
ニコライ堂の丘を登りつめた街外れに、いまだに古いブルーノートのレコードを聴かせるカフェがあった。
たまたま通りがかったのだろうか、田舎から出てきたばかりのような地味な服装の女子学生がひとり、窓際の席に座って堅い手付きで珈琲を飲んでいる。
東京が彼女の期待を裏切らなければいいと、私とカフェの主人はマホガニーのカウンターを隔て、無言のうちに同じことを願っていたかもしれない。
雨もようやく上がった週日の夕暮れ、丘の上には僅かに靄もかかって来たようだ。
【Blue Mitchell / Collision in black】