株式会社サンテルの「引力発電装置」について、自分なりに読み解いてみました。
今回の話題の発端は8月18日、Twitterのプロモーションに表れたクラウドファンディング計画のようです。
この分野に関心のある人なら、名前だけで怪しいと直感し、連想するものがあると思います。いわゆる永久機関ですね。名前に「重力」や「磁力」とつくのが典型的なパターンですし、当然クリーンなエネルギーを自称します。他にはてこや滑車の増減速による力の変換、出力軸の回転方向を制限するためのラチェットを伴うことが多いですね。再生可能エネルギーに注目が集まった2011年以降はときどき話題になります。
とはいえ引力(重力)は主に水力発電で利用されていますし、それだけで永久機関だと結論できるわけではありません。
参考:
Wikipedia 永久機関
この前に2020年5月17日に茨城新聞に紹介されており、また研究は30年にわたっているためこれ以前からご存知の方もいるでしょう。
引力発電装置とは?
控えめに言うと、複合的エネルギー変換器です。主な動力は揚水ポンプ、制御用にエアー回路と電気回路を持つようです(消費電力にコンプレッサーが記載されている)。
電気エネルギーを水をタンクにくみ上げることで位置エネルギーに変換し、この位置エネルギーを利用して出力シャフトを回し、この回転で発電します。少ない水でシャフトをまわすため、「てこの原理」に則ってタンクは回転体の再外周部に配置されます。
ちなみに、この出力シャフトに合わせた発電機はまだ用意できていないようです。おそらく「タービン」との表記があるのはこのためです。
簡単に説明したいのは山々なんですが、要約すればするほど苦しくなるんです。わかってください。
要するに、永久機関という名前で括られているものと志を同じくしたカラクリで、上記の通り電力を浪費した上で回転運動を得られます。
引力発電装置をさらに理解する
国際特許に関しては、下の指摘の通り主張が認められていません。
「当該記載は、『発電装置10に使用する電気量に対して、約30~100倍の電気量を提供することができる。』という、エネルギー保存則に反する記載となっている。(略)どのような計算によって、『約30~100倍』もの電気量を発電することができたのかも不明である。」
この辺りに、WEBサイトの情報からもう少し迫ってみようと思います。
彼らの主張内容
試作品の説明
このようなPDF文書が公開されています。が、難解です。
どのように難解かというと、論理展開の形式をとっておらず、各記述の主張が読み取りにくいことです。
そこで僕なりに言葉を補ってみたいと思います(誤っているかもしれません)。
>試作品の説明
>・アームの長さ 300cm(タンクの芯から芯)
>・回転軸 中心から爪まの芯まで 13cm(基準寸法)
>・水20ℓを15台分
水の重量からモーメントを得る部分の説明ですね。回転半径1500 mm(150 cm)の位置に容量20 lのタンク、シャフトに力を加える部分は回転半径130 mm(13 cm)の部分ということです。この構造物を15組使っているようです。
>・タンク 30ケ ポンプ30台 コンプレッサー1台
> 消費電力 三相 1031A 200w 80ℓ/min(常時15台稼働)
> 15台x200w=3kw TECコンプレッサー 900w 合計 3.9kw
ここは駆動設備の説明ですね。2行目の「1031A」はポンプの型番のようで、200 Wはちゃんと定格消費電力でした。基本的な消費電力を、すべて足して3.9 kWと算出しています。これは最大値で実際には負荷変動によりもう少し低いでしょう。
>上図の計算式
> 150cm÷13cm=11.53倍
> 20kgx11.53=230.6kg
1行目の除算はてこの原理のレバー比ですね。2行目と合わせて、アーム水平の時にタンクで20 kg重の鉛直下方向への力がシャフトへ伝わるときには230.6 kg重になることを示しています。
> 落下重量(1m当たり2倍となる)20kg×6倍=120kg
> ※落下距離が3mなのでx2で6倍となる。合計350kg
問題の箇所です。何を言っているのかわかりません。計算を見る限りは落差3 mの運動により力が増えると言いたいようですが、よくわかりません。加速度の計算を誤解しているのかもしれません。
とりあえず、試作品についての記述はここまでです。
>例)9Mw(9000w) ロータ径164m
> 受風面積(82mx82mx3.14)x1.225(風速15m時)=25,864
応用事例の試算と思われます。9 MW、ローター直径164 mはMHIヴェスタスの洋上風力発電機( https://rief-jp.org/ct4/67593 )ですね。これをモデルに、必要な「引力発電装置」の規模を算出するようです。
2行目の「1.225(風速15m時)」ですが、標準大気の海上密度を代表値として採用しているようです。これを面積に乗じることで、えーっとローターの回転円上に空気を敷き詰めたときの、厚さ1 mあたりの重さが分かりますね。単位はkg/m。
> 258,64÷40%(有効面積)=10,345
> 10,345÷54(テコの倍数30+落下重量24)=191.584
>当社の場合(芯から芯12mの時)荷重191kgでよい。
この辺りはかなり難解ですが、2,3行目の記述から、アーム半径12 mの「引力発電装置」で代替する場合の必要荷重を出したいようです。「有効面積」の根拠が分かりませんし、風速の数字を置き去りにしていますし、算出しているのは空気の重量(の一例)であって回転力とは直接関係ないですし、風車の原理を根本的に誤解しているように思えます。
>使用モーターは動滑車2個 使用の為 1/4になる。47.75kg
>したがって、50kgを持ちあげるモーターでよい。
ポンプでないのは、茨城新聞の記事にある「水の代わりに滑車を使って鉄製ブロックを上下に移動させる装置」を想定しているからでしょう。モーターの定格負荷の重量換算値は滑車部以外の巻き上げ機構でも変わりますし、速度に関する試算が必要でしょう。
>9,000kwの最適な発電量は80%なので、7,200kw
>7,200kw÷5kw(モーター)を15台使用=96倍
定格9000 kWの発電機の効率は、7200 kWで最大になると言いたいようです。「5kw(モーター)を15台」とは、錘を引き上げるモーターの消費電力のことでしょう。
つまり、先ほどの洋上風力発電機と同等の規模の装置では、入力に対して96倍の出力を得る電力増幅器になると主張しているようです。
一気に書いてちょっと疲れたので、今日はここで区切りたいと思います。
次回は他の情報も併せて、彼らが理解していないことについてまとめていこうと思います。
(2020年9月14日、「株式会社サンテル」を「サンテル株式会社」に修正)