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きみの靴の中の砂

密かな魂胆





 鉄道や道路の起点というのは注意していれば世界中の至る所でお目にかかれるが、スペイン・マドリッドにあるプエルタ・デル・ソル(太陽広場)で『ここから世界が始まる』という自称・地球ゼロ地点を見つけたときは、他ならぬ感動があった。その嬉しいような不思議な高揚感に包まれ、昼間から飲みたくなって、カミノス市場近くのバルに入ってアモン・ティラルドを頼むに至った。

 シエスタ明けの時間帯で、目の前の道を走る、普段は混んでいるシルクラールという言わば循環バスも閑散としている。

 最初のシェリーだけで止めておけば良かったのだが、店の奥からニンニクの焦げる匂いがしてきて、たまらず小エビやウナギの稚魚を塩の利いたニンニク入りバターと共に石皿ごと火に掛けた、バルなら必ずある小料理を頼んでしまった。それをつまみながら『闘牛士の血』なんていう物騒な赤ワインをチビチビ飲んでもいいのだが、まだ陽も高く、なかなかの暑さ。だから今日は白のセコをボトルでもらい、ビールを飲むような勢いで飲んだ。

 南イタリアやスペインなどは気候に恵まれているから、寒冷な北フランスで苦労して作られるワインとは違って、放って置いても美味しいワインができる。そのせいか、どんなに美味しくても、東京で飲む同等のワインの値段の二十分の一とか三十分の一で済む。

 あっさりとしてはいるものの濃厚なフルーツの香りいっぱいの白ワインの最後の一杯を飲みながら、ぼくは携えた手帳を開く。ぼくが借りている台所付きの期間貸しアパートメントホテルのあるマドリッド北西の町で、今夜、何やら祭りがあるという走り書きに気付いた。

 スペインの祭りは、いまだに一晩中騒ぐものが多い。

 さて、今夜、祭りに付きものの打ち上げ花火を見上げながら、この異境の空の下の旅人には、シェリーやワインのボトルを抱えて再び飲もうという密かな魂胆があるのだが...。




Herb Alpert & The Tijuana Brass / Casino Royale


 

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