(op.20250213 / Studio31, TOKYO)
かつて愛した人の面影を追って旅した日々があったという。
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すっかり人気の絶えた夕暮れのビーチ。
遙か南の海で生まれた風が、優雅に大王椰子の葉陰を揺らす。
あの頃、耳元で聞こえていた甘いささやきと吐息に、心も弾んだ朝があったではないか。
だから今、夜が来る度、ポツンと取り残された甘美な想いが、孤独なうちにも夢見心地なひとときを求めて止まないのかも知れない。
橙色よりはわずかに白い、トーチの灯火色の太陽が、ハイビスカスの真っ赤な花の色にも似た夕映えの水平線に落ちて、これから始まる宵が、ひょっとして新しい恋の予感に満ちあふれたものになるかも、と思ったのは、ストロー・ハットのつばの先に、波の音がぶら下がるように聞こえていたわずか数分前のこと...。
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常夜灯代わりにホテルの庭先に燃えるトーチの炎で、この切ない夜を密かに燃やしてしまえば、何もかも振り出しに戻れるのではないかと考えたのは、気丈を装いたがる女心からだったかも知れない。
【The Peaces - The Girl That I Knew Somewhere】