげる悲鳴も吐き出す恨み言も何もない。
血は止まらない。
力が抜けていく。
「生きて帰るんだ…、約束したんだ…」
譫言のように呟いた言葉。
それが引き金になって、一気に溢れだしてきた。
緑間、みどりま…!!
「いてぇ、いてぇよぅ…」
涙が流れているのが分かった。
これから死ぬからだろうか。
痛いからだろうか。
理由はたくさんあると思う。
だが、まさに今わの際に思うことは。
(真ちゃん…。ごめん…)
************************
高尾の死亡は不可欠でした。
そのせいでだいぶ遅筆になってしまったんですけどね。
聖杯戦争中の高尾には『緑間』の記憶が欠落しています。
『みどりま』っていう大事な何かのことは常にあって。
楽しかった、だとか帰りたいっていう気持ちはあるんだけど。
なんというか、言葉だけなんですよね。
緑間真太郎と電話越しに話して、中身を取り戻したというか。
電話後の彼は、高尾和成に戻っています。
しかし、幸か不幸か。
『帰りたい』という強い思いが現世に残る結果になってしまいました。
BLACK LAGOONとるろうに剣心で『生きたい』気持ちと。
『勝つんだ』という気持ちは共存できないと言っていたので、こんな感じに。
衛宮切嗣。
彼はこんな戦いが起きないように願うため聖杯戦争に参加していましたが。
高尾の『ぶっ壊す』という手段を聞いて。
ああ、それがいいなと感銘を受けました。
しかし実行するなら僕が、と妙な自己犠牲を見せた結果。
無理やり高尾の遺志を継ぐことに。
緑間真太郎。
ラスボス化します。
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