「くそ…、こんなはずじゃ…」
今宵の対戦相手が不平をこぼす。
寒空の下、細い路地。
入り組んだ建物と建物の隙間。
そいつは壁を背にしてずるりと落ち。
血の跡を重力に従って下方向につけた。
血みどろのその男は虫の息。
操っていた英霊は消滅し、命の灯はあまりにも弱い。
「俺が…ガキに負けるなんて…」
「え、だって、それが聖杯戦争だろ?
学生とか関係ねぇから」
社会のヒエラルキーなんて度外視。
偉い者が強いのではなく。
術者、つまり主(マスター)たる己自身の素養が優れている者が強いのだ。
力こそが全て。
シンプルにして明確な構図だ。
俺はそれを嫌と言うほど感じている。
生きたければ、強くなくてはいない。
情けを見せたらとられる。
そういう世界(ルール)で勝ち残ってきた。
「そろそろいい?」
「ひっ…う…」
「そうそう。
喚かないで死んでくれな」
ばいばーい。
俺は心を殺した。
聖杯戦争に巻き込まれた時から。
見えない明日に輝きを
聖杯戦争。
奇跡を叶える「聖杯」を手に入れるために。
多くの術者が英霊と呼ばれるものをそれぞれ召喚し。
最後の一人になるまで戦う究極の決闘劇。
術者は「聖杯」に選ばれ、選考基準や人数は不明。
分かっていることは、自分が選ばれたということのみ。
誰に何を言われたわけではなく。
ただ、漠然と「選ばれた」と分かった。
朝起きて『マジかよ…』と思ったのを覚えている。
右手に見たこともない紋様が浮かんでいても。
制服に着替えるために寝間着を脱ぎ捨て。
鏡の前に立った時、鷹を模した英霊がいても。
なんの感慨も湧かなかった。
(今夜も出ないとだめか…)
決闘の知らせは英霊が運んでくる。
朝飛んでいって、昼休みに帰ってくることが多い。
自分以外には見えないらしいことは、同級生の緑間が証明していた。
緑間、フルネームは緑間真太郎という。
バスケ強豪校のひとつ秀徳高校に通う男子高校生。
所属する部活はバスケットボール部、ポジションSG。
紹介すると気持ち悪いくらいスラスラとステータスが言えるが。
重要なことは。
俺が最も裏切りたくない相棒である、ということ。
バスケでも、学校生活面でも、私生活面でも。
とにかく、彼の抱く俺のイメージを壊したくなかった。
人当たりがよくお調子者で人懐っこいの高尾。
これがきっと『俺』なのだ。
夜毎、血にまみれ、冷酷に人の命を奪っているなんて。
露ほども思っていないだろう。
肩に止まっている『鷹』は、容赦なく相手の目を抉り。
俺も俺で、サバイバルナイフで相手の足の腱を絶つ。
バスケしかしてこなかったから、格闘術には明るくない。
焼き付け刃で身につけても、扱いきれないだろうし。
本職の人に当たってしまえば、勝ち星を与えてしまうことになるだろう。
聖杯戦争での『負け』は死を意味する。
俺は死ぬわけにはいかなかったから。
自分に出来うる限りの最大の『人事』を尽くすことにしたのだ。
(ナイフ研がないと…)
自分の身軽さを生かしてナイフを行使する。
それに戸惑いがなかったかと言えば。
今でも嫌悪感が拭えない。
それでも。
生きるためには仕方なかった。
「高尾、顔色が悪いぞ」
「あー、ちょっと寝不足で」
「また夜遅くまでDVD鑑賞か?」
「えへへ、男の子なもんで」
トイレから帰ってきた緑間が自席につきながら。
呆れた声を出した。
へらっと笑って、夜のことは隠す。
「……身を崩すような真似だけはするなよ」
「へいへーい」
緑間はため息ひとつして文庫本を開いた。
それを見届けて、俺は机に突っ伏して寝ることにする。
これが俺の『学校生活』
「よっしゃ今日は楽勝だな!」
「お手柔らかに」
夜。
月が雲で隠されて、光源は街灯だけ。
その街灯さえ、届かない路地裏。
血が飛び、下手したら体の一部が飛び散ることをするのだ。
商店街でやりあうのは気が引けた。
対戦相手はエナメル生地のジャケットを着たテンプレのようなチンピラ。
どこかの組の構成員、といった雰囲気だ。
「降参するのは今のうちだぜ?」
「ははっ、敵前逃亡すると英霊に殺られちゃうじゃないッスかあ」
相手は手にメリケンサックをはめて前傾姿勢をとった。
ケンカ慣れした近距離型ファイターか。
道具に頼っている時点でボクサーではないだろう。
そばにいる英霊は、ジャケットに描かれているのと同じ虎だ。
咆哮ひとつ、激励の効果を果たして術者の闘志を高揚させていく。
しかし、俺には関係ない。
「んじゃあ、ま?」
俺の英霊が空に飛び立つ。
相手がそれを追いかけて視線を上に向けた瞬間。
手にナイフを滑り込ませて、一気に距離を詰めた。
気を取られて反応が遅れた相手は、うわっ!と呻くだけ。
「苦しくはねぇよ。気付いた時には死んでる」
無遠慮に。
俺は相手の喉笛を掻っ切った。
寝不足は、もうひと月続いていた。
ほぼ毎晩己を奮い立たせて、命を削り取る日々。
うっかり寝ると悪夢にうなされ。
学業に専念できる精神状態ではなくなってきていた。
それでも緑間の前でだけは。
『試験に追いかけられているだけ』と言って、何でもない風を装った。
肩に止まる鷹は淡々と次の対戦相手を伝えてくる。
限界だった。
「ウィンターカップも終わったからさ。
俺、旅行に行ってくる」
「ひとりでか?親御さんは?」
「許可はもらったから大丈夫、一人旅でっす」
不審に思われたかな。
それでも、いつか、緑間にナイフを突き立てそうで。
こいつを『敵』として認識しそうで怖かったのだ。
旅行という名目で距離を置けば。
ひとりになれば。
俺は戦いに集中できる。
「登校日いつだっけ……」
携帯食料を齧る。
アルミのマグカップに注いだ白湯で流し込んで。
ビル屋上から地上をぼんやりと観察する。
行き交う車はそう多くない。
だからだろうか。
直近の戦いはすべて『大通り』で行われていた。
路地裏に残る血の跡は翌日ちゃんと新聞に載ったものだが。
大通りに残した血のことは一切話題にならなかった。
(『運営』が介入してきた、ってことかね)
血でまみれた道路は、戦いが『なかった』かのように。
翌日には綺麗に清掃された。
戦いが始まったのが、夏休み明けだったから。
まともな生活をしなくなってから3ヶ月程度か。
頬に冷たい風が当たる。
(緑間には見せられないなー。
ああ、バスケしたい)
緑頭の大男のことを思い出す。
同級生で、相棒で。
(ラッキーアイテムのために走り回ってんのかな。
おは朝ってば鬼畜だからなぁ。
夏に防寒具とかマジねぇわ。
それ着てた緑間はおかしい)
おは朝に傾倒して。
ラッキーアイテムのためなら金に糸目をつけず。
発言は基本的にツンデレで。
ジンクスまみれで。
(あーぁ…)
不器用なだけで本当は誰よりも優しくて。
努力を重ねて、何事にも真摯で。
「真ちゃんに会いてぇなぁ…」
緑間真太郎。
あの綺麗な男に。
大好きな男に。
また会いたかった。
***********************
夏くらいから温めてたネタをどうにか形にしました。
原作が原作なので、死にネタです。
一応、切嗣と時臣は出てくる予定。
オリジナル7人全員と戦うと収拾つかなくなるので。
そこら辺は微調整します。
なんでオリジナル設定でやらなかったかというと。
戦国Fateという『遺跡』がそれで頓挫したからです。
祭りの準備は楽しいと言うではないですか。
年明け一発目がこれでいいんですかね。
今宵の対戦相手が不平をこぼす。
寒空の下、細い路地。
入り組んだ建物と建物の隙間。
そいつは壁を背にしてずるりと落ち。
血の跡を重力に従って下方向につけた。
血みどろのその男は虫の息。
操っていた英霊は消滅し、命の灯はあまりにも弱い。
「俺が…ガキに負けるなんて…」
「え、だって、それが聖杯戦争だろ?
学生とか関係ねぇから」
社会のヒエラルキーなんて度外視。
偉い者が強いのではなく。
術者、つまり主(マスター)たる己自身の素養が優れている者が強いのだ。
力こそが全て。
シンプルにして明確な構図だ。
俺はそれを嫌と言うほど感じている。
生きたければ、強くなくてはいない。
情けを見せたらとられる。
そういう世界(ルール)で勝ち残ってきた。
「そろそろいい?」
「ひっ…う…」
「そうそう。
喚かないで死んでくれな」
ばいばーい。
俺は心を殺した。
聖杯戦争に巻き込まれた時から。
見えない明日に輝きを
聖杯戦争。
奇跡を叶える「聖杯」を手に入れるために。
多くの術者が英霊と呼ばれるものをそれぞれ召喚し。
最後の一人になるまで戦う究極の決闘劇。
術者は「聖杯」に選ばれ、選考基準や人数は不明。
分かっていることは、自分が選ばれたということのみ。
誰に何を言われたわけではなく。
ただ、漠然と「選ばれた」と分かった。
朝起きて『マジかよ…』と思ったのを覚えている。
右手に見たこともない紋様が浮かんでいても。
制服に着替えるために寝間着を脱ぎ捨て。
鏡の前に立った時、鷹を模した英霊がいても。
なんの感慨も湧かなかった。
(今夜も出ないとだめか…)
決闘の知らせは英霊が運んでくる。
朝飛んでいって、昼休みに帰ってくることが多い。
自分以外には見えないらしいことは、同級生の緑間が証明していた。
緑間、フルネームは緑間真太郎という。
バスケ強豪校のひとつ秀徳高校に通う男子高校生。
所属する部活はバスケットボール部、ポジションSG。
紹介すると気持ち悪いくらいスラスラとステータスが言えるが。
重要なことは。
俺が最も裏切りたくない相棒である、ということ。
バスケでも、学校生活面でも、私生活面でも。
とにかく、彼の抱く俺のイメージを壊したくなかった。
人当たりがよくお調子者で人懐っこいの高尾。
これがきっと『俺』なのだ。
夜毎、血にまみれ、冷酷に人の命を奪っているなんて。
露ほども思っていないだろう。
肩に止まっている『鷹』は、容赦なく相手の目を抉り。
俺も俺で、サバイバルナイフで相手の足の腱を絶つ。
バスケしかしてこなかったから、格闘術には明るくない。
焼き付け刃で身につけても、扱いきれないだろうし。
本職の人に当たってしまえば、勝ち星を与えてしまうことになるだろう。
聖杯戦争での『負け』は死を意味する。
俺は死ぬわけにはいかなかったから。
自分に出来うる限りの最大の『人事』を尽くすことにしたのだ。
(ナイフ研がないと…)
自分の身軽さを生かしてナイフを行使する。
それに戸惑いがなかったかと言えば。
今でも嫌悪感が拭えない。
それでも。
生きるためには仕方なかった。
「高尾、顔色が悪いぞ」
「あー、ちょっと寝不足で」
「また夜遅くまでDVD鑑賞か?」
「えへへ、男の子なもんで」
トイレから帰ってきた緑間が自席につきながら。
呆れた声を出した。
へらっと笑って、夜のことは隠す。
「……身を崩すような真似だけはするなよ」
「へいへーい」
緑間はため息ひとつして文庫本を開いた。
それを見届けて、俺は机に突っ伏して寝ることにする。
これが俺の『学校生活』
「よっしゃ今日は楽勝だな!」
「お手柔らかに」
夜。
月が雲で隠されて、光源は街灯だけ。
その街灯さえ、届かない路地裏。
血が飛び、下手したら体の一部が飛び散ることをするのだ。
商店街でやりあうのは気が引けた。
対戦相手はエナメル生地のジャケットを着たテンプレのようなチンピラ。
どこかの組の構成員、といった雰囲気だ。
「降参するのは今のうちだぜ?」
「ははっ、敵前逃亡すると英霊に殺られちゃうじゃないッスかあ」
相手は手にメリケンサックをはめて前傾姿勢をとった。
ケンカ慣れした近距離型ファイターか。
道具に頼っている時点でボクサーではないだろう。
そばにいる英霊は、ジャケットに描かれているのと同じ虎だ。
咆哮ひとつ、激励の効果を果たして術者の闘志を高揚させていく。
しかし、俺には関係ない。
「んじゃあ、ま?」
俺の英霊が空に飛び立つ。
相手がそれを追いかけて視線を上に向けた瞬間。
手にナイフを滑り込ませて、一気に距離を詰めた。
気を取られて反応が遅れた相手は、うわっ!と呻くだけ。
「苦しくはねぇよ。気付いた時には死んでる」
無遠慮に。
俺は相手の喉笛を掻っ切った。
寝不足は、もうひと月続いていた。
ほぼ毎晩己を奮い立たせて、命を削り取る日々。
うっかり寝ると悪夢にうなされ。
学業に専念できる精神状態ではなくなってきていた。
それでも緑間の前でだけは。
『試験に追いかけられているだけ』と言って、何でもない風を装った。
肩に止まる鷹は淡々と次の対戦相手を伝えてくる。
限界だった。
「ウィンターカップも終わったからさ。
俺、旅行に行ってくる」
「ひとりでか?親御さんは?」
「許可はもらったから大丈夫、一人旅でっす」
不審に思われたかな。
それでも、いつか、緑間にナイフを突き立てそうで。
こいつを『敵』として認識しそうで怖かったのだ。
旅行という名目で距離を置けば。
ひとりになれば。
俺は戦いに集中できる。
「登校日いつだっけ……」
携帯食料を齧る。
アルミのマグカップに注いだ白湯で流し込んで。
ビル屋上から地上をぼんやりと観察する。
行き交う車はそう多くない。
だからだろうか。
直近の戦いはすべて『大通り』で行われていた。
路地裏に残る血の跡は翌日ちゃんと新聞に載ったものだが。
大通りに残した血のことは一切話題にならなかった。
(『運営』が介入してきた、ってことかね)
血でまみれた道路は、戦いが『なかった』かのように。
翌日には綺麗に清掃された。
戦いが始まったのが、夏休み明けだったから。
まともな生活をしなくなってから3ヶ月程度か。
頬に冷たい風が当たる。
(緑間には見せられないなー。
ああ、バスケしたい)
緑頭の大男のことを思い出す。
同級生で、相棒で。
(ラッキーアイテムのために走り回ってんのかな。
おは朝ってば鬼畜だからなぁ。
夏に防寒具とかマジねぇわ。
それ着てた緑間はおかしい)
おは朝に傾倒して。
ラッキーアイテムのためなら金に糸目をつけず。
発言は基本的にツンデレで。
ジンクスまみれで。
(あーぁ…)
不器用なだけで本当は誰よりも優しくて。
努力を重ねて、何事にも真摯で。
「真ちゃんに会いてぇなぁ…」
緑間真太郎。
あの綺麗な男に。
大好きな男に。
また会いたかった。
***********************
夏くらいから温めてたネタをどうにか形にしました。
原作が原作なので、死にネタです。
一応、切嗣と時臣は出てくる予定。
オリジナル7人全員と戦うと収拾つかなくなるので。
そこら辺は微調整します。
なんでオリジナル設定でやらなかったかというと。
戦国Fateという『遺跡』がそれで頓挫したからです。
祭りの準備は楽しいと言うではないですか。
年明け一発目がこれでいいんですかね。
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