JRと私鉄は駅名の外国語併記の際、日本語の発音/呼称を表わさない中国漢字を使うのではなく、表音文字ピンインで表記すべきだ

駅名の外国語併記に中国漢字が使われている。しかし中国漢字は日本語の音を消してしまう。この大欠点をなくす代替策を提言する。

中編その1 中国語と華語のお話し、及び表音文字ピンインを使うことの利点

2023年11月27日 | 駅名の外国語表記
第2章:中国語、華語、簡体字に関する概論

現在駅名併記に使われている中国語・華語は、2種類の中国漢字体系を使っている。簡体字と呼ばれる字体系は主として中国で使われていること、及び繁体字と呼ばれる方は主として台湾(及び香港)で使われていることは、日本人にも結構知られていることでしょう。

なおこの場で使っている「中国語」とは中国の共通語 / 標準語たる普通話のことであり、これが前提です。なおこの「中国語」に関して中国では「漢語」という呼称がよく使われるとのこと。ところで漢語という単語は言語学の分類でもよく用いられる、従って Intraasia は当ブログでは分類上の名称として使います。

東南アジア諸国において華語が言語として重要な地位を占めるのは2か国ある。シンガポールは華語が公用語の1つである、そしてマレーシアでは華語は公用語ではないが華人界で広く使われている。マレーシアではさらに準公立ともいえる初等教育段階の学校では、華語は教育と学習における媒介語として使われている。
解説:マレーシアでは初等教育において華語を使って教育する華文小学校は全国に広く存在する。華文小学校ではもちろん華語は必須科目である。

マレーシア華人界ではその言語を決して中国語とは呼びません、その名称は華語または華文(書き言葉的表現)です。これはシンガポールでも同様だ。
ある言語の名称の背景には、その国に住むある民族のアイデンティティーが深く絡んでいることが少なくない。従って日本人もそういう背景を考慮して”華語”と呼ぶべきなのです。

マレーシアとシンガポールの両国では、こうした教育段階での簡体字教育を既に数十年経てきたことから、新聞や出版界, 巷や街で見かける広告や表示においても、現在では簡体字が圧倒的に用いられている。

Intraasia がマレーシアに居住し始めたのは1990年代の初めだ。その頃から90年代後期ぐらいまでは、繁体字を主として使っていた主要華語紙が複数あった。しかしはっきりした時期は忘れたが、年月の経過と共にどの華語紙もほぼ簡体字のみになった。なおマレーシアの学校教育では1990年以前から簡体字だけが用いられていたとのことである。

上記2か国は当然のごとく華語紙が主要紙の一角を占めるが、その他の東南アジア諸国でも日刊華語新聞が、発行部数はかなり少ないものの、発行されている。Intraasia の知る限り、それらの華語新聞ではしばらく前から簡体字が圧倒的になっているといえそうだ(繁体字の新聞が消滅したということではない)。

駅名併記に二体系の中国漢字が使われている背景には、このような漢語圏における言語面での国際事情もあることを知っておいてください。

解説:中国語・華語は学問的にいえば、漢語に属する言語である。東南アジアでは華語を日常的に使う華人が一定の人口割合を占め、日刊の華語新聞さえ発行されている国々が多数を占める。国情によって大きな差があるが、東南アジア各国でその国語の傘の下に存在する形で漢語コミュニティーがあると見なしても間違いではないだろう。

東南アジア華人界で最も使われる、とりわけ書記語として、漢語は「華語」であり、それは要するに中国における「普通話」、日本人が一般に呼んでいる「中国語」に該当します。
注:なお当ブログでは今後いちいちこれらのことを注書きしません。

なお東南アジア華人界では、(書記語ではなく)日常口語としては福建語、広東語、客家語などの漢語諸語をむしろ華語よりも頻繁に使っている華人たちが少なくない、と言ってもいいだろう、ただし国によってその人数や程度にかなりの違いがある。

当ブログの目次をここに掲げておきます。
【 目次 】
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。

第3章:ピンイン(拼音)の説明

さて中国語・華語の教育と学習において、簡体字体系では中国で考案されたピンイン(拼音)が使われている。華語教育が公教育に組み込まれている2つの国、マレーシアとシンガポールではピンインが早い段階で教えられているのは当然と言える。日本で出版されているどの中国語学習書でも入門・初級段階でピンインの理解が目標となっている(はずだ)。

その他の東南アジア諸国の場合、華語を教える私立の初等・中等学校及び町の民間語学院や塾は現在では簡体字が圧倒的だろう、と推測されるから、現在では当然ピンイン(拼音)が華語学習に欠かせない基本知識として教えられているはずだ。

ただ残念ながらこのことはマレーシアとシンガポール以外の国では、その当時 Intraasia は現地調査は不十分にしかできなかった。
当ブログのタイトルの一部にもなっている、ピンイン(拼音)のことは最重要事項ですから、是非こういった情報・知識も皆さんに共有していただければなと思います。

中国で考案されたピンイン(拼音)はもっぱら中国だけで使われているという捉え方は、21世紀の世界では既に間違いである。これは大変重要な点ですので、強調しておきます。

参考知識として、中国語を専門とする学者の書(白水社刊 池田巧著『中国語のしくみ』)から引用します:「普通話は1950年代に国家によって規範化された、また簡体字は1964年に中国政府によって公布され、国の正式な文字として定められた。」 
ピンインについては、「1977年の国連の地名標準化会議において中国の地名のローマ字表記はピンイン方式によることが正式に採択され、以来中国語の正式なローマ字表記法として世界的に公認された」
以上で引用終わり。

ピンイン(拼音)とは何か? ほとんど全ての中国語学習において入門段階でピンインを習うはずだ。中国語の学習書籍は書店や図書館にあふれているから、更に現在ではネット上でも容易に得られるから、詳しいことはその種の書籍類やサイトを参照してください。

従って当ブログで論を進めていくうえで必須な基本点だけを述べる。中国語の正式なラテン文字表記法である、ピンイン(拼音)とは、簡単に言えば中国漢字の声調を含めた発音を覚える、知るための方法/手段であり、いわば中国漢字用の発音記号ともいえる。

ピンイン(拼音)をきちんと習得すれば、どの中国漢字も間違えることなく発音できるようになる。
注意することは、ピンインは中国漢字のためにラテン文字(ローマ字)を援用して考案されたものだから特有の規則がある。ゆえに、決して日本語におけるローマ字風や英語風に発音してはいけない。
だからこそ、中国語・華語学習の入門段階で、ピンイン(拼音)をかなりの時間を費やして教えるのです。

具体的に説明します。例えば ”拼音” という漢字をみても発音と声調はわからない。そこでラテン文字を使って中国語用に表音記号化した、ピンインを用いる。
例:拼音 [ pīnyīn] 、そして4つの声調は各語の上に付記した棒線で示される。この例では2つの声調はいずれも第1声(高)だ。

もう1例:普通语 [ pǔ tōng huà] あえてカタカナで表示すればプートンフアとなる。中国における共通語である普通話は現代中国の北方漢語が基になっており、日本で中学校や高校で習う”漢文”の漢語とは相当異なる。なぜならこの二つの言語は使われる時代が全く違うために、互いに音や単語や言葉使いなどが異なっていることは当然である。
注:奈良・平安時代の日本語と現代日本語の間にある違いの大きさを思い浮かべてください。


第4章:駅名併記に用いる文字種は漢字である必要性は全くない

次から述べることは、当ブログの本論における最重要点の1つです。

〈どの体系の漢字も中国語の音で読まれる〉
ピンイン(拼音)は中国漢字のために考案されたものだが、仮に日本漢字に適用したとしても取り立てて問題はない。要するに日本漢字を中国語的に発音するということだ。日本語が独自に作った和漢字に対しても、中国語として如何に発音するかは既定となっているはずだ。

なお日本漢字に声調はないが、中国語・華語話者は当然それに声調を付けて読むことになる。以前書いたように、声調言語を母語とする人たちが日本語を話すとき、声調の”香り”が残るのはごく自然なことです。
日本漢字の地名を中国語的に読む例:大阪 [ daban 第4声と3声] 、富山 [ fushan 4声と1声] 、青森 [ qingsen 1声と1声] 、福岡 [ fugang 2声と1声]、
正確にはわからなくても、ピンインが表す発音はいかに日本語音と異なるかが皆さん感じられることでしょう。

既述のように駅名併記には、現今の日本漢字と字体・字形が多少異なる繁体字も、簡体字と並んで使われている。ただし中国からの中国人、台湾からの台湾人、東南アジアなどからの華人にとっては、どの漢字も、つまりこの3種の漢字体系で表記される漢字自体は同じ扱いを受けることになる。だからどの体系の漢字で駅名を書こうと、中国語・華語として発音され、それら3種の漢字の音は同じになる。

要するに中国語・華語の話者に対しては、ある駅名に併記されている簡体字駅名と繁体字駅名からは日本語の音が全く伝わらないのだ。一方、その同じ駅名の併記に使われているラテン文字駅名とハングル駅名は、正確とまでは言えなくても、日本語音を十分に伝えているのです。なぜならこの両文字(ラテン文字とハングル)による駅名は日本語の音を基にしているからです。

〈発想の転換が必要だ〉
そこで発想を転換する必要がある。日本の鉄道や電車路線、及びバス路線の駅名を外国人に伝える際、漢字第一 または漢字中心思考を変えなければならない。外国人に漢字を伝えるのではなく、日本語音を伝えることがまずそして最大限に重要なのです。現に日本の交通機関は、ラテン文字とハングル文字による駅名併記を以前から行っているではないか!!

具体的に言おう、中国語・華語の話者に対しても同じ発想を取り入れて、ピンイン(拼音)による駅名併記に変更すべきである。”漢字”にこだわる思考は、外国人利用者に日本語の音を伝えるという実用面の最重要さを無にしています。

ひとたび駅名併記を簡体字や繁体字ではなくピンインによる表記にすれば、中国語・華語の話者にも駅名の日本語発音を知ってもらう、すごく正確ではなくてもそれなりにまたはかなり似た音で発音してもらう、ことができる。

なおピンインを見て発音する(または頭の中で音を確かめる)際、中国語・華語の話者ゆえに必然的に声調が伴うが、日本側としてこの場合声調面は気にしない。日本漢字の地名に声調が付いて発音されるからといって、その意味が変わるわけではない。


第5章:ピンインで綴る日本の地名・駅名の例示とその利点

[ ]内はピンインですよ、ローマ字ではない。上記であげた地名を例に使います。
例: [ ou sa ka] 大阪、[ dou ya ma] 富山、
注:中国語の音韻体系には do / to という音はない。存在しない音は使えない。だから近似した音として dou を選んでいる。またピンイン表記において有気音 tou の無気音が dou だ、日本語音のドウではない。ローマ字式読みは忘れてください。

参考として:有気音、無気音は中国語・華語のような声調言語では必須の発音区別です。この用語は既に言及した Intraasia のツイッター作品である【いろんな言語のこと、あれこれ】シリーズの中で何回も触れて丁寧に解説しているので、ここでは説明を省きます。

上記の例では日本漢字の地名は読者の便宜をはかって書いただけであり、実際の駅名併記の際にはもちろん使わない。 実際の駅の表示の場合、まず日本語で駅名が表示され、それに加える形で、ラテン文字、中国漢字、ハングルの駅名が併記されている。

例の続き: [ hu ku ou ka] 福岡、 [ ao mo ri / li ] 青森、
注:中国語の [r] はそり舌音でこもった響きを持つ音であり、日本語の ラ行音 や英語の [r] とはかなり異なる音だ。だから中国語話者の発する[アオモリ]の[リ]が[リ]に聞こえないことが多いだろう。そこでむしろ [ r ] の替わりに [ l ] 音を使った方がいいかもしれない。

<一口知識> 
アルファベットの r という文字の発音は言語によって音価が異なる。例えば日本語の"r" 、英語の"r"、フランス語の"r"、中国語の"r" 、インドネシア語の"r" では全て互いに異なる音だ。従って国際音声記号 (IPA と略称される) ではこれら "r" をそれぞれ異なる記号で表します。

上記にあげた地名のピンイン表記例に関して、その綴りは Intraasia の選択であり、例えば ri / li のどちらがいいかなどのように判断に迷うところがある。日本地名の適切なピンイン綴り(及びその声調も含めて)を決めるのは日本人の中国語学者・専門家におまかせします。

なお日本語駅名のピンイン表記例はこれから論を進める中でもっと数多く例示していきます。
ここまでの論を連載の初め頃から丁寧に読んでこられた方なら、Intraasia の主張の根拠とその利点が恐らくお分かりになっていただけるのではと思っています。

〈 ちょっと休憩 〉
当ブログを初めてご覧になる方へ、または Intraasia の過去のツイッター連載作品を一度もお読みになったことがない方へ

当ブログは2023年10月初めから作品掲載を開始した。作品は【序論】から始まっています、当該テーマの下で Intraasia が作品を書くに至った由縁などを綴っていますので、是非【序論】から目を通してください。Intraasia はその中で、1冊の本を書くようにと描写しています。要するに、当ブログでは関連知識や周辺事情を相当幅広く且つ丁寧に記述しており、Intraasia の主張だけを手短に述べるようなことはしていません。

中編その2に続く



中編その2 日本語音を消してしまう中国漢字は駅名の外国語併記に使うべきではない

2023年11月25日 | 社会問題
第6章:中国漢字による駅名併記がもたらす残念な現実

駅名併記の現状を見てみよう。例えば東京の原宿駅では”原宿”という簡体字が使われている(この場合日本漢字と同じ)、これでは中国語話者は [ yuansu 2声と4声] としか読まない。 小田原駅は [ xiaotianyuan 3声と2声と2声] のように発音されることになり、池袋駅は [ chidai 2声と4声] と読まれてしまう。
同じ併記駅名であるラテン文字駅名とハングル駅名に比べると、この現状は見過ごせません。
なお駅という日本漢字は簡体字では 站 という字体で表記される、このような漢字字体の違いのことはここでは当テーマから外れるので、この場ではそのままにしておきます。

当ブログ前編に載せている【はじめに】の中に、ほとんどの日本人が認めるであろう大前提を掲載しています。この場でそれを再掲載しますので、確認してください。
「駅名の外国語併記の主目的は、第一に鉄道やバスに関して外国人利用者の便宜を図る、利用を助ける、ことであり、第二に外国人利用者に日本語での駅名を、正確ではなくてもいいからできるだけ知ってもらう、そのように発音してもらうことにある、と理解してもいいでしょう。」
この2つは他言語(外国語)による駅名併記をするレゾンデートル(存在理由)となっている。
なお、それでも第二の点に疑問を呈する人がいるかもしれませんので、傍証をあげておきます。


第7章:駅ナンバリング方式を考える

現在、首都圏の JRの駅には数字と記号を組み合わせた駅番号が付けてありますね。JR東の2016年4月付け公告をネットで探した。以下はそれからの引用です:
訪日外国人旅行者の方をはじめ、すべてのお客さまによりわかりやすく、安心して鉄道をご利用いただくために、首都圏エリアへ「駅ナンバリング」を導入します。多くの路線が乗り入れる駅については、それぞれの路線記号や駅番号とは別に、アルファベット3文字からなる「スリーレターコード」を表示します。 ー以上で引用終わり。

例えば新宿駅は SJK(コード)及び JY17(路線記号と駅番号) と付けてある。仮に駅名の日本語の発音が大して意味を持たないのであれば、ラテン文字などによる複数言語・文字併記を止めて、外国人向けには全てこの駅ナンバリング方式に統一した方が、すっきりし且つ効果的なはずだ。
しかし駅ナンバリング方式実施から7年近く経った今でも、複数言語併記は変わらず表示されている。

一体鉄道・バスの外国人利用者はどの程度駅ナンバリングを参照しているのだろうか?  どう考えても、外国人の間ではもっぱらラテン文字やハングル表示の駅名の方を参照・利用している割合がずっと高いだろうと推測される。駅ナンバリングだけを参照する外国人乗客もいるだろうが、少数派だと推測される。

なぜなら人は無味乾燥なこの種の数字記号よりも、馴染んだ自国の地名の調子とは異なるために覚えにくいが、それでも具体的な地名の方を好むからです。こういう好み・傾向はどの国の人たちでも変わらないとみなしてよいだろう。
だからこそ、具体的な駅名における、日本語風の発音が大切なのです。

〈ラテン文字表記の駅名を読む場合〉
ラテン文字表記を見て、各外国人はそれぞれの母語に備わったアクセント、音韻を反映しながら発音するまたは頭の中でその音を確かめるのだ。

当ブログの【序論】に書いたように、駅名に併記されたラテン文字の読まれ方においては、日本人が期待するようにはまず発音してもらえない。しかし外国人が読む際に基となる音は日本語音であることから、彼らの発音はその日本語音と全く違った別音にはならない。

日本語を知らない外国人によるラテン文字の読まれ方に関しては、当ブログ開始と同時に掲載した【序論】の中で、多くの例をあげて細かに説明してありますので、是非ご覧ください。

〈ハングル表記の駅名を読む場合〉
ハングル表記の場合はラテン文字表記の比べてより日本語音に近く発音される、なぜなら【前編】に書いたように、ハングルは音を写す点で好適な表音文字であり且つハングルを使うのはほぼ韓国・朝鮮人に限定されるからだ。ハングル駅名を様々な外国人が読むことはない。
【前編】の第1章で、「このことを是非覚えておいてください。」とIntraasia は書きました。そのことは今ここで中国漢字との比較をする際になって、より意味を持つのです。

〈中国漢字で表記の駅名を読む場合〉
一方、簡体字と繁体字で併記された(翻字した)駅名の場合はそうはなりません、つまり日本語音のようには発音されない。翻字された駅名の発音は日本語音とはかけ離れた音になってしまう場合が圧倒的に多い(中には似た音になる駅名もあるだろうが、その割合は非常に低い)。

一般論として、簡体字や繁体字で駅名を翻字することは”地名や氏名や固有名詞における原音の尊重”という原則が失われてしまうのだ。駅名併記に中国漢字の使用を決めた決定権者らは自ら原音尊重を放棄した、これは問題視すべきだと Intraasia は主張します。

〈補助的手段として駅ナンバリングの有用さ〉
なお駅ナンバリング方式が無駄だということを Intraasia は説いているのではない。駅ナンバリングは補助的手段としては良い試みだと思う。例えばスマートフォンの検索で、駅ナンバリングの記号番号を打ち込んで検索するような場合は駅ナンバリングが便利であろう。
また駅名を覚えたり識別する方法として、具体的な名称の頭に駅ナンバリングを付けて覚えるまたは区別する、といった利用法もあるだろう。例えば "JY02 Kanda" (山手線の神田駅)、 "G13 Kanda"(銀座線の神田駅)、

だから駅ナンバリングは外国人の間で今後も鉄道利用における補助手段として使われていくことでしょう。もちろん日本人利用者の中にも、駅ナンバリングを使う人たちはいることでしょう。そこで駅ナンバリングのことをもう少しだけ論じます。

〈駅ナンバリングに関して補足〉
渋谷は東京の有名地の1つですね。幾つもの路線が交差し且つ駅名は同じだが路線によって駅の場所が異なる、渋谷駅を例にする:「明日夕方6時に半蔵門線の渋谷駅の南口改札前で会いましょう」、日本人は一般にこのように言うと思われる。
しかし都内の地理や路線に慣れていないまたはその知識がごく少ない外国人の場合なら、「・・・・Z01 Shibuya の南口改札前で・・・・」と表現した方が、互いに分かり易いと考えられる。

ちなみに渋谷駅には幾つもの「駅ナンバリング」が付与されている:JY20 山手線の Shibuya駅、JA10 埼京線の Shibuya駅、JS19 湘南新宿線の Shibuya駅、Z01 半蔵門線の Shibuya駅、G01 銀座線の Shibuya駅、まだ他にもありますが省略。

なお、東京メトロや首都圏の大手私鉄でも駅ナンバリングを採用している(首都圏大手私鉄の全ての社までは調べていないので、”全て”の表現は控える)。

ところで、京阪神など他の大都市圏でもこの駅ナンバリングを取り入れたところがあるのだろうか?
こういった情報なら知っているよという方は、気が向かれましたら、当ブログのメッセージ機能を利用して情報提供していただければありがたいです。

このブログの目次をここに掲げておきます。
目次
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。

第8章:駅名併記に用いる文字種は表音文字であるべきだ

傍証及び駅ナンバリングの件は終えて本題に戻ります。
駅名併記の文字についてまとめておこう。ラテン文字は日本語音を、地名によって差はあるが、かなりの程度正確にから間違われない程度に似ているまで、示すことができ、現実に外国人からそのように発音されている。

ハングルが日本語音を写す点での長所を持っていることは既に前編で述べた。

参考として:韓国語で使われるハングル文字についてまとめて書いたのは、Intraasia が主宰するツイッターの言語シリーズ【いろんな言語のこと、あれこれ】の第90回(2019年2月17日)から第110回(2019年3月9日)頃までです。

〈音を写す点では一般に表音文字が向いている〉
ラテン文字とハングルの両文字体系は表音文字である。一般に音を写すという点では、表音文字の方が表意文字より適していることは明らかだ。
表音文字の別の例として、ヒンディー語で用いられるデーヴァナーガリー文字で日本地名を書きます。便宜的にカタカナによる発音表記も付記する:
कगोशिमा カゴーシマー、ओसाका オーサーカー、 सेंदाइ センダーイ、 नेमुरो ネムロー、

上記の地名は漢字では 鹿児島、大阪、仙台、根室の順です。ヒンディー語の音韻体系に沿って時に短母音、時に長母音にしているが、日本語音をかなり忠実に写していることがおわかりでしょう。デーヴァナーガリー文字は表音文字の中でもより音を写しやすい文字だと言ってもいいだろう。

なお表音文字はすべからく他言語の音を良く写して駅名の併記に向いている、ということには必ずしもならない。【序章】ではアラビア文字を例に出してその向いていない理由を説明した。

中国漢字は簡体字も繁体字も表意文字である(むしろ表語文字と呼んだ方が良いが)。だから既述したように、日本漢字の音を写すことにはまったく不向きで不適である。
この第8章の記述内容は最重要点です、みなさん、是非注目してください。

〈表音文字のピンインは日本語音を写しやすい〉
中国漢字には”ディスコ”を”迪斯科”と表記するような音訳方式もある、発音は [ dí sī kē ]なので音がよく似ている。しかし現代中国語では意味を取って訳す方式の方が多いそうだ。例:インターネットは 网络 [ wǎngluò ]、コンピュータは 电脑 [ diànnaǒ] 、

結論的に言えば、中国語・華語による日本語地名の音訳は、”迪斯科”式の意味のない中国漢字の羅列よりも、ピンイン(拼音)を使った方がスッキリしてはるかに分かり易い。
なにせピンイン(拼音)は漢字と違って表音文字なのです。
中国語・華語話者に日本の駅名を日本語音で知ってもらう、できるだけそのように発音してもらうには、まさにピンイン(拼音)こそ好適、好都合だ。

前編や中編その1で細かに書いたことの要点をここに掲げましょう。

1. そもそもピンインは中国で半世紀以上前に考案されてその後中国全国に普及した。さらに今や東南アジアの華人界における華語教育でもピンインは圧倒的に教えられているのだ。
台湾人にとってのピンイン(拼音)はどうなのかを、学者・専門家の書籍から引用しておきます:「台湾では伝統的に発音表記にはカタカナに似た注音符号を使っていますが、近年はローマ字表記に大陸と同じピンイン方式を採用しています。」ー 白水社刊 池田巧著『中国語のしくみ』2014年発行から。

2. JRと私鉄の駅名を外国語併記するに際して、中国語・華語の場合はピンイン(拼音)を用いない手はない、いや是非使うべきである。
「ピンインは1977年以来中国語の正式なローマ字表記法として世界的に公認され」ています。

3. そこで上記の駅の例でいえば、原宿は[ ha la ju / zhu ku] 、小田原は [ ou da wa la] 、池袋は [ yi gei / kei bu ke lo] のようにピンイン(拼音)で綴っておけば、それなりに日本語音に近く発音されることになる。

4. なお中国語・華語による駅名併記において、最終的に各駅名をどのようなピンイン綴りにするかは日本人の中国語学者・専門家に決めてもらう。

「最終的に各駅名をどのようなピンイン綴りにするかは中国語専門家に決めてもらう」と書いたのは、日本語単語の音をピンインで写す(音訳する)際、多少のゆれが起きるからだ。そこで日本地名の最も適当と見なせるピンイン綴りは専門家に委ねるということです。

〈ピンイン化するのは駅名だけ〉
誤解なきように念を押しておきます。ピンイン(拼音)化するのは、駅名だけである。鉄道や駅の案内・説明文や注意書きにはもちろん、中国語・華語を用いる。 中国語・華語話者に鉄道や駅からの伝えたい情報・意図を分かってもらうためですから。

中編その3に続く



中編その3 大多数の中国人と華人に馴染みのあるピンインは駅名の外国語併記に向いている

2023年11月21日 | 社会問題
第9章:地名をわざわざ中国漢字化して、日本語音を消してしまう理不尽さに気がついて欲しい

〈駅名から地名の由来を知ってもらう必要はない〉
中国語・華語話者に駅名の文字が意味するものを知ってもらう必要はない。例えば東京都にある赤羽(駅)の場合、その漢字の意味は赤い羽根だが、単に漢字の意味が分かっても仕方がない、その漢字がどういう経緯で地名となったとか、地名とのつながりがわからないからだ。

つまり地名の由来は書かれた漢字からだけでは分からないことが非常に多い。そもそも一般に地名の由来など圧倒的大多数の日本人だって知らないし、交通機関利用者がそれを知っておく必要性はない。知りたい人は地名由来に関する本を探して読めばいいのだ。

〈ひらがな地名を中国漢字化するのは愚かな行為〉
地名には種々ある。漢字を音読みした地名、訓読みした地名、当て字の地名もある。またひらがな地名は近年増えたそうだし、カタカナ地名はもう珍しくない。駅名は当然、地名の呼ばれ方を反映している。
だから漢字をどう発音するかは大事ですね。日本文字を知らない外国人にとってはひらがな/ カタカナ地名も翻字する必要がある。その際、ラテン文字とハングルは日本語音を表記する(つまり音訳している)ので問題は出ない。

一方繁体字と簡体字を使うことはひらがなをわざわざ中国漢字化することにもなる。その結果、発音される音がひらがなの音と全く異なってしまう、要するにひらがな駅名が全く別音の駅名になってしまうのです。駅名の中国漢字化は愚かな方法と評するしかない。

例をあげる。さいたま新都心駅は地方自治体のさいたまを反映した地名だろう。簡体字版の路線図では”埼玉新都心”と書かれている。地名がひらがな音そのままなのに、わざわざ漢字化した中国漢字はそれを全く反映しないのだ。発音はピンイン表記で [ qíyù xīn dō xīn ]です。”さいたま”を [ qíyù] と発音されてはまるでどこか別の地みたいだ。

一方ラテン文字とハングルで書かれた併記駅名を読む諸国の外国人と韓国・朝鮮人は、まがりなりにも[サイタマ] と日本語音で発音するのです。

わざわざ中国漢字化して日本語音を消してしまうというこの理不尽さに、JR と私鉄の日本人利用者の大多数は気がついていないのでしょうか?
Intraasia が”理不尽”ということばを使ってこのことを批判する背景と根拠は、当ブログをこれまでお読みになってきた方々ならもう既にお分かりになることだと思います。

ひらがな地名のことを続ける。北海道のえりも町は現在ではひらがな名の自治体だ。鉄道路線は通っていないがこの地名を付けたバス駅(バス停)名があるので、それを繁体字化すると 襟裳 となってしまう。その場合中国語・華語音では [ jīn shang ]と発音する。

宮崎県のえびの市もひらがな名の市だ。調べるとJR線が通っている。地図に載っているえびの駅という駅名は自治体名を反映してひらがな綴りだ。”えびの”が付いた駅は3つある。これらも中国漢字化によって、駅名から[エビノ]という日本語音が消えてしまう。

茨城県のひらがな名の自治体である”つくば市”には鉄道が通っており、そのつくばエクスプレスの終着駅がつくば駅だ。つくばエクスプレスも自治体もつくば駅と表記しているのに、エクスプレスの簡体字版はわざわざ 筑波 と漢字に戻している。
当然 [ツクバ] という発音は消えてしまい、中国語・華語音の [ zhù bō] という音になってしまう。
ひらがな駅名は駅名併記に中国漢字を使うことの愚かさを如実に示す例にもなっている。

注意:再度念をおしておきます。 この場で頻出している [ ] 内は、要するにピンインで綴る発音記号ですから、決してローマ字読みしてはいけません。必ずピンインで定める読み方規則に従って発音しなければならない。ピンインを習ったことのない日本人が「おかしな音」だと苦情を呈してもそれは的外れです。

〈漢字を使ったからと言って地名の由来がわかるわけではない〉
姫路、弘前、千葉など使われている漢字からだけでは、地名の意味や由来がほとんどまたはよくわからない地名はごまんとある。例えば、弘前市は弘前藩の名から取ったと推測されるが、その弘前という地名の由来はなんだろう?

「外国人向けにラテン文字綴りで、Himeji, Hirosaki, Chiba と表記する(翻字する)ことでは字の意味や背景が伝わらず不十分だ。しかしながら漢字文化圏の、せめて中国人と台湾人向けだけには中国漢字に翻字しておきましょう」というのが、恐らく駅名に簡体字と繁体字を併記することを決めた側の言い分であろう。

皆さん、この奇妙な論理に気がつきませんか? 日本人にとって漢字そのものの意味は大体またはかなり分かる、しかし駅名は漢字自体の意味から離れて地名を基にしていることが普通であり、他にはその地にある施設名などを駅名に付けているのだ。
一般に、その漢字を組み合わせて現在では地名となっている由来や背景が、別の表現を使えばその漢字がどういう経緯を経て地名となったかが、おいそれとはわからない地名はたいへん多いのだ。

確かに地名の意味や由来を知る上で漢字は重要な要素である。反面、特定の漢字を選んで地名とした理由、すなわち地名の由来や背景が分からない地名の方が、わかる地名よりはるかに多いということも事実である。
ある駅を利用する人たちの間で、漢字を読み書きする日本人の利用者の一体どれくらいの割合が漢字綴りと地名のつながりを知って駅を利用しているのかな?

当ブログの目次をここに掲げておきます。
目次
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。

第10章:駅名表記を表音文字ですることは利便性を高める

このような実状を確認したうえで、結論づけて言いましょう。訪問者としての外国人や日本語の文字体系を知らない外国人在住者が、駅名併記の表記文字として、ラテン文字、ハングル、ピンイン(この3つはいずれも表音文字で且つ日本語音を写すのに向いている)を通して、駅名を知る、発音することは、彼らにとって大きな利便性がある。日本人にとっても彼らが駅名の日本語音を不十分ながらも知る、発音することは望むところであり且つ歓迎すべきことなのだ。
今ここで書いていることは当作品における根幹の1つです。

駅名に使われる地名の中には、多くはないが、文字から由来が簡単にわかる場合ももちろんある。代表的な例である東京は、”東の京または都(みやこ)”であることは漢字の読める人ならほぼ推測がつくでしょう
東京(駅)を例にとる:日本語名に併記して、Tokyo (ラテン文字)、东京(簡体字)、東京(繁体字)、도쿄(ハングル)と書いてある。
中国漢字の音をピンインで表すと [dōng jīng] となる。[dōng jīng] をあえてカタカナで音を表せば [ドンジン](無気音+無気音)だが、実際の音はそのカタカナを発音する際の音とはかなり違う。既述したように、ピンインは中国語の音韻体系に基づいているからです。

3番目の繁体字は簡体字と同じ発音だ。4番目ハングルの発音は大よそ [トキョ]となる。東京のような地名は誰だって知っているはずだから、事前知識として”東の京 / 都”ということを知っている外国人もいるかもしれない。ただしこの地名は稀有な例ですね。

この例でもわかる様に、ラテン文字とハングルは[トゥキョゥ] という日本語音を基にして表記されているのに、簡体字と繁体字は中国語音を基にしている。だからこそ中国漢字を使わずにピンインで日本語音を写す形で、例えば [ tou ke you]の様に表記すべきだ。

〈駅名の漢字を知りたければ日本漢字を眺めれば十分である〉
現代の圧倒的大多数の中国語話者は、中国と台湾を問わず、漢字が読める。なお華語を話す東南アジア華人の場合は事情が異なる。
だから中国人と台湾人と香港人は、日本漢字から容易に意味を推測できることになる。

ただし次の点を強調します:中国漢字と日本漢字の間には、文字の意味及び使われ方が異なることは決して軽視できないほど普通にある(生じる)ので、”意味の推測がいつも正しいという保証は全くない”。特に文章の場合、単に漢字の知識だけでは日本語はきちんと理解できない。逆も真なりで、日本人にとっても漢字知識だけで中国漢字の文章がきちんと理解できる場合は大変と言えるほど少ない。まして精度の高い翻訳などほぼ無理だ。以上は強調すべき点です。

とにかく中国人や台湾人、及び華語の読める華人は、駅名に繁体字または簡体字が併記してなくても日本漢字が使われていることから、どうしてもその併記された駅名の漢字(そのもの)が知りたければ、日本漢字を眺めればそれでかなり事足りるのです。

何らかの理由で駅名の中国漢字への正確な変換を求める人には不十分かもしれないが、そもそも交通機関利用者に対してそういうことは始めから想定されていない。探求したい外国人は日本漢字と中国漢字の対照表を参照すべきです(スマフォのアプリにこの種のものがあるようだ)。


第11章:駅名はまず第一に、実用的であらねばならない

あらためて言明します。駅名は第一に実用的であり、そうあらねばならない。そして存在する理由の九割位は実用のために存在するのだ。

〈駅名のラテン文字綴りはまさに実用的なことに価値がある〉
この駅名が実用的であることについて、もう少し論じましょう。
駅名併記に用いられている文字種の面で、駅名併記のあるほぼ全てでまずラテン文字(日本式ローマ字または英語風ローマ字)が使われている。駅名併記の普及率からみて、現行の中国語漢字と韓国語ハングルによる駅名併記はラテン文字に比べてまだぐっと少ないだろう。

当ブログ作品の初め頃に書いたことだが、中国漢字とハングルが駅名併記においてどの程度全国的に使われているかを知りたいものです。
こういった情報なら知っているよという方は、気が向かれましたら、ブログのメッセージ機能を利用して情報提供していただければうれしく思います。

駅名としてラテン文字を読む外国人(旅行者であれ、在住者であれ)の大多数は日本漢字とひらがなとカタカナはわからない。だから彼らが駅名に使われた地名に関して、文字から得られるかもしれない背景がわからないのは当然だ。
何よりも駅名にラテン文字を併記していること自体、外国人に地名の意味や由来を知ってもらうことを最初から放棄している。実用第一である駅名だから、それでいい、それで充分なのです。

我々日本人利用者だって、駅名に使われている地名からその背景や由来を推測できない駅名の方が圧倒的に多いはずだ。要するに、駅名とはまず利用者にとって、及び交通機関側にとって、実用面が最大の存在意義を持つ。

どの駅の地名にも歴史的背景とか文化的背景はあるが、この際それはほとんど重要視されない。当然ですよね、駅名を使うのに、いちいち歴史的背景とか文化的背景を知る必要性はない。実用第一なのだから。駅名の利用者が外国人であっても、この原則は当然適用される。だから併記にラテン文字が使われていることは、実用面から好ましいことになる。

併記にラテン文字が第一選択として且つ圧倒的に使われるのは、ラテン文字が世界で一番普及している文字種、ということが最大の理由ですね。

韓国、朝鮮は漢字文化圏に属する、しかし両国とも既にハングル文字を書記体系に取り入れて久しく、漢字はもはや必須ではなくいわゆる教養の範疇に属すると、捉えてもいいようだ (これは読んだ知識であり、実際に見聞したわけではないが)。
表音文字ハングルからは駅名の背景はわからない。日本を訪れる韓国人が、駅名に併記されたハングルに異論あるはずはなかろうし、実用上それが一番適している。

〈駅名併記に中国漢字を決めた人たちの思考の背景にあること〉
では同じ隣国である中国と台湾の人たち向けだけに、なぜわざわざ中国漢字を駅名併記に使っているのだろうか? 駅名併記の言語と文字種を決めた、ごく少数の権限を持った人たちは、駅名併記のラテン文字とハングルを読む人たちに駅名の背景や由来などを知ってもらう、推測してもらうことを最初から考えてもいないのにもかかわらずだ。

そして、JRの駅名併記のあり方を知った各地の私鉄や、地下鉄などを運営する公共企業体の中には、単純にJRに範をとったところが多いのではないかと、推測される。一方 JRに範をとらなくて独自の判断で中国漢字の併記を決めた私鉄、地下鉄もあるだろう。
しかしこの種の決定をした人たちの頭には、ピンイン(拼音)の利点が浮かばなかったか、ピンインの内容をよく知らなかったと思われる。加えてそういう人たちは、”中国、台湾だから即漢字を使う”という固定観念が働いたことは Intraasia の想像に難くない。

これらの根底にあるのは、一部の日本人の中にある奇妙な漢字文化圏の重視意識または一体感であろう。駅名という最も実用面が大切である表記にさえこういった観念・意識を当てはめて、中国と台湾は漢字国だから駅名にも漢字を使うべきだ、と信じ込んでいる。

文化としての漢字圏を考えることは大切なことだし、Intraasia も少なからず興味ある。しかし繰り返すが、駅名の存在意義は何よりも実用面である。日本人は感傷的ともいえる漢字の呪縛から解き放たれて、駅名併記を素直に実用面から捉えることが必要だ。

< ちょっと休憩、コラム>
読者の方たちから誤解されたくないので書いておきましょう。Intraasia は”反中国漢字意識”などは全く持っていない。Intraasia は1980年代前半の数年間、ラジオの中国語講座を聴くことで初めて中国語学習をした。その際簡体字と発音は覚えたが肝心の中国語の方は使えるにはほど遠いレベルに終わった。
その後1990年代に入ってマレーシア移住時代、華語新聞を読むために華語 /中国語を独習して、なんとか読めるレベルを目指した。『マレーシアの新聞の記事から』ブログにおいて、華語新聞から自分が訳せる程度の記事を選んで、そのサイトに頻繁に掲載して、10何年間続けた。
なお『マレーシアの新聞の記事から』は、Intraasia が3種の言語の新聞を翻訳して毎日更新していたブログです。

後編に続く

後編 JRと私鉄が用いるべき駅名併記のあり方を例示する

2023年11月06日 | 駅名の外国語表記
第12章:ピンインは中国語の正式なローマ字表記法として世界的に公認
ここからは外国語による駅名併記をテーマに掲げた当ブログの後編に入ります。

〈他国の地名の呼び方〉
他国の地名はできるだけ原音を使うというのは国際的にも認められた原則であるのだろうか、そんな原則は存在しないのだろうか、定かではない。
他国の地名は原音を使おうという国際的地名原則が仮にあるとすれば、歴史的に確定しているような場合を除いて、これはどんな国であれ徹底の大変難しいことではある。しかし、それでも少なくともそういうあり方を取り入れるべく努力はすべきであろう。

いずれにしろ日本は、あくまでも比較的だが、この国際的地名原則(仮の呼び名)をある程度尊重している国といえるだろう。
日本は昔から例えば、Paris をパリスと呼ばず[パリ]と、Wien をヴィエナではなく[ウイーン]と、Münhen をミューニックではなく [ミュンヘン] と呼んでいる。
このように日本はかつて、ほとんどの外国地名を英語式発音にまねた呼称にしてしまうようなことには追従しなかった。

韓国のソウルを日本は第2次大戦までは”京城”と呼んでいたが、今では誰もそんな風には呼ばない。多くの国でエベレストを英語式に呼んでいる中、日本は確か1980年代頃かな? かなり不徹底だが次第にチョモランマという呼称を使うようになった。
しかしながら現在ではまたエベレストが圧倒的に使われているようだ。数十年の間にチョモランマはいわば”ほぼ淘汰された”かのように思える。

中国はといえば、ハノイを河内[hénèi] 、ソウルを汉城(漢城)[ hànchéng] と呼ぶように、未だに古来からの名称を使っている。そのくせ自国の北京はペキンでなく"Beijing" というピンイン呼称を使うようにと世界的に認めさせた。そのピンイン綴りは [ běijīng] です。
中国は地名のピンイン呼称に固執している。それはピンインが表音文字として中国語音を写すからだ。

<中国は、中国漢字による日本漢字の置き換えの欠点をよく知っている>
当ブログをお読みになっている皆さん、上記の事実をよく反芻(はんすう)してみませんか? ”中国漢字では他国の人たちには中国地名の音が正しく伝わらない”ことを中国はよく認識している。だからこそピンインを使用することを中国政府はちゃんと主張し行動してきたのです。

これを日本における日本地名に当てはめてください。地名を表記する日本漢字を単に中国漢字に置き換えれば日本地名の音が(読み手には)正しく伝わらないことは、中国側には明々白々のことなのです。

なお読者の皆さんには誤解していただきたくないので、強調しておきます。Intraasia のピンイン使用の主張と中国政府のピンイン表記の主張の間には部分的に論点の重なりがあるが、これはあくまでも論理的帰結としてつまり結果論としてそういうことが起きたということです。

あくまでも Intraasia が寄って立つ根拠と原則は、既に何回も掲げている次の大前提にある:「駅名の外国語併記の主目的は、第一に鉄道やバスに関して外国人利用者の便宜を図る、利用を助けることであり、」「第二に外国人利用者に日本語での駅名を、正確ではなくてもいいからできるだけ知ってもらう、そのように発音してもらうことにある」

〈少数の決定権者らは何を基に中国漢字の使用を決めたのだろう〉
JRと私鉄の駅名併記に簡体字と繁体字を使うことを決めて実施したごく少数の決定権を持つ人たちは、”中国地名にはピンイン表記を使うべきだ”というこの中国政府自体の主張と行動を知らないのだろうか? それとも知ってはいたが考慮しなかったのか?

ブログ中編の第3章で Intraasia は学者の著書を引用して次のように書いた:「1977年の国連の地名標準化会議において、中国の地名のローマ字表記はピンイン方式によることが正式に採択され、以来中国語の正式なローマ字表記法として世界的に公認された」

当ブログをお読みになっている皆さん、この事実を思い起こしてください。少数の意思決定権者たちは、世界的に公認されたこのピンイン方式による表示という国連採択のことも知らなかったか、もしくは考慮しなかったか無視したのでしょう。

〈中国漢字による駅名併記の最大の 欠点〉
何回も Intraasia が強調しているように、日本の駅名の漢字を中国漢字に変更すればその日本語音は全く写せない。中国漢字による駅名併記の最大の 欠点はこれに尽きる。
日本語を母語且つ母国語とする者である Intraasia が中国漢字を敵視するような思考に立っているわけではないことは、このブログを始めからちゃんと読んでいただければ皆さんにわかっていただけますね。

駅名の外国語による併記において、Intraasia が中国漢字ではなくピンインを用いることを提言しているのは、この大きな欠点をいかになくすかを考えた時、表音文字としてのピンインがこの場合最適だと気づいたからだ。 ”国連の地名標準化会議において、中国の地名のローマ字表記はピンイン方式によることが正式採択された” からではないし、それを知ったことが契機になったわけでもない。あくまでも駅名の日本語音をそのまま用いることが主眼である。 

中国は外国語文における中国地名の表示の際、中国音を充分に写すピンイン表示に固執するのである。結構なことだ。一方それとは無関係に、私たち日本人が日本語の駅名を他言語で表記する際、日本語音を良く写す、ラテン文字、ハングル、そしてピンインを使うことは、まことに理にかなっている。皆さん、そう思いませんか?

〈ある方式に大きな欠点があれば、それは改めるべきだ〉
一度決めて既に実施している方式を変更することは、何事につけ大変難しい。決めた人たちや当局の“面子”が絡むからだ。しかし併記された駅名から日本語音が消されてしまったという最大の欠点を今後も長くそのままにしておくことは、言語に関する様々なことを長年読んだり、考えたり、論じてきた者としてなおさら受け入れ難いことです。

現行の中国漢字による駅名併記を決めた人たち及びその方式を支持している人たちは、ピンインを使って日本語音を写すという発想に早急に切り替えるべきである。

当ブログの目次をここに掲げておきます。
目次
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。

第13章:駅名の外国語併記に無関心な人たちに訴えます

首都圏のJR や私鉄の駅で利用者の方たちには、強く意識しなくても簡体字と繁体字とハングルの併記駅名が目に入ることでしょう。でもどの程度注意を払うかはまた別問題だ。その内の日本人利用者の方たちの間では「ハングルなんて全くわからないなあ」「中国語を習ったことがないので簡体字は読めないね」「外国語にはもともと全く興味がない」「駅名の外国語併記なんて俺 / 私には関係ないことだ」「駅名の外国語併記はローマ字綴りがあれば十分じゃないのか」「外国人旅行者が近年増えているから、駅名の外国語併記は役立っているんじゃないの」・・・という方が圧倒的に大多数を占めることでしょう。

さらに中には、「あの駅名の外国語併記は(中国や台湾の)中国人向けなんだから中国漢字を使うのが当然でしょう」と思い込んでいる方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

そういう方たちを含めて皆さんに、この場でまた大前提を提示しておきます:「駅名の外国語併記の主目的は、第一に鉄道やバスに関して外国人利用者の便宜を図る、利用を助けることであり、」「第二に外国人利用者に日本語での駅名を、正確ではなくてもいいからできるだけ知ってもらう、そのように発音してもらうことにある」

上記のような日本人利用者の反応や受け止め方があったからこそ、駅名併記に中国漢字とハングルが加わっても、取り立ててまたは社会的に注目を浴びるほどの反対の動きや世論が起こらなかったようだ(その当時を含めて長年 Intraasia は日本に住んでいなかったので推測です)。

でもそういう日本人利用者の皆さん、少しだけ時間を割いて考えてみませんか。当ブログで長々と綴ってきた一連の事実と説明と論拠を皆さんに少しでも知っていただきたい、日本語音を捨て去る不条理さに気がついて欲しい、とIntraasia は願うのです。

そのような次第で Intraasia は中国漢字を使うという現行のJRと私鉄の駅名併記のあり方に意義を申し立て且つあるべき表示法であるピンインの使用を訴えようと思った。そこで書き上げた作品を、日々の掲載用に分割して、2021年にツイッター上で半年に渡って毎日連載したのです。ただツイッターという性質上、ごく短い細切れの文章が読む人たちの目に入る作品になりました。

今回その同じ作品をほぼ全面的に書き換えて、一気に読める形の文章にしました。総文字数約 3万7千字の長編ですが、掲載するプラットフォームが読み易いブログ形式ですから、何日間かかけて全文を読み通してくださることを期待しています。

JRと私鉄は駅名に、日本語本来の発音を示さない中国漢字を使うのではなく、ピンイン(拼音)を使うべきだを人々の声や社会の関心事にするべく、賛同していただける皆さんの協力で当ブログが拡散していくことを願っています。


第14章:JRと私鉄が用いるべき駅名併記のあり方を例示する
いよいよ当ブログ作品における最終章です。

〈JRと私鉄が用いるべき駅名併記のあり方を例示する〉
締め括りとして、JRと私鉄が用いるべき駅名併記のあり方をたくさん例にあげましょう。簡体字の駅名併記例は、JR発行の路線図を参照しています。実際の駅での併記にはハングル駅名も表示されているがここでは直接関係ないので省きます。なお例にあげた駅は無作為に選んでいます。

各駅名における掲載順序は 1. 日本漢字の駅名、2. 簡体字とそのピンイン音、3. 最後部にJRと私鉄が使うべき日本語音のピンイン綴り。なお既述したように、日本語音をピンイン綴りする際の綴り字選びは最終的に日本人の中国語専門家が決めるのが一番良い。

我孫子は 我孙子 [ wǒ sūn zǐ ]ではなく a bi gou / kou と、錦糸町は 锦丝町 [ jǐn sī tǐng ] ではなく gen xi chou と、鎌倉は 镰仓 [ lián cāng ] ではなく ka ma ku la と、立川は 立川 [ lì chuān ] でなく ta chi ka wa と、前橋は 前桥 [ qián qiáo ] ではなく ma ye ba xi と表記する、

熱海は 热海 [ rè hǎi ] ではなく a ta mi と、日光は 日光 [ rì guāng] ではなく ni kou と、上野は 上野 [ shàng yě ] ではなく wu ye nou と、甲府は 甲府 [ jiǎ fǔ ] ではなく gou fu と、川崎は川崎 [ chuān qí ] ではなく ka wa sa gu と表記する、

成田は成田 [ chéng tián ] ではなく na li ta と、船橋は 船桥 [ chuán qiáo ] ではなく fu na ba xi と、千葉は 千叶 [ qiān yè ] ではなく chi ba と、小田原は 小田原 [ xiǎo tián yuán ]ではなく ou da wa la と、宇都宮は 宇都宫 [ yǔ dōu gōng ] ではなく wu cu nu mi ya と表記する。

例示したように、簡体字や繁体字の中国漢字ではなく、日本語音を音訳したピンイン綴りをJRと私鉄は駅名併記に使うべきである。
注:ピンインである以上中国語の音韻構造に基づくので、中国語・華語の母語話者または第2言語話者には無理なく発音できる。


【 おわりに 】

1. そもそもJR と私鉄で駅名併記の言語・文字に中国漢字とハングルが加わったのはいつ頃からなんでしょうか? 
2. その複数文字・言語併記はどのように首都圏以外の地に拡大されていくのか? それとも既に一部地方で適用されているのかな?
3. そしてこれは大事なことなのだが、駅名に複数言語・文字併記が採用された際、一般市民を含めたオープンな論議がどの程度なされたのだろう?

この3点は現時点における Intraasia にとって、1と2はほとんど知らないことであり、3は主要な疑問点でもある。なぜそうなのかは今回2023年10月初めに掲載した「新規掲載のテーマを導く序論」における前半部分の中に書いた。お手数でしょうが、もう一度ご覧ください。

第3の点は重要だ、なぜなら中国漢字の使用は、鉄道や駅やバスを利用する中国人や各国の華人など中国語・華語の話者たちに駅名の日本語発音をわからなくさせることに即つながる、ことが容易に推測できるからです。
分かり易く言えば、圧倒的大多数の中国語・華語話者たちは、駅名に併記された簡体字または繁体字をまず読み、その漢字に備わった中国漢字の発音をすることになる。これは至極当然のことなのです。

一方、併記された駅名のラテン文字を読む外国人利用者は、”各自の母語に影響された発音で” そのラテン文字の駅名を読むのである。
注:ラテン文字による駅名綴りに関しては、当ブログ掲載の【序論】の中で多くの例示と共に丁寧に説明してあります。

既述したように、昔から駅名併記に用いられているラテン文字による駅名はそれなりに日本語発音を反映している。近年になって中国漢字と同時期に駅名併記に加わったハングルはラテン文字並みかそれをやや上回るぐらいに日本語音を表して(写して)いる。

それなのに中国漢字すなわち簡体字と繁体字による併記駅名は日本語発音を全く反映していない。
この決定的な差が生まれるのは、読み手側の責任でも問題でもありません、全ては併記文字を決めたごく少数の決定権者たち、及び駅名併記を掲示している側である JRと私鉄の責任なのです。

Intraasiaは 中国漢字 による駅名併記の現状を明瞭に批判し、より良い改善策として駅名の日本語音を写すべくピンインによる駅名併記を提言します。

この提言を皆さんによく理解してもらうために、単に主張を列挙するのではなく、知っていただきたい基本的知識と関連する言語知識、提言の基になる事実と論拠などを多くの例示と共に、序論から始まって延々と総字数約3万7千字に渡って書き綴りました。

Intraasia は当ブログのフォロワー数は何人などと言ったことは全く関心事ではありません。駅名の中国語併記の現状を遺憾に思って書き上げた当ブログを読んで下さった方々が、フォロワーになろうとなかろうと、中国漢字の使用をやめてピンインで表示すべきだという Intraasia の主張に賛同していただき、その主張が拡散していくことが Intraasia の一番の関心事であり、願いです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。